少し前に、スイスにお住まいの方から、「興味深いドキュメンタリー番組がありました。ドイツ語でしたが、内容をお知りになりたいですか?」とメールをいただきました。「ぜひお願いします〜!」とお願いしたところ、番組の内容を詳しく伝えるレポートを書いて送ってくださいました。
よその国のテレビ番組は(英語ならともかく)内容もよくわからないので、貴重なレポートです。私だけで独り占めするのはもったいないので(^^;)、メールニュースへの掲載をお願いしたところ、ご快諾をいただきました。ご紹介します。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ここから引用〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
ヨーロッパのドキュメンタリー・テレビ番組
「クリーンな電力 石炭(褐炭)、石油、ガスの代替エネルギー」について
穗鷹知美(ほたかともみ スイス在中)
<番組の簡単な紹介>
2008年11月に、ドイツ・フランス共同テレビ・ネットワークArteで製作されたクリーンな電力 石炭(褐炭)、石油、ガスの代替エネルギー」というドキュメンタリー番組が、フランス、ドイツ、ベルギー、オランダ、スイスで放映されました。(12月に再放送された国もあり)
90分の番組の中で、クリーンな電力のヨーロッパの現状について、各地の風土や伝統を活かした最新の動きを追いながら、概観し、政策や技術革新の問題とあわせて、地道な活動を続けてきた人やイニシアティブに注目したものでした。
オータナティブ電力で、鍵となっているのが、国のヨーロッパ全体の政策や、単なる技術的なイノベーションではなく、それぞれの地域の風土をいかした、地道な活動(小規模の電力生産や節電・効率化など、生活スペースの改善)の積み重ねであることが、全編を通して伝わってくる内容で、日本の方にとってもおもしろいのではと思い、まとめてみました。
ヨーロッパのローカルな次元の電力供給問題の最新事情と同時に、ローカルな、あるいは個人としての行動の大切さを、ヨーロッパの視聴者とともに、再確認する機会になればさいわいです。
<番組について>
―番組(ドイツ語)は、インターネットで全編見ることができます。
http://video.google.com/videosearch?q=sauberer+strom&emb=0&aq=f&aq=f#q=sauberer%20strom&emb=0&aq=f&aq=f&dur=3
―番組の関連サイト(英語)
http://energie-cites.eu/IMG/pdf/ARTE_film_invitation.pdf
http://www.eusew.eu/
―テレビ局Arte : ヨーロッパの文化と芸術に重点を置く番組を製作・放映することを目的に、1992年にフランスとドイツが共同出資し、設立されたテレビ局。番組はすべてフランス語とドイツ語の二ヶ国語で放映(吹き替えあるいは字幕)。オーストリアやカナダでも一部の番組が放映されている。
参考)http://en.wikipedia.org/wiki/Arte
<日本語の番組のまとめについて>
―トピックごとに分け、題名がついていますが、これは、穗鷹が個人的に行ったものです。
―番組内容のなかで、個人的な見解としての性格が強く、同時に印象深いコメントは、「」にいれて、その主旨を書き出し、それ以外の内容(全般の説明、進行役のコメント、内容の進行を助ける形でたびたび引用される見識者のコメントなど)は、内容紹介を簡潔にするため、特に発話者を区分せず、内容文のなかに、総括しました。
―トピックごとに、だいたいのはじまり時間(分)を記しておきましたので、画像を併せてご覧になる際は、ご参考にしてください。
―海洋エネルギーと、ゼロ・エネルギー・ハウスについては、とりわけ、最新事情が注目される分野と思われますので、それぞれの関連サイトを記しておきました。
<番組内容>
●イントロ「都市の電力自給」
