<内容>
■日本の中期目標はどうなる? 〜第8回「温暖化懇談会」の発言より
■麻生総理の未来開拓戦略「低炭素革命で世界をリードする国」で、CO2はどれ
ほど減るのか?
■「ついにエコが主流になったなぁ」と実感したのは……?
-----------------------------------------------------------------------
先週の金曜日、第8回の首相直轄「地球温暖化問題に関する懇談会」が開催されました。今回のテーマは、中期目標です。日本の中期目標は6月まで(6月いっぱい)に決定すると麻生総理が述べていますが、今回の懇談会では、その議論のための6つの選択肢が中期目標検討分科会から提示され、各委員が「3分厳守!」という制限の中で発言しました。
(ちなみに、福田さんのときには、会議の時間が90分から2時間ありましたので、二巡か三巡できるときもあったのですが、麻生総理が主催されるときは、これまではいつも、一巡のみ、かつ「3分厳守!」という感じなので、「懇談会」という感じはしないですね。。。)
中期目標については、しっかり理解し、考えていく必要があるので、一度整理してからまたお伝えしたいと思いますが、とりいそぎ、4月17日に開催された首相「地球温暖化問題に関する懇談会」第8回での自分の発言をお届けします。資料をみながらの方がわかりやすいと思いますので、よろしければ、以下、どうぞ。
プレゼン資料は、こちらのリンクからダウンロードしてご覧頂けます。
http://daily-ondanka.com/report/data/20090417minmtg.pdf
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ここから引用〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
ありがとうございます。福井座長、そして中期目標の分科会の皆様、本当にありがとうございました。こうやって具体的な形になって、非常に議論がしやすいと思っています。
資料2-1を用意しておりますので、それに沿ってお話をさせていてだきたいと思います。
中期目標の目的は、そもそも、被害が大きくなる前に温暖化を止めるために長期目標があり、その中期的な目標としてどうするか、日本が何をするかを明確化するということと、単に消極的、後ろ向きに対応するのではなくて、「資源・エネルギー制約の時代」に向かって、日本がどのように技術開発をして、社会や経済をシフトしていけばよいか、その基礎づくりでもあると思っています。もちろん、国際的な観点も重要です。
次のページです。今回モデルを使って討論していくわけですが、モデルにはいくつかの限界があると理解しています。ひとつは、麻生ビジョンで新たな成長モデルということを打ち出しておられますが、新しい産業は、このモデルには反映できないということです。
それから、もともと「このままいけばバラ色です」というのを想定していますので、GDPを押し下げる結果が出てしまいますが、実際にはいまは経済成長はマイナスです。モデルではGDPを押し下げるように見えるところ、実際には麻生ビジョンで打ち出されたように、沈んでいる経済を持ち上げていくことになりま
す。そこでモデルの計算上の「GDPが下がります」という結果をどう国民に伝えるか、大事なポイントかと思います。
次に、公平性の基準ですが、日本にとって限界削減費用が非常に有利になるのは間違いないですし、これまでの努力を認めてほしいと私も思います。ただ、国際交渉上は、それだけだと恐らく不利なるであろうと思っています。限界削減費用で考えるというのは、日本とカナダぐらいしか、いまのところは出していないので、ほかの手も持っておく必要があると思っております。
次のページですが、麻生ビジョンで「低炭素革命で世界をリードする国」ということで、極めて具体的に、素晴らしい施策をたくさん打ち出されました。この中で、具体的にCO2削減量を計算できるものだけについて、研究者の方に頼んで試算をしてもらったところ、実際に、90年の排出量の2.3%削減に当たることがわかりました。これほど大きな削減を、もうすでに始められている。
太陽光発電も20倍という目標を出されていますが、15%削減という目標の設定が25倍ですから、それに非常に近い形になっています。ですから、景気を盛り上げようというのと、それから低炭素社会をつくっていこうというのを合わせた形でやっていくことになっています。これを、これからもどんどんと力を入れていただきたいと思っています。
