レスター・ブラウン氏からのレポートを実践和訳チームが訳してくれましたので、お届けします。このレポートは注目度が高く、「ワシントンポスト」紙の解説特集「アウトルック」にも掲載されたそうです。
http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2008/08/29/AR2008082902334.html
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ここから引用〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
クルマを走らせる、もっといい方法? それは「風」
http://www.earthpolicy.org/Updates/2008/Update75.htm
レスター・R・ブラウン
石油王として有名なテキサス州のT・ブーン・ピケンズ。彼は半分正しい。ピケンズがこの夏に多額の費用をかけたテレビ広告で強く訴えたように、自国で生産する電力源として、米国の風力資源を何としてでも利用しなければいけない。また、もうすぐ年間7,000億ドル(約68兆円)に達しそうな勢いで拡大している石油の輸入額も、絶対に減らさなければならない。しかし、天然ガスを発電に使うのはやめて、自動車の燃料として使うというピケンズの二つ目の計画は、どうにも理解できない。
自動車の動力源として風力発電を直接活用してはどうだろうか? 天然ガスは化石燃料であることには変わりなく、燃やせば気候変動を引き起こすガスが排出される。繋ぎ役に天然ガスを入れるのはやめよう。
プラグイン車はすでに完成し、もうすぐ市販される。私たちは風に主導権を握らせるだけでいい。ゼネラル・モーターズ(GM)、フォード、トヨタ自動車、日産自動車などの大手自動車メーカー数社がプラグイン・ハイブリッド車を開発している。
トヨタとGMはいずれも2010年にプラグイン・ハイブリッド車を販売すると発表している。また、トヨタは、ガソリンと電気のハイブリッド車「プリウス」のプラグイン版の販売開始を来年に前倒ししようとするかもしれない。ベストセラーであるプリウスの米国での販売実績は、プリウス以外の全ハイブリッド車の販売台数の合計に匹敵する。
プリウス所有者の中には、トヨタの動きを待てず、一足先にプラグイン車に改造している人すらいる。2個目の蓄電池を付け足し、延長コード1本を取り付けるだけでよい。これで、1回の充電で走れる距離が伸びるし、延長コードを使えば、どの壁のコンセントにも接続でき、送電網からの電力で充電できるというわけだ。つまり、燃費は通常走行1リットル当たり約20キロメートルから42キロメートル以上へと向上し、既に並外れて優れた燃費がさらに良くなるのである。
GMも「シボレー・ボルト」で対抗している。このプラグイン車は基本的に電気自動車で、必要に応じて蓄電池に電気を供給する補助的なガソリンエンジンが搭載されている。これは、約64キロメートルの走行が可能な電気容量を誇り、日常生活でのたいていの運転はこれで十分だ。GMによると、一般的な運転条件でのボルトの平均燃費は1リットル当たり約55キロメートルである。
この新しい自動車技術は新しい風力タービン技術と合わさり、安価な風力エネルギーで動力の大部分を賄う自動車燃料経済の構築へとつながっている。米国エネルギー省によると、ノースダコタ、カンザス、テキサスの3州のみで、米国の電力需要を十分賄える風力エネルギーがある。実際に風力発電が順調な走りを見せるためには、ほぼすべての州での風力資源を開発し、同省が国内の電力需要の70%を満たすことができると推定している沖合いの風力資源も利用しなければならないだろう。
20世紀に米国有数の産油地であったテキサス州は、2年前にカリフォルニア州を抜き、今では風力発電量で国内首位に立つ。現在、5,500メガワット以上の発電能力を有する設備が稼働し、巨大な風力発電施設が2カ所で建設中であることから、テキサス州には今後2万メガワット以上の風力発電能力が備わることになる(石炭火力発電所20基分だと考えて欲しい)。
ピケンズはその最大の投資家の一人であり、テキサス州最北部のパンハンドル地方に自身の4,000メガワットの風力発電所を建設中である。これらの風力発電所で、人口2,400万のテキサス州の家庭用電力の約半分を賄えることになる。
これほど大規模な開発事業が実現したのは、テキサス州政府の参画のおかげだ。州政府は、州の西部とパンハンドル地方の強風という資源を、ダラス、フォートワース、ヒューストンにある「給電所」として知られる主要市場に結びつける送電線の建設を支援したのである。
マサチューセッツ州ケープコッドのように、地域によっては、住民の多くが風力発電所を「私の近所には建設しないでほしい」と考えているところもある。一方、テキサス州から北のノースダコタ州とサウスダコタ州へと広がる牧場地をはじめ、米国の大部分の地域では事態はまったく逆だ。
これらの地域では、風力発電所は「私の近所に建設してほしい」存在だ。大牧場が広がる地域では、風力発電所の立地や、発電所が創出する雇用と税収をめぐって、地域間で激しい競争が繰り広げられている。牧場に風力タービンを1基設置するごとに、土地所有者は投資を行わなくても年間3,000ドル(約29万円)から1万ドル(約97万円)の土地使用料が手に入る。おまけに、牧場主はその土地で家畜の放牧を続けても構わないのだ。
