英国では今年の10月、新しい省が立ち上がりました。その名もずばり「エネルギー・気候変動省」です。
まえに対談形式をさせていただいたミリバンド外相の弟さんであるエド・ミリバンド氏が初代の「エネルギー・気候変動大臣」となりました。
ミリバンド氏のスピーチをお聴き下さい。(国内特有の事情についてはともかく、削減目標を引き上げる強い意思がわかると思います)
そのあと、英国大使館ウェブサイトより、12月1日に気候変動委員会の「少なくとも34%減の2020年排出削減目標を勧告」を載せてあります。
日本でも早く、温暖化だけではなく、エネルギー政策やさらに食糧政策まで含めての大きなビジョンや戦略を作っていかなくては、と思います(だって、温暖化もエネルギーも食糧も相互に影響しあっているものですから)。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ここから引用〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
英国 2050年までに温室効果ガス80%削減を表明、世界をリード
エネルギー・気候変動省のエド・ミリバンド大臣は本日(10月16日)、気候変動についての国際協定に大きく貢献するものとして、英国は2050年までに温室効果ガスを1990年比で80%削減すると約束した。
ミリバンド大臣は、新設されたエネルギー・気候変動省の大臣に就任後初めて、下院で広範にわたるスピーチをおこなった。要旨は以下の通り。
*ターナー卿率いる気候変動委員会の勧告を支持し、政府は議会で審議中の気候変動法案を改正することにより、80%削減という目標に法的拘束力を持たせる。
*こちらも現在議会で審議中のエネルギー法案改正を提案し、小規模な再生可能エネルギーを支援するための固定価格買取制度の導入を進める。また、再生可能な熱利用についても、まもなく発表する計画である。
*電力会社が前払い式メーターで料金を支払っている多くの消費者に対する過剰請求をやめる行動をとらないかぎり、不当な価格差を阻止するための法律制定について協議する覚悟である。
以下は、エネルギー・気候変動省エド・ミリバンド大臣による下院でのスピーチ全文。
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新しいエネルギー・気候変動省についてお話しさせていただきます。
エネルギー・気候変動省は、我が国が直面している3つの長期的な難題に対する政府の取組みを1つのまとめるものです。3つの難題とは、
(1)求めやすい値段で、安定的に確保でき、持続可能なエネルギーを確実に入手すること
(2)"低炭素型英国"への移行を達成すること
(3)2009年12月のコペンハーゲン会議で、気候変動についての国際協定を実現すること
です。
これらが私たちの目標です。そして、この新しい省は、「英国の排出量の2/3がエネルギーの消費によるものなら、エネルギー政策と気候変動政策は別々ではなく、一緒に考えるべき」という認識の現われです。
議長、経済が困難な時代には、気候変動の目標から手を引くべきではないか、という人もいるでしょう。
私たちは、進もうとする船をこぎ戻すことはまったくの間違いであると考えます。「戻るべきだ」という人々は、経済と私たちが直面している環境の問題との関係を誤解しているのです。もちろん「あちらを立てればこちらが立たない」というところもありますが、両方に共通する解決策もあるのです。
例えば、首相が9月に発表したような、電気代も排出量も減らせる家庭向けの省エネ対策がそうです。また、我が国のエネルギー安全保障を高め、環境を汚染する燃料への依存を減らす新たな環境産業への投資もその一つでしょう。
そして、2006年のスターンレビューからわかるように、気候変動に対して「行動しないことのコスト」は「行動することのコスト」よりも高くつくのです。
英国が国としての役割を果たして初めて、炭素排出を抑えるための国際協定が可能となるでしょう。ですから、目標から手を引くどころか、私たちは自らの決意を再確認すべきなのです。
夏の間、環境・食料・農村地域省大臣は、第三者機関である気候変動委員会に、英国の排出量の長期目標を見直すよう求めました。
これまでの目標は、2000年の王任委員会の報告書に基づき、「二酸化炭素排出量を60%削減する」と設定されていました。しかしそれ以来、第三者機関によるいくつもの報告書のおかげで、私たちの知識はさらに増えています。
北極海の氷は予想以上のスピードで溶けています。世界の炭素排出量も増加のスピードを上げています。そして、気温が1度高まるごとにその影響はいっそうひどくなることもわかっています。
先週、ターナー卿から気候変動委員会の結論が書かれた報告書を受け取りました。英国議会図書館に置いてあります。産業革命以前からの気温上昇が2℃を超えると最も危険なレベルの気候変動が起こるとよく言われていますが、気温上昇を2℃以内に抑えるためには、世界の排出量を2050年までに50〜60%下げなければならない――これが報告書の内容です。
