3月4日の「幸せ経済社会研究所設立記念シンポジウム」に、ゲストスピーカーとしてスウェーデンから来てくれて、「幸せと経済と社会との関係を問い直す〜真の幸せを目指す欧米の取り組みから」と題する講演をしてくれるアラン・アトキソン氏は、デニス&ドネラ・メドウズ氏が始め、私も2002年から一員となっている「バラトン・グループ」の現リーダーでもあります。
アランは、米国在住中には「サステナブル・シアトル」のリーダーを勤めたこともあります。「持続可能な町のビジョンをみんなで描いて、その進捗を測るための指標を作る」という動きが自治体やNGOを中心に世界中に広がっていますが、「サステナブル・シアトル」はその先駆者です。
「サステナブル・シアトル」での「シアトルの指標づくり」には200人以上の市民が数ヶ月にわたって参加し、みなの思いやビジョンを重ねながら、「こうあってほしいシアトル」への進捗をどう測るか、を創り上げていきました。最終的にできた指標群の中で、私が「すてき!」と思ったのは、「シアトル市内を流れる川を遡るサケの数」というものです。すてきですよね〜?
アランの書いたものや、日本で講演してもらったときの講演録は、こちらにあります。アランの写真もあります(マジメなイケメン。^^;)
アランが今年の最初に「2010年を振り返っての、サステナビリティの分野での10大ニュース」を送ってきてくれました。簡単にご紹介したいと思います。
そうそう、今月初めに来たお知らせによると、アランはスウェーデンの環境分野の新聞が選んだ「スウェーデンで最も影響力のある環境リーダー100人」に選ばれたそうです。コンサルタント部門では第2位だったとか。そういうアランの選んだ「2010年のサステナビリティ10大ニュース」をどうぞ!
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ここから引用〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
2010年 サステナビリティ10大ニュース
1. 生物多様性を守る合意
2. 気候交渉を守る会議
3. 世界中の天候、変わりやすく、異様で危険に
4. 湾岸の原油流出
5. ビジネスがサステナブルに
6. ISO26000のスタート
7. 国連、リオ+20開催決定
8. 「チャイナディア」、センターの座をつかむ
9. 太陽エネルギー、原子力エネルギーよりも安価に
10. グリーン経済、発展途上国に根付く
番外編 350.orgのアース・アート
1. 生物多様性を守る合意
国連が主催した生物多様性の名古屋会議は、ほとんど不可能なことを達成した[2]。国際的な合意を成立させて、人間以外の種の保全や保護に対する人類の方針を大いに改善させたのだ。ただ、これでもまだ十分とはいえない。それに、すべては今後、これが実践できるかどうかにかかっている......とはいえ、地球上の海域の10%、陸域の17%を世界規模の生物多様性保護区域として別にすることは、それまでの方針よりも10倍はマシだ。
リンク:2
http://www.guardian.co.uk/environment/2010/oct/29/nagoya-biodiversity-summit-deal
2. 気候交渉を守る会議
カンクンの会議がなんとか成功したので[3]、国連が今年の話題の第2位を獲得。そう、コペンハーゲンのあと世間の期待感は低く、前進したとはいえ、気候を安定化させるために必要なステップを考えると、その前進はわずかなものだ。しかしながら、気候変動の国際的な交渉が軌道に戻ったと考えられている――暗礁に乗り上げ、前代未聞の失敗に終わる運命ではない――、その事実だけでも、見事なカムバックだ。
リンク:3 http://unfccc.int/2860.php
3. 世界中の天候、変わりやすく、異様で危険に
今年のニュースの3位にランクインしたのはネイチャー――地球が持つ自然のシステムのことだ(あの科学雑誌ではない)。
パキスタンの恐ろしくて破壊的な洪水、ロシアの猛火、ヨーロッパの記録的な降雪、増加するオーストラリアの洪水、私たちが地球の生態系に与えている痛ましい変化をまざまざと見せつけるような事態――そして、予測不可能な激しい変化を見せる、その影響力。科学者は専門家の目から見て、パキスタンの洪水を地球温暖化のせいにするのには慎重のようだ......。しかし、それならなぜそもそも、尋常ではないほど熱せられた湿度の高い大気が、ヒマラヤ山脈にぶつかり、豪雨をもたらす前に、インド洋を北上したのか。2010年は、この何十年でプラネット・アースの標準になりそうな危険な出来事を前もって体験できた年だ[4]。
リンク:4
