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■[No.1758] 日本の森と水が狙われている!(2010.02.15)への追加情報
■水ジャーナリスト 橋本淳司氏の「水源林争奪戦」
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■[No.1758] 日本の森と水が狙われている!(2010.02.15)への追加情報
みなさんからいろいろな情報を寄せていただきました。ありがとうございます!とてもありがたいです。
東京財団政策研究部からは、あのときご紹介した「「日本の水源林の危機」につづいて、「グローバル化する国土資源(土・緑・水)と土地制度の盲点〜日本の水源林の危機II〜」も出ています。
http://www.tkfd.or.jp/topics/detail.php?id=179
また、何人かの方が映画『ブルー・ゴールド-狙われた水の真実』を教えて下さいました。公式サイトはこちら。渋谷のアップリンクで上映されています。
http://www.uplink.co.jp/bluegold/
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■水ジャーナリスト 橋本淳司氏の「水源林争奪戦」
そして、水を専門に取り組んでいらっしゃる橋本淳司さんが、ご自分のお書きになったものを寄せて下さいました。メールニュースへの転載もご快諾いただきましたので、ご紹介します。とてもわかりやすい説明と、現場のようす、他国ではどうか、問題の構造など、いろいろと考えさせられます。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ここから引用〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「水源林争奪戦」 水ジャーナリスト 橋本淳司
http://www.aqua-sphere.net/
■水源林の機能は保水、洪水緩和、浄化など多様
いま国内には水ビジネスで海外に進出しようという空気が満ちています。ですがオフェンスにばかりに気をとられ、ディフェンスは疎かになっています。国内にあるさまざまな問題を解決しなければ、日本人は安心して水が飲めなくなる可能性もあります。
大学の授業で、川の汚染について話していたら、「川が汚れても大丈夫です。うちには水道がありますから」と胸を張る学生がいました。かつて「カブトムシが死んでしまったから電池を交換して欲しい」という子どもがいると聞いて「まさか、そんな」と思ったことがありましたが、似たような発言をする大学生を前にし、あらためて水循環の話をすることにしました。
水道の蛇口をひねれば、あたりまえのように水が供給される日本では、水道水がどこからやってくるかを意識することがあまりありません。ですが水道水はどこからともなく涌きだすわけではなく、水道の原水は地下水や川の水であり、さらにそのもとは水源林に降った雨なのです。
水源林は、保水や洪水緩和、自然の自浄作用による水質浄化など、木材生産に限らない多様な機能をもっています。
雨は木々の幹をつたって地面に浸透して地下水となり、その地下水はやがて湧水となって川に流れ出します。このため森林は「天然の浄水場」と呼ばれます。
森林には、雨水を地中に貯め、ゆっくりと時間をかけて流出させる働きがあり、洪水や渇水をやわらげるため、「緑のダム」とも呼ばれます。また、網の目のように土の中に広がる木の根は、土や石をしっかりと捕まえているので土砂崩れを防いでいます。
■中国人が水源を買収する?
大切な水源林に、これまでにない動きがあると聞き、三重県大台町の森に行きました。
大台町の森は数年前から「中国人が水源の取得を目的に山を買おうとしている」と複数メディアで話題になった場所です。
「世界的な水不足」に備え、海外のさまざまな国の資本が日本の森を買い占め、水源の確保に乗り出しているという話を聞くようになりました。地価や木材価格が極端に下落するなかで、3倍から10倍の価格を提示したという話も聞きました。
もし水源林が買収され、木材を切ったまま植林しないで放置されたり、水を過剰に汲み上げられると、周辺の水に影響を与える可能性があると心配されています。
ですが、取引の実態は明らかになっていません。
三重県大台町のほか、長野県天龍村という情報もあったので地元の人に取材してみると、「そうした事実はない」と強く否定されました。何度も同じ質問をされ辟易している様子がうかがえました。
大台町では「中国人らしい」人物と接触した人に話を聞くことができました。「らしい」というのは、「名刺の名前が中国人のような漢字表記だった」、「片言の日本語だった」ということで中国人と確定されたわけではないからです。
その「中国人らしい」人物の目当ては水ではなく木材だったとのことです。大台の森に生えている木についての資料をもち、買う意欲は高かったそうですが、実際に見て、期待するほど良質の木材がないとわかると、引き上げていったとのことです。
応対した人は、取材におとずれた新聞記者に、こうした話を伝えたそうですが、記事はいつのまにか「中国人が水目的で森林買収に動いている」となってしまったと困惑していました。その後、記事にした雑誌も、事実確認の取材はしたもののやはり「中国人が水目的で森林買収に動いている」という記事になったため、この人はマスコミに対し不信感をいだいています。
■日本の土地制度の不安要素
「中国人が水目的で森林買収に動いている」という報道の裏には、土地のグルーバル化に体する懸念、かつての「ハゲタカ外資」に似た拒絶反応、成長する中国への微妙な感情などがあるように思います。
ですがそれだけではありません。日本の制度に対する不安があるのです。
【不安要素1】 日本の土地は誰でも買うことができます。外国人だからといって制限はありません。
たとえば、九州の土地が中国のリゾート会社に買われるなど、土地取引は活発に行われています。
外国人の土地所有はアジア諸国では珍しいケースです。
そもそも共産圏である中国、ベトナムなどは外国人の土地所有を認めていません。中国で個人や法人が取得できるのは土地使用権です。
