<内容>
■あの人の温暖化論考「産業革命をリセットする -低炭素世界の到来-」
■日刊 温暖化新聞より、最近の「!」記事をどうぞ
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■あの人の温暖化論考「産業革命をリセットする -低炭素世界の到来-」
「日刊 温暖化新聞」のあの人の温暖化論考に、国立環境研究所の西岡先生の寄稿が掲載されています。いまの温暖化の危機をどのように受け止め、位置づければよいのか、とても前向きに背筋がしゃんと伸びる思いがします。ぜひお読みください。
「産業革命をリセットする -低炭素世界の到来-」
西岡 秀三 独立行政法人国立環境研究所
○なぜ今気候変化対応か
気候変化だけが問題ではない。世界には貧困も飢餓も不公平もある。確かにそのとおりである。それにもかかわらず、気候変化を今世紀の大問題として取り組もうとしているのはなぜか。
それは、気候変化への対応が、われわれが将来世界へ向かうために心得ねばならない要素をほとんど持っているからだ。いま気候変化の問題をきっかけに、世界は、貧困、飢餓、不公平への解決策を模索しているのである。世界はいずれ自然環境資源のカベにぶちあたり、自然と共生する持続可能な定常化社会に向かわざるを得ない。
われわれは宇宙船地球号の住人であり、公平性を考えた相互協力なしには生きてゆけない。そこには競争社会と正反対の秩序がある。早くのぞましい社会像をみなで共有し、それに向けての道筋をバックキャストで向こうから考えてみる必要がある。そうした将来を変えてゆく試みの第一関門、そして最初のチャンスが気候変化への対応なのである。
○すでに定常化社会へ入った
温暖化の問題は決して一時しのぎで解決するものではない。研究が進めば進むほど、この問題の大変さがわかってきた。大気中に温室効果ガスがたまり続けていく間は、気候変化はますます激しくなってゆく。このままの排出を続けてゆけば、海水面がグリーンランド氷床の融解でゆっくりだが確実に数メートルまで上がってゆく、それ以前に南極氷河のすべりだしで急激な上昇が起きる、凍土が溶けて地中のメタンが排出し温暖化を加速する、といった大規模変化の可能性が増えてゆく。
今人間活動から大気中に出している二酸化炭素は70億トン(炭素換算)ほどで、このままでは今世紀末には2倍以上に増える。ところが地球の吸収能力は30億トンぐらいしかない。悪いことにその吸収能力は、温度上昇とともに減ってゆく。これまで吸収してくれていた森林が枯れてゆき、土の中で有機物が分解して二酸化炭素を出し始める。海水温度が高まると、ビールをあたためたときのように二酸化炭素が出やすくなって海の吸収能力が減る。
だから何度か上昇したところで濃度を一定にとめようとしても、減ってくる吸収能力にあわせて排出量をさらに減らしてゆかねばならない。いつかの時点で人間が出す温室効果ガスを、少なくとも地球が吸収できる量にまで下げなければならない。さしあたり今の吸収量以下にしなければならないし、これから100年程度の間にほとんどゼロにした低炭素社会にしなければならない。
なんとこのことは、H. E. Dalyのいう「持続可能な社会経済は、すべての資源(化石燃料)利用速度を、最終的に廃棄物(二酸化炭素)を生態系が吸収しうる速さまでに制限する。」に合致する。われわれはまさに今持続可能な社会の入り口にいる。
○宇宙船地球号のガバナンス
安定した気候は、誰でも享受でき、誰にも使うなとはいえない地球規模の公共物である。今それを使う権利、すなわち温室効果ガスの排出量をどう配分するかの交渉が、気候変動枠組み条約の下で行われている。今の時代エネルギーは必要不可欠であるから、限られた資源である「安定な気候」の使用権配分を如何に公平に、みなが納得ゆく形で配分出来るか。
将来、あらゆる自然環境資源が不足するときにその配分をどうするかの智恵をまさに今出し合っているのである。気候変動交渉は生存をかけた公平性を問う、宇宙線地球号内での限られた資源の配分である。フリーライダーは共倒れのもとであり、決して許されない。ここでの第一の倫理は、フロンティアを目指した勝ち抜き競争ではなく、相互に張り合う中での協力である。ここで生まれる地球の新しいガバナンスは、将来の持続可能社会をリードする。
○道筋はバックキャストで
低炭素社会の行く先は持続可能な社会である。その姿は定かではないが方向は見えている。ただしそこへの到達にはなかなか困難な道のりが待っている。これまでのカウボーイ経済では、ひとりひとりが好きに振る舞うことで世界のフロンテイアが拡大してきた。先はむしろ見えないほうが夢が広がる。
