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エダヒロ・ライブラリー環境メールニュース

2008年11月22日

「企業の温室効果ガス削減目標についての調査」報告書を発表しました(2008.11.22)

温暖化
 

いま成田空港です。来週ブータンで開催される第4回GNH国際会議に出席するため、バンコク経由でブータンに向かいます。GNHとはGross NationalHappiness です。
(ブータンで迎える誕生日もハッピーになりそうで、楽しみです〜。^^;)

11月22日〜30日までメールがつながらなくなると思います。ご用のある方にはご迷惑をおかけしますが、帰国後までお返事をお待ちいただくか、お急ぎの方は、イーズまでご連絡下さい。
info@es-inc.jp Tel:03-5426-1128


さて、イーズの主宰している「日刊 温暖化新聞」では今年3月に 「地方自治体の温暖化対策目標と政策に関する調査」をおこない、その報告書をプレスリリースしました。あちこちのマスコミにも取り上げてもらい、自治体がしっかりした目標を設定するよう、少しでもプッシュできたかな、と思っています。
(報告書は、ウェブサイトからご覧いただけます。http://daily-ondanka.com/

そして、3日前に、今度は企業の温暖化対策目標に対する調査をおこなった結果をプレスリリースしました。こちらの報告書もウェブサイトからご覧いただけます。 http://daily-ondanka.com/

この調査とレポートに込めた私の思いを、報告書からの引用でお伝えしたいと思います。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ここから引用〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

1.はじめに

地球温暖化を本当に止めるためには、人間の排出する温室効果ガスを、地球の吸収量以下に抑えなくてはならない。IPCCの第4次報告書によると、人間が化石燃料の燃焼によって排出しているCO2は年間72億トン(炭素換算、以下同)であり、一方、地球の吸収できるCO2は、森林などの陸上生態系が9億トン、海洋が22億トン、合計31億トンである。

つまり、「人間の排出するCO2<地球の吸収するCO2」にするためには、世界全体で現在の排出量72億トンを31億トン以下に、つまり60%もの削減が必要である。途上国の人口増加や経済発展を勘案すれば、われわれ先進国はさらに大きな削減が必要なのだ。

(排出量が減少すれば吸収量も減少するため、「31億トン以下にする」ことは最初の目標であって、排出量の減少に伴って、この目標値はさらに下げていく必要がある)

このような科学的な認識をもとに、洞爺湖サミットでは、2050年に世界の温室効果ガス排出量を現在の半分以下にする目標が合意された。欧米諸国には60〜80%という削減目標を掲げているところもあり、日本政府も福田ビジョンで2050年までに60〜80%の削減を打ち出した。

いうまでもないが、日本が1990年比6%削減を約束した京都議定書は最初の一歩にすぎず、温暖化問題は京都議定書の第一約束期間(2008〜2012年)で終わるわけではない。

ところが、日本の温室効果ガス排出量は基準年比8.7%増、二酸化炭素(CO2)については14.1%増と、削減は難航している。CO2排出量の増加が、他の温室効果ガス排出が減るよりも大きくなってしまっているのだ。このCO2排出量の36% が産業部門によるものとなっている(2007年実績、速報値、間接排出量)。

また、この36%の部分、つまり企業が生産や運用のプロセスにおいて直接排出するCO2に加えて、自動車を製造する企業であればその燃費、家電メーカーであればその省エネ性能、電力会社であればそのエネルギー源のミックスなど、提供する製品・サービスの質が、日本のCO2排出量に大きく影響する。つまり、図2で言えば、36%の部分に加えて、残りのすべてに企業の行動が関係してくるといっても過言ではない。

企業が温暖化に取り組むとき、その目標やビジョンの設定によって、その取り組みや効果は大きく変わってくる。目標設定には、重要なポイントが3つある。

まず、目の前の短期的な目標だけではなく、「長期的な視野で、温暖化を止めるためのあるべき目標」を設定することが望ましい。「人間の排出するCO2<地球の吸収するCO2」にする、つまり、世界全体で現在の排出量72億トンを31億トン以下にするために先進国に求められている大きな削減に向けての目標が必要である。

また、生産量あたり、床面積あたり、店舗あたりのCO2排出量といった「原単位」ではなく、企業として排出している「総量」目標の設定が極めて重要である。たとえば、いくら燃費を改善した自動車でも、走行距離が長くなれば、または所有台数が増えれば、実際のCO2排出量は増えてしまうからである。社内の指標として原単位を用いることはあっても、企業としての社会に対する責任としては、実際に地球に影響を与える「総量」を測り、減らしていかなくてはならない。

さらに、自社の製造や運用プロセスから直接排出されるCO2の削減目標を設定することが重要である。このような直接影響を減らすことに加えて、自社が生産・提供する製品やサービスが社会のCO2を減らすという間接影響も考えに入れる必要がある。「自社の製造・運用プロセスからのCO2」の目標設定は必須であり、特に間接影響が大きい場合には「自社の提供する製品・サービスによるCO2」に対する目標も設定することが望ましい。