エネルギー問題は、二つの大きな問題を抱えている。一つは、これまで頼ってきた(原子力、石炭・褐炭、ガスなどによる)エネルギー源が、地球温暖化など、環境に与えるマイナス面が甚だ大きいこと、二つ目は、供給自体が、限界に近づいており、今後世界的に厳しい、エネルギー源の獲得競争の時代が訪れることが予想されることである。
ヨーロッパにおいても、電力が民営化され、ネットワーク化される一方、電力の供給は不十分・不安定で、2006年11月4日22時ごろには、ヨーロッパ各地で電力不足で1時間の停電を経験した。
実際、オーストリアやスペイン、ポルトガルーなど自国で必要な電力量を供給できない国が少なくない一方、ヨーロッパ内の電力需要は増え続けている。2006年のこの苦い経験から、ヨーロッパでは、電力供給のあり方に大きな変革を促すべく、2020年までに到達すべき、三つのの目標が定められた。1)二酸化炭素排出量の20%削減、2)電力需要の20%削減、3)地域的なオータナティブ・エネルギー源による電力供給の20%増加である。
目標達成のための、一つの柱として注目されているのが、都市の電力自給努力である。1990年代より、都市を中心としたプロジェクトの一つとして、エネルギー・シティという構想がある。ヨーロッパ24カ国の100以上の都市が、エネルギー・シティとなり、これらの都市の間で、様々な情報交換を円滑・活発化させ、ノウハウを交換しあうことで、それぞれの場所の地に根を張った活動を促そうというものである。
各地での様々な電力供給の取り組みの現状について、ヨーロッパを旅しながら、みていくことにしよう。
●フライブルク(ブライスガウ) 「環境運動フロンティアの都市の現状」(0:08)
ドイツ南西部のフライブルク イム ブライスガウ(以下、略して「フライブルク」と記述)は、ドイツ環境運動の牙城として名高く、ヨーロッパ各地の都市関係者が、頻繁に視察に訪れるが、もともと、この都市が、問題に取り組むようになったのは、70年代にさかのぼる。70年代に電力需要の高まりを受け、市の近郊
に、原子力発電所設置案が出た際に、原子力に頼らずやっていけるように、自分たちのエネルギー問題に独自に取り組みはじめたのが、はじまりだった。
市は、太陽エネルギー開発・研究に独自に取り組みはじめ、現在、太陽エネルギー関係の従業者数は700人、現在市にあるソーラーパネルは、サッカー場12枚分の広さに相当する。ソーラーパネルのほとんどは、市民の資金によって運営され、さらに、市内の公共交通の充実化、自転車の奨励(市民の3分の2が自転車使用)と、市外交通との連絡簡便化が進められてきた。
市長のコメント主旨「政府が動くまで待たずに、動く。環境のためにできることを自分たちで考え、できることをする」
●パリ「高層ビルのエネルギー削減構想」(0:21)
高層ビルは、低層建築物よりも、はるかにエネルギー消費が多い。内部は密閉されており、空調はすべて、電力に頼っているためである。
高層ビルのエネルギー効率を高める構想が、パリの建設事務所でされている。南側の側面に太陽光の照射を最小限に抑えるため、鉄骨(高層ビルを支える部分)部分を覆う壁をつけたり、屋上面だけでなく、側面の鉄骨に、ソーラー装置を埋め込み、エネルギーの自給率をあげたりするアイデアが取り入れられたものだ。
●バルセロナ(00:25)「ヨーロッパ初の太陽エネルギー条例」
スペインのバルセロナでは、1990年に、都市の急激な人口増による、エネルギー不足の深刻化を受けて、ヨーロッパで最初に太陽エネルギー条例が、市議会全会一致で決議された。これにより、新築の建造物はすべて、温水供給に必要なエネルギーとして、太陽光を利用することが課せられている。
ソーラーパネルの屋根は、エネルギーをつくりだすだけでなく、強い太陽光を遮断し、室内温度の上昇を抑制するのにも貢献する。自分でつくったエネルギーを自分で消費するため、エネルギーの利用効率も高い。
●リールLille (00:31)「ビオガスの生産と利用」
フランス北西の都市リールは、バイオガスの生産で最先端をいっている。風力と太陽光は、ヨーロッパでもっとも奨励されているオータナティブ・エネルギーであるが、天候や時間帯によって制限を受けやすい。この点を克服するクリーン・エネルギーとして、有望視されているものの一つが、バイオガスである。
