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エダヒロ・ライブラリー環境メールニュース

2010年03月06日

レスター・ブラウン氏「使い捨て経済はもういらない」(2010.03.06)

水・資源のこと
 

先日の「エダヒロの今日のひと言〜二重窓のススメ」には、「逆ヤドカリ人生」への共感など、たくさんのメールをいただきました。ありがとうございます!

■レスター・ブラウン氏「使い捨て経済はもういらない」

レスターの研究所からのリリース文を実践和訳チームのメンバーが訳してくれましたので、お届けします。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ここから引用〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

使い捨て経済はもういらない

レスター・R・ブラウン

21世紀の現代文明のストレスはさまざまな形になって現われる。すなわち、社会的、経済的、環境的、そして政治的なストレスだ。この4種類すべての中で際立って不健康で、目に映るのが、使い捨て経済による、増え続けるごみの流れだ。使い捨て用品はもともと、第二次世界大戦後に便利なものとして、また雇用創出と経済成長維持の手段として考え出された。モノが生産され廃棄されればされるほど、より多くの雇用が生まれるだろう、という理屈からだった。

使い捨て用品が売れたのは、その便利さゆえだった。例えば、消費者は、布のタオルやナプキンを洗うことよりも、使い捨てできる紙製品を喜んで受け入れたのだった。こうして、私たちはハンカチの代わりにティッシュを、ハンドタオルの代わりに使い捨てのペーパータオルを、布のテーブルナプキンの代わりに使い捨てのものを、そして飲料容器も詰め替え可能なものではなく使い捨てのものを使うようになったのだった。使い捨て用品を家に持ち帰る買い物袋でさえ、ごみの流れの一部になっているのだ。

このまま行けば使い捨て経済が地球の地質学的な限界に突き当たることは必至だ。世界では、都市近郊の埋立地が不足しつつあるだけでなく、使い捨て用品の製造や輸送に使われる安い石油も急速に枯渇しつつある。

おそらく、より根本的なことは、容易に入手できる鉛、スズ、銅、鉄鉱、またはボーキサイトが、使い捨て経済をこの先1、2世代後までも持続させるだけ十分な量がないということだ。米国地質調査所がまとめたデータによると、採掘が年間2%増加すると仮定した場合、世界の経済的に採掘可能な埋蔵量は、鉛に関しては17年分、スズは19年分、銅は25年分、鉄鉱は54年分、ボーキサイトは68年分だという。

都市からごみを運搬するコストは、近隣の埋立地がいっぱいになり石油の価格が上昇するにつれて、値上がりし続けている。地元で利用可能な埋立地を使い果たした最初の大都市の一つが、ニューヨークだ。ニューヨークのごみが運ばれていた市内のフレッシュキルズ埋立地は2001年3月に永久に閉鎖され、市はニュージャージー州やペンシルバニア州、そしてバージニア州の埋立地にまでも、ごみを輸送しなければならなくなったのだった。そのうちのいくつかの埋立地は、ニューヨーク市から300マイル(約483キロメートル)離れたところにあるのだ。

ニューヨークで1日に出されるごみの量を1万2,000トンとし、長距離トレーラー1台につき20トンのごみを積んでいると仮定すると、ニューヨーク市からごみを運搬するのに1日につき約600台のトレーラーが必要になる。このトレーラーの列は9マイル(約14キロメートル)近い長さとなり、交通を妨げ、大気を汚染し、炭素排出量を増やしている。

財政的に苦しい他州の地方自治体は、もし十分な額が支払われるのであれば、ニューヨークのごみを受け入れることに前向きだ。このことを経済的に思いがけない大もうけのチャンスだととらえる者もいる。しかしそれを引き受けた州政府は、道路の維持管理費の増加や交通渋滞、大気汚染の悪化、埋立地からの漏出による水質汚染の可能性、近隣地域からの苦情などを抱え込むことになるのだ。

2001年、バージニア州知事のジム・ギルモアはニューヨーク市のルディ・ジュリアーニ市長に対して、同市がごみ問題でバージニア州を利用していると苦言を呈する書簡を送った。「ニューヨークが直面する問題について理解はしています。しかし、ワシントン、ジェファーソン、マディソンという3人の大統領の故郷であるわが州は、ニューヨークの廃棄物処分場になるつもりは全くありません」と彼は記している。

ごみをめぐる悩みはニューヨーク市に限ったことではない。カナダ最大の都市トロントでは、2002年12月31日に、最後まで残っていた埋立地を閉鎖し、現在は年間75万トンのごみすべてをミシガン州ウェイン郡に運んでいる。

