おとといの「エネルギー基本計画見直しのヒヤリング」での発言録をお届けします〜。
意見の対象:「エネルギー基本計画」見直し骨子(別紙)
http://www.meti.go.jp/topic/downloadfiles/100324a02j.pdf
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ここから引用〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
ありがとうございます。今ご紹介いただきました枝廣です。今日はこのような機会にお声がけいただき、ありがとうございます。私の資料、パワーポイントでブルーの色がかかっているものですが、こちらに沿って、冒頭20分ほどご説明させていただければと思っています。
まず、エネルギー政策の重要性についてです。私が申し上げるまでもないですが。私はずっと環境の分野で活動していますが、おそらく温暖化よりも先にエネルギー問題のほうが、日本にとっては大きな問題になると思っています。ですから日本が、自分の国の存続を考えて、あるべきエネルギー政策をとって、その結果として、副産物としてCO2も減って、温暖化対策になると。多分、そういった筋書きのほうが、「温暖化」「温暖化」と言って、それだけで行くよりも、ずっとバランスの取れた形ではないかと思っています。
次に、このエネルギー基本計画、骨子を見せていただいて、じゃあ、どういう日本の姿が浮かぶのだろう? 今後20年にわたって考えていくということですが、私の浮かんだイメージは、ここに書いてある通りです。
「原発 イケイケ、 石炭 ガンガン、 再エネ チョロチョロ」
(注:エネ庁長官をはじめ、テーブルを囲んだ方々から苦笑いや笑い声が上がりました。作戦成功!^^;)
もう一つ大事なことは、供給側については、これまで通りいろいろうたわれていますが、需要側は相変わらず目をつぶったままだということです。もちろん、省エネやっているじゃないかとおっしゃるかと思いますが、「省エネ製品だからよいと、たくさんつくって売る」という、そのビジネスモデルを変えない限り、いくら省エネをやっても--、もともとを適正生産、適正消費に変えていかない限りは--、温暖化対策もしくはエネルギー対策にはなりません。
としたときに、この基本計画を見せていただいて、書かれている問題意識のところは共有しますが、エネルギー資源の制約、そして炭素の制約が厳しくなる世界で、あまりワクワクする日本にならないんじゃないかというのが、私の第一印象です。
こういった日本で、私たちは安心して暮らしていけるのか。自分たちの世代は、ロンドン橋が落ちる前に通り抜けるかもしれないけど、子どもたち、孫たちはどうなんだろうということを、率直に思いました。
いくつか、自分の問題意識を共有していきたいと思います。
まず原発について。20年までに8基ということですが、これは「幻想」か、もしくは「やれかぶれ」というのは、非常に申し訳ない言い方かもしれませんが、率直にそう思いました。リードタイムがかかることを考えて、もしくは経済性を考えたときに、本当にこのように大きくうたっていいことなのか。
それから、先日、六ヵ所の再処理工場を見学に行かせていただきましたが、核の廃棄物の問題が解決されていない所でどんどんと原発を増やすということは、別の問題を後送りしているだけではないかと思います。
もう一つは、もし日本がもしくは先進国が、原発でエネルギー対策、もしくは温暖化対策をやりますと言ったときに、途上国に「それをやるな」とは、きっと言えないでしょう。としたときに、本当は原発をしてほしくない国にも原発が建ってしまうであろうと。そういったことをどう考えていくのか。
そしてもう一つ日本の特有の問題として、地震が起こりますから、そのたびに原発が止まって、エネルギーが止まって、もしくはCO2が増えて、というのでは困ると思っております。
それから、「石炭ガンガン」ですが、これはCCSを付ければいいじゃないかという論理かもしれませんが、CCSは長期的な解決策ではありませんし、短期的にも解決策ではない、単なる時間稼ぎであると、私は認識しています。
ご存じの通り、CCSを付けますと燃料が25%余計にかかるといわれています。効率が落ちるわけですね。そうすると、CCSを付けると、それだけたくさんの石炭を燃やさないといけない。
燃やすところでの炭素は回収できるかもしれませんが、余計な石炭を掘るため、もしくは輸送するためのCO2は回収されません。たくさんのCO2が余計に出てしまう。そして酸性雨とか、さまざまな石炭にまつわるほかの環境問題もあるわけです。
CCSはすぐに使えるわけではありません。これから実証していこうという段階ですから。「それがきっと使えるであろうから」「それを後付けするから」、石炭火力をどんどんつくりましょうというのはいかがなものかと。私は、これには強く反対したいと思っています。
