ホーム > 環境メールニュース > 新刊「私たちにたいせつな生物多様性のはなし」、予約販売始まりました(2011.0...

エダヒロ・ライブラリー環境メールニュース

2011年07月17日

新刊「私たちにたいせつな生物多様性のはなし」、予約販売始まりました(2011.07.17)

 

先日、都内で開催された「東日本大震災は生態系や生物多様性にどのような影響を与えたか」というフォーラムを聞きに行きました。

震災の人命や人の暮らし、産業に対する影響はさまざまに語られ、調べられていますが、東北の生態系や生物多様性はどのような影響を受けたのか、また東京電力福島第一原子力発電所から今なお放出されている放射性物質は生態系や生物多様性にどのような影響を与える可能性があるのか、研究者の発表にいろいろと考えさせられました。

まず人間への影響を考えるのは当然としても、生物多様性の視点も忘れてはならないと思いました。他の命も大事、という倫理的な理由はもちろんですが、もっと実際的な話としても、生物多様性が人間の暮らしや産業を支えているからです。

生物多様性がどのように私たちの暮らしや産業につながっているのかをできるだけわかりやすく伝えたいと書いた本の先行販売が始まりました。

『私たちにたいせつな生物多様性のはなし』
枝廣 淳子 (著)  かんき出版

先行販売店は、以下のお店です。お近くを通りかかったらのぞいてみてください。
八重洲ブックセンター 本店
丸善 丸の内本店
丸善 日本橋店
ブックファースト アトレ吉祥寺店
有隣堂 アトレ目黒店
有隣堂 アトレ恵比寿店
リブロ エキュート日暮里店

一般販売は20日に始まる予定です。amazonの予約販売も始まっています。
http://www.amazon.co.jp/dp/4761267623/ref=as_li_tf_til?tag=junkoedahiro-22

坂本龍一さんが推薦の言葉を書いてくださいました。

「生物多様性という言葉は知っていても、それが実際自分たちの生活にどう関係あるのか、うまく思い描けない人が多いんじゃないかな。この本を読むと、地球上の全てはつながっていることを実感できるようになるよ。」

以下、「はしがき」と目次をご紹介します。自然や未来世代を守りたいと思っていらっしゃるすべての方に読んでいただきたいですし、「生物多様性」という言葉や概念をどう他の人に伝えたらよいかのひとつのヒントにしていただけたらうれしく思います。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ここから引用〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

はしがき

私は保育園時代、「アイアイ アイアイ おさるさんだよ♪」という歌が大好きでした。小学校にあがると、通学路の脇を流れる小川のそばを歩きながら、「めだかの学校は 川の中♪」と歌ったものでした。

ところがその後、遠い国のアイアイ(マダガスカル島固有種のサルで体調約40㎝ )も、私たちにとって身近なメダカも、このままでは絶滅してしまう「絶滅危惧種リスト」に載っていることを知ったとき、ひどくショックを受けました。私たちの子どもや孫たちは、「アイアイ」や「めだかの学校」を歌い続けることができるのでしょうか。

地球上には人間だけではなく、さまざまな生き物が生きていて、だからこそ、豊かな地球が成り立っています。近年、「日本では絶滅してしまったトキが再び空を舞う姿を見ることができるようになった」「絶滅したと考えられていたクニマスが見つかった」といった希少生物に関するニュースが、テレビや新聞をにぎわせることがあります。

こうしたニュースが大きく取り上げられるのは、「ある生き物が絶滅寸前の状態から引き返すことが、いかに難しいか」を示しています。そして、こういった「成功物語」の陰で、何百、何千という種類の生物が静かに絶滅しつつあるのです。

ところが、生物の絶滅について、私が一般の方々にお話しすると、「ホッキョクグマが絶滅したらかわいそうだと思うけど、だからといって、私にどういう影響があるの?」などとよく聞かれます。

