ホーム > 環境メールニュース > レスター・ブラウン氏「炭素ゼロの建物」 (2010.10.23)

エダヒロ・ライブラリー環境メールニュース

2010年10月23日

レスター・ブラウン氏「炭素ゼロの建物」 (2010.10.23)

新しいあり方へ
 

中長期ロードマップの小委員会に参加して、いろいろな部門の排出の現状や、削減を進める上での課題など、知ることができて、とても勉強になっています。

(議事録や資料はこちらにあります。
http://www.env.go.jp/council/06earth/yoshi06-11.html 

1つ、明確になってきたのは「建物をどうするか?」ということです。新築するとしたら、その建物は中期目標の2020年はもちろん、長期目標(80%削減)の2050年にもそのまま建っている可能性が高い。としたら、2050年に求められる削減を盛り込んだ家を建てなくてはならない、ということです。

建物の環境性能を評価し、優れた建物を推進し、そうではないものは市場から求められないようにしていこう、という動きが、日本でも世界でも進められています。日本ではCASBEE(建築環境総合性能評価システム)が進められています。
http://www.ibec.or.jp/CASBEE/

世界では? 進んでいるといわれるドイツの制度とは? 米国で始まった動きが米国だけではなく、世界に広がりつつありますが、それはどのようなものなのか? どのような低環境負荷の建物が建築されているのか? 実例にわくわくします〜。レスター・ブラウン氏の記事をどうぞ〜!

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ここから引用〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

炭素ゼロの建物
www.earthpolicy.org/index.php?/book_bytes/2010/pb4ch04_ss4
レスター・R・ブラウン

建設部門は、世界の電力消費と原材料使用の多くを占めている。米国では、商業用と住宅を合わせ、電力使用の72%、CO2排出量の38%をビルが占めている。世界的には、ビルの建設が原材料使用の40%を占めている。

ビルは50年から100年、場合によってはもっと長く持つため、建設部門の炭素排出を削減するには、長い時間がかかると思われがちだ。しかしそうではない。旧式でエネルギー効率の悪いビルを改修すれば、エネルギー使用量と光熱費を20〜50%削減できる。次の段階として、自家発電でも購入電力でも、カーボンフリーの電力に完全に移行して冷暖房や照明をまかなえば仕事は完了する。あっという間にゼロカーボン建築のできあがりだ。

思い切った取り組みを行っている国がいくつかある。中でも注目に値するのがドイツで、2009年1月現在、同国のすべての新築ビルでは、暖房と給湯の最低15%を再生可能エネルギーでまかなうか、エネルギー効率を劇的に高めることが義務付けられている。

新築・既築のいずれのビルオーナーも、政府の資金援助を利用できる。実際、建設業者にしても住宅の所有者にしても、ひとたびこうしたエネルギー設備の導入を検討し出すと、ほとんどの場合、最低限の義務をはるかに超える取り組みに、経済的な合理性があることがすぐに分かるのだ。

米国ではすでに、景気刺激をめざした「2009年米国再生・再投資法」の条項のような進歩の兆しがある。この法はとりわけ、100万戸以上の住宅に耐候性を持たせるとし、そのためにまずエネルギー監査の実施を規定している。

2つめの項目では、国が所有する既築の公共住宅の大部分に、耐候性を持たせ、エネルギー効率を改善することを求めている。3つめは政府の建物のグリーン化で、エネルギー効率を高めたり、可能な場合には屋上太陽熱温水器や暖房器、屋上太陽電池パネルなどの機器を設置したりすること、としている。

民間部門では、環境性能評価システム(LEED)の認証と格付けプログラムでよく知られる、「米国グリーンビルディング協会(USGBC)」がこの分野をリードしている。任意で申請するこのプログラムには、「認証」「シルバー」「ゴールド」「プラチナ」という4つの認証レベルがある。

LEEDの認証を受けるには、環境品質、原料使用量、エネルギー効率、水効率の点で、最低限の基準を満たさなければならない。LEED認証を受けたビルは、従来のビルより運営コストが安く済み、賃料を高くでき、居住者も概して幸福で健康なため、買い手にとって魅力的である。

新築ビルの建設に対するLEEDの認証基準は2000年に発表された。2004年にUSGBCは、商業ビルの内装や既築ビルのテナント改装の認証にも乗り出した。そして2007年には、住宅建築業者に対する認証基準の発表を始めた。

LEEDの基準を見ると、ビルのエネルギー効率を上げる多くの方法についての見識が得られる。新築ビルの認証プロセスは立地選定に始まり、それからエネルギー効率、水効率、原料使用量、そして室内の環境品質と進んでいく。立地選定においては、地下鉄、路面電車、バス路線などの公共交通機関に近いと得点が高くなる。

このほか、従業員のために自転車置き場やシャワー設備があるかどうかで、高得点を得られるかが決まる。さらに新築ビルは、昼光を最大限に取り入れ、最低でも占有面積の75%を昼光照明にする必要がある。再生可能エネルギーを利用していれば、さらに得点が上がる。

これまでLEEDは、米国で1,600棟の新築ビルを認証しており、計画中もしくは建設中のビル、約1万1,600棟も認証を申請中だ。認証もしくは認証許可のために登録された商業ビルの床面積は、合計約465平方キロメートルに及び、アメリカンフットボール場11万5,000個分に相当する。

従業員100名のチェサピーク湾基金の事務所は、メリーランド州アナポリス周辺にあり、LEEDのプラチナ認証を最初に取得したビルだ。ここの特徴は、地熱をエネルギー源とする冷暖房用ヒートポンプ、屋上の太陽熱温水器、スマートなデザインのコンポストトレなどで、そのトイレでは、建物を取り囲む緑地の肥料となる豊かな腐植土がつくられている。