http://www.huffingtonpost.com/2010/12/20/2010-extreme-weather-dead_n_798956.html
4. 湾岸の原油流出
2010年、「湾岸」という言葉は「原油流出」とセットで使われるようになり、それまでの「戦争」(1990年代初めに登場したのは「湾岸戦争」)の後を継いだ。BP社の危機管理は脆弱であり、バカがつくほどお粗末なレベルだった(頼っているのはくたびれた専門家たち)。
そこに、「大規模な技術プロジェクトはときどき間違った方向に進み、破たんにたどり着く」というよくある傾向が重なり、巨大な環境被害が生じた。そこからメディア合戦が始まり、リサーチにも火がついた(リサーチ船の数は、メキシコ湾上空を覆うニュース用のヘリコプターと変わらない)。
危険な深海掘削がなぜ現在の標準なのかをメディアが調査してくれたおかげで、世界の人々は、石油の供給が先細りしていることについても多くを学べた。石油掘削施設「ディープウォーター・ホライゾン」は膨大な量の原油を流出しただけではない。21世紀における石油掘削の真実を噴き出したのだ。
5. ビジネスがサステナブルに
次は「出来事」というより「ウェーブ」な項目。どうやら2010年に、そのウェーブが絶頂を迎えたようだ。CEOたちが続々と(たぶん、BPは別だと思うけれど)報告書で明らかにしているのが、そう、「サステナビリティは深刻な問題で大事に考えるべきであり、戦略的にも重要」だということ。同時に、世界でも大手のコンサルティング会社が次々にサステナビリティのサービスを提供し始めている(もしくは拡大している)。
つまり、成長を続け、安定した世界市場を見ているのだ。CEOの人気投票を行っているのもこうしたコンサルティング会社が多い(私のところのように小規模なコンサルティング会社がこの成熟期のサステナビリティ市場で生き残っているというのは、ちょっとした奇跡のようなもの。長い経験には重要な価値があるというしるしだ。これに関しては、当社のニューズレター[5]「Winter 2011AtKisson Update」を参照してほしい)。
リンク:5
http://www.atkisson.com/resources/2010/12/21/atkisson-update-winter-2011-newsletter
6. ISO26000のスタート
国際標準化機構の「社会的責任に関する手引き」の発行は、ほとんどニュースに取り上げられなかったが、かつて重要でないと考えられていた事業慣行が今や主流になったという大きな目安の1つである。ISO14000が世界中に広がり、環境管理システムの標準となったように、[6]ISO26000――これは認証システムではないが――には、企業や組織が、環境から社会まであらゆる場面で、「私たちは責任ある行動を取っています」と主張する際に実践していなければならない項目が明記されている。
このISO規格の発行で、すでに急速に広まりつつある慣行の広がりがさらに加速するのは間違いない。また、「CSR(企業の社会的責任)」が単なる規格ではなく、法律として存在する地域では(インドネシアがそれに該当する。詳細は下のリンク先を参照)、このおかげで曖昧な部分がなくなり、拠り所として使えるだろう。
リンク:6 http://www.iso.org/iso/social_responsibility
7. 国連、リオ+20開催決定
この話題はほとんどの人たちがノーマークだった。突然、「初めての地球サミット(正式には、環境と開発に関する国際連合会議)から20年、国連がリオ・デ・ジャネイロに戻ることを決定」したことがわかった。これは織り込み済みの話ではない。国連自体でさえ、2002年のヨハネスブルルグ会議(持続可能な開発に関する世界首脳会議)を残念な結果などと評していたほどだ。
しかし今、開催が決定し、各国が動き出した。これからの2年は、準備や見直しで忙しくなるだろう。[7]リオ+20が国連を中心とした新たな突破口になろうと(春が永遠に続きますように!)、「最初の地球サミットならきっとこうだっただろうに」と思い出に浸っておしまいになろうと、最低でもサステナビリティに大きな注目が集まることは間違いないだろう。2011年が始まれば、この話題で持ちきりになり、騒ぎはどんどん大きくなるはずだ。
リンク:7 http://www.uncsd2012.org
8. 「チャイナディア」、センターの座をつかむ
ヨーロッパが通貨問題で行き詰まり、オバマ大統領はオバマ大統領で国内政治のゴタゴタに頭を悩ませている間、中国とインドがサステナビリティの様々な分野で、世界のリーダーとして思いがけず頭角を現し始めた(国家レベルで)。