ボッフム、ストックホルムなどと並び、ヨーロッパのBio fuel cityに指定されているリールにあるビオガス施設は、Bio fuel cityの中でも最大の規模をほこる。年間、11万トンの家庭などからでる有機廃棄物が持ち込まれ、4百万キュービックのビオ・メタン・ガス(これは、4百万リットルの暖房用石油に相当)、34000トンのコンポストが生産されている。残った紙やプラスチックなどは区分され、再利用施設に運ばれ、ほかの残存物も燃やさることで、発電に利用されている。
ただし、リール市では、ビオガスは150台のバスに使用されているが、スウェーデンやスイスのように一般向けのスタンドの設置には、いまだ至っておらず、今度の課題である。
これまでのBio Fuel Cityの結果分析から、ヨーロッパで必要なエネルギー(燃料)の20%が、ビオガスで供給可能と予測されている。
●マイエンヌMayenne (00:37)
この都市には、20年前より100戸以上の有機酪農農家があり、農家の所有地内にある建材にならない曲がった木々や、森の間伐材などを、暖房と水の温水化に積極的に利用する試みが始まった。また、この地域では、先駆的に、これら木材によるエネルギーを利用した遠隔暖房網をはり、市内の住居の暖房にしている。さらに、エネルギー節約などを気軽に相談できる窓口として、200箇所の相談所を設け、市民自身が自分たちでできることを積極的にサポートしている。相談員は、エネルギー節約対応策から、家の電気や暖房の密閉性のチェックまで、細かく、実践的な指導を行っている。
市関係者のコメント主旨「これまでのエネルギー問題では、技術に裏打ちされたエネルギー供給者側が主役で、需要者・消費者にとってそれがどう使いやすいかが、ほとんど省みられてこなかった」
この都市のエネルギー問題への取り組みは、フライブルクの経緯に少なからぬ影響を受けたといえる。近くの原子力発電所からの電気が配電されることになろうとした時、自分たちのエネルギーの利用を見直して、原子力発電所の世話にならず、暮らす方針が鮮明に打ち出されることになったのである。
有機酪農者のコメント主旨「酪農の採算を、一頭当たりの牛乳生産量でみるのではなく、ほかの計り方でも、できるのではないか。たとえば、わたしの牛は、ブラジルから輸入された大豆を食べるのではなく、土地に生える草を食み育つため、1リットルの牛乳をつくるのに、私自身の出費は少なく、採算がついている。また、うちでできた牛乳は、近隣で消費される。これによって、生産前とその後にかかる輸送エネルギーも大幅に減らすことができる」
週に一度、周辺5キロ以内で収穫された農産物と乳製品の市(屋内)が開かれている。そこに出品している野菜生産者のコメント主旨「ここに来る消費者の思考は、次第に変わってくる。朝、料理の本をみて、これを買おう、というのではなく、今、旬の野菜はなにか、これで何を作れるか、というふうに変化してくるのだ」
●「エネルギーのネット化、コーディネイト」(00:53)
研究者のコメント主旨「さまざまなエネルギー資源のなかで、どれがもっとも効率よいか、ということは問題ではない。過去から現在にいたるまでに、利用しうるエネルギー源のすべてを、時には、奨励・助成などの手段を使い、利用していくことで、いろいろな可能性を検証し、発展させていく。それが、将来のエネルギー対策として、もっとも安全・堅実な方法だ」
電気は、貯めておくことができないため、エネルギーをつくりだすことと同様に重要なことは、余剰があれば、ほかにまわせるようにネット化し、この総体をどうコーディネイト・分配していくかということである。
エンジニア関係者のコメント主旨「これまでのエンジニアは、大きな発電所のスイッチをつけたり、切ったりする形で、電力需要に対応してきたが、これからは、需要の波や季節の違い、天気による太陽熱や風力の増減など、ローカルな細かい要素を視野にいれて、コーディネイト・設計デザインをしていかなくてはいけない」
