<内容>
■レスター・ブラウン氏「押し寄せる環境難民」
■ツバルへ行ってきます〜!
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■レスター・ブラウン氏「押し寄せる環境難民」
おなじみレスターのリリースを、実践和訳チームのメンバーが訳してくれました。暗澹たる気持ちになりますが、その思いをぜひ「これ以上悪化させない!」ための前向きの力にしていければ、と思っています。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ここから引用〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
押し寄せる環境難民
レスター・R・ブラウン
21世紀初頭の人類の文明は、拡大する砂漠と上昇する海面のはざまで押しつぶされそうになっている。人間の居住を支えることのできる生物学的に生産性のある陸地面積で測定すると、地球は小さくなってきている。人口密度の高まりの要因はかつて、人口増のみであった。今では容赦なく進行する砂漠化もそれに拍車をかけており、予測されている海面上昇も間もなく影響してくるだろう。地下水の過剰揚水のため帯水層が枯渇する中、さらに何百万もの人々が水を求めて移住せざるを得なくなっている。
サハラ以南のアフリカ、主にサヘル諸国における砂漠化の進行により、何百万もの人々が住む場所を失い、南に向かって移動するか北アフリカへ移住することを余儀なくされている。2006年チュニジアで開催された国連砂漠化防止会議の推定によると、2020年までにサハラ以南のアフリカから最大6,000万人が北アフリカおよび欧州に移住する可能性があるという。こうした移民の動きは既に何年にもわたって進行中である。
2003年10月中旬、イタリア当局はアフリカからの難民を乗せてイタリアへ向かう船を発見した。2週間以上漂流したあげくに燃料と食料と水は底を尽き、乗り込んでいた者の多くはすでに命を落としていた。初めのうちは死者が出ると船外に放り投げられていたが、いつからか生き残っていた者たちは遺体を持ち上げて海に放り込む力さえ無くしていた。死者と生存者が同じ船に乗っている光景は、救助隊員が述べたとおり、まるで「ダンテの『神曲 地獄篇』の一場面」のようであった。
難民はリビアから出航したソマリ族だと見られているが、生存者は本国へ送還されるのを恐れ、自分たちの母国がどこなのか明かそうとしなかった。彼らが政治難民なのか、経済難民なのか、もしくは環境難民なのかは分からない。ソマリアのような破綻した国家からは、そうした3通りすべての難民が生み出される。確かなのは、ソマリアが、人口過剰、過放牧、その結果生じる砂漠化によって国の遊牧(牧畜)経済が破壊されてしまった生態学的な災害の一例であるということだ。
おそらくソマリ族の最大の移住先は、破綻しつつある別の国家イエメンであろう。2008年、推計5万人の移民と亡命希望者がイエメンに到着した。この数は2007年の70%増である。また2009年の最初の3カ月間に、前年同期比で30%増の移民が流入している。これだけの人口が増えるだけで、すでに持続可能ではないイエメンの土地と水資源にいっそう負荷がかかり、国の衰退が早まってしまう。
2006年4月30日、バルバドス島沖で釣り人が漂流している船を見つけた。全長約6メートルのその船には太陽と海水のしぶきにさらされ「ミイラ同然」と化した11人の若者が乗っていた。死が間近に迫る中、走り書きを残した人がいた。二つの遺体の間に押し込まれていたメモにはこう記されていた。「私はセネガルに住む家族に仕送りをしたいのです。申し訳ありません。さようなら」。
そのメモを残したのは、クリスマスイブにセネガルを出航した52名の集団の一人であることは明らかだ。この船は、欧州への足掛かりであるカナリア諸島を目指していた。彼らは約3,200キロメートルの距離を漂流しカリブ海に流れ着いたに違いない。同様の話はほかにもある。2006年9月の最初の週末、警察当局が数隻のモーリタニアからの船をだ捕したところ、乗船者は合わせて、過去最多の1,200名近くに上った。
ホンジュラス、グアテマラ、ニカラグア、エルサルバドルなどの中米諸国に住む人々にとって、多くの場合、メキシコは米国への玄関口となる。2008年、メキシコの入管当局は約3万9,000人の身柄を拘束し、約8万9,000人に国外退去を命じたと報告した。
グアテマラとメキシコの国境に位置するタパチュラ市では、職を求める若者たちが北へ向かって市内をゆっくりと通過する貨物列車を線路沿いで待っている。列車に乗り込める者もいれば、失敗する者もいる。ジーザス・エル・ブエン・パストール避難所には、乗り込もうとした際につかまりそこね、列車の下敷きになって手足を切断した25名が身を寄せている。
避難所長のオルガ・サンチェス・マルティネス氏は、こうした若者たちにとって、これは「彼らのアメリカンドリームの終焉」なのだという。地元の司祭であるフロール・マリア・リゴーニ氏は、列車に乗り込もうとする移住者たちを「貧困が招いた神風特攻隊」と呼んでいる。
