第10回生物多様性条約締約国会議(COP10)が始まりました。この会議の内容は、すべてインターネット中継されていますので、会場に行けない人もインターネットを通して、会議の様子を見ることができます。
http://webcast.cop10.go.jp/index.asp
今日の10時から始まっていて、現在会議進行中です。
さて、そもそもCOP10って何なの? そこでの大きな議題は何なの? 生物多様性条約って何なの? 自分たちにどう関係しているの? 自分は何に気をつければよいの? という取材を何度か受けました。その内容からご紹介します。
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――よろしくお願いします。まずCOP10、よく聞くと思うんですけれども、これが一体どんなものなのかというところを改めて教えて下さい。
枝廣 はい。COPというのはよく聞く言葉ですよね。今回のCOP10とか、この間は温暖化のほうでCOP15があったり。COPというのは締約国会議の英語(Conference ofthe Parties)の頭文字で、締約国が集まって、その条約に関するものごと決定するための最高決定機関です。
今回開かれるCOP10というのは、1992年に締結された「生物多様性に関する条約」に署名をした国々が集まる締約国会議の10回目ということです。
――今回のCOP10のポイントというか、実際にその会議でどんなことが話し合われるのでしょうか。
枝廣 生物多様性条約で定めたことがちゃんと進んでいるかということを確認し、さらにきちんと進めていくための会議になります。なので、そもそも生物多様性条約とはて何を目的にした条約かというところからお話ししようと思います。 今いろいろな生き物が絶滅したり、生きにくくなったり、住む場所を失ったりというのは、皆さんもよく新聞たメディアでもご覧になると思います。
生き物がたくさんいることで、地球というのは成り立っている。だけど、さまざまな生き物た、それらが生きる場所、生物の遺伝子などが今、いろいろな理由でどんどん失われてしまっている。このままだと生物もどんどん絶滅しちゃうし、私たちがいろいろ得ているものも得られなくなっちゃう。これはまずいよ、ということで作られたのが生物多様性条約です。なので、まず生物を守りましょうということが、目的の最初におかれています。 もう1つ、この条約の大きなポイントは、守るためにただ保護区を作って、「手を付けないようにしましょう」と言うだけだと、もう守り切れなくなった。なので、たとえばいろいろな資源を使うときにも、持続可能な使い方をしましょうということを決めています。なので、「持続可能な活用」というのが2番目のポイントになります。
3番目もとても重要なポイントです。生物は、食べ物た木材など、いろいろなものを私たちに提供してくれていますが、なかなか私たちの目に見えないけれど、重要なものを私たちに提供してくれています。それが遺伝子です。
たとえばいろいろな遺伝子があって、それから薬などいろいろなものを人間は作っているのですが、遺伝子があるのは大体、発展途上国といわれています。たとえば熱帯雨林など、そういう所に遺伝子がたくさんあります。それを先進国が発見し、持ち出して開発し、薬にしたりいろんなものにしたりして売っています。そうしたときに、遺伝子がそもそもあった途上国に、ちゃんとお金を回さないとだめじゃないか、という話になっているんですね。
なので、生物多様性条約の3番目の重要な点というのは、このような遺伝資源を使ったときに、その利益をちゃんと共有しましょうということです。利益を分けましょうねという話です。 生物多様性条約には、このように3つの大きな目的があるんですが、今回のCOP10の大きなポイントは、特に3番目の点です。
たとえば遺伝資源を持っている途上国と、それを使って商品開発をしている先進国との間で、「先進国 対 途上国」の争いのような形になってきています。ここで“名古屋議定書”というのかな。生物多様性の遺伝資源をきちんとみんな納得するようなルールで使っていけるような議定書が作れるかどうか。これがCOP10の1つの大きなポイントです。 もう1つは、この生物多様性条約ができたあと、2002年に生物多様性について、「2010年までに生物多様性が失われるスピードを顕著に減少させる」という目標を決めたんですね。ところが、10年たってみて、その目標が全然達成されていないということがわかりました。
その2010年目標は未達だったので、次にどういう目標を作ろうかということが、今回のもう一つの大きなポイントになります。
つまり、これらから先に進んでいくための目標を決めるということと、遺伝資源をどういうふうに公正にアクセス・利用していくかというそのルールを決める。これが今回の大きなポイントになります。
――一般人の私たちにとって、生物多様性ってどのように関わりがあるのでしょうか?