クリーンなエネルギーだけで、全エネルギー需要を補うことは可能か?このような質問が、ドイツのメルケル首相から、カッセル大学に出された。検証の結果は、2050年のドイツでは、風力、ソーラー、水力、ビオマスなどをコーディネイトすることによって、達成可能、というものだった。ただし、そのためには、現在の風力の3倍の風車と、数百万のソーラーパネルをつけた屋根、そして残りをビオマスが補うことが必要とされる。
●「海の利用の可能性」(00:60)
地球の7割を占める広大な海は、エネルギー摂取に、多様な可能性をひめている。スコットランドのOrkney Islandsにある、2007年に設置されたヨーロッパ海洋エネルギーセンター(EMEC)では、来訪者が、様々なそこにある最新モデルを試し、実際の活用のための参考にすることができる。
エネルギー産出モデルとして注目されるひとつの例として、ペラミス・モデルがある。ペラミスは、全長120メートル、750トンの、長い蛇のような管状の海洋に浮遊する物体で、海水の動きを用いて発電させ、それを地下ケーブルで、最寄の海岸地域に供給する。ひとつのペラミスで、1万5千世帯の電気が供給できるとされる。
注)このセンターとペラミス・モデルについての詳細
http://www.emec.org.uk/
http://www.pelamiswave.com/
●オデオOdeillo、アルメリアAlmeria 「太陽光線の新たな可能性 新産業・地域開発」(1:03)
フランスのピレネー地方にある、オデオでは、この地域の気候を利用し、1970年代から太陽熱を集中させ、高熱をつくりだす研究がされており、温度を3000度まで上昇させることに成功した。これによって、宇宙船関連産業など、新しい工業的な可能性が開け、現在も10社が共同研究をすすめている。
同様に、スペインのアルメリアでも、太陽熱を集め、トービンでまわし、600度の高熱を作り出せるようになり、ドイツの会社の出資により、さらに研究がすすめられている。
これら太陽光の利用は、砂漠など太陽光が豊富なアラブやアフリカにおいての活用も大いに期待される。これらの国が、このような施設をつくることで、電力を自ら安定して供給でき、さらに余った分は、ヨーロッパに輸出することもできる。施設の設置によって雇用も確保され、新たな工業的な発達も期待される。
●「ゼロ・エネルギー・ハウスのフロンティア」(1:13)
イギリス、ロンドン郊外ベディントン Beddingtonに、ゼロ・エネルギー・ハウスの世界初の集合地区がある。略して、BedZEDと呼ばれるこの居住区は、数々のエネルギー節約・生産のしくみを持ち、完全にエネルギーを自給できる仕組みになっているため、世界中から訪問する人が絶えない。特に画期的なのは、可動煙突で、風で動き、換気を自然に行うため、換気に電力を使わないだけでなく、室内の暖かい空気を外に逃がさないしくみになっている。このほか、独自の小さな発電所をもち、電力が足りない時に補うことができるようになっている。
注)BedZEDについての詳細
http://en.wikipedia.org/wiki/BedZED
ここで実現されたゼロ・エネルギー・ハウスの地域構想が、ほかの大陸にも広がりつつある。中国とアラブのアブダビで、BedZEDの構想をもとにした、エコ・シティが計画されている。
BedZED建築家Bill Dunster氏のコメント主旨「都市とそのまわりを囲む農村を連携させ、そのなかで補い合うことで、エネルギーの無駄をへらす、これが究極のエコシティ。近隣の農村が供給できる範囲の規模の都市の規模が未来の都市の規模では、もはや、メガシティの時代ではないのでは」
●エピローグ
すくなくともはっきりしているのは、これまでエネルギー供給に貢献してきた燃料が、近未来に確実に枯渇するということ。その時、わたしたちの社会は、今日の経済では反映されていないような採算の見通しをもって、新しい暮らしのデザインをしていかなくてはいけないのでは。
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