もう一つ、天然ガスシフトがうたわれています。これは日本だけではなく、世界中でそうなっているわけですが、ここにお示ししたグラフは、デニス・メドウズが作ったものです。
仮に2000年の段階で、2000年のペースで使い続けたときに、世界の天然ガスが260年分あったとして--大体これぐらいといわれているのですが--、そのペースで使ったら260年持つけれど、今のようにどんどんと天然ガスシフトをしていけば、たとえば年率5%で需要が増えていけば、同じ量があったとしても54年でなくなってしまうということです。
ですから、天然ガスシフトも短期的な政策の一つ、時間稼ぎではありますが――石炭や石油よりはマシですから――これは最終的な、長期的な政策にはなり得ません。
それから、量の問題だけではなくて、値段の問題が次にあります。これは、化石燃料を輸入するために、どれだけ日本が払ってきたかのグラフです。98年には5兆円だったのが、2008年には15兆ぐらい増えて23兆になっている。
そしてこれからどういう値段の見通しがあるかと、長期エネルギー受給見通しの数字を使わせていただくと、05年の1バレル56ドルに比べて、20年には121ドル、30年には169ドルとなっています。たとえば2030年に3倍になるとしたら、使う量が変わらなくても、支払う金額は45兆になってしまいます。これは日本の経済、もしくは国家にとってどういう意味を持つのでしょうか。
それに対して、再生可能エネルギーというのは、基本的に燃料代はタダです。ほかの国がどうするということを気にする必要もないし、そして雇用を創出する力も大きいです。また、特に日本にこれから必要になってくる、地域の再活性化という点でも、極めて役に立つ。そして今、世界中が再生可能エネルギーに向かっていますから、グローバルな勝機があるのも言うまでもないところです。
再生可能エネルギーはあくまでも小さなことしかできないと、日本では考えられていますが、たとえばドイツでは、もうすでに需要の10%以上、16%ほどまかなっていますし、本気でやれば、かなりの部分を満たすことができると思っています。
もう一つ、今回のエネルギーの基本計画を見たときに、経産省にかかわらない所、他の省庁のエネルギーが軽視されているという印象を受けました。たとえばバイオガスなど、農林水産業からのエネルギーというのは非常に大きいし、地域の再活性化という点でも重要ですが、このあたりが、触れられてはいますけれども、軽視されている印象を受けました。
この「地産地燃」というのは、地域のバイオマスを地域で燃やしてエネルギーにするという意味での燃やすという字で、これは誤字ではありませんが、こういった動きをもっともっと取り入れていく必要があります。
今回の一つの目玉は、「自主開発資源」のパーセントをとっていこうということだと思います。これは確かに、純国産というのではなくて、日本が自主的に開発しているものも含めていこうという動きはわかりますが、気をつけないと誤解を招くものになってしまいます。多分、考えられている方は真摯に考えていらっしゃると思いますが、いったんこれが外に出てしまうと、ごまかしているんではないかというふうに見る人もたくさんいます。
「自主開発資源」というのは、日本が出資しているというだけで、実際、日本が入手できるかどうかわからない。そういったものですよね。そういった印象を与えないような形で使ってしまうと、ごまかしになってしまいます。
私たち国民にとって大事なのは、日本が出資しているか、権益を持っているかということよりも、「いざというときに、本当にちゃんと手に入るんですか、安心して使えるんですか」ということです。そのことが私たち国民にとっては大事なので、それにつながるかどうかわからないけど、取りあえず出資しているからカウントして、そのパーセントが大きいからいいでしょうと、そういう出し方は、国民を裏切る可能性があると心配しています。
根本的なメンタルモデル、私たちが当然と考えているものは何かということで、このエネルギー基本計画もしくは日本のエネルギー政策に最も重要なのは、これまでの「中央で集約で型つくって、それを送電、もしくは配りましょう」というタイプではなくて、「分散エネルギーをネットワーク型でつないでいく」というタイプへのシフトです。そのほうがずっと効率的ですし、安全で安心でスマートだと思います。
効率といったときに、「大規模につくったほうが効率がいい」とよくおっしゃいます。それは、極めて局所的、短期的な効率はそうかもしれない。だけれど、もう少し大きく、そして長期的な軸を取ったときに、「本当の効率の良さというのは何だろう?」ということを考えていく必要がある。
おそらく省庁としては、中央で全部見て管轄したいという思いがあるかもしれませんが、世の中はコンピュータでもネットワークでも通信でも、分散ネットワーク型になっていて、そのほうがずっと効率が良く、人々の幸せを増やすこともわかっています。エネルギーもここに、今から移っていく時代ではないかと。これが全然先取りされていない、というのが今回の基本計画です。今後20年を設定するには足りないのではないかと思っています。