韓国、インド、シンガポールなどでは土地の所有は可能ですが、いずれも条件付です。韓国には「外国人土地法」があり、外国人が土地を所有する場合は、申告または許可を受けなければなりません。
【不安要素2】 日本の土地所有権の強さです。
欧米は日本と同様、外国人であっても自由に土地を取得できますが、所有の考え方は違います。欧米では、土地所有権は土地利用権に近いもので、土地そのものは公的な資源と考えられています。
イギリスでは土地の保有権をもつにすぎず、公的権限に逆らって土地を処分する権限は与えられていません。アメリカでは、土地課税権、警察権、優越的領有権、国家帰属権など強力な政府権限の規制の下に位置づけられています。
フランスは土地収用権が強いのが特徴で、空港、道路、図書館などの建設予定地は、「公益」にかかる土地として収用されます。
一方、日本の土地所有権は強く、政府の土地収用権は実質的に機能していません。
【不安要素3】 基本となる地籍が確定していません。山林の6割は地籍調査未了で、所有者や面積が把握できていません。
以上3つの要素をまとめると、日本では土地の購入者は誰でもよく、境界が曖昧でも相対で取引は成立し、一度所有すると使用や処分は自由であるといえます。
森林法では民有林の売買に関する規制はなく、所有者は自分の山林を自由に売買できます。国土利用計画法では、1ヘクタール以上の土地(都市計画区域外)の売買であれば都道府県知事への届け出が必要ですが、1ヘクタール未満の土地については届け出義務がなく、誰が水源地を買ったのかもわかりません。
森林を取得した場合、1ヘクタール未満、つまりサッカーコートと同程度の面積の林地なら開発規制はありません。伐採してもよいし井戸を掘って自由に地下水を汲み上げることができます。仮に森林の水源かん養機能や土砂崩壊防備機能が損なわれたとしても、合法的な行為であり、規制することは難しいでしょう。
■森林をめぐるプレーヤーたち
大台町では別の人にも話を聞くことができました。この当たり森林に興味をもっている人は多く、「使途はわからない」ものの、「中国人らしい人物」の訪問の後も多数の企業や団体がこの森を購入しようと手をあげているそうです。
「外資が買っている」と言われていますが、じつは森林をめぐるプレーヤーは外資だけではありません。自己利用が目的の国内企業、転売目的の不動産会社もいます。
一方、森林所有者は先祖伝来の土地を手放すことに罪悪感に似た気持ちをもっています。近隣への後ろめたさもあります。
売買した相手が外資となると、そうした気持ちは強くなるようです。外資が水源の森を狙っているという情報は、そうした感情を逆手にとって、日本企業が有利な取引を行うため、意図的に流している可能性もあるのではないかと思います。
森林法では民有林の売買に関する規制はなく、所有者は自分の山林を自由に売買できるので、誰が取得したかわかりません。仲介業者やダミー業者が、二重三重と介在・迂回させることにより、真の投資者を明らかにさせないとの指摘もあります。
■林業衰退で山を手放さざるをえない林家
森林を買いたいという人が現れたときに、所有者である林家はなぜ大切な森を手放してしまうのでしょうか。
その原因は林業の低迷にあります。日本は国土の7割近くを森が覆う森林大国で、独特の「木の文化」を育んできました。
昭和30年頃までは木材の9割以上を国内で自給していましたが、1964年の木材輸入自由化以降は安い外材が溢れるようになり、生産コストや人件費がかかる国産材の需要は急速に減少、今では木材の自給率は20%程度に過ぎません。
いまや林業は商売として成り立っていません。スギの価格は、50年前の価格(4500円/立方メートル)の半値にまで落ち込んでいます。現在の木材価格では、植林、下刈、除伐などの森林管理を行うと経営が成り立ちません。
そのため林業を続けることができず、泣く泣く山を手放すケースが増えています。
人口増、住宅不足の時代には山林が宅地開発され、バブル期にはゴルフ場建設のために山林が開発されました。このとき林地価格は一時的に上昇しましたが、その後は実態を反映し下落の一途です。
相続税対策で山を所有できなくなるケースもあります。
ある林家では、祖父の死にともない1億を超える相続税が発生し、所有する山林2200ヘクタールのうち1400ヘクタールを手放さざるを得ませんでした。その人がこんなことを言っています。
「最近になって中国や日本国内の企業から、『山林を売ってくれ』という話が月に何十件と来るようになりました。山を守りたいという強い気持ちもありましたが、相続税を払うために、また山を全部手放すことになるのです。もうしまいには『どこでもいい。買ってくれるなら手放そう』という気持ちになりました」
そのほか、相続後に持ち主が複数になり、実際の所有者がわからなくなったり、林業に興味のない人が所有者になってそのまま放置されるケースもあります。
放置された山林は荒廃がすすみます。山林は雨水を吸収し、豪雨に対しダムの役割を果たし、また二酸化炭素を吸収するので環境保全には欠くことができません。大切なものが放置されているのです。
■土地所有に関する新しい考え方が必要
水源の森を守り、次世代が安心して水を利用できるようにするには、林業の活性化とルールの整備が必要です。
相対で行われている森林売買の取引をオープンで公正なものにし、地籍と所有者を明確にする、土地の利用目的と適正価格取引をウォッチする、場合によっては重要な水源林を公有林化すること、地下水源保全するためには部分的に地下水保全域を指定するなどが考えられます。
現在の法律では、地面を買ったら水は自由にくむことができます。適量くむなら問題ないのですが、くみすぎると周囲に影響が出ます。地下水が枯渇したり、地盤沈下が起きたりします。
外国企業でも国内企業でも個人でも関係ないのです。誰かが汲みすぎたら水はなくなり、まわりに影響がでるのです。
■終■
<参考文献>東京財団政策研究部「日本の水源林の危機」東京財団政策研究部「グローバル化する国土資源(土・緑・水)と土地制度の盲点〜日本の水源林の危機Ⅱ〜」
出典:「レポート水源林争奪戦」橋本淳司(著)