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エダヒロ・ライブラリー環境メールニュース

2010年12月13日

「安い石油、安いエネルギーの時代は終わった」〜11月15日IEA田中事務局長の記者会見より (2010.12.13)

エネルギー危機
 

[No.1883] に

> でも国際交渉がどうなろうと、たとえ米中が何もしなくても、日本の将来にとっ
> ては、できるだけ早く「脱化石エネルギー」を進め、低炭素社会・経済へシフト
> していくことは間違いなく必須です。これは日本の国家安全保障の問題ですので、
> 他国や世界の足並みがそろうのを待つ必要もありません。
>
> このまま化石エネルギーに頼っていては日本も米中もどの国も、どんどん貧しく
> なってしまう。だからまだ余力のある今のうちに、早く脱化石エネルギーを進め、
> 低炭素社会・経済に切り替えていくべきだと思うのです。

と書きました。

11月15日に田中伸男IEA事務局長が、IEAの「世界エネルギー展望2010」(WorldEnergy Outlook 2010)について記者会見をした中で、

「いずれにしても、安い石油、安いエネルギーの時代は終わった。これからは高い価格を前提としたビジネスモデルを作っていく必要がある」

と繰り返し述べています。

ちなみに、記者会見の様子はこちらで見られます、と教えてもらいました。
http://www.youtube.com/watch?v=7h8voKVqTR8
(18分以降がピークオイルについて)

この記者会見での田中事務局長の説明と質疑応答を聞きながら、メモをとりました。記者会見を見る時間はないけど、内容は知りたいという方もいらっしゃるかも?と思ったので、自分用のメモですが、よろしければどうぞー。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ここから引用〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

11月15日、IEA田中事務局長記者会見(日本記者クラブ)

予測の前提として、2035年まで年率3.2%でGDPが伸びるとしている。昨年は、BAUと450ppmの2つのシナリオを出した。しかし、何も手を打たないということはあり得ないので、450ppmほど野心的ではないが、ある程度の施策が進むとして、今年は「新政策シナリオ」を出した。このシナリオでは、450ppmシナリオの2℃に対し、3.5℃まで上がる。650ppmに相当し、これは持続可能ではない。450ppmと650ppmの間に答えがあると考えている。

原油価格の前提:BAUでは2035年までに、現在のバレル80〜90ドルが135ドルになる。新政策シナリオでは113ドルに、450ppmシナリオでは90ドルに。しかし、450ppmに抑えるためには、OECDでは二酸化炭素1トン当たり120ドルの価格がつくと考えられる。従って生産価格が90ドルでも、消費者価格はバレル当たり140ドルほどになる。つまり、安価な石油の時代、安価なエネルギーの時代は終わった。

新政策シナリオでの世界のエネルギー需要は、現在から2035年までに36%増える。年率1.2%の増加である。低炭素化が進むので、再生可能エネルギーと原子力のシェアが大きくなる。ガスも現在の21%から22%へシェアを伸ばす。石油は伸びるが、ウエイトは下がってくる。現在の日産8,400万バレルが9,900万バレルになる。BAUだと1億700万バレル。

エネルギー需要は、OECDではほとんど変わらず、途上国が需要増の93%を占める。中国は、2035年までに75%のエネルギー需要増が見込まれており、年率2.1%になる。これは世界全体の2倍である。

世界全体のエネルギー需要増のうち、36%が中国、インドが18%を占める。OECDの一次エネルギーに占めるシェアは、1973年に61%だったのが、現在は44%。2035年には新政策シナリオで33%となる。

日本は、新政策シナリオでは2035年までに5%エネルギー需要が下がる。省エネ等が進むからだ。石油は現在1日410万バレルだが、290万バレルに減る。30%の減少である。原子力は2倍になって、14%のシェアが29%となり、石油と並ぶようになる。ガスは17%が21%に。しかし再生可能エネルギーは3%が9%と、他国に比べてまだまだ小さい。これをどうやって増やすかが、日本にとって重要な課題である。

世界では、2010年から2035年までに33兆ドルの投資が必要になる。これは世界のGDPの1.4%に当たる。うち64%は途上国に向かう必要がある。

化石燃料への補助金が省エネ促進をとどめるなど、ゆがめているという構造があるが、プライスギャップ方式で計算すると、2009年の世界の化石燃料への補助金は3,120億ドル。2008年の5,580億ドルよりは減ったが、それでもまだ多い。

イラン、サウジ、ロシア、中国など。G20では、2020年までになくしていこうというコミットメントをしている。なくなると、石油で500万バレル減らすことができ、CO2を15億トン減らすことができるので、極めて影響が大きい。逆に、こういった補助金がなくならないと、2015年には6,000億ドルの補助金が支払われることになる(価格が上昇するので増える)。

石油需要の伸びの唯一最大の理由は、新興国の輸送の需要である。新政策シナリオでは、現在の8億台の自動車が16億台になるとしている。中国は現在4,000万台だが、それが3億5,000万台に伸びる。これが中国の石油需要が700万バレル増える理由となっている。それでも中国の人口当たりの自動車数は、2035年になっても、現在のOECDの半分以下である。