枝廣 それを考えるのに一番わかりやすいのは、「生物多様性がなくなった世界って、どういう世界なんだろう?」と考えてみることだと思います。いろいろな生き物がいて、その生き物がいられる場所があって、いろんな遺伝子があって、それが生物多様性ですけど、それがなくなってしまったらどうなるかというと、まず私たちは食べ物を失っていくことになります。
私たちの食べ物って、ほとんど地球から得ていますよね。たとえば植物であったり、植物の実を付けるために、ミツバチとか虫が媒介していますよね。ミツバチは一生懸命、蜜を採るために飛んでいますが、そのときに花粉を付けて回る。だから実がなるわけですよね。もし生物多様性が失われて、ミツバチがいなくなったら、花粉を付けてくれる人がいなくなるので、たとえばサクランボも実らない、アーモンドも実らない。そうしたら、サクランボも食べられないし、アーモンドチョコレートも食べられなくなるわけです。
そういうふうに、普段私たちが食べているもの、着ている洋服とかもそうですけど、私たちの暮らしはそのように、生物多様性があってはじめて成り立っているんですね。
そのように、食べ物とか繊維とか木材とか、わかりやすいものだけではなくて、たとえば生物多様性がなくなってしまうと、私たちはたぶん、呼吸がすごくしにくくなります。というのは、木があるから、私たちが吐き出した二酸化炭素を酸素に戻してくれているわけですね。
それから、たとえば雨が降ったときに、森があるから、その雨がいっぺんに流れて洪水になるんじゃなくて、少しずつ浸透して、川に少しずつ流してくれる。これが、生物多様性がなくなって森がなくなると、酸素もきれいにならないし、水だってザッと流れちゃうし、きれいな水を作れなくなっちゃう。これも森とか生物が水を浄化してくれているから、私たちはきれいな水が飲めるんですね。
なので、生物多様性がなくなったら、きれいな空気、きれいな水、食べ物、着ているもの、木材といったものが手に入らなくなっちゃう。と考えると、私たち一人ひとりの日常の暮らしも、それからどんな仕事であっても、生物多様性が、目に見えないけど基盤なんですよね。
なので、これが今、危なくなっているということは、単に「動物がかわいそうだから守りましょう」という第三者的なものではなくて、私たちの暮らし、命、未来。これがどうなっちゃうの?という問題なんですよね。
そういった意味では、「自分が食べているものはどこから来ているんだろう?」と、ちょっと思いをはせていただくと、どこか必ずそれは生物多様性につながってくる。そういうふうにつながりを見てもらえたらいいなと思います。
――都市生活をしているとわかりづらいですよね。
枝廣 ええ。食べ物も、スーパーの棚に生まれてくるような錯覚がするでしょう。でも、そこに来るまでには必ず、たとえばお魚だったら海から来ているわけだし、野菜だったら畑から来ているし。そこはすべて生物多様性のおかげで成り立っているんですよね。
――「空気が」というところも考えたことがなかった。単純に、イメージで言うと、食べられる品種が少なくなるのかな、くらいと思っていたけど、将来的には食べられるもの、吸える空気がなくなると思うと恐いですね。
枝廣 そうなんです。雨が降っても洪水にならないのは森林のおかげだし、そういったものがなくなってしまうと大変なことになりますよね。残念ながら日本でも、少しずつそのあたりが、山の手入れができなくなって、昔だったら洪水にならなかったようなちょっとした雨でも、地滑りが起きたりしています。これも生物多様性が失われていることが、私たちの暮らしを脅かし始めている兆しだと思うんですよね。
――生物多様性を守るために、私たちが普段暮らしている中でできることをお伺いできればと思います。
枝廣 生物多様性を守るために、私たちが毎日の暮らしでできること、すべきこと、4つあります。
1つ目は、さっきもお話ししたように、「思いをはせること」です。自分の食べているものとか、着ているものとか、吸っている空気とか、飲んでいる水とか、それってどこから来たんだろう?と。
普段あまりそういうことを考えないと思うんですけど、もうちょっと思いをはせて、それが、地球とか生物とか生物多様性につながっているんだ。ありがたいなと思うこと。これがすごく大事な一歩だと思います。
2番目は「買い物」です。私たちが何を買って、何を食べるか。これが地球の生物多様性にいい影響も与えるし、悪い影響も与える。たとえば、生物多様性を破壊して作っているものもあります。生物多様性を守りながら作っているものもあります。消費者の私たちがそれを選んで買い物をすることが、地球の生物多様性を守ることにつながります。 3番目は、「ペット」です。ペットを飼っていらっしゃる方も多いと思います。ペットも生き物ですよね。これが結構、生物多様性に影響を与えます。特に外来種のペットを飼っていらっしゃる方は気をつけてほしいんですね。
たとえば、縁日でよく、小さなミドリガメとかを買ってきて、大きくなりすぎて、どこかに放しちゃう人もいるんですけど、あれは北米産の外来種です。あのミドリガメ、放された池などで大きくなって、日本にもともといたカメをやっつけたりしてしまっているんです。なので、ペットを飼っているとしたら、それも生物多様性につながっているということで、大事に考えてほしいなと思います。
4番目は「伝えること」です。この放送を聞いていただいて、「生物多様性って、そんなふうにつながっているんだ」とか、「思ったより大事なんだ」と、もし思ってくださったら、ぜひお友だちとか家族とかに、ちょっとでもいいので、その話をしてほしいんですね。こうやってみんなが伝えていくと、少しずつ、「これって大事なんだ」「自分たちでこういうことができるんだ」と。 これが広がっていかないと、国際会議があっても、政府や政治家だけに任せていて解決できる問題ではないので、「私たち一人ひとりがつながっている」「生物多様性のおかげで暮らせている」「私たちの買い物とか食べるものとかやることが、生物多様性に影響を与えている」というその意識を持って、みんなに伝えていってほしいなと思います。
――ありがとうございました。
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去年出したこちらの本、わかりやすいと好評をいただいています。企業の方も、市民の方も、よろしければぜひどうぞ〜!
『企業のためのやさしくわかる「生物多様性」』
枝廣 淳子・ 小田 理一郎 著 (技術評論社)