中国が、「住みやすい都市」に焦点をあてた上海エキスポや、輝かしい新5カ年計画(電気自動車への助成金も含む)、ソーラーパネルの世界市場の独占を引っ提げて、世界の舞台に躍り出た。さらに、新しく温室効果ガス排出量世界一になったのも中国である。
インドは、予断を許さない排出量の競争でグイグイと追い上げているが、サステナビリティやテクノロジー、経済にも極めて真剣に取り組んでいる。それにインドなら、中国が以前やろうとしたこと(結局、臆病風に吹かれたけれど)、どの国も実際に実践したことのないことをやり遂げられるかもしれない。つまり、GDPの数字に環境被害のコストを加えて下降修正し、発表する可能性があるのだ。中国とインドが2010年に見せつけた勢いを考えると、この2カ国は間違いなく、今年、サステナビリティで注目された国に挙げられる。
9. 太陽エネルギー、原子力エネルギーよりも安価に
2010年は再生可能エネルギーのニュースで気になるものがたくさんあったが、特にこのニュースがすべてを物語っている[8]。再生可能エネルギーが解決策として競争力をつけてきたのは明らかだ――全てとは言わなくとも、一部の国では、特定のエネルギーよりも競争力がある。
地球のエネルギーとして無条件で選ばれるようになるには(特に発展途上国では)、まだ時間がかかるが、これこそ私が特に重要だと考えている目標なのだ(この内容に関しては私のブログ[9]の記事を読んでもらいたい。また、この件に関しては新しい取り組みのニュースも載せていくので注目してほしい)。
とはいえ、原子力エネルギーに勝つことは、おそらく長期にわたり石炭に勝つことよりも重要だと思う。そうすれば、この地球に、「クリーン」エネルギーという名の放射性時限爆弾を何千個もしかけなくてもすむのだから。私は原子力エネルギーに反対していない。その話はまた別の日にするけれど、最も安全な原子炉はこの地球が軌道を回っている巨大な核融合炉=太陽だと、私は信じている。
リンク:
8 http://theenergycollective.com/oshadavidson/40559/study-solar-power-cheaper-nuclear
9 http://alanatkisson.wordpress.com/2010/12/29/revisiting-the-big-push
10. グリーン経済、発展途上国に根付く
2010年、インドネシア大統領は韓国の例に倣い、今後、インドネシアがグリーン経済へ転換していくことを宣言した。その政治宣言には、何十億ドルという資金と本格的な政策も伴われている。私が幸運にも昨年仕事に携わってきた国、エジプトも遅れまいとしているらしい。というのも、同国は現在、グリーン経済の構想に関して競争力のある国家戦略を構築している最中だからだ。グリーン経済が主流になれば、別の意味でも成功である。
この成功で、過小評価されている国連の株もかなり上がるはずだ。なんといっても、開発戦略に大幅な変更を加えようと積極的に検討している諸国に、分析やアドバイスを提供したり、大いに激励したりして、密かにグリーン経済を推進してきたのは国連なのである。実際、国連環境計画は今や、国際的なコンサルティング市場で活躍するライバル企業のようなものだ。何せ、国連には「グリーン経済サービス」[10]部門まであるのだから。いざ、国連へ!
リンク:10
http://www.unep.org/greeneconomy/AdvisoryServices/tabid/1374/Default.aspx
以上が、私の選んだ2010年サステナビリティ10大ニュースだ......。でも、素晴らしくて心が躍るニュースは他にもたくさんある。例えば、350.orgが行った世界規模のアース・アートの展示もその1つだ。作品をしっかりと鑑賞するには、宇宙衛星から見るしかない。作家で活動家のビル・マッキベンが始めたこの世界的な活動は、その内容からも、シンボルとしても、成功する地球温暖化の活動とはどういうものなのかがとても分かりやすく表現されている。地上の時代精神(ツァイトガイスト)に刻み込まれた専門的かつ科学的な結論は、大気中のCO2濃度が本当の意味で「安全」なレベル、「350」ppmである。
リンク:11 http://earth.350.org
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜引用ここまで〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
アランが書いて、私が翻訳した本があります。少し前の本なのでもう絶版になってしまっていますが、イノベーション普及や、広げるための戦略(ギルマンの方程式など)の話をするときには、いまだに「これに載っています〜」とご紹介。
新刊はないけど中古品はあります。29円よりだって、、、オトクかも〜。(^^;