需要型について。先ほど言いましたが、確かに省エネは掲げていますが、これに本当に取り組むのであれば、きちんと指標化をして、目標設定をしてほしいと思います。たとえば、省エネによって使わなかったエネルギーを測ることはできると思います。
これは、エイモリー・ロビンスが作ったのですが「ネガワット」という言葉があります。メガワットではなくて、使わなかったネガティブという意味で、使わなかったワット数、「ネガワット」を計算して、たとえばそれを指標化することもできるでしょう。
たとえば今回の骨子の中でも家庭部門を見ますと、あるべき姿、目標は一切なく、すぐに手段の話になっているんですね。これは何のためにどうしてやるのか、どこを目指しているのか。なかなか国民を動かすのは難しいのではないかと思います。
少し細かい話に入ります。たとえば運輸部門で「モーダルシフト」と書かれています。これはあちこちに出てくる言葉ですが、しかし「言うはやすし」の例だと、私はいつも思います。
じゃあ、本当にモーダルシフトをしようと思ったときに、たとえば運輸のさまざま貨物を列車で動かそうとしても、今の貨物列車のダイヤは、東海道線で言えば、ほとんど目いっぱいです。ですから、企業がモーダルシフトをしようと思っても、運ぶ列車がないのです。これだけ詰まっています。
本当に日本がモーダルシフトをして貨物を、今のトラック輸送から、1%しか担っていない鉄道輸送に替えていこうというのであれば、たとえば東海道物流新幹線をつくるぐらいのことが必要かもしれません。
私も委員をやっていましたが、こういった形で大きなインフラをつくるということも判断すべきではないかと思います。これは、建設費が2兆円ぐらいかかるといわれていますが、でも、それを造ることでどれぐらいのトラック輸送の石油が節減できるか。これを計算すると、数年で元が取れるのではないかと、素人計算かもしれませんが、そのように思っています。
今の新幹線がもしなかったら、あれだけの人が東京、大阪、名古屋、さまざまな所を車でそれぞれ移動していると思ったら、どれぐらい日本は大変だったでしょうか。そうを思うと、数十年前に大変な反対の中、東海道新幹線が造られたことを、今、私たちは感謝するわけです。それと同じことが、たとえばモーダルシフトを中心で言えば、貨物でも言えるのではないか。
それから、「点ではなく地域全体の取り組みを」ということもうたってありますが、これももうあちこちで取り組みが始められているのに、その言及がなく、お題目のように――骨子ですからそうかもしれませんが、出ているだけなのは残念だと思います。
福田懇談会の時に、私も委員をしています環境モデル都市の委員会があって、ここで今、日本で13の環境モデル都市が実際に動いています。その中には、例として挙げた横浜、北九州のように、地域でのエネルギーの面としての統合的な政策を打ち出して、今、実行している所があります。
こういった動きをもっともっと推し進めていくこと。そしてそのときに、今、あちこちの環境モデル都市から聞こえてくるのが、「本当に地域でエネルギーをやるには、たとえば電力分野の規制緩和をしてもらわないと、にっちもさっちもいかない」という声でます。たとえば、今、50kW以上に制限されている電力の小売ですね。こういった自由化を進めないと、もう地域では進まないと。こういったところをきちんとやっていくことが、今回必要ではないかと思っています。
後半は、国民に広げていくにはどうしたらいいかという、私が常に、伝える立場で活動しているので、そういうお話をしていこうと思います。大事なキーポイントが3つ。「正しい意識」と「わかりやすい見える化」と「行動変容につながる仕組み」です。
最初に、「見える化」の例を一つお話しします。数字にしたりということは、もちろん日本でもいろいろ進められていますが、ここの写真は、アル・ゴアさんの『私たちの選択』という本に出ているものですが、アメリカの電力会社で使われているものです。
このボール、普通は青色です。電力料金が高い時間帯に電力の消費量が増えると、これが色が変わって赤くなってきます。赤くなってくると、やはりみんな一生懸命消すわけですね。こういった、感情的にも訴えるような、数字だけではなくて、もっとわかりやすい人の行動変容につながる見える化。これもいろいろ、これからできるのではないかと思います。
それから「行動を変える仕組み」ということでは、たとえばこれはやはりアル・ゴアさんの本からの例ですが、電力会社は、今、電力をどれだけ売って儲かるかという、そういったビジネスモデルです。それだと、本当は省エネしてもらっては困る、というのが本音ではないかと思います。