ターナー卿の結論はこういうものです――英国は適切な役割を果たすために、国の排出量を60%ではなく80%削減すべきである。そして、その削減目標は二酸化炭素だけでなく京都議定書に定められた6つの温室効果ガスのすべてに適用すべきである。
さらに、排出量をどう割り当てるかはまだ不確実だが、国際線の飛行機や船舶も排出量削減における役割を果たすべきだとも結論づけています。
議長、政府は気候変動委員会の勧告をすべて受け入れます。
私たちは、温室効果ガスを2050年までに80%削減すべく、気候変動法案を改正します。そしてその目標に法的拘束力を持たせます。下院の全政党が支持することを望みます。
実際、私は気候変動に関してできる限りの合意を創り出したいと思っているのです。
しかしながら、皆わかっているように、2050年までに80%まで減らすという目標に署名することは簡単なことです。難しいのはそれを達成することです。そして、目標達成に向けて進んでいることを示すマイルストーンを達成していくことです。
英国にとってのマイルストーンは、気候変動委員会の勧告が形作っていくことになります。同委員会は12月に、最初の15年間の「炭素排出キャップ」(国が定める英国の総排出量の上限値)について助言する予定です。その予算をいかに達成するかは来年報告します。
私たちはまた、首相がここのところ明確にしているように、こうした意思表明や約束が英国だけでなく、欧州全土から出てこなくてはならないと強く思っています。
つまり、EU排出量取引制度の強化と2020年の目標について、今年末までに同意に達することです。2020年の目標とは、欧州が温室効果ガスを単独でも20%削減する、他の国々もそうするのであれば30%削減する、というものです。そして、EUは再生可能エネルギーの目標を確認しなくてはなりません。
今年初め、私たちは再生可能エネルギー戦略の草案を出しました。私にとって、その難題の大きさだけではなく、どれほど緊急にその戦略を進めていくべきかも明らかです。
再生可能エネルギーによる電力購入の義務制度によって、供給量はこの5年で3倍になりました。そしてさらに、制度の構造や政策の計画、配電網へのアクセスを変えつつあります。
しかし、本議会での多くの同僚からの意見も含め、この問題をめぐる議論を耳にするなかで、大規模プロジェクト向けの再生可能エネルギーによる電力購入義務制度を補足する小規模発電向けの買取価格の保証、つまり固定価格買取制度も、ほかの国と同様、英国でも重要な役割を果たす可能性があると私は信じています。
そこで、上院での意見をはじめ、表明された見解を聞いてきましたが、その実現のためにエネルギー法案の改正を提案する計画です。
また、再生可能エネルギーは、電力だけでなく暖房でももっと大きな役割を果たせると思っています。英国人の炭素排出量のほぼ半分が暖房によるものですから、暖房のエネルギー源をクリーンにすることは、2050年の目標とそこまでのマイルストーンに到達する助けになります。明らかにこの点も急速に進めていくことが必要であり、近いうちにさらなる発表を行います。
議長、冒頭に申し上げたように、私たちがめざしているのは、公正な気候変動政策と持続可能なエネルギー政策です。
今日のエネルギー市場の構造は、供給量は豊富で、英国はエネルギーを自給し、物価は安いという世界で設計されたものであって、気候変動に関する議論はあってもそこで達した合意に基づいたものではありません。
しかし現在、そういった前提のすべてが変わってしまいました。資源をめぐる国際競争が起こり、供給面での新たな投資の必要性が出てきており、エネルギー価格は構造的に高いものとなり、緊急に炭素排出量を減らさなくてはならないのです。
この新しい世界に対応するためには、将来のエネルギー供給を確保できる市場が必要です。そこには、原子力や二酸化炭素回収・貯留技術への投資が必要ですし、炭素排出量をさらに削減するための投資や、家庭や企業をさらに手助けするための投資が必要です。
こうしたことは、私たちが将来のために取り組まなければならない大きな課題ですが、今日は、手頃な価格で入手できるよう、どのような方向に進んでいくべきかをお伝えしたいと思います。
先週、英国ガス電力規制局のオフジェム(Ofgem)は、ガスの本管に接続していない地域に住む400万人の電力消費者にとっての電力料金は不当に高いと考えていることを強調しました。また、電力会社にとって前払い式メーターで支払う消費者のコストが高めであることを考慮したとしても、前払い式メーターを使っている多くの家庭への請求額は行き過ぎていると考えています。最も脆弱な人々に最も強い打撃を与えるような不当な価格設定を受け入れることはできません。私は昨日、大手電力会社6社の代表と会い、このことをはっきりと伝えました。
「政府はいかなる乱用であってもそれを正すための早急な行動または説明を待っている」とも伝えました。一カ月のうちにもう一度会って、何をおこなったかを聞く予定です。私たちおよびオフジェムは断固として、こういった問題の対処をはかります。オフジェムは適正な手続きとして、12月1日まで調査結果に関する協議を進めます。
