「何が“好循環の人”と“悪循環の人”を分けるのか?」
これは、昨年秋に出されたシステム思考の新しい入門書『もっと使いこなす! システム思考教本』(東洋経済新報社)の帯の言葉です。
『もっと使いこなす! システム思考教本』
枝廣淳子・小田理一郎著(東洋経済新報社)
この本には、個人にも組織にも「そうそう、そういうこと、あるんだよね、困っているんだよね」という事例がいろいろ載っていて、読み物的にも面白い本になっています。
ちょっとだけご紹介しましょう。それぞれ、起承転結の冒頭部分です。つづきは、ぜひ本書をどうぞ!
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「仕事がなかなか終わらない」
昔、二人の腕のいい時計職人HさんとTさんがいました。二人とも、1000個ものパーツから時計を組み立てる手作り時計の名人です。その腕のよさゆえに、Hさんにも、Tさんにも、注文がひっきりなしにくるようになりました。自分の仕事した腕時計を多くの人に使ってもらえる、と二人の職人は張り切って仕事をしました。
しかし、時間の経過と二人の間の明暗が分かれていきました。Tさんは思うように注文をこなせなくなったのです。なぜなら、電話が鳴る都度、作業を止めて、注文を受けなくてはならないからです。電話の後、作業に戻っても、途中まで進んでいた作業の再確認に追われ、やり直しもあって、作業の効率が大幅に落ちてしまったのです。しまいには、納期の遅れで問い合わせや苦情も殺到し、ますます作業に打ち込めないありさまです。
一方、Hさんは増え続ける注文にも順調に対応して、その評判はますますと広がっていきました。
★エダヒロ★このふたりの違いは何だったのでしょうか?(そこから私たちも学べる大事なことがあります)
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「売上予算に届かない!」
Sさんの会社は、ここ数年収益の伸び悩みで苦境が続いています。会社は、コンサルティング会社に依頼して、ここ数年の収益についての課題の診断をしてもらいました。
コンサルティング会社は、利益を論理的に分解して課題を探します。利益のグラフは、売上とコストのグラフに分解され、売上は、販売数量と販売単価に分けられ、販売数量は市場規模、シェア、顧客あたりの販売量などに分解されていきます。コストもまた、それぞれの部門ごとや、固定費、変動費などに分けられました。
コンサルティング会社は、論点を分解し、整理して、それぞれの対策を考えます。販売部門に属するSさんは、特に販売数量のことでの対策に取り組みました。
販売数量の落ち込みの原因について、コンサルティング会社が聞き取り調査をしたところ、商品力は競合並だがとりわけて目立ったところもないため、流通はメーカー各社からの販売インセンティブの大きさによってどのメーカーの商品を採用するを決めていることがわかりました。
しかし、販売インセンティブを高くすると、それだけメーカーの収益が下がります。年中下げているわけにはいきません。そこで、普段は通常の価格と販売インセンティブで販売しながら、四半期の終わり毎に販促キャンペーンを実施して販売インセンティブを増やすという販売促進策を採用しました。
この販売促進策はうまくいったように思えました。販促期間中の販売数量が大きく伸びたのです。しかし、その喜びも長くは続きませんでした。なぜなら、販促キャンペーン終了後の売上が大きく落ち込んだのです。
通常期の販売数量が芳しくなく、四半期の最後の月にはキャンペーンを打って挽回するパターンが定着するようになりました。キャンペーンの都度、販売は伸びるのですが、ほかの2ヶ月は落ち込むパターンを繰り返しています。
Sさんは、販促キャンペーンの都度、おおわらわで忙しくなります。キャンペーンの都度、施策の詳細を練り、やプロモーション・マテリアルを用意しなくてはいけません。しかし、忙しさの一方で、通年の売上は一向に上がらず、むしろここ数年は低下傾向を示していたのでした。それどころか、部門別に進めている他の経営改善策も芳しくなく、利益の低下傾向は止まりません。
Sさんは、一体どうすればいいのか、と頭を抱えてしまいました。
★エダヒロ★これは典型的な「うまくいかない解決策」と呼ばれるシステム原型(よくあるパターン)です。どうやったら切り抜けられるのでしょうか?
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「プロジェクトがどんどん遅れていく」
Mさんは、クライアント向け情報管理システムを開発するプロジェクトをマネジメントするプロジェクト・マネージャーです。Mさんのプロジェクトが始まって、中盤にさしかかろうかというところ、開発プロジェクトに遅れがではじめました。
Mさんは、プロジェクトの遅れを取り戻そうとチームメンバー達と一緒に必死に働きました。残業や休日出勤で遅れを挽回しようとしたのです。当初は、がんばった分だけ挽回しているように見えました。
しかし、挽回策を始めて1ヶ月ほど経過したとき、むしろ遅れが増え始めたのです。これは大変とMさんのチームはもっと必死になってがんばりました。しかし、モノゴトはなかなかよい方に改善しません。
遅れを取り戻そうとがんばっているのに、チームメンバーの顔には疲労感が漂っています。仕事にミスが目立ち、やり直しが増え始めました。やり直しによって、関連する他の仕事もやり直さなくてはいけません。プロジェクトメンバーのチームワークは悪くなるばかり。人間関係の調整に追われて、Mさんの仕事はますます大変になっていきます。
Mさんは、なぜこんな事態になったのかと頭を抱えました。
★エダヒロ★残念ながら似たような状況に陥ってしまうこともあるかも知れません。その状況下で右往左往して疲弊してしまうのではなく、一度、全体像を把握すること。プロジェクトの遅れのループ図を書いてみると、「さらなる悪循環」や「さまざまなトレードオフ」が見えてきます。そこから「解決策のダイナミクス」を見つけることができるかどうか……?が鍵です。
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そして、もし可能なら本を読むだけでなく、実際にシステムを体感したり、ループ図を書く練習を通じて、問題の症状ではなく、根本的な構造を見通す力をぜひ身につけてほしいなあと思います。問題解決のためにも、自分の精神衛生上もきっと役に立ちます(システム思考は「人を責めない、自分を責めない」アプローチなので、とても気が楽になると実感しています)。
1日かけてじっくりシステム思考を体験・学ぶ「システム思考トレーニング」ベーシックコースを年に数回開催しています。3月には大阪・名古屋・福岡でも開催します。東京以外での開催は年に1度ぐらいしかできないので、よろしければぜひいらしてください〜。(大阪・名古屋には私も講師サポートとして同行します)
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毎回、ベーシックコースが終わってすぐにアドバンスに来て下さる方も多く、少人数でじっくり学べる機会ですので、ぜひご活用ください〜。
システム思考って、ほんとうに面白い!と思います。上記の話の続きは、どうなったのだろう? 自分だったらどう考えるだろう?と考えてみてから、ぜひ続きを読んでみてくださいな。
『もっと使いこなす! システム思考教本』
枝廣淳子・小田理一郎著(東洋経済新報社)