ホーム > 環境メールニュース > 日経エコロジー11月号より「北欧で広がるバイオガス車」 (2008.12.02)

エダヒロ・ライブラリー環境メールニュース

2008年12月02日

日経エコロジー11月号より「北欧で広がるバイオガス車」 (2008.12.02)

温暖化
 
8月にバラトングループの合宿がスウェーデンで開催され、参加してきました(これまでずっとハンガリーのバラトン湖畔で開催されてきたのですが、今回初めてのハンガリー以外での開催でした)。 せっかくのスウェーデン!ということで、合宿の前後にベクショーとトロルハッタンという、環境先進都市の見学・取材に行きました。トロルハッタンの取材で学んだことを、日経エコロジーの11月号に掲載してもらいました。編集部の快諾を得て、この記事をお届けします。 北欧で広がるバイオガス車 文/枝廣淳子 環境ジャーナリスト 有機廃棄物からメタン生成 商用車から一般車まで活用 スウェーデン・トロルハッタン市は北欧でも有数の環境都市だ。
300台以上のバイオガス車など再生可能な燃料が増えている。
下水汚泥や家庭の生ゴミから高純度のメタンガスを生成している。  スウェーデンの西の玄関から伸びるゴータ川沿いの運河の街、人口5万人ほどのトロルハッタン市には、豊かな緑と水に恵まれた美しい風景が広がる。一方、古くから水力発電所が電力を供給しており、産業にとっても絶好の立地であり、ボルボ・エアロやサーブといった自動車産業を抱える工業地域も有している。  同市では、2010年までに市全体の化石燃料使用量を96年比50%削減するという目標を設定。省エネと燃料転換を進めた結果、化石燃料消費量の約8割が車両燃料だという。  この環境先進都市を訪ねた。  同市の先進的な取り組みの一つがバイオマス(生物資源)由来のガス(バイオガス)のプロジェクトだ。家庭からの食品ゴミや下水汚泥から可燃性のガスを発生させ、自動車用燃料にしているのだ。 ●バイオガス車が約330台走る  EU(欧州連合)では2003年に燃料に関する指令が出され、EU全体で「2005年に再生可能な燃料の割合を2%にする」という目標が掲げられた。これは農作物からエタノールを製造しガソリン車に使うことで達成できた。次の「2010年にこの割合を5.75%に引き上げる」という目標の達成は容易でない。  この目標達成のために何をすべきかを考えた同市の結論が「バイオガス」だった。同市が「エコサイクル」と呼ぶ循環は、「農場で食物をつくる」→「トイレからの屎尿や農作物の残さを集める」→「ダイジェスター(消化反応槽)でバイオガスを生成する」→「バイオガスからCO2を除去する(そのCO2は再び農作物の中に取り込まれる)」→「CO2を除去した濃縮バイオガスを自動車用燃料として用いる」というものだ。  現在、市内を走る17台のバスすべてと10台のゴミ収集車のほか、300台ほどの一般乗用車がバイオガスを燃料に走っているのだ。  このバイオガス・プロジェクトの立ち上げは92年のこと。95年にプラントを建設し、96年に最初のバイオガス・バスが走り始め、99年には一般向けのバイオガス充填所を設置。バスの場合、夜間に3〜4時間充填すれば、翌日1日走れる。市民にも「食品ゴミをきちんと分別することで、自分の乗るバスが動く」という意識が生まれている。  2万台ほどある市内を走る一般車両のうち、約300台がバイオガス車だ。サーブやオペルなどがバイオガス車を販売している。現在ではエタノール車、廃油などから作る燃料で走るバイオディーゼル車、そしてバイオガス車の3つの再生可能な燃料を使える車が新車の53%を占める。バイオガス車には燃料タンクが2つあり、バイオガスがなくなると、それと気づかないうちに自動的にガソリン走行に切り替わる。  