技術進歩、コスト削減ですが、これはやはり早く始めたほうが、のちのちの効果も大きくなりますし、国際競争力という点でもプラスなりますので、待たずに早く手を打っていくことです。そのために高い目標を設定する必要があると思っています。グラフが示すように、近年、日本の技術は、ほかの国に比べて少し停滞していますので、ここをもう一度盛り返す意味でも、大きな役割かと思います。
最後に、国際的な意味合いで言うと、資金と技術を途上国にどのように供与していくか、この観点が大事です。
それから、確かに先進国と比べると、日本はいろいろな公平性の観点で不利になりますが、だからといって低きに流れるのではなくて、「日本もこれだけやるから、公平性の観点で言うと、あなたたちはこれぐらいやらなきゃいけないんだ」と、ほかの先進国に言って、もっと高い目標を設定させるように迫るべきではないかと思っております。
以上です。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜引用ここまで〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
この大事なたくさんの側面から考えるべきテーマについて、3分では短いですよねぇ。。。(3分30秒経過したところで、あとはあきらめてしまいました、、、国民の議論をどう進めるべきか、伝えたかったのですが)
さて、中期目標について考えるべきさまざまな側面については、もう少し整理してからお伝えしたいと思いますが、この私の発言に出てきた「麻生ビジョンのCO2削減効果は約3,000万トン、1990年レベルの2.3%にあたるという研究者の試算」について、ご紹介しましょう。
■「麻生総理の未来開拓戦略「低炭素革命で世界をリードする国」で、CO2はどれほど減るのか? 〜研究者の試算
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ここから引用〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
2009年4月17日
枝廣淳子
「低炭素革命で世界をリードする国」によるCO2削減効果の試算
「低炭素革命で世界をリードする国」では、CO2削減にも効果的な対策も示されている。そこで、提案されている対策の中で具体的にCO2削減量を推計できる項目だけについて控えめに試算を行ってみると、約3,000万トンの削減効果があることがわかった。これは1990年比排出量の2.3%削減にあたる。
太陽光発電を20倍にする際に、地域の活性化にもつながる風力発電や小水力発電、地熱発電等も合わせて強化すればさらなる削減効果が見込まれる。住宅省エネ化に伴う省エネ改修を行う際に、省エネナビの設置、高効率給湯器への置き換えが行われればさらなる削減効果が見込まれる。また、グリーン家電への買換え促進時に、対象家電の範囲を拡大したり照明への対策を行えばさらなる削減効果が見込まれる。
今回の経済対策をきっかけに経済社会構造を低炭素に変革していけば、経済成長とCO2削減を同時に実現する低炭素社会の構築につながっていくことが期待される。
<太陽光世界一プラン>
(1) 太陽光発電を2020年頃に20倍程度に(現行目標:10倍)することで1,270万トンの削減
(2) 公共建築物(5万4千カ所)の省エネ診断・改修することで110万トンの削減
(3) 住宅省エネ化加速の加速、住宅300万戸の省エネ改修を前倒しで実施することにより、50万トンの削減
(4) グリーン家電への買換え促進、テレビ・エアコン・冷蔵庫 について2900万台の買換により130万トンの削減
<エコカー世界最速普及プラン>
(5) 2020年に新車の2台に1台を次世代自動車にすることで1,370万トンの削減
*高速道路のETC割引の影響
高速道路のETC割引の影響により860万トンの排出量増加
補足資料:数値想定の根拠
(1) 太陽光発電を現行(2005年)35万kl、143万kWから20倍の700万kl、2865万kWに拡大すると、年間の発電量は301億kWh(平均日射時間等を勘案した利用効率を12%と想定)、それに電力のCO2排出原単位kg-CO2/kWhを乗じると、CO2削減量は1270万トンCO2になる。地域の活性化にもつながる風力発電や小水力発電、地熱発電等も合わせて強化すればさらなる削減効果が見込まれる。