これを変えたの一つの例が、カリフォルニアです。お客さんが省エネをすると、そこで削減できた分を電力会社も一緒に分け合える。こうすると、お客さんが省エネをしても、電力会社はそれほど失うものがない。ということで大きく変わったという例があります。
こういう仕組みをつくっていかないと、両手両足縛って省エネやれと言われているようなものだと思うのです。
そして、人々の行動を変えるということで言うと、これは言うまでもないですが、新しいもののほうがいいんだということをアピールするわけですが、大事なのは「転換コスト」です。
何かを変えるときに、たとえば非常に大変とか、お金がかかるとか、面倒くさいとか、皆に何と言われるかわからないとか、そういった転換コストが大きいと、どんなに新しい方法がいいと思っても、人々は行動を変えません。この転換コストをいかに下げるかということを考えていく必要があります。
一つの例です。たとえば省エネ型の冷蔵庫はいいけれど、実際には高くてなかなか手が出ない。エコポイントもいいんですが、エコポイントは税金から出ていますから、ずっと続けるわけにはいきません。そうすると、ある人たちの敷居は下げられても、あとに続く人たちは下げられない。
そうではない一つの取り組みが、NGOがやっているものですが、買い換え前と買い換え後の電力消費量を調べて、電力料金が安くなる、その5年分を無利子で融資するという活動です。
「5年間は、前の冷蔵庫と同じつもりで電力料金を払ってください」と。5年後に返し終わって、あと、ガクッと電力料金が下がります。これだと、最初のシードマネーがあれば、どんどんと回していくことができます。税金を投入しなくても、行動の敷居を下げることができるということです。
最後に、「正しい意識」です。特に、負担論がこれから重要になってきますので、国民とともに進めていくために、ということでの提案です。
資源エネ庁だけではないですが、「エネルギーや気候政策担当のコミュニケーション・オフィサー」を、ぜひ政府につくってほしいということです。今ほとんど、こういった点で対話がありません。たとえば経産省と環境省の間でも対話もないし、そして業界と国民、政府の間でも対話がない。その中では、なかなか進めていくことができません。
今、どちらかと言うと、国民は混乱したメッセージを受け取って、動けない状態にあるとも言えます。「国民負担だ」と言われている。一方で、「これは成長への投資だ」と言われている。
「1世帯100万かかる」とか、「これだけやったらこんなにかかる」とか、そういうことをよくメッセージとして出されるわけですが、「こんなにかかるんですけど、それでもやるんですか」と言いながら、どうやって、成長戦略で、環境エネルギーでGDP50兆円を生み出そうというのか。これは非常に混乱しているのではないかと思います。
このコミュニケーション・オフィサーの役割はいくつかあって、一つは、今言ったようなことも含めて、国民のコスト・リテラシーを高めるということです。いくらかかるかだけではなくて、それでいいことは何があるのか、やらなかったらどれだけかかるのか。こういった議論をきちんとしていくことです。
実際に、私のほうでアンケートをしたことがありますが、きちんと説明すれば、多くの人がわかってくれます。一部しか出さないと違う反応になってしまいますが、いいこと、悪いこと、やらなかったら何が起こるか、きちんと出すということが必要だと思います。
もう一つ、このコミュニケーション・オフサーにやっていただきたいのは、「人々、もしくは業界のメンタルモデルを緩めていく」ということです。
たとえば、電力といったら、「決して停電しちゃいけない」と私たちは思い込んでいます。でも、そのためにどれだけのさまざまなバッファーが必要か。もしくは自然エネルギーが入りにくくなっているか。こういったことをきちんと考えていく必要があります。
メンタルモデル--「当然こういうものだ」というのは、結構簡単に変わるんですね。たとえばコピー用紙の白色度。昔は白色度100で、本当に白い紙だった。今は70でごく普通です。
こういった形で、たとえば絶対に落ちてはいけない電力は松。これは高いですね。そうじゃなくても、ときどき落ちてもいい冷蔵庫とか、そういうのは、たとえば竹でもいいとか、梅でもいいとか、こういった形でいろいろ、エネルギーに関しても、常に最高の性能のものではなくて、さまざまなものを、必要な所、適材適所、使っていけるように変えていく必要があると思います。
もう一つ、コミュニケーションの立場で大事だと思うのは、さまざまな立場の人たちが、みんなでお互いに共創型で創っていく、そういったコミュニケーションです。
政府が国民を説得するとか、業界を威嚇するとか、そういったコミュニケーションではなくて、私たち、日本に住んでいる同じ国民として、長期的なビジョンや目的は共有できると思います。そこに向かって、どういうふうな発想で、どんな道のりがあるのか。安心してさまざまに、自由に話せるような、議論できるような、そういった場づくりが必要ではないか。そのためには、そういった話し合い方の作法もあります。