バイオガス車の価格は、例えばガソリン車の18万クローネ(1クローネは約15円)に対して、21万クローネほどとやや高い。しかし、燃料の価格は、ガソリン1L当たり13クローネに対してバイオガスは同8.5クローネ。かつバイオガスの方が10%ほど燃費が良いので、実質的には5カ月ほどで元が取れるという。  この燃料代の差は税金による。ガソリンにはエネルギー税、CO2税の上に付加価値税が加わるが、バイオガスは付加価値税だけなので、相対的に安くなる。 ●生ゴミを自動的に識別し分別  では、そのバイオガスはどのように生産しているのだろうか?  まず、市の中心部から4.5kmほど離れた下水処理場で、汚泥からメタン65%、CO2 35%のバイオガスを生成している。CO2を除去して98〜99%のメタンとし、パイプラインで市内のバイオガス充填所に供給している。家庭の食品ゴミからもバイオガスを生産している。  市から8kmほど北にある、地域6都市の廃棄物を処理するゴミ処理工場を見学した。この地域では、赤と緑のビニール袋でゴミを分別している。緑の袋に食品ゴミなどの有機廃棄物を、赤い袋にその他のゴミを入れる。ちなみに、ホテルの部屋のゴミ箱にも赤と緑の小さな内箱がついて分別できるようになっていた。  ゴミ処理工場では、運び込まれるゴミ袋の色を光学的に識別・分別していく。赤いゴミ袋は、市外の焼却場・埋め立て場に運び出される。緑のゴミ袋は、機械で自動的に中身を出して、巨大なダイジェスターに送り込み、バイオガスを生成させる。このゴミ処理場で年間160万m3のバイオガスを生産している。  同市のバイオガス精製プラントは、96年にスウェーデンで初めて導入された。現在では、他の地域でもバイオガスプラントを設置するところが増えており、国内に75〜100のバイオガス充填所があるそうだ。小規模な都市なら、市内1〜2カ所にバイオガス充填所を設置すれば、燃料需要に十分対応できるという。 ※トロルハッタン市のバイオガス充填所は市内のガソリンスタンドに併設されており、セルフ式で簡単に充填できる。支払いはクレジットカード  こうして、スウェーデンの自動車燃料として使われているガスの50%以上はバイオガスだ。天然ガス車以上にバイオガス車が広く使われていることがわかる。  トロルハッタン市では、ゴミ処理工場と下水処理場で生産するバイオガスによって、必要な車両燃料の15%を賄える見通しだが、さらに大がかりなプロジェクトの準備が進められていた。名付けて「バイオガス・ハイウェイ」─。同市と近隣の都市、農業組合、そして市の北部に位置する18の大型酪農農家がかかわる大きなプロジェクトである。  まず、各農場にダイジェスターを設置し、家畜の排泄物からバイオガスを取り出す。残りは液肥として農場で利用する。農場とバイオガス精製プラントは、2本のパイプラインでつなぐ。1本は農場のダイジェスターで発生した低濃度のバイオガスを精製プラントへ送る。もう1本は精製したガスを低圧パイプで再び農場に送り返し、農場で車両用燃料として使う。こうして、コンテナで運搬することなく、ガスを輸送できる。  このプロジェクトに必要な投資額は1800万クローネと見積もられており、そのうちスウェーデン政府が30%を補助金として拠出する。この秋にも関係者で契約の枠組みやそのための新会社をつくり、動き出す予定だ。このような取り組みによって、「5.75%というEU燃料指令の目標は達成できそうです」と、トロルハッタン市の担当者は胸を張る。  トロルハッタン市は、このようなバイオガス車の取り組みに加え、家庭用の暖房の燃料転換を進めたことなどを評価され、スウェーデンの「ベスト・クライメイト・シティ2007」に選ばれている。 出典:日経エコロジー 2008年11月号 「ビジネスリーダーのための新環境学 〜北欧で広がるバイオガス車」
 

このページの先頭へ

このページの先頭へ