牧場が集まる州以外でも風力発電の人気は高まっている。カリフォルニア州最大のプロジェクトは、州南部のテハチャピ山脈に建設中の4,500メガワット級の風力発電所群であり、もうすぐロサンゼルスの電力の大部分を供給することになる。ほかにも、アイオワ、ミネソタ、ワシントン、コロラドなどを筆頭に約30の州が、現在、商業規模の風力発電所を有している。
風力発電所の新規建設計画も各地で持ち上がっている。7月、カリフォルニアに本社を置くクリッパーウィンドパワー社と英国石油メジャーのBP社は、サウスダコタ州東部に5,050メガワットの風力発電所を建設する合弁事業の実施を発表した。この事業によって、同州では必要以上の発電量が得られるので、両社はアイオワ州を横断する送電線を建設し、イリノイ州や米国中西部にある工業中心地への送電を考えている。
米国東部では、デラウェア州が最大600メガワットの発電が可能な風力発電所の海上建設を計画中である。600メガワットと言えば、同州の家庭用電力需要の40%を満たせる発電量である。北のメイン州では、知事が3,000メガワット(同州の家庭用電力需要を賄っても余りある発電量)を発電できる風力発電所の開発計画を提案し、4月に満場一致で州議会両院で可決された。米国北西部では、オレゴン州とワシントン州が各州内での水力発電資源を補うために風力に注目し始めている。
現在こうした開発の多くは計画中だが、風力が秘めている可能性は大きく、それを求める声も多い。なぜならば、風力はほぼすべての点で抜きん出ているからだ。炭素を排出せず、安価で豊富、無尽蔵にある。しかも、米国の風力は米国民のものである。供給される風力に対し、禁輸措置を取ることは誰にもできないし、その価格は決して変わることがない。風力発電所も1年で建設できるのだ。
以上のような理由で、ピケンズが薦める「車の燃料を天然ガスに切り替える」という案は最善策ではない。風力発電による電力は価格が下がっているのに、それとは対照的に天然ガスの価格は上がっているのだ。天然ガスの埋蔵量も石油と同じように減少している。さらに皮肉なことに、石油と同じように、私たちは天然ガスの使用量の1/6をお金を払って海外から輸入しているのだ。
天然ガスには、その上、インフラ面での疑問もある。天然ガスをどのようにして国内のガソリンスタンドに運ぶのか? ガソリンスタンドは、ガソリン用のポンプに加え、天然ガス用ポンプも設置しなければならなくなる。
風力エネルギーとプラグイン・ハイブリッド車を組み合わせることの魅力の一つは、新しいインフラを必要としないことだ。実際、パシフィック・ノースウェスト国立研究所は、「もし米国内の全車両がプラグイン・ハイブリッド車なら、ピーク時以外の電力で車を充電することにより、既存の送電網で全車両の7割を超える車に電力を供給できる」と指摘している。
ピークオイルが目前に迫っているため、石油とガソリンの価格は上昇し続けると予測されている。ガソリンの価格は、おそらく1リットル130円、さらには250円へと上昇するだろうが、風力発電が生み出す電力なら、ガソリン1リットル相当の量で26円にもならない。
私たちは今、大規模に、そして戦時中のような勢いでプラグイン・ハイブリッド車に転換するための短期集中計画を開始できる状態にある。計画が実行されれば、デトロイトは復活し、風に恵まれた国内の何千もの農村地域には再び活気が戻り、炭素排出量は劇的に減る。さらに、石油の輸入に費やされている巨額の資金も急速に減るだろう。
自動車会社そのものも動いているようだ。GM社のプラグイン・ハイブリッド車「シボレー・ボルト」の宣伝を見ただろうか。大掛かりなそのCMは、NBC局のオリンピック放送期間中に頻繁に流された。車がいかに進歩したかを見せた後、流れの速い雲の下、雪をかぶった山々のふもとに停まるシボレー・ボルト車を映してCMは終わる。発売は2010年を目指しているという。しかし、おそらくそれまでに、CMで雲を動かしていた風は、その下で艶やかに光り輝くセダンをも動かすことになるだろう。
アースポリシー研究所は、2020年までに炭素排出量を80%削減するという目標を掲げている。詳細は『プランB3.0:人類文明を救うために』(Plan B 3.0:Mobilizing to Save Civilization)の第11章から13章を参照。www.earthpolicy.orgにて無料ダウンロード可。また、『仮邦題:プランBの時代:2020年までに炭素排出量80%の削減をめざして』(Time for Plan B:Cutting Carbon Emissions 80 Percent by 2020)も参照。PDFファイルにてwww.earthpolicy.org/Books/PB3/80by2020.pdf で入手可。
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(翻訳:荒木由起子、小宗睦美、木村ゆかり)
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グリーンニューディールで沸き立つ米国では、ますますこうした動きが加速していることでしょう。日本でも、このような景気の中でも、環境への投資は大きく動いているそうです。
先日、投資に関わるお仕事をされている方とお話ししていて、「環境投資に、風力発電出来るくらい風が吹いて来ています」と言われました。
すかさず「追い風で発電できる風力発電、作れませんか? 売れそう〜!」とお返事したのでした。(^^;
この投資や追い風が、海外に出て行くのではなく、日本のCO2排出量の削減やエネルギー自給率アップにつながるよう、まずは風の制御装置が必要かもしれませんね。その1つが最近何度か書いている「固定価格買取制度」ですよね。こちらについては、また次号で。