(財)全国建設研修センターの「国づくりと研修」という冊子で、巻頭インタビューを受ける機会がありました。コミュニケーションという、自分にとっての生涯のテーマ?についていろいろお話しすることができました。
冊子が発行され、ウェブサイトにもpdfでアップされました。添えられた写真は、「私の森.jp」の写真部の作品で、とてもうれしいです。
http://www.jctc.jp/frame/f008_06.html
写真は上記pdfで見ていただくとして、本文をご紹介します。
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見えないものの大切さを伝えるコミュニケーション
枝廣 淳子
●本当に大事なことは目に見えない
土木の仕事は、市民生活の基盤です。その基盤があるから、上にいろいろなものが花開くのですけれども、土台である黒子の存在は見えません。
でもいま、土木に限らず一番大事なのは、私たち一人一人が目に見えないものを見ようとすることだと思います。
たとえば、今年、日本で国際会議(COP10)が開催される生物多様性についても同じようなことが言えます。さまざまな生物の存在がいろいろなものをつくり出しているおかげで、私たちが幸せに生きていられる。でも、そうしたつながりは直接見えません。そして、経済効率を重視して短期的な最大効率化を目指す社会のなかでは、見えないものは評価されませんね。
土木の仕事もかなりの部分でそれに当てはまるのではないでしょうか。みんなに見られて、褒められるわけではないけれども、社会を支えているという気概と誇りで地道にやられている方が多いと思います。一方で、それに乗っかって幸せな生活を享受している市民に対して、見えないものに思いを馳せることを伝えるコミュニケーションが大事なことになっています。
●伝えることと、伝わることの違い
「あなたが当然と思っていることが、実は何に支えられているかを考えてみよう」というような、人々のイマジネーションを鍛えていくコミュニケーションが必要な時代です。なぜなら、これまでの政府なり、お上(かみ)が社会のニーズに対応していた形は崩壊して、国民が判断する方向に変わってきているからです。
その時、一番大切なポイントは、「伝えること」と「伝わること」は別だということです。「伝わる」というのは、こちらが出したことを受け取って初めて成立するものです。広報の本数や、会誌、チラシの部数などの発信した量ではなく、どれだけ「受け取られたか」の効果測定をしないとどれだけ伝わったかわかりません。
もう一つ、伝えるコミュニケーションで鍵となるのは、いまはどの業界にも伝えたいものを持っている人がたくさんいるということです。でも、受け取る側の割ける時間や注意力も限られています。その中である情報を選んで、しかも立ち止まって理解してもらうというのは至難のわざですね。
ですから、それをどういうフックやきっかけで人々を引き寄せるか。ある切り口が不特定多数に効くわけではないから、いろいろ手を変え品を変えなくてはならない。そういう意味では、伝える側にとって大変な時代です。
●見えないものを、どう説得するか
本当に大事なものは数値化できないのです。でも、数値がないと立ち止まらない人が多いので、見えないものをお金で見えるようにしてわかってもらうというのも世界的な動きの一つです。
たとえば、命を守る森に金銭価値をつけるということは、「もし森がなかったら実はこんなにお金がかかりますが、それを森は無償でやってくれています」という説得の仕方です。洪水を防ぎ、水を浄化したりする日本の森林の自然力が私たちに提供しているサービスを計算すると年間約七〇兆円だそうです。木材や山菜などの販売額約六七〇〇億円の一〇〇倍くらい高い価値があると説明します。
「作為のコストと無作為のコスト」という言い方があります。たとえば、低炭素社会に向けた動きの中で、これまで車で運んでいたものを電車や船にモーダルシフトしましょうということがありますね。物流新幹線という構想も、これまでトラックで運んでいた貨物を専用の新幹線で運ぼうというものです。
この新しい公共事業には二兆円位かかるけれども、これをやらなかったらトラックのガソリン代が年間三千億円かかりますから、五〜六年で元が取れるしプラス二酸化炭素の削減になるという説得の仕方です。やらなかったときのコストを出さないで議論するから、何もやらない方がいいという話になるケースが多くなっています。
だれにとっても大事なのは幸せですね。もちろん人によって何が幸せをつくり出すかは違うでしょうが、それを実現するためには何が必要かを掘り下げていくと、根幹となって支えるインフラにたどり着くでしょう。それを刺激するような問いかけときっかけをたくさん用意することだと思うのです。
ただし、押しつけられるとみんな嫌がってしまうので、やはり手を変え品を変えて多方面からやらないといけない。温暖化やリサイクルなどの問題を市民が自分たちで伝えているNGO活動も一つのヒントになると思います。(談)
出所:「国づくりと研修 127号」((財)全国建設研修センター) 巻頭インタビュー