しかし今度はなんとしても到達せねばならない道なのである。しかも時間制約が気候変動防止にはある。危険なレベルまで温度上昇がすすまないうちに、生態系が維持されているうちに、温室効果ガス排出をある量以下に下げなければならない。そこへ到達するには、将来の共通の望ましい世界から今を見返すバックキャストで、限られた手持ち資源を最大活用して最短の道を選ばねばならない。
○産業革命をリセットする
低炭素社会の実現は大変なことである。産業革命を逆行させる話だからだ。産業革命以降の社会は、はじめは石炭、その後石油や天然ガスといった炭素分の多い燃料をエネルギー源として、人の持つ力を何倍にも拡大してできた技術社会である。身の回りを見回してみると、今はどんな技術にもエネルギーが使われ、そして二酸化炭素を出している。家庭にあるテレビやファックス、コンピュータは、いつでも直ちに皆様のお役に立とうと24時間待つために家庭電力の10%近い待機電力を消費している。
あふれるゴミの処理が身近な問題になっている一方で、モノの製造や輸送には多くのエネルギーが使われている。家庭が出す二酸化炭素の13%は食品から出ているが、大地の恵みで育つべき農産品も、肥料や農機具で生産性を挙げ、温室で季節知らずの生産をするために、大量のエネルギーを使う。今の世界はエネルギー漬けである。
産業革命以前はどうだったか。基本的に太陽の恵みから派生するバイオマス、薪、などを使っていた。お日様と共に起き、自然の農業を主とし、木材で家を建て、すべて太陽の恵みの中で生きてきた。そんなに多くの化石燃料は使っていなかったから、大気中にすこし出した二酸化炭素は短期間に自然に吸収され、大気濃度は元に戻っていった。
ところが産業革命以降はそれを大規模にはじめ、しかも200年も続けてきたものだからたまりたまったものが減るどころか増えてばかりいる。今それを元に戻そうとして、化石燃料を使うのはやめる、吸収能力を高めるために木を植える、などを必死にやろうとしている。
今のわれわれは産業革命の後始末をしているのである。産業革命、エネルギー技術のおかげで、多くの飢餓、貧困は解消され、人間らしい豊かな生活を得たことは間違いない事実である。だからこれからは産業革命以前の生活に戻るのではなく、200年の間に培った人の智恵をフルに残したままここで昔の産業革命をリセットして、低エネルギー・低炭素社会への新たな産業革命への道のりを探ることになる。
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■日刊 温暖化新聞より、最近の「!」記事をどうぞ
いま私たちは、産業革命の後始末をしつつ、あらゆる資源が不足する時代の定常化社会へ移行するための準備作業・トレーニングを、国際政治から産業構造の見直し、一人一人の考え方や暮らし方まで、さまざまな分野で行っているのだなあ!という視点でみると、日々報道されている温暖化にまつわる取り組みや動きにも新しいきらめきが感じられます。
ちなみに、新しい時代の要請に背を向け、「これまで通りのうまくいかないやり方」を続けようという動きも、もちろんあります。
> 2009年05月03日
> 報告書:高炭素型の経済刺激策は持続可能な経済状況をもたらさない
日本の景気浮揚のための「高速道路料金を休日は1000円に」も、「高炭素型の景気刺激策」ですよね。[No. 1633] で報告したように「前回の高速道路のETC割引の影響により860万トンの排出量増加」と試算されています。
経済と環境を統合した策ではなく、「経済か、環境か」という一昔前の次元に陥っている全くスマートではない策です。ついでにいえば、ETCや自動車を持っている人だけが恩恵を受けるという、あるべき「社会的な分配」にも逆行する策です。
どうせ、人々の移動を促進することで景気浮揚をはかろうとするなら、「鉄道無料!」「バス乗り放題!」とか「新幹線半額!」とかにすればよいのにね。「経済も、環境も、社会もうれしい」と、トリプルボトムライン(3本の柱)のすべてを満たせる政策を考えるのが政治家の役割のはずです。
これから報道で「景気刺激策」をみるたびに、「これって高炭素型? 低炭素型?」と考えてみてください。社会の低炭素化を進められる景気刺激策こそが「本当のグリーン・ニューディール」なのだと思います。
そんな視点で、世界の動きをぜひごらんになってください。日刊 温暖化新聞の5〜6月の記事見出しです。
特にこれはおもしろいなあ!と思うものに★をつけてみました。みなさんの★はどこにつくでしょう?
2009年05月01日
報告書:バイオマスは炭素吸収源それとも排出源?