suspend(サスペンド)というのは、自分の立場やいつもの考えをいったん脇に置いて、そして相手の話を聞くという、共創型コミュニケーションの基本中の基本の作法ですが、こういったものを取り入れながら議論していくことができる。
去年、「中期目標を考えるセッション」というのを、私のほうで行いました。この時は、経産省、環境省、そしてそれぞれの研究所から来ていただいて、説明をしていただき、そして一般の市民の方にそれを聞いていただいて、それぞれ考えるというセッションを行いました。
その時に、やはり、「これまでこういう場は全然なかったね」ということを、経産省からも環境省からも言われました。こういった場で、市民は何を知りたがっているのか、何があれば考えられるのか。そういったことから始めていくことができるのではないかと思います。
それから原発について、この間、再処理工場に行っても思いましたが、やはりそろそろ本当の対話を始めるべきではないかと思っています。現場レベルでは、それぞれ個別最適化で、皆さん、ほんとによく頑張っていらっしゃる。ですから、現場にその対話を任せるのではなくて、または「反対 対 賛成」のいつもの闘いではなくて、国として、長期的にほんとにどうしていくのか。原発がなかったら、ほんとは国はどうなるのか。あるとしたら、どういう形であり得るのか。そういった話をしていく時期ではないでしょうか。
最後にいくつかのポイントを述べて終えたいと思います。
今までの話でも出てきたように、中短期の取り組みと長期の取り組みを区別することが必要だということです。たとえばCCSとか、そういったものをどう位置づけるのか。本当に長期的な目指すものは何か。それは往々にして時間がかかる。再生可能エネルギーはその一つですが、そのための時間稼ぎとして何をやるのか。この区別をきちんとやっていかないと、短期的な策に入れ込みすぎて、実は長期の足を引っ張るということにもなりかねません。
そして、これからエネルギーが不足してくると言われますが、私は、日本で一番不足しているエネルギーは、「人のエネルギー」じゃないかと思っています。人の、私たち日本人のやる気とか元気とか覇気とか。これが今、どんどんと失われているというのは、あちこちで言われています。
そのときに、人のエネルギーもアップできるようなエネルギー政策を取っていただきたい。そのためには夢と希望--ほんとにこういう日本にしたい。こんなエネルギーで回していきたい。そう思えるような大きなビジョンを出してほしいと思います。
一つの例は、スウェーデンです。「2020年には石油を使わない国になる」と。これでどれぐらい国民が、「あ、そうだ」と。「それは、そうしたらどんなにすてきな国になるだろう」ということで動いたかと思います。
もう一つは、産業と民生を分けたエネルギー政策をしたらどうかと思っています。
民生はおそらく、家庭部門で言えば、省エネと分散型の再エネルギー、再生可能エネルギーで賄えるのではないかと思います。ですから、民生はもうこちらのほうで図っていく。
そして産業用は、どうしても品質の高い安定した供給が必要ですから、それはもしかしたら当面は原発なども使っていくなどの、すみ分けでやっていく必要があるのではないか。
一緒くたにまとめて、自給率4%をどう上げるかという話だと、市民はなかなか達成感もなければ、やる気もわいてきませんが、民生は、少なくとも再生可能エネルギーですべてまかなえると、私たちは思っています。
おそらく、このエネルギー基本計画の今回の見直しも転換期にあって、これまでの路線から変えていく時期でしょう。そのときには、内部から変えるのは恐らくすごく難しいと思います。これまでの流れがあるので。そのときに、変えるための外部の力がきっと必要。
私たち、変えたいと思っている国民はたくさん、意識のある人はいます。その人たちが何をすれば、内部でも変えるべきだと思っている人の力になるのか。ここではきっと言えないと思うので、ぜひこっそり教えてください。一緒に進められればと思っています。
もう一つ最後に。これからますます、状況は刻一刻と変わっていきます。そのときに、一度決めたからといってそれで突き進むタイプでは、非常に失うものが大きくなる。
アポロ11号というのは、月面着陸するまで、軌道に乗っていたのはほんの5%だと言われています。95%の時間は軌道から外れていた。でも常に目的地に照らし合わせて軌道修正していたから、最終的には着陸できたわけです。
日本の政府は、資源エネ庁や経産省に限りませんが、1回決めたら軌道がどうあれ、それがうまくいかないんじゃないかと、本人たちも思っていても、そのまま突き進むということが往々にしてあるように思います。
これは人の問題ではなく、構造の問題としてあるように思います。そうではなくて、やはり柔軟に、そのときそのときの現実に合わせて軌道修正していく。そのプロセスをまず持っていただきたいと思っています。
以上です。ありがとうございました。