アイスランドは良いお天気が続いています。レイキャビクでの2日間の会議が終わって、バスで2時間ほど、牛しかいない、ひろーい草原の真ん中にぽつんと建っている居心地の良いペンションのようなホテルで、後半の会議が続いています。
気温は低く、風も冷たいですが、遠くに「あれがヨーロッパ中の空港を閉鎖しちゃった火山だよ」という山が見える、気持ちの良い場所です。海外でも朝2時起きの私は、起床後に一仕事してから、他のメンバーと早朝ジョギングをしたり、そのあと地熱のお風呂(つまり温泉ですね)に入ったり。朝8時半からプログラムが始まります。
レイキャビクでの前半の会議のテーマは、Alternatives to Growth: Challenges, Opportunities and Strategies (成長に代わるもの:チャレンジとチャンス、そして戦略)でした。
会議の冒頭、アイスランドの財務大臣が挨拶に来てくれました。その内容からお伝えしようと思います。
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アイスランド財務大臣
みなさん、よくいらして下さいました。
ご存じのように、2008年にアイスランドは、金融が崩壊するという事態に陥りました。一夜のうちに3,000億アイスランドクローネを失い、黒字から赤字へ転落してしまったのです。
これは、「これまでの成長が持続可能ではなかった」ということを示しています。
人口30万ちょっとというアイスランドのような小さな国が、国際的に目を見張るような(!)大崩壊を遂げるという、このような事態がなぜ起こったのか。
それは、それまでにアイスランドの金融システムが、ものすごく大きく成長し、拡大していったためです。
「銀行家がいけなかったのだ」「バイキングと呼ばれる一部企業のやり口のせいだ」という声もありますが、実はこのような大崩壊につながった大成長には、もっともっと深い根があります。
それは、私たちが当然と思ってきたようなことです。
1つは、常に民間セクターは公共セクターや政府よりもより良くできる、という考えです。
2つ目は、見えざる手がすべてをうまく取りはからってくれるはずだ、という考え。
3番目は、だからシステムは、それ自体でまずいところがあれば是正できるので規制の必要はない、という考えです。
アイスランドの金融崩壊の事例から、これらのどれもが間違っていることが明かになりました。
現在も、アイスランドの金融崩壊がなぜどのように起こったのか、さまざまな調査が行われています。大事なことは、そこから学ぶことです。どのように先へ進むことができるのか、同じような状況を回避することができるのか。
強く思うことがあります。今回の大崩壊につながる大成長の時代に、アイスランドは、金融システムを大きくさせるのではなく、自給率や持続可能性を拡大させることにもっと力を注ぐべきだった、ということです。成長の時代にはそれができたのに、それをしなかったのは、いかにもったいないことだったのかと思います。
エネルギーでいえば、化石エネルギーから持続可能なエネルギーへの転換を図れたはずです。企業や金融業界のブランドを拡大するのではなく、国民に対する公平で平等な分配を推し進めたり、教育を拡大することができたはずです。
問題や、どのような犠牲や損害が出たのかを調査するだけではなく、そこからの教訓を得て、繰り返すことなく、より良くなっていく方法を見いだしていかなくてはなりません。
「これまでの成長は持続可能ではなかった」--そのように痛感している現在、「成長に代わるもの」というテーマで開催される今回の会議は、まさに私たちが考えなくてはならないことを取り上げるものだと思います。実り多い会議になることを願っています。
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財務大臣の挨拶につづいて、アイスランド大学の学長(女性)が歓迎の挨拶をしてくれました。その中で、ハッとした部分がありました。
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今回の危機による経済の大きな転落にもかかわらず、魚は泳ぎ、水は流れて電気を起こし、地熱も相変わらず、アイスランドの家屋の暖房をしてくれています。
アイスランドが経済としても国としても回復していく上で、こういった天然資源を、私たちは頼りにできるということを痛感しています。
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アイスランドだけではなく、日本や世界が、経済や金融の拡大のために、生存基盤である天然資源をもし傷つけていたとしたら、その金融や経済が破綻した暁に、私たちは何に頼って生きていくことができるのでしょうか?