たしかに、そう思う気持ちもわかります。「生物多様性がたいせつだ」と、最近よくいわれるようにはなりましたが、それが自分とどうつながっているのかが、なかなかわかりにくいのも事実です。

そこで本書は、そのような方々でも、生物多様性の重要性について理解していただけるよう、図やイラストを豊富に交えながら、できるかぎりわかりやすく説明しました。

「生物多様性とは何か?」
「生物多様性は私たちにどう関係しているのか?」
を説明するとともに、
「生物多様性をめぐる世界の動向」
「行政や企業、私たち個人の取り組み」
などの最新事情をご紹介し、その効果についても解説しています。

世界は今、目先の効率だけを追求しているうちに、知らず知らずのうちに生物多様性を損ないつつあります。こうした事態は、想定外の「何か」が起きたとき、私たちの命をもゆるがす深刻な事態に陥る危険性をもはらんでいます。

昔、アイルランドで起きた「ジャガイモ飢饉」が、その典型例です。19世紀のアイルランドでは、高い収穫量を求めた結果、生物多様性を無視して、生産効率の良い1種類のジャガイモだけを集中して栽培するようになりました。

ところが、そのジャガイモが感染するウイルスが海外から入ってきたとたん、ジャガイモは全滅し、100万人が命を落とす事態になりました。

今の日本も似たような状況です。江戸時代には、1つの田んぼにいくつもの種の稲を植えていたそうです。効率だけをみれば当然悪く、1坪当たりの収穫量は、今の3分の1以下だったといいます。しかし、効率の追求よりも、生物多様性のほうが、自分たちにとって大事なことを、江戸時代の人たちは経験的にわかっていて、あえて複数の種類の稲を植えていたのでしょう。

ところが、明治初期には4000種もの稲を植えていた日本はその後、「植えるなら収穫量の多いものを。消費者が好む味のものを」と、どんどん稲の種類を絞っていき、今植えられている稲は88種にまで減ったそうです。

しかもそのうち、わずか4種(コシヒカリとその子孫)が収穫量の3分の2近くを占めています。日本は、200年前のアイルランドの悲劇を「対岸の火事」とはいえない状況だと思います。

また本書は、世界の企業が生物多様性を守ることに真剣に取り組むようになってきた理由を、明らかにしています。日本企業もきちんと時代の動向を理解し、取り組みを進める必要があります。そのために、先進的な企業事例を多数ご紹介しています。

そして最後に、私たち1人ひとりが、生物多様性を守る担い手になれる、ということを、本書を通じて知っていただきたいと思います。

なぜなら、毎日の食べ物、野外活動やペットの飼育、自分が関わる企業の活動などを通じて、誰もが生物多様性の恩恵を受け、生物多様性に良い影響も悪い影響も与えているからです。

さらに、「政府がある地域を保護区に定めて、特定の種類の生き物を守る」だけでは、日本と世界の生物多様性を守れないことを、知っていただきたいと思います。

私たち自身や子ども・孫の将来世代の命や暮らしを守るために、そして日本企業にとって新しいチャンスとリスクが到来していることを理解するために、本書が読者の皆様のお役に立つことを願っています。

2011年7月枝廣 淳子

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

はじめに

PART1「生物多様性」って何だろう?

01生物多様性とはそもそも何?
02「多様性」ってどういう意味だろう?

PART2 暮らしと生物多様性の深いつながり

01地球は人類の暮らしを支えきれない
02私たちの食生活が森や海に影響を与える
03コットン栽培がもたらしたアラル海消滅の危機
04人にも環境にもいい木のぬくもり
05生物の真似から生まれたバイオミミクリ

PART3 生態系はどんな現状で、将来はどうなる?