(2) 官公庁(事務庁舎)の年間平均CO2排出量は、約130〜200t-CO2(推計値)。省エネ診断・改修による削減率を10%と想定し、5万4千カ所で実施したとすると、CO2削減量は、約70〜110万t-CO2となる。
(3) 現状の住宅の冷暖房消費からのCO2排出量(2005年度)は、870kg-CO2/世帯。省エネ改修による削減率を10%〜20%とし、300万戸の省エネ改修を前倒しで実施するものとすると、CO2削減量は、約30〜50万t-CO2となる。なお、改修にあわせて省エネナビ等、家庭内の排出量が見える装置をつけ、高効率給湯器に置き換えることでさらなる削減が期待される。
(4) 冷蔵庫、エアコン、テレビについて、5年前の機種を最新機種に買換えた場合の削減効果は、それぞれ、24%、32%、37%(省エネ製品買換ナビゲーション「しんきゅうさん」を用いて推計,http://shinkyusan.com/)。現状の家庭の年間電力消費量を約4,100kWh/世帯、冷蔵庫、エアコン、テレビの平均保有台数を、それぞれ、1台、2.5台、2.5台とすると、1台当りの電力消費削減量は、それぞれ、約200、130、60kWhとなる。買換え対象の2900万台について、冷蔵庫、エアコン、テレビの比率をそれぞれ2割、3割、5割とし、電力のCO2排出原単位kg-CO2/kWhを乗じると、CO2削減量は約130万トンCO2になる。今後、トップランナー基準の強化による家電製品の効率向上の効果が加われば、さらなる削減が期待される。
(5) 新車台数が2008年の約470万台で2020年まで推移すると仮定した場合、新車に占める次世代自動車の割合を2009年で1%、2020年で50%としその間は内挿で設定すると、累積の新車総台数は約5,170万台、そのうち次世代自動車は1,430万台となる。従来型自動車を2007年の平均燃費(15.8km/l)の車種、次世代自動車を燃費が30km/lのハイブリッド車とし、1台当たりの年間走行距離を約9,600km
とすると、累積新車台数の全てが従来型自動車であった場合とそのうちの1,430万台が次世代自動車であった場合のCO2排出量の差は、1,370万トンCO2となる(ガソリン1リットルのCO2排出量は2.32kgCO2とする)。
*高速道路のETC割引の影響
自家用乗用車の年間総走行距離約6,640億kmのうち、休日119日分(土日+祝日)の走行距離が高速道路のETC割引の影響により約38%増加(東日本の高速道路の3/28、29の増加実績)すると仮定すると、走行距離の増加量は約410億kmとなる(休日の走行距離は休日日数に比例するとして年間総走行距離の119/365として算出、また休日の交通の半分が高速道路分と仮定)。自動車の燃費を2007年の平均燃費(15.8km/l)とすると、排出量の増加量は860万トンCO2となる(ガソリン1リットルのCO2排出量は2.32kgCO2とする)。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜引用ここまで〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
きわめて短時間にこの計算をして下さった研究者の方々にお礼申し上げます!
おかげで、麻生総理に効果を伝えることができました。
上記の計算は、CO2削減効果が直接計算できるものだけを対象に見てもらったものなので、もし、経産省やエネ庁さんで、より広い効果も含めて、麻生ビジョンのCO2削減効果を計算されていたら、ぜひ教えて下さいな!
■「ついにエコが主流になったなぁ」と実感したのは……?
「ついにエコが主流になった」。そう実感できる出来事が立て続けに起こりました。ひとつは、上記に説明したように、麻生首相が発表した「新たな成長に向けて」という未来開拓戦略の3本柱の1つとして、「低炭素革命で世界をリードする国」、つまり環境分野に大きなスポットライトが当たったことです。
少し前までは、「環境をやると経済にマイナスになる!」と言っていたのに、今では「経済を引っ張るには環境だ!」と言っているのですから、ああ、やっとエコが経済の主流(白馬の騎士?)に位置づけられたのだなと思うのです。
もうひとつの出来事は、同じころの新聞に載っていた、「エコを売り物にしたマルチ商法」です。マルチ商法はもちろん褒められたことではありませんが、和牛でもなく、エコへの投資がマルチ商法の題材になるなんて……! 表の世界だけではなく、裏の世界(?)にもエコが登場する時代になってきたということは、やはりエコが主流になってきたってことでしょうか?(^^;