2,000人の従業員が働くカリフォルニアのトヨタ自動車北米本社は、LEEDのゴールド認証を取得している。ひときわ目を引くのは、電力の大部分をまかなう大型のソーラー設備だ。水の要らない男性用小便器と雨水の再利用で、従来方式で設計された同規模のビルより94%節水できる。水の使用量が減れば、エネルギー使用量も減ることになる。

ゴールド認証を取得している、シカゴで建設中の60階建てのオフィスビルでは、夏季の冷房には河川の水を利用し、屋上は植物で覆って雨水の流出と熱損失を減らす予定だ。省エネ対策により、ビルオーナーは年間の光熱費を約7,200万円(80万ドル)節約できるだろう。主要テナントである、シカゴを拠点とする法律事務所のカークランド・アンド・エリスは、ビルはゴールド認証でなければならないと主張していた。

カリフォルニア州は、グリーンビルディングのコンサルタント会社であるキャピタルEに、LEED認証を取得している州内のビル、33棟の経済状態を分析するよう委託した。調査の結果はこうだ。認証を受けることで、建設費用は1平米あたり約3,800円高くついたが、ほかのビルより運営コストが安く、従業員の常習的な欠勤や離職率も少なく、生産性が上がったため、認証およびシルバー認証のビルでは、最初の20年間で1平米あたり約4万7,000円、ゴールド認証およびプラチナ認証のビルでは1平米あたり約6万5,000円の収益があった。

2002年、USGBCの世界版である「国際グリーンビルディング協会」が設立された。2009年春の時点で、ブラジル、インド、アラブ首長国連邦など14カ国にグリーンビルディング協会がある。そのほかにも、スペインやベトナムなど8カ国が、参加要件を満たすべく取り組んでいるところだ。現在の参加国の中では、インドが米国に次いで2番目に多くのLEED認証を取得しており、床面積にして約27平方キロメートル分になる。次いで中国が約26.7平方キロメートル、カナダが24平方キロメートルと続いている。

新築ビルの環境対応のほかにも、古い建物の効率を改善するために、数々の取り組みがなされている。クリントン財団は2007年、「クリントン気候イニシアチブ(CCI)」の事業として「ビル省エネ改修プログラム」を発表した。このプログラムでは、大都市の気候先導グループであるC40との協力により、金融機関と世界でも有数の省エネルギー支援サービスや省エネ技術の企業が何社か集まり、各都市とともにビルのエネルギー効率改善を行い、エネルギー使用量を最大50%削減すべく取り組んでいる。

ジョンソンコントロールズやハネウェルなどの省エネルギー支援サービス会社は、契約上の「性能保証」をビルオーナーに約束し、改修プログラムによる省エネと、それにかかる経費の上限を確約している。この事業を開始するにあたって、ビル・クリントン元大統領は、銀行と省エネルギー支援サービス企業は利益を上げ、ビルオーナーはコストを削減し、さらに炭素排出量が削減されると指摘している。

2009年4月、ニューヨークのエンパイア・ステート・ビルディングのオーナーは、築80年近い102階建てビルのオフィススペース、約24万1,500平米のエネルギー効率改善を行う予定だと発表した。それによって、同ビルのエネルギー利用は40%近く削減できるという。その結果、年間およそ4億円の光熱費削減となり、改修費用は3年で回収できると見られる。

こうした自主的な取り組みのほか、建築物のエネルギー効率の最小基準を定める建築基準法を政府が策定するのも非常に効果的だ。米国ではこの点が、カリフォルニアと米国全体における住宅のエネルギー効率の違いに顕著に現れている。

1975年と2002年の間で、一人当たりの住宅におけるエネルギー使用量は、米国全体で16%削減された。しかし、厳しい建築基準法を定めるカリフォルニアでは、40%の削減となった。つまり、米国の建物にはエネルギー利用を削減する余地が大いにあり、さらにいえば、世界全体でも同様だ。

出典:レスター・R・ブラウン著『プランB4.0:人類文明を救うために』(W.W.ノートン社、ニューヨーク、2009年)、第4章「気候を安定させる―エネルギー効率革命」。以下のサイトより入手可。
www.earthpolicy.org/index.php?/books/pb4

メディア関連の問い合わせ:
リア・ジャニス・カウフマン
電話:(202) 496-9290 内線 12
電子メール:rjk@earthpolicy.org

研究関連の問い合わせ:
ジャネット・ラーセン
電話:(202) 496-9290 内線 14
電子メール:jlarsen@earthpolicy.org

アースポリシー研究所
1350 Connecticut Ave. NW, Suite 403
Washington, DC 20036
ウェブサイト:www.earthpolicy.org

(翻訳:小島和子、チェッカー:小林紀子)

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜引用ここまで〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

先進国だけではないのですね。上記にも載っていますが、[No. 1787] で、インドの「グリーン・ビルディング」市場の急拡大について、ご紹介しています。
http://www.es-inc.jp/lib/archives/100501_160016.html

中長期ロードマップの小委員会で、もうひとつはっきりわかった大きな課題は、「既築住宅をどう低炭素型に変えていくか?」

ロードマップ小委員会がいちばんアタマを悩ませている問題のひとつです。。。

\ ぜひご登録ください! /

枝廣淳子の環境メールニュース(不定期・無料) 登録/解除はこちら

25年以上にわたり国内外の環境情報や知見を
提供し続けている『枝廣淳子の環境メールニュース』

 

このページの先頭へ

このページの先頭へ