古代ギリシャ、そして現代のギリシャの首都でもあるアテネでは、利用可能な唯一の埋立地が2006年末に飽和状態に達した。ギリシャの地方政府はアテネのごみの受け入れを渋ったため、アテネで1日に出される6,000トンのごみは街中に溢れはじめ、市はごみの危機に陥った。

そこにきて国はやっと、欧州連合の環境担当委員であるスタブロス・ディマス(彼自身もギリシャ人だ)が呼ぶ「廃棄物のヒエラルキー」に注目し始めた。まず第一にごみを出さないようにし、次にリユース(再使用し)・リサイクル(再資源化し)・回収を行うという優先順位に注意を向け始めている。

さらに近年のごみ危機の例には、中国で現在進行中のものがある。中国では、他のすべての物とも同じように、ごみの排出量も急速に増えつつある。中国の通信社である新華社は、航空・衛星リモートセンサーを使用した調査によって、それぞれ面積が50平方メートル以上のごみ処分場が北京、天津、上海、重慶の郊外に7,000あることを探知したと報じた。中国のごみの多くはリサイクルされるか、焼却、または堆肥にされる。しかし、それよりも多い量が埋立地に捨てられるか(それが利用可能な場合にだが)、単に空地に山積みにされているのだ。

こうした中国のごみ問題に関する事例は、それ自体由々しきことである。しかし、近い将来に中国で生じ得る消費パターンを幅広く分析すると、なぜ現在の欧米型の経済モデルが総じて将来破たんするのかが見えてくる。

私が記憶する限りでは、私たちは「世界の人口の5%を有する米国が地球の資源の1/3以上を消費している」と言い続けてきた。これは、かつては正しかったが、今となってはもはや事実ではない。今日では、中国は米国以上に主要な資源を消費しているのだ。

穀物、肉、石油、石炭、鉄鋼といった主要物資のなかで、石油を除く各物資について、中国の消費は米国よりも多い。石油については米国がまだ大幅にリードしているが、その差は縮まりつつある。穀物消費は、中国は米国より約30%以上多く、肉は米国のほぼ2倍、鉄鋼については3倍も多く消費されている。

こうした数字は国全体の消費を反映しているが、もし中国人一人当たりの消費が米国並みになれば、一体どうなるだろうか。中国の経済成長率が近年のような年間10%から8%にペースを落とすとしても、2030年までに中国人一人当たりの所得は現在の米国人のレベルに達するだろう。

中国人が、自分の所得を現在の米国人と同じように使うようになるとすれば、彼らの所得額をそのまま消費額だとみなすことができる。もし、例えば中国人一人ひとりが現在の米国人と同じペースで紙を消費するならば、2030年には、14億6,000万人の中国人が現在の世界の生産量よりも多くの紙を消費することになるだろう。こうして世界の森林が消えてゆく。

2030年に中国人が現在の米国人と同様4人に3台ずつ車を所有するとすれば、中国の自動車保有台数は11億台になる。現在の世界の自動車台数は8億6,000万台だ。必要な道路や高速道路、駐車場のために、中国は現在のコメの作付面積と同じ広さの土地を舗装しなければならなくなるだろう。

2030年までに、中国では1日あたり9,800万バレルの石油が必要になるだろう。現在、世界の1日あたりの産油量は8,500万バレルだが、それ以上の産油は不可能だろう。そうやって、世界に埋蔵されている石油が消えていく。

中国が私たちに教えてくれていることは、西洋型の経済モデル、つまり化石燃料をベースとした自動車中心の使い捨て経済は、中国ではうまくいかないということだ。もし中国でうまくいかないのであれば、2030年までに中国よりも多くの人口を抱えているかもしれないインドでも同様だろう。また、同じく「アメリカン・ドリーム」を夢見ている他の途上国の30億人にとってもうまくいかないだろう。

そして、世界経済はますます一体化し、私たちは同じ穀物、石油、鉄鋼に依存している。そのような中では、西洋型の経済モデルは先進国にとってももはや通用しないものになろうとしている。

私たちの世代にとっての最大の課題は、新しい経済、つまり電力のほとんどは再生可能なエネルギー源によって発電され、より多様な交通システムを有しており、すべてをリユースそしてリサイクルするような経済を構築することだ。

この新しい経済、言い換えれば経済発展を持続させることが可能な経済を構築するための技術を、私たちは持っている。社会システムの崩壊する前に、私たちはこの新しい経済を早く構築することができるだろうか?

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出典:レスター・R・ブラウン著、『プランB3.0:人類文明を救うために』
(PlanB3.0: Mobilizing to Save Civilization)
第1章「21世紀の世界は『余剰』から『不足』の時代へ」
第6章「衰退のさまざまな初期兆候」
2008年、W.W.ノートン社(ニューヨーク)より刊行。

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(翻訳:飯田夏代、チェッカー:木村ゆかり)

 

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