もし電力会社側が納得のいくやり方で行動しないのなら、私たちは不当な価格設定による料金格差を阻むための法律の制定を協議します。
私たちにとって、市場はそのダイナミズムと効率性によって大きな利点を提供できるものですが、しっかりした第三者の規制当局など、公益に照らし合わせての効果的な規制を受けてはじめて、適切に機能するものなのです。
消費者を助けるためにすべきことはもっとありますし、私たちは行動することをためらいません。
気候変動とエネルギーに関する公正かつ持続可能な政策。現在世代と未来世代の対する自分たちの義務を果たすこと。
それこそが、私が率いる新しいエネルギー・気候変動省で着手し始めている仕事です。
以上、どうぞよろしくお願いいたします。
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<英国大使館ウェブサイトより>
(03/12/2008)
気候変動委員会が少なくとも34%減の2020年排出削減目標を勧告
http://ukinjapan.fco.gov.uk/ja/newsroom/?view=PressR&id=10082734
12月1日、気候変動委員会は初の報告書を発表し、英国政府に対して、次のような勧告を行ないました。
英国が2020年までに1990年比で温室効果ガスの排出量を少なくとも34%削減する 2013年以降の枠組み合意について国際的な取り決めが達成された時点で、この削減を42%に引き上げる 気候変動の脅威を阻止するためには、これらの目標が必要であると気候変動委員会は述べています。気候変動委員会の報告書「低炭素経済の構築」は、これらの勧告を支持する分析を詳しく説いています。
この報告書は、2008〜2012年、2013〜2017年、2018〜2022年という最初の3つのカーボン・バジェットのレベルも提案しています。これらは各5年ごとの排出レベルのキャップであり、すべての温室効果ガス、ならびに英国経済の全セクターに適用されるものです。
既存の技術を利用し、低炭素経済に移行するための様々な政策を講じることによって、如何にカーボン・バジェットを達成できるかを、この報告書は述べています。その中には、次のようなものが含まれています。
化石燃料の使用から、もっとクリーンな発電・発熱形態への移行。それには再生可能エネルギー(風力、バイオマス熱、ヒートポンプ)、原子力、炭素隔離貯蔵(CCS)などをもっと利用する。 すぐれた断熱、エネルギー効率の良い機器の使用、そして電気やコンピューターを消したり、エアコンの使用を減らすなどしてムダを少なくすることを通じて、家庭、オフィス、産業におけるエネルギー使用をより効率的にする。
輸送による排出を減らす。電気自動車を開発する。エンジンの炭素効率を高める。持続可能なバイオ燃料の利用を展開する。より効率的な移動手段を考える。公共輸送機関をもっと利用する。 42%削減目標を達成すために、オフセット・クレジット(例:クリーン開発メカニズム)を購入する。(34%削減目標には、適応されない。)
これらの大幅な削減は、英国の経済を損なわずに、2020年にGDPの1%以下のコストで達成することができると、気候変動委員会は考えています。気候変動に対して何も行動を起こさないことによる長期的なコストを考えれば、これは支払う価値があると、同委員会はアドバイスしています。
「気候変動は人間の健康、環境、経済に重大な脅威を引き起こします。排出量を大きく削減するために、私たちは英国において、そして世界的な取り決めの一環として、今行動する必要があります。気候変動に取組むのに遅すぎるというわけではありません。しかし、世界が今すぐに行動を起こさなければ、手後れになってしまうでしょう。先進国は、より野心的な確約を掲げなければなりません。
私たちが提案しているカーボン・バジェットは、既存ならびに開発中の技術を利用し、そして政策が実行され、必要に応じて強化されれば、達成することができるのです。求められている削減は、私たちの経済にとって非常に低コストで達成できます。国内外で、削減を達成しないことによるコストの方が、はるかに大きいのです。」と気候変動委員会の委員長を務めているターナー卿は語りました。
「国内目標を達成し、国際的な合意に達するためには、ここ英国における低炭素未来への道を構想することが大切です。カーボン・バジェットは私たちの道筋を定め、英国が気候変動に取組むという明確なメッセージを発信します。この問題解決に向けた能力を発揮し、詳細な勧告を提供してくれた、ターナー卿ならびに委員会に対して、私はお礼を申し上げたいと思います。
今後、重大な決定を下す際には、その決定がカーボン・バジェットに合うかどうか、排出削減が他で成し得るのか、まったく成し得ないのか、といったことを基本にしなくてはならない制度的な変革が求められます。詳しく回答する前に、報告書を綿密に検討しますが、2009年からはカーボン・バジェットが財政予算と並ぶ場所を占め、英国内の政策決定にとって中枢になるということを、申し上げておきたいと思います。」と12月1日に委員会の報告書が出されたのを受けて、エネルギー・気候変動省のエド・ミリバンド大臣は述べました。
(以上)