本調査は、このような観点から、企業の今後の取り組みの指針となる「目標」について調査を行った。

京都議定書の第一約束期間である2008年〜2012年近辺の目標を超えた2020年・2030年・2040年・2050年という超長期を見据えた目標を持つ企業がどれだけ存在するか(「長期/短期」の軸)。生産量あたり、床面積あたり、店舗あたりといった「原単位」ではなく、実際に気候変動の程度に影響を与える「総量」の目標を持つ企業はどれだけ存在するか(「総量/原単位」の軸)。目標とする排出量は、企業の製造・運用プロセスで直接排出される量なのか、生産・提供する製品やサービスを通じた排出量についてなのか、またはその両方を含んでいるのか(「製造・運用プロセス/製品・サービス」の軸)。
 
本調査では、任意に55社を選び、気候変動に関連する目標を調査し、上記の3つの軸に添った分類を行った。調査実施の段階で、55社のうち、「長期」「総量」「自らの製造・運用プロセスからの排出量に関する」目標を持っている企業は8社(リコー、セイコーエプソン、INAX、東芝、損保ジャパン、JR東日本、ライオン、清水建設、以上順不同)であった。今後このような目標設定をもとに、低炭素社会の主役となるような企業が次々と名乗りを上げてくることを期待している。

(中略)

総量ベースの長期目標を持ち、自らの製造・運用プロセスを含む目標設定をしている8社のうち、先陣を切ってしっかりした長期目標の設定を進めたのはリコーである(2005年)。また、地球のCO2吸収量と現在の人間のCO2排出量を勘案したときに必要とされる「2050年に60〜80%削減」という必要な削減量に比する目標設定をしているのは、以下の4社である

セイコーエプソン:CO2排出量を2050年に2006年比90%削減

リコー:総合環境影響指標を2050年に2000年比 87.5%削減

INAX:CO2排出量を2050年に1990年比80%削減

ライオン:CO2排出量を2050年に1990年比67%削減

(中略)

4-2. 長期目標設定の方法

長期目標は、現在できることやすぐにできそうなことを積み上げて設定するものではない。「なぜその目標であるか」のロジックがなければ設定できない性格のものである。このような目標設定のためには、バックキャスティング のアプローチが有効である。十分に変化できるだけの時間軸で、“こうありたい”または“こうあるべき”姿を描くものである。

たとえば、企業の長期目標は、その時代の人口、地球の環境扶養力から、公平性を保ちながら世界が健全に持続するために、その企業がどのような存在で“あるべき”かを「逆算」するプロセスによって設定することができる。

本調査の対象企業についても、長期目標をもつ企業の多くは、このようなバックキャスティングのアプローチで目標を決めている。

たとえば、セイコーエプソンは、自然界のCO2吸収能力をIPCC第4次報告から110億トンとし、それを世界中のひとりひとりが平等に排出する権利があるという考え方のもと、2050年の予測の「世界の人口:日本の人口=90億人:0.9億人」から、現在の日本のCO2排出量約13億トンを1/10以下に抑える必要があり、エプソンも1/10にしようというロジックで、90%削減という目標を設定している。

リコーについては、CO2の排出、資源利用や化学物質の使用などによる環境負荷を統合化した「統合環境指標」を独自に作成し、人間社会から発生する環境負荷を地球の再生能力の範囲内に抑えるために、この指標を現在の1/8にする必要があるとして、目標設定を行っている。

日立製作所は、世界のCO2排出量を2050年に2000年比50%減とする必要があることを想定し、2025年までに日立製品により年間1億トンのCO2排出抑制に貢献するという目標を設定している。

今後より多くの企業が、未来の状況を見通し、その時点でのあるべき姿から自らの目標を設定するバックキャスティングのアプローチで長期的な目標を設定することを望んでいる。

(中略)

5.今後に向けて

今回調査では、任意に選んだ55社について、その気候変動抑制のための定量的目標を調査した。我々が望ましいと考える「原単位ではなく総量」ベースの「短期だけではなく長期」の、そして「自らの製造・運用プロセスの排出量」を必ず含めた目標設定という基準に合致する目標を持つ企業は、リコー、セイコーエプソン、INAX、東芝、損保ジャパン、JR東日本、ライオン、清水建設 (順不同、以下同様)の8社であった。

特に、リコー、ライオン、清水建設については、提供する製品・サービスがもたらす影響についても対象としており、間接影響まで含めた目標範囲が評価できる。また、リコー、セイコーエプソン、日立製作所は、バックキャスティング的な考え方のもと目標を設定しており、今後長期目標を設定する企業の模範となり得ると考える。

なお、調査は今後も継続して行う予定であり、初回調査ということで対象にならなかった企業や、新たな長期目標を設定した企業については、是非下記連絡先までご連絡いただきたい。本調査がきっかけとなって、温暖化抑制に向けた望ましい目標を設定し、取り組みを加速する企業が少しでも増えることを願っている。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜引用ここまで〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

今回取り上げた55社はどこなのか、どのような結果だったのか、ぜひレポートをごらん下さい。日刊温暖化新聞のトップページの下のほうにバナーがあります。 http://daily-ondanka.com/

自社または企業の削減目標を、3つのチェックポイント+目標値の大きさという観点で見てみてください。

(1) 長期的であること

(2) 床面積あたりや生産量あたりといった原単位ではなく実際に地球に影響を与える総量であること

(3) 自社の製造・運用プロセスからの排出量を含むこと

※地球の吸収量と人間の排出量のギャップを埋めるために必要な60〜80%削減に比する目標であること

そしてこれらのポイントに見合って、望ましい形で目標を設定し、大きく動いていくよう、企業を応援していきましょう!


※有限会社イーズは、2017年12月25日に移転いたしました。
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