01太平洋の孤島・イースター島を襲った悲劇
02生態系が人間に与えてくれるメリットを「見える化」する
03生態系サービスとは何だろう?
04世界初! 地球の健康診断の結果は?
05経済発展と引き換えに劣化する生態系
06生態系はいくらの価値を生んでいる?
07生態系サービスが失われると何が起こる?
08絶滅危惧種が集中するホットスポット
09遺伝子の多様性が失われるとどうなる?
10食物連鎖を上る生物濃縮による健康被害
11途上国で貧困と環境破壊が深刻化している
12生態系が壊れた結果、人間が受けた大きな被害
132050年の生態系はどうなっている?

PART4 生物多様性を取り巻く国内外の動き

01なぜ生物多様性条約は誕生した?
02COP10で決まった遺伝資源の利益配分とは?
03COP10で採択された「愛知目標」とは?
04COP10議長国の日本に求められる戦略とは?
05生物多様性基本法って何だろう?
06豊かな自然を活用して地域活性化につなげる

PART5 ビジネスと生物多様性のつながり

01企業はどんな動きを始めている?
02企業はどう取り組めばいい?
03強まる規制を企業がチャンスに変えるには?
04森林と水源を守る仕組みをつくる
05生物多様性オフセットとは何だろう?
06依存する生態系の資源管理が重要になっている
07消費者の意識はどう変化している?
08農業問題、貧困問題と生態系保全の関わりをみてみよう
09企業は自社の強みを生物多様性保全に生かせる
10お金の流れを変えることで生態系が守られる
11世界と日本のさまざまな組織をつなぐネットワーク
12日本企業がつくる自主的なネットワーク
13生物多様性を踏まえたマネジメント①生態系の変化がもたらすリスクとチャンス
14生物多様性を踏まえたマネジメント②生態系への依存と影響の評価からみる事業戦略

PART6 生物多様性を守るために誰もができること

01冬の田んぼに水を張って生態系を守る
02森林の豊かさを守る取り組みにはどんなものがある?
03海や海岸の生態系を再生させる取り組みとは何だろう?
04都会でもできる生物多様性の保全
05どんな商品を買えば、生態系の保護に貢献できる?
06スローフードで食卓の多様性を取り戻そう
07日本は外来種天国、固有種がおびやかされている
08暮らしに手軽な気持ちで農業を取り入れてみよう

PART7共生を目指す新しい考え方

01自然と共生する日本の知恵を世界に発信
02生態系は海・川・森の流域のつながりでできている
03自然エネルギーへ転換すると生態系と地球環境を守れる
04日本人の思想の中に生態系を守る大きなヒントがある
05生態系を壊さない「成長」とはどんな道なのだろう?

索引
参考文献

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜引用ここまで〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

冒頭に紹介したいフォーラムでは、生態学者の「生態系の視点」の話がとても刺激的でした。

今回の大震災(主に津波)で、干潟や藻場といった脆弱で重要な生態系がかなり損傷したというレポートもあり、それが水産業を主力とする東北の産業や暮らしにどのような影響を与えるだろうかと考えさせられましたが、一方で、「特に水域と陸域のはざまでは、安定よりもかく乱が支配であって、もともと動的な生態系なのですよ」という解説もあり、「なるほど〜!」と。

「津波のような大規模なかく乱は、生態系の構造や機能の再生・再構築にとって重要なプロセスなのです。生態系動態を見るにふさわしい時間スケールで見れば、回復力が働きます。

人間活動のない場所には災害は起こり得ない。甚大な自然かく乱(津波・洪水など)による生態系の変化そのものは災害ではありません」。(鷲谷先生)

私も講演などで、「地震も津波も自然現象であって、自然災害ではない。自然が災害となるのは、人間がそこに建物を建て、そこに暮らしの基盤を置くから」と話しますが、さすが、生態学者は時間スケールが違うなあ、見方が違うなあ!ととても勉強になったのでした。

そんな生態系の動態や時間軸にも思いを馳せながら、ぜひどうぞ〜!(^^;

『私たちにたいせつな生物多様性のはなし』
枝廣 淳子 (著)  かんき出版

 

このページの先頭へ

このページの先頭へ