1日半の会議では、さまざまな研究者がさまざまな切り口から「成長」について新しい見方や考え方を伝えてくれました。すごく勉強になります。
アイスランドの金融崩壊をテーマにしたセッションもありました。さすがバラトン合宿です、システム思考のループ図を使って、何がこの崩壊をもたらしたかを描き出していました。
「金融崩壊や経済危機が起こると、多くの人々は--政治家や経済界も--、地震や火山の爆発になぞらえます。でも、金融や経済の崩壊は、自然現象ではないのです」という発言がありました。
「つまり、大きな崩壊につながる状態を作り出した構造があるのです。その構造に目を向け、メスを入れ、構造からたださない限り、必ずや同じような問題が繰り返し起こるでしょう。
アイスランドもそうです。世界で発生した大きな金融崩壊のうち、3回はアイスランドで起こっているのですから。今回の危機にしても、政治家や経済界は、小手先の表面的な修正ですむと思っているようです。でもそれでは構造は変わりません。構造が変わらなければ、何も変わらないのですが……」
構造を変えるのは大変です。「どうしたらよいか?」の話になるのですが、すべての答えが分かっているわけではありません。
そして、バラトン合宿の良いところは、どんな専門家でも、わからないときは「わからない」と素直に言えるところだなあ、と思うのです。
昨年「ここまではわかった」と発表した研究者が、今年は「その理解にもとづいて、実際にやってみたら、こういう事態になった。それに対してどう手を打ったらよいのか、まだわからない」と発表する。みんなそれぞれ、他の人の発表やディスカション、ランチやディナーの席上での活発なおしゃべりからいろいろなヒントや刺激を得て帰り、またそれぞれの場で研究や実践をおこなう。
その結果をまた次の年に持ち寄って、どのように進んだのか、新たにわかったのは何なのか(前にはわからなかった障壁など)、それに対してどう取り組んでいくか、という議論が展開しています。こうしたやりとりから、共同プロジェクトや各自の新たなプロジェクトが生まれることもしばしば。
私もこの場から、何冊かの翻訳につながったり、日本でのセミナーやワークショップが生まれたりしてきました。今回もすでに2つか3つ、「これ、やるぞー」ってことに出会っちゃいました。(^^;
みんながお互いに刺激とサポートを提供し合っている場なのですよね。「ジュンコ、こんなことをやってみたらどうか?」と全く新しい角度から、日本では気がつかないようなヒントをくれる人もいます。
逆に「今度本を書いてみようと思うんだけど」という若いメンバーに、出版プロジェクトの進め方やちょっとしたヒントを話してあげることもあります。毎年必ずこの合宿の場で、お互いに1年を振り返って、次の1年の方向性を一緒に確認できる仲間もいます。
元気とやる気と、新しい情報や考え方、ツールと、新しいつながりを得られる場に参加できて、本当に幸せだなあ!と思っています。
バラトングループは、来年が設立30周年となります。この30年間に、こうして参加メンバーを元気にし、またがんばろう!という気持ちと新しいアイディアをたくさん持って帰ってもらうことで、先進国も途上国も含めて世界各国で、どれほど活動が広がり、進んできたことでしょう。
そう思うと、このグループを立ち上げた故ドネラ&デニス・メドウズ氏の先見の明と、グループを続けてきた情熱と献身に、改めて畏怖と感謝の念を感じる次第です。
(ちなみに、「いつか日本でもバラトンのようなグループを」と、参加し始めた最初の頃から思っていました。デニスにも相談したことがあります。9年間参加し続ける中で、グループを立ち上げるだけではなく、本当にみんなの役に立つように維持していくことが「それはそれは大変」であることがわかるにつれ、「やるよ〜」と軽く言えるようなプロジェクトではないと、しばらくはやり方を考えているモードですが。。。)