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エダヒロ・ライブラリー環境メールニュース

2011年01月17日

科学的知見の活用に、システムの理解と社会とのコミュニケーションを(2011.01.16)

コミュニケーション
 

去年の8月の終わりに、「21世紀気候変動予測革新プログラム」の平成22年度公開シンポジウム「気候大変動の時代に生きる〜未来選択の道しるべ・長期予測〜」が開催されました。

そのパネルディスカッション「気候政策の鍵を握る科学的知見」にパネリストとして参加させていただきました。
http://www.jamstec.go.jp/kakushin21/jp/symposium2010/program.html

そのときの最初の一巡でお話しした発言内容をお届けします。映写した資料はこちらにあります。
http://www.jamstec.go.jp/kakushin21/jp/symposium2010/PDF/06-edahiro.pdf

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ここから引用〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 私は科学者ではない立場で、今回のテーマである気候政策の鍵を握る科学的知見について考えていることをお話しします。科学的知見をいかに実効性のある気候政策につなげるかという点で、今、2つ足りないものがあると思っています。それがシステムの理解と科学と社会とのコミュニケーションです。

 このような話があるのを知っていますか? ペルシャの伝説です。ある賢い廷臣が、美しいチェス盤を王に献上しました。「何かほうびを」と言う王に、「米をください。チェス盤の最初の升目に1粒、2番目の升目に2粒、3番目の升目に4粒という具合に」。王は快諾すると、倉庫から米を持ってくるように命じました。

 チェス盤の4つ目の升目にはいくつ置かれたでしょう。そう、8粒の米が置かれました。10番目の升目には512粒。15番目の升目には1万6,384粒、21番目の升目には100万粒以上。41番目の升目には1兆粒です。最後の64番目の升目には、世界中の米粒をかき集めても足りなかったでしょう。

 私たちは、直線的に変化をとらえる傾向があります。今のように倍々ゲームの、つまり正のフィードバック・ループがあったときの幾何級数的な変化を、なかなか直感的にとらえることはできません。

 ここにあるのも同じことです。1枚の紙を半分、また半分と50回折ると、どれぐらいの厚さになると思いますか? 何と、地球から太陽までの距離に匹敵するのです。もう1回折るとどうなるでしょう。そう、地球と太陽との往復の距離になります。

 気候変動にはさまざまなフィードバックがあります。倍々のような正のフィードバックがあるかは別として、正のフィードバックがつくり出すこのような幾何級数的な変化を理解せずに、直線的なものとして気候変動を考えている人が大部分ではないかと思います。

 また、変化は真っすぐだという思い込みもあります。実際にはさまざまなフィードバックが組み合わさっていますから、そのように真っすぐにはいかないのですが。行ったり来たりしながら、ある傾向を示していく場合が多いのですが、真っすぐに変化すると思っていると、たとえば気温のグラフを見ても……

 変化を直線的にとらえる傾向にあります。実際には、気温のグラフは上下動でギザギザしながら、長い時間軸を見ると上がっているのですが、短期的なところを示して、「ほら、温度は上がっていないだろう」と言う人もいます。私たち市民は、気温のグラフを見たらまず、何年間の時間軸で見ているかをチェックする癖をつけなくてはなりません。

 このように、変化はどのような性質なのか、どのように見るべきか、システムの理解を進めることが大事です。システムの理解でもう一つ大事でかつ難しいのが、ストックとフローの関係です。

 たとえば温暖化でいえば、人間が大気中に排出するCO2はフローです。そして大気中から森林や海洋が吸収して除去する量もフロー(アウトフロー)です。そのインフローとアウトフローの結果、ストックとしてのCO2濃度が決まってきます。現在、CO2濃度を450ppmなど、ある一定の所で安定化させようという目標が共有されています。

 では、ストックである濃度を安定化させるには、フローであるCO2排出量はどうあるべきなのでしょう。その人々のイメージを調査した研究があります。MITのジョン・スターマン教授は、212名のMITの学生を対象にグラフを見せ、CO2濃度をある一定のところで安定化させるには、CO2排出量はどうあるべきかをグラフに描き入れさせました。

 その結果、実際にはCO2濃度を安定化させるためには、CO2排出量は大きく減少させていく必要があるのですが、多くの学生が、濃度を安定化させるなら、排出量も安定化させればよいという、濃度と同じようなグラフを描いていました。これはパターンマッチング、つまり、パターンを合わせればよいのではないか、という理解で、恐らく多くの人たちが同じように答えるのではないかと思います。

 ストックである濃度を一定にするには、フローである排出量はどうあらねばならないか。このようなシステムの理解を、ほかの人々もそうですが、特に政策策定者にしっかりと理解してもらう必要があります。

 現在、温暖化の科学はさまざまに伝えられていますが、単に現象がどうか、影響がどうか、だけではなく、その背後にある、そもそものシステムの基本的な理解も同時に伝えていかないと、なかなか本質的な問題や今後の見通しは理解しにくいのではないかと思います。

 何らかの問題解決に科学が資するとき、さまざまな形で科学的知見が、政策やマスコミを通じて、企業行動、市民の意識・無意識に影響を与えていくことになります。

 科学と社会ということで言えば、たとえば米国ワシントンでは、温暖化科学者による議員やマスコミへの頻繁なブリーフィングが行われています。また、欧米には、科学的知見を政策策定者や市民にわかりやすく正確に伝える、通訳機能を持ったNGOもあります。

市民の科学的リタラシーを高めることで、「温暖化している」で止まってしまうか、または懐疑論者の意見を聞いて「していない」で止まってしまうか、または両方の意見を聞いて、「わからない」で止まってしまうか、3つの思考停止に陥らない科学との付き合い方を、市民として身につけていく必要があります。

 不確実性は科学からなくなりません。不確実性があるから科学を否定するのではなく、その不確実性というリスクをどのように扱うか。その付き合い方を模索し、考えていく必要があります。

 米国やオランダでは、小中学校からシステム思考をさまざまな教科で教えようという動きがあります。システムの基本的な理解を、政策策定者にも市民にも伝えていくこと。サイエンスカフェや、私も温暖化カフェを主催したことがありますが、科学者が実際に市民と話をして、自分たちにとっては前提であっても、市民がまったく考えていないことを実際に知り、そのギャップを埋めていく努力も必要ではないかと思います。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜引用ここまで〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

「不確実性とのつきあい方」をずーっと考えています。科学者に会う機会があると、いろいろと尋ねます。でもどう付き合ったらよいか、まだよくわかりません。

唯一わかっているのは、「不確実性があるからといって、その事実に目をつぶって良いわけではない」こと。

「そうであるか、そうでないか、はっきりして〜!」と言いたくなることもありますが、科学と付き合うには、この不確実性とのつきあいが不可欠なんですよね。これからの時代に必須の、「割り切らない力」が鍛えられるなあ。(^^;

ところで、前号の余談で「レスター・ブラウン氏に『今度フルマラソンを走るんだよ」ってメールしたところです」と書きましたが、そのあとすぐに、レスターの秘書さんから「がんばってね! レスターは日本でもよくジョギングしているから、今度一緒にすれば?」と。

そのあとすぐに、今度はレスター本人から「ハーフの次はフルマラソンだって?わぉ、コワイなー。ジュンコと一緒に走りたいか、わかんないなー」と。(^^;

レスターはジョギングしながら、頭の中でさまざまな統計のデータを転がしているんだそうです。そうしているといろいろな気づきが生まれるとか。

ワタシは走りながら数字や計算を浮かべると、いつも以上にこんがらがってしまうので(>_<)、私は何を転がしながら一緒に走ろうかな〜。(^^;

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