今日、追いつめられた人々が決死の行動に出た結果として、イタリア、スペイン、トルコの海岸に死体が打ち上げられない日はない。またメキシコ人が連日、米国で職を得ようと命懸けでアリゾナ砂漠を渡っている。毎年、平均約10万人以上のメキシコ人が農村部を離れる。生活するには小さすぎる、あるいは浸食されすぎている土地を捨ててメキシコの都市部を目指すか、米国に不法入国しようとしているのだ。アリゾナ砂漠を縦断しようとする人々の多くが、その過酷な暑さで命を落としている。2001年以降、アリゾナ州との境界沿いで発見されている死者は、毎年約200人に上る。
2050年までに、世界の人口は24億人増加する。増加のほとんどが、地下水面が既に低下している国々で生じるため、水難民は珍しくなくなるだろう。それが最も顕著になるのが、人口が水の供給量を上回り、水不足に陥っている乾燥・半乾燥地帯である。インド北西部では、帯水層が枯渇し住民が水をもはや手に入れられなくなっていることから、村が捨てられつつある。中国北部と西部、メキシコの一部では、何百万人という住民が、水不足によって離村を余儀なくされるかもしれない。
砂漠化が進むことで、増大する人口はさらに縮小を続ける土地に押し込まれている。ダスト・ボウル【訳注:1930年代に砂塵嵐の被害を受けた米国中南部の大草原地帯】では300万人が移住させられたが、中国の黄塵地帯で進んでいる砂漠化は、何千万人もの人々に移住を迫ることになるかもしれない。
アフリカもこの問題に直面している。サハラ砂漠はモロッコ、チュニジア、アルジェリアに住む人々を地中海に向かって北へ押しやっている。干ばつと砂漠化に必死で対処しようと、モロッコはその地理的条件に合わせて農業を見直し、穀物の耕作地を比較的水が少なくてすむ果樹園やブドウ畑に変えつつある。
イランでは、進行する砂漠化や水不足によって廃れた村々がすでに何千カ所にも達している。テヘランから車で1時間ほどのところにある小さな町、ダマーバンド周辺では、88カ所が廃村と化している。またサハラ砂漠がナイジェリアを覆い尽くしていくにつれ、農民や遊牧民は移動を迫られ、生産性はあるが徐々に狭まっている土地に押しやられている。たいていの場合砂漠化による難民は、都市部へ流れて多くが不法住居区に落ち着くが、国外に移住する者もいる。
ラテンアメリカでは、砂漠化が進み、ブラジルとメキシコの両国民が移住を迫られている。ブラジルでは、約6,600万ヘクタールの土地が影響を受けており、その多くが北東部に集中する。乾燥・半乾燥地帯の占める割合がブラジルよりもはるかに大きいメキシコでは、耕作地の荒廃は今や5,900万ヘクタール以上に及んでいる。
現在、砂漠化と水不足が何百万人もの人々に移住を強いている一方で、世界の人口が低地の沿岸都市部と稲作地帯の三角州に集中していることを考えると、海面の上昇によって将来移住しなければならない人が激増することは間違いない。その数は、いずれ何億人にも達する可能性があり、なぜ気候と人口の両方を安定させなければならないのかについて、説得力のある根拠の一つとなっている。
結局のところ、海面の上昇に関して問題となるのは、沿岸部の住居や産業施設が大損害を被った場合に、多くの人々を移住させるという政治的・経済的な負荷に耐え得るほど、世界各国の政府が強固であるかどうかである。
今世紀中に、私たちは急速な人口増、砂漠化の進行、海面の上昇といった、前世紀に自らが種をまいた流れによる影響に対処しなければならない。私たちが採るべき道はシンプルだ。こうした流れやそれに飲み込まれてしまう危険を食い止めることである。
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出典:レスター・R・ブラウン著、『プランB4.0:人類文明を救うために』
(Plan B 4.0: Mobilizing to Save Civilization)第2章「人口圧力:土地と水」
2009年、W.W.ノートン社(ニューヨーク)より刊行。
www.earthpolicy.org/index.php?/books/pb4にて購入可。
詳しい資料や情報元はこちら
http://www.earthpolicy.org/index.php?/book_bytes/2009/pb4ch02_ss7
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アースポリシー研究所
1350 Connecticut Ave. NW, Suite 403
Washington, DC 20036
ウェブサイト:www.earthpolicy.org
訳:篠田あさき、梶川 祐美子
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■ツバルへ行ってきます〜!
今日からツバル・エコツアーに参加してきます。「温暖化に沈む島」として、COP15でも大活躍でしたが、一方、「沈んでいない。沈んでいるとしても、温暖化のせいではない」という反論・懐疑論もあります。
ツバルの現状を自分の目で見て、ツバルの人々のお話をよく聞いて、じっくり考えてきたいと思っています。ツバルで何を見、何を考えることになるのか、とても楽しみです。
帰国は2月3日の予定です。その間、メール等つながらないと思いますが、きっと元気でやっていますので!