2009年05月02日
カリフォルニア 低炭素燃料基準を設定
★2009年05月03日
報告書:高炭素型の経済刺激策は持続可能な経済状況をもたらさない
2009年05月04日
国連事務総長 「気候変動との闘いと国際協力がアラル海消失を救うカギ」
2009年05月05日
報告書:小規模のバイオ燃料生産は貧困国の農村開発に有益
★2009年05月06日
発電所を増やすよりも、住宅のエネルギー効率向上を
2009年05月07日
欧州委員会:気候変動とエネルギーに関する包括法案の正式採択を歓迎
2009年05月08日
ADB:「アジアは気候変動への迅速な適応が必要」
★2009年05月09日
報告書:雇用主は従業員を気候変動から守るためもっと努力すべき
2009年05月10日
まだ間に合う! 温室効果ガス削減で北極海氷融解と海面上昇に歯止め
2009年05月11日
報告書:地球規模の気候政策は大気汚染を緩和
2009年05月12日
研究報告:気候変動に及ぼす火事の影響を考慮すべき
2009年05月13日
報告書:建物のエネルギー使用削減に向けて建築部門の変革を
2009年05月14日
NASA研究報告:アジア森林火災による炭素排出量 気候変動の煽りで増加
2009年05月15日
米世論調査:過半数が気候変動とエネルギーに関する立法を支持
2009年05月16日
米政府、再生可能燃料の利用拡大に向けた戦略を発表
2009年05月17日
気候変動に伴い、世界主要河川の水位が低下
2009年05月18日
アジア開発銀行 気候変動専門家による諮問組織を設置
★2009年05月19日
REN21報告書:経済の低迷にも拘わらず再生可能エネルギーへの移行続く
2009年05月20日
オバマ大統領、持続可能なエネルギーオプションを支える措置を発表
★2009年05月21日
報告書:中国の低炭素成長は可能
2009年05月22日
メリーランド州知事 州の環境保護と持続可能な成長促進のための法案を承認
2009年05月23日
生物多様性の喪失と気候変動:エコシステム・アプローチの必要性
2009年05月24日
オバマ大統領、国レベルの燃費基準政策を発表
2009年05月25日
IEA報告書:電子機器の電力消費量、2030年までに3倍増を予測
★2009年05月26日
EU ETS参加企業、2008年の排出量は3.06%減
2009年05月27日
米国の2008年のエネルギー関連CO2排出量2.8%減少
2009年05月28日
大気の改善は気候変動にもメリットをもたらす
2009年05月29日
カナダ クリーンエネルギー技術に10億ドルの投資
2009年05月30日
研究報告:気候変動でコーラル・トライアングルに住む1億人が難民に
2009年05月31日
研究報告:樹木を破壊するハリケーン、地球温暖化の要因に?
2009年06月01日
研究報告:自動車用エネルギーはエタノールよりもバイオ電力の方が効率的
2009年06月02日
米国スタンフォード大学、気候変動に強い、高温耐性のサンゴ礁を発見
2009年06月03日
世銀、中国の炭層/炭鉱メタンの開発・利用に8,000万ドルの融資を承認
2009年06月04日
グローバル人道フォーラム報告書:気候変動による人間への影響を分析
★2009年06月05日
世界の2008年炭素市場は1,260億ドル以上、前年の2倍:世銀報告書
★2009年06月06日
2008年のクリーンエネルギー投資額 過去最高に
2009年06月07日
報告書:バイオ燃料用「素晴らしい作物」ジャトロファに疑問
★2009年06月08日
世界ビジネスサミットで、年次報告書での気候変動データ開示を求める提案
2009年06月09日
欧州投資銀行 ベトナムの気候変動緩和策に1億ユーロを融資
2009年06月10日
12月のコペンハーゲン会議に向けた特別作業部会ボンで開幕
2009年06月11日
英国大学の学生、ソーラー上昇気流タワーの試作成功
2009年06月12日
アジア開発銀行、途上国の運輸部門に排出削減を求める
2009年06月13日
国連環境計画報告 植樹キャンペーン40億本達成
2009年06月14日
第3回世界大都市気候変動サミット、ソウルで開催
2009年06月15日
英国政府のカーボンオフセット計画、「詐欺」と摘発される
2009年06月16日
米エネルギー長官、地熱ヒートポンプ商用化加速に向け約5,000万ドル拠出を発表
2009年06月17日
「海洋酸性化をコペンハーゲン会議の議題に」 世界の科学者が警告
★2009年06月18日
主要投資家、米SECに対し企業の気候変動リスク情報開示の改善を要請
2009年06月19日
研究報告:低炭素な旅行業・観光業の実現に向けて
2009年06月20日
研究報告:急激な温暖化でモンスーン・パターンが変化し、農業生産量が減少するおそれ
★2009年06月21日
研究報告:クリーンエネルギー経済が雇用の大幅拡大をもたらす
★2009年06月22日
米の太陽光業界団体、太陽光発電導入事業者トップ10ランキングを発表
2009年06月23日
報告書:CDMプロジェクト審査機関の遂行能力は不十分
2009年06月24日
欧州委員会、デンマークにおける炭素税減税を条件付きで承認
2009年06月25日
WWF、「日本の排出量削減目標は少なすぎて、遅すぎる」
2009年06月26日
バングラデシュ政府、太陽光発電の設置を検討 サイクロン「アイラ」の生存者を支援
2009年06月27日
潘事務総長、エネルギーと気候変動に関する諮問グループを創設
2009年06月28日
米国と欧州 共同でオフィス機器の省エネ基準を向上
2009年06月29日
研究報告:米国において有色人種と貧困層に「気候による格差」あり
★2009年06月30日
欧州の空港、CO2削減に向けて認定制度を開始
日本でも進めてほしいなあ! 進んでほしいなあ!という動きが世界の各地で出てきていますね。
ガンバレ、ニッポン!