石油の生産は、6,900〜7,000万バレル(日産)で頭打ちになる。すでにある油田は生産能力が減少しつつあるので、現状維持するだけでも、日産5,200万バレルの新しい生産能力が必要になる。これはサウジ4個分の新規油田が必要だということだ。加えて需要増が1,500万バレルあるため、合計6,700万バレルの増産が必要になる。

地下には、非在来型を含め、資源はある。年に4,400億ドルの投資が必要。これからどれぐらい増産できるかについては、サウジが500万バレル、イラクが450万バレル、ブラジル、カザフ、カナダという非OPEC諸国で750万バレルなどの増産が見込まれる。

世界は間違いなくガスシフトをするが、中国がどう出るか。ガスの価格が安止まりし、原子力などへの投資が進まなければ、CO2が減らないという問題も起こってくる。

石炭は、中国が依存せざるを得ない。2035年までに、中国での石炭需要は20%増加する。シェアは落ちていくが、それでも6億キロワット(600ギガワット)分の石炭が使われるようになる。この中国の増加分は、米国、EU、日本の消費量を合計をしのいでいる。中国のCO2増加の3割がこの石炭の増加によるものだ。

新政策シナリオでは、再生可能エネルギーが非常に重要な役割を果たす。これをどのようにメインストリーム化していくか。供給量は世界全体で3倍になる。450ppmシナリオでは4倍である。一次エネルギーに占める割合は7%から13%へ、発電の割合は19%から32%へ増える。この増加が大きく起こるのも中国である。

再生可能エネルギーへの補助金(政府補助金のほか、固定価格買取制度による国民負担も含む)は、世界全体で570億ドル。これが2035年には2,050億ドルに増えると考えられる。累積で4兆6,000億ドルの補助金が、再生可能エネルギーの開発のために必要である。

中国では、ありとあらゆるエネルギーの消費が増えており、IEAの統計によると、2009年に米国を超え、世界一のエネルギー消費国になった。太陽光、風力、原子力、電気自動車等も同じである。

2035年、新政策シナリオでは、原子力の発電容量の3分の1は中国に、電気自動車の5台に1台は中国に、となる。中国がこういった分野での技術リーダーとなり、各種曲線を引き下げて世界に貢献する可能性がある。トム・フィードマンが、「米国はサウジから石油を輸入する時代から、中国からEVを輸入する時代になるのではないか」と興味深い発言をしていた。

450ppmのシナリオに関しては、コペンハーゲンの合意では、必要量の7割ほどしか手当ができなかった。450ppmのシナリオはハードルが高いが、これが実現すると、石油の生産量ではなく、需要のピークを先に持ってくることができる。これは、エネルギー・セキュリティ的には好ましい。

GDPに占める化石エネルギーの輸入金額の割合は、これから中国・インドで大きく増えていく。従って、省エネを進めるのは自国のためでもある。

日本は450ppmのシナリオを取ると、今より60%減らすことが必要となる。発電のうち88%はゼロエミッションに、残りの12%はCCSを付ける必要がある。EV、ハイブリッドも52%を占める必要がある。

新政策シナリオは、冒頭に述べたように、持続可能ではない。コペンハーゲン合意をどのように強化して450ppmに持っていくかが大事である。中国の政策で大きく変わる。いずれにしても、安い石油、安いエネルギーの時代は終わった。これからは高い価格を前提としたビジネスモデルを作っていく必要がある。

補助金は、再生可能エネルギーを広げていくために、その必要性は大きい。同時に化石燃料への補助金を削減していく必要がある。

日本は、低炭素技術を持っているので、自国で減らすよりも、それをいかに世界への貢献につなげるかが大事である。

ガスは供給源の多様化を進めるなど、値下げを図り、グローバルな市場を国内に持ち込む必要がある。再生可能エネルギーの割合は低いが、系統連携を強化する必要がある。また、原子力の稼働率を高める必要がある。

コペンハーゲン(COP15)でうまくいかなかったのが、非常に大きなコストとなっている。交渉締結を待っていると、コストがどんどんと上がってしまう。現在でもできるエネルギー政策、省エネや再生可能エネルギーなどのロードマップを引いて効果を見ていくというボトムアップのアプローチも必要である。

CCSは、そのままではビジネスにはならない。CO2に価格がついたり、規制や義務づけが行われるなど、政府の介入が必要。ノルウェーのスタッド・オイルがガス田で年間100万トンのCO2を対象にCCSを行っているが、これは1トン65ドルというCO2税がかかっているからである。

世界中では、約80のCCSのプロジェクトが動いている。2020年には、デモンストレーションプラントだが、19〜43の大型プロジェクトが立ち上がると見られている。CCSなしでは、450ppmは不可能である。

シェールガスはこれから生産量が増え、2035年には世界中のガスの35%を占めるようになると考えられている。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜引用ここまで〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

省エネ促進を阻むなど「ゆがんだ化石燃料への補助金」の話も出てきましたね。これは前号でレスター・ブラウン氏が説明していたことですね。

「石油需要の伸びの唯一最大の理由は、新興国の輸送の需要である」とのこと。つい先日、「中国新車販売 史上最高へ 2010年1800万台、米のピーク抜く公算」という記事がありました。。。

「いずれにしても、安い石油、安いエネルギーの時代は終わった。これからは高い価格を前提としたビジネスモデルを作っていく必要がある」

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