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エダヒロ・ライブラリー環境メールニュース

2010年01月14日

『ゼロから考える経済学―未来のために考えておきたいこと』の解説(2010.01.14)

大切なこと
 

<内容>

■「山川草木悉有佛性」という言葉の出典について

■『ゼロから考える経済学――未来のために考えておきたいこと』


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■「山川草木悉有佛性」という言葉の出典について


[No.1738] で、「山川草木悉有佛性」という言葉について触れました。このとき「仏典にこの言葉がある」と紹介したのですが、兵庫県立大学環境人間学部の岡田真美子先生(私に最初にこの言葉など大事な考え方を教えて下さった先生)から、以下のメールをいただきました。ご快諾を得て、ご紹介します。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ここから引用〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

> 仏典の言葉に「山川草木悉有佛性」という言葉があります。

> この言葉は仏典にはないのです。
>
> この「山川草木悉有佛性」...は「草木國土悉皆成佛」と並ぶ伝統的な仏教用語
> ではなく、少なくとも1961年以降、現代になってから人口に膾炙するようになっ
> た仏教用語らしい
>
> 「草木国土悉皆成仏」のほうも仏典にはありません。
> 両者とも朝鮮中国の文献にも存在せず、日本で発明された言葉であると思われます。
>
> したがってこの個所は、
>
>   ⇒ 日本仏教に「山川草木悉有仏性」ということばがあります
>
> くらいがよいのではないかと思います。

岡田先生、ありがとうございました! これらの言葉の出典や背景を探られた論文も送って下さって、とても勉強になりました。

「山川草木悉有佛性」という考え方は、日本のみならず世界の持続可能な文明へ向けての大事なキーワードとなると思っています。その考え方と言葉が、日本で生まれたなんて、わくわくしませんか! いいなー、日本って。大事なものがもっともっとありそうです。


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■『ゼロから考える経済学――未来のために考えておきたいこと』


去年の晩秋に出版された『ゼロから考える経済学』という本に解説を書かせていただきました。目次と解説をご紹介します。

『ゼロから考える経済学――未来のために考えておきたいこと』
(リーアン アイスラー著、 中小路 佳代子訳、英治出版)


[目次]
序章 より良い世界のための経済学
第1章 新しい経済学が必要だ
第2章 視野を広げて見る経済システム
第3章 思いやりは金銭的にも利益になる
第4章 経済のダブル・スタンダード
第5章 すべてをつなげて全体像をつくる
第6章 支配の経済システム
第7章 パートナーシップの経済システム
第8章 科学技術、仕事、脱工業化時代
第9章 私たちは誰で、どこにいるのか
第10章 思いやりの革命

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ここから引用〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

解説

                            枝廣淳子

「天国と地獄の違い」という話をご存じだろうか?

天国にも地獄にも同じように、大きな食卓の上にたくさんのご馳走が並んでいるという。食事をしている人々は一メートルもある長い箸を右手にくくりつけられているのも同じだ。では何が違うのか?

地獄では、それぞれがその長い箸でご馳走を食べようとする。が、箸が長過ぎるのでうまくいかない。なかなかつまめないし、つまめても箸が長すぎて自分の口に入れることができないのだ。みな空腹でイライラしており、他人の箸が自分の目の前の皿に伸びてくると、取られまいとじゃまをし、怒鳴りあい、ののしりあっている。

一方、天国の人々は、長い箸で食べ物をつまんでは、テーブルの向こう側に座っている人の口に入れてあげる。「お先にどうぞ」「ありがとう」「今度はあなたの口に入れますよ」「どうもありがとう」と互いに食べさせてあげ、食べさせてもらっているのだ。みんなにこにこと幸せそうだ。

天国と地獄の差とは、同じ箸を自分のために使うのか、それとも他人のために使うのかという違いでしかなかった、という話である。

本書を読んで、この話を思い出した。

現在、私たちはさまざまな問題に直面している。このままでは九〇億人に届こうかという世界の人口増加。各所でその影響が感じられ始めている地球温暖化。森林伐採や海洋汚染。自然界に拡散・蓄積している化学物質。通常の一〇〇〇倍ものスピードで進行しているといわれる種の絶滅。生物多様性の喪失や生態系の劣化に伴って、自然の持つ洪水防止機能や浄水機能が弱まっている。ミツバチの大量死によって、自然が無料で引き受けてきた受粉機能が果たせなくなり、ハチミツだけではなくりんごやアーモンドをはじめとする無数の作物ができなくなりつつある。

それだけ地球や自然を犠牲にして、では私たち人間は幸せになったのだろうか?

