途上国できれいな飲料水が手に入るように、と知恵を絞ったもうひとつの例です。
ニューヨークタイムス紙のオピニオン欄に載った「きれいな飲料水を飲める仕組みをカーボンオフセットを利用して作る」という面白いアイデアの記事を教えてもらいました。どんな内容なのか、さくっとご紹介します。
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炭素クレジットを使って、無料できれいな水を
ティナ・ローゼンバーグ
http://opinionator.blogs.nytimes.com/2010/11/15/clean-water-at-no-cost-just-add-carbon-credits/?hp
世界には飲み水を得られない人が10億人近くいる。水不足やトイレなど適切な衛生環境がないために、毎年330万人が命を落としているが、その多くは5歳以下の子どもたちだ。きれいな水へのアクセスは、世界で最も大きな健康問題であると同時に、最も解決が困難な問題でもある。一番の課題は井戸や水道などのハードを整備した後だ。
アフリカや南アジアの村には、過去の水事業の残骸がうち捨てられている。英国のウォーターエイドという団体が2007年にエチオピア南西部で過去の事業を調べたところ、35の事業のうち、機能しているのは9つだけだった。
貧困国で水を供給する事業者の見積もりでは、設備をつくっても約半分はすぐに使えなくなる。ポンプが盗まれることもあれば、壊れても直せる人がいないこともある。予備の部品が大きな街に出ないと手に入らなかったり、高価すぎて村では賄えないこともある。ワクチンを1度打てばいいのとは違い、水道システムは毎日、そして未来永劫使えるものでなければならない。持続可能であることが非常に大切なのだ。
水事業の失敗を防ぐ新しい方法がある。ビジネスにするのだ。ベクテル社(Bechtel)や スエズ社(Suez)など、いくつもの多国籍企業が世界中の都市で水ビジネスを展開してきたが、多くの批判にさらされてきた。非常に高い料金設定にしているためだ。こうした企業とは違い、スイスに本社を置くベスタガード・フランセンという企業は、世界でも最も貧しい人々に無料で飲み水を供給しようとしている。
これを可能にするのが世界規模の炭素クレジット市場である。炭素クレジット市場とは、気候変動を引き起こす温室効果ガスを抑制するため、京都議定書を受けて生まれたものだ。こうした市場では、裕福な国や企業が温室効果ガスの排出分をオフセットして、排出削減するほかの事業に資金を提供する。この仕組みには議論の余地も大いにあるが、環境にいい事業を生み出す財政的な動機付けとなることも確かである。
炭素市場で認証された事業の多くは、インドや中国の大規模なエネルギー施設だ。アフリカの事業は3%以下で、人々がきれいな水を得るのに役立つものはない。しかし、ある炭素市場で、薪や石炭の代わりに太陽エネルギーを使う料理用コンロへのクレジットが認められた。
ベスタガード・フランセン社の考えもそれに似ている。水を浄化するために沸騰させる以外の代替手段を提供すれば、温室効果ガスの排出を減らすことができる。お湯を沸かすと温室効果ガスを排出するほか、常に薪が必要になり、貧しい国では森林伐採が進む。すでに水くみに時間をとられている女性は、薪集めにさらに時間をとられることになる。多くの地域で木が足りなくなっているため、有効な代替手段が見つかれば人々の役に立ち、地球のためにもなる。
そしていいビジネスにもなるかもしれない。ベスタガード・フランセン社の「ライフストロー(LifeStraw)」は、中が空洞でフィルター膜がついている棒状のものだ。その棒の片端を川や水たまり、あるいはトイレの水などに差して吸い込むと、水が口元に上がってくるころには、きれいで安全な水になっている。
フィルターはとても細かく、あらゆるバクテリアやウィルス、寄生虫などが漉される仕組みだ。この商品には「ライフストロー・ファミリー(LifeStraw Family)」という大型タイプもある。
壁にかけて上から汚れた水を注ぎ、下の栓を開けるときれいな水が出てくるようになっている。電源も交換部品も必要ない。1台で約1万8000リットル、一世帯3年分の水を浄化することができる。販売価格は10リットルの浄化につき平均1ペニーだ。
ベスタガード・フランセン社はライフストロー・ファミリーを無料で配ることにしている。2011年の4月に予定されているケニア西部の400万世帯を巡るキャンペーンを後援し、マラリア対策用の蚊帳やエイズ検査とカウンセリングとセットで、ライフストロー・ファミリーを無料配布する。
同社では、2011年2月にもライフストロー・ファミリーの炭素クレジットを取得できると見ており、認証されれば初期投資の2400万ドル(約20億2000万円)が回収でき、持続可能なビジネスにすることができる。
これをすべて営利ビジネスで行うのは、クレジット量がどれだけの沸騰を防ぐか、つまり浄化される水の量にかかっているためだ。この製品が使われれば使われるほど、ベスタガード・フランセン社には多くの資金が集まる。すると浄水器を使う家庭を最大限に増やし、きちんと機能し続けるようにする財政的な強い動機付けが生まれる。
この方法では、支払いは業績に対して行われることが分かるだろう。通常の水道事業は前もって資金提供者から支払われ、事業の成否は評価さえされない。失敗してもコストがかからないからだ。しかし炭素クレジット市場では、失敗すると不利益が出る。すると製品を改善する動機付けも働く。こうした動機付けは、無料の寄付ではめったに働かない。
ライフストローが対処していないのは水くみの問題だ。水を手に入れるのは驚くほど重労働で、エチオピア南西部で出会った女性は、毎日8時間かそれ以上、50ポンド(約22リットル)のジェリー缶をかついで川まで往復もしている。そうした母親を助けるため多くの少女が学校に通うことができない。水くみが女性を奴隷にしているのだ。
もしライフストロー・ファミリーが営利ビジネスとして成功すれば、炭素クレジット市場はほかのさまざまなタイプの事業を資金的に支援できる可能性もある。しかしアフリカの村々で何より大切なのは、住居の近くにある井戸といった、従来の水道事業に出資することだ。きれいな水の出る井戸があれば、川の水を沸騰させる燃料からの排出を減らすことができる。アフリカの郊外で水道ポンプが突然いいビジネスになれば、一気に広がりポンプもきちんと維持されるだろう。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜引用ここまで〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
ライフストローの写真は、たとえば、経産省のBOPビジネス政策研究会報告書(要約)にも載っています。
http://www.meti.go.jp/policy/external_economy/cooperation/bop/bopkenkyukai/bop_finalreport_summ.pdf
このステキな取り組みを進めているのもスイスの会社なんですね〜。スイスは社会起業的な進取の気性に富む国なのかな。
温暖化が国際的な問題となって、解決する必要が出てきて、そのために、CO2に値段が付くようになって(排出量取引など)、そのおかげで、これまでにはなかったお金の流れを作ることが可能になってきました。
そのお金の流れをじょうずに作って、温暖化と同時に、貧困などの問題解決にも取り組める可能性が広がっています。よく政府関係者などギョーカイ人は「コベネ」と言いますが、Co-Benefit(温暖化を解決しつつ、別の問題も解決すること)のじょうずなデザインの知恵を競う時代なのですね。
一挙両得!ってウレシイ試みやアイディアがこれからきっとどんどん出てきますよ。みなさんも、ぜひ1つ、知恵を絞ってみませんか?