否、ではないか。日本の社会を見ても、さまざまな格差が広がり、固定化しつつある。年間三万を超える人々が追いつめられ自ら命を絶っている。失業率も史上最高の数字だ。

日本だけではない。本書にも出てくるように、二〇〇三年の国連の人間開発報告書によると、一九九〇年に比べてさらに貧しくなった国が五四カ国あり、二一カ国では貧しい国民の数は減少するどころか増加している。貧困をはじめとする社会問題を解決する手段として「大いにもてはやされた自由市場のグローバル化は、貧困を減らすどころかさらに増やしているのだ」。

何かがおかしい。そう感じている人は多いだろう。そして、「現在の経済成長至上主義に基づく経済システムが諸問題の根本にあるのではないか」と考え始めている人も多いのではないか。

かつて、地球は無限に大きく、その上で人間が何をしてもほとんど影響を受けることなく、「母なる大地」として、人間たちの生産・消費活動を含むすべての営みを受け入れることができた時代もあった。

しかし、科学技術の発展とともに、人間が地球に及ぼす影響力は甚大となり、人間が何をするかしないかが、大気も含め地球の形を変えるまでになってきた。しかし、私たち人間は相変わらず「地球は私たちが何をやろうとすべて受けとめてくれる」と信じつづけている。

お母さんの胸に抱かれた小さな赤ちゃんが、その小さなこぶしをどんなに振り回そうと、お母さんは平気だ。しかし、いまやお母さんよりも大きく腕力も強くなった赤ちゃんが、かつてと同じようにそのこぶしを好き勝手に振り回しているのである。お母さんはたまったものではない。お母さんが倒れるとき、赤ちゃんも倒れざるを得ないのである。

「経済システムを再構築しなくてはならない」――この言葉が各所で聞かれるようになり、さまざまな取り組みも広がりつつある。地域通貨。地産地消。本書でも取り上げられている、進歩を測るための新しい指標づくり。EU委員会は「GDPを超えて」という国際会議を開き、欧州では「脱成長」(デクロワッサンス)がひとつのキーワードになりつつある。アジアでも、ブータンのGNH(国民総幸福)やタイの「足るを知る経済」が注目を集めている。

私が日本で普及を進めている「システム思考」では、目の前の事象や出来事は、氷山の海水面に出ている部分に過ぎず、その下には「ある時間軸で見たときのパターン」、さらに「そのパターンを作り出している構造」がある、と考える。対症療法ではなく、構造から変えなくては、パターンも変わらず、日々の事象や出来事も変えることはできない。

地域通貨や地産地消、新しい指標などの取り組みは、お金やモノ、そして情報がどこからどこへ流れるかという構造を変えようとする大変に重要な試みである。

しかし、システム思考の氷山モデルのさらに底には「メンタルモデル」がある。私たちが何を当然と考え、何に価値がある/ないと考えるか、である。この根本的な前提・価値観が変わらない限り、構造を大きく変えることは難しいのだ。

本書は、目の前の問題に右往左往するのではなく、経済システムという構造を変えなくてはならない現在の社会に対し、そのためには、「経済システムだけに焦点を合わせていてはいけない。もっと深く踏み込む必要がある」と説き、社会には二種類の基本的なシステムがあることを教えてくれる。

トップダウン型の管理による「支配のシステム」と、互いに尊敬し合い、思いやる関係を支援する「パートナーシップのシステム」だ。これらは異なるメンタルモデルに基づく異なる構造であり、したがって異なるパターンを生み、異なる事象をもたらす。

本書には、支配のシステムからパートナーシップのシステムへの転換をはかりつつある事例も登場する。北欧のフィンランドのパートナーシップ教育のメリットや、パートナーシップのシステムに基づく思いやりの経営方針によって社員の離職率を大きく低下し、多額の費用を節約しているいくつもの企業、思いやりへの投資の利益率はとても高いものを示す調査や、そういった知見と実証に基づいて展開されているカナダの「健康な赤ちゃん、健康な子ども」というプログラムなど、読んでいるだけでもわくわくしてくる。そう、変えれば変わるのだ。

このままの経済システムでは地球も私たちも破綻は避けられないとしたら、経済システムを変えるために、私たち一人ひとりには何ができるのだろう?

著者は「国内外の指導者たちが行動するのを待つのではなく、経済システムについての会話を変えることだ」という。「自由」や「民主主義」という言葉が新たな政治モデルの導入に役立つように、「思いやり」という言葉を会話に含めることが、新しい経済システムの導入の第一歩となる、と。何とわくわくすることではないか。

理論的な背景や歴史、現状をわかりやすく説明しつつ、氷山の一角の下に潜む最も大きな「取り組むべきもの」を明らかにし、すでに展開している試みをその枠組み上に位置づけながら、私たち一人ひとりが何を考え、何をすればよいかを考えるための導きと励ましを送り続けてくれる本書を、私はきっとこれから何度も読み返すことになるだろう。


二〇〇九年九月、環境ジャーナリスト、イーズ代表

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜引用ここまで〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

「国内外の指導者たちが行動するのを待つのではなく、経済システムについての会話を変えること」--私たちも一人ひとり、職場であれ、家庭であれ、友人との会話であれ、それぞれの持ち場でやっていきましょう!

『ゼロから考える経済学――未来のために考えておきたいこと』
(リーアン アイスラー著、 中小路 佳代子訳、英治出版)

 

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