少し前のものになりますが、レスター・ブラウン氏のアースポリシー研究所からのリリースを、実践和訳チームメンバーが訳してくれましたので、お届けします。
中国のCO2排出量の伸びが問題視されていますが、「スタンフォード大学の研究者による最近の研究では、中国の排出量の22%が輸出用製品の生産に起因するものであることが明らかになっている」とあります。
世界の工場を引き受けているから中国の排出量が増えているのだとしたら、中国の責任だけに帰すことはできませんよね。
成長勉強会で取り上げた、ティム・ジャクソン氏の『Prosperity withoutGrowth』に、その裏面を示すデータが載っていました。
英国のCO2排出量は、1990年以降「6%減少」と報告されているが、英国が輸入しているものを生産するために輸出国で排出された、いわゆる「隠れたCO2」を入れると、実は「11%増加」している、と。
グローバル経済下では、こういったつながりも意識して、データを見なくてはなりませんね。あちらで減っても、その分こちらで増えては、地球全体として減ったことにはなりませんから......。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ここから引用〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
世界の二酸化炭素排出量、2009年に減少──過去10年間は依然急増
www.earthpolicy.org/index.php?/indicators/C52/carbon_emissions_2010
エイミー・ハインザーリング
2009年、世界最大の排出国である中国の二酸化炭素(CO2)排出量がおよそ9%増加した。その一方、ほとんどの工業国では排出量が減っており、化石燃料の使用による世界全体のCO2排出量は、2008年の最高85億トンから2009年には84億トンに減少した。
とは言え、この減少の前には10年間の急成長期がある。その10年間で、世界のCO2排出量は、年間平均2.5%──1990年代と比べ4倍近くの速さ──で上昇した。大気に蓄積している炭素が及ぼす壊滅的な影響は、気温の上昇と、その結果生じている氷床の融解や海面の上昇に現れている。
【グラフ】
【グラフタイトル】
化石燃料燃焼による米国と中国の二酸化炭素排出量(1950年〜2009年)
【グラフ縦軸】
炭素(単位:100万トン)
【凡例】
米国
中国
【グラフ下】
出典:二酸化炭素情報分析センター(CDIAC)、BP
【グラフ右】
アースポリシー研究所─www.earthpolicy.org
世界的に不況が蔓延したのを受け、多くの富裕国の排出量は2008年と2009年で減少した。米国のCO2排出量は2007年から2009年の間に、最大の15億8,000万トンから1995年以来の最低水準である14億3,000万トンへと、10%近くも縮小した。主に輸送に使われている石油からの排出量が11%近く減り、主に発電用に燃やされる石炭からの排出量は13%以上減少した。
英国のCO2排出量は2007年から2009年の間に10%以上減った。ドイツでは8%、フランスでは5%それぞれ減少し、日本では同じ2年間で12%近くも減った。
その一方で、世界最大の人口を抱える国々、中国とインドのCO2排出量は急増し続けている。中国の排出量は、2009年に18億6,000万トンへと上昇しており、化石燃料の燃焼による世界全体の排出量のほぼ1/4となっている。過去10年間、年平均8%の割合で排出量を増やしてきた同国は、2007年に米国を抜いて世界最大のCO2排出国となった。インドは、この10年間、年におよそ5%の割合で排出量を増やし、2007年にはロシアを抜いて世界第3位の排出国になった。
【グラフ】
【グラフタイトル】
化石燃料燃焼による米国と中国の二酸化炭素排出量(1950年〜2009年)
【グラフ縦軸】
炭素(単位:100万トン)
【凡例】
米国
中国
【グラフ下】
出典:二酸化炭素情報分析センター(CDIAC)、BP
【グラフ右】
アースポリシー研究所─www.earthpolicy.org
それでも、一人当たりの排出量は、大多数の工業国に比べると発展途上国の方がまだはるかに低い。2009年の一人当たりの炭素排出量では、小国カタールが11.5トンと最も高く、石油資源を豊富に持つほかの国々がその後に続いている。
主要工業国でトップを走っているのは、2009年に一人当たり4〜5トンの炭素を排出したオーストラリア、米国、カナダだ。これらの国々の一人当たりの排出量は、中国の3倍、そして世界平均のおよそ4倍にあたる。一方、英国やドイツ、フランスといった多くの欧州諸国は、米国並みの生活水準にありながら、一人当たりが排出しているCO2量は半分に過ぎない。
各国の総排出量には、それぞれの国内で燃焼された全ての化石燃料によるものが含まれる。これはつまり、中国のような製造業大国にしてみれば、他国向け製品の生産過程で発生する排出量も自国の総排出量に含まれることになる。スタンフォード大学の研究者による最近の研究では、中国の排出量の22%が輸出用製品の生産に起因するものであることが明らかになっている。
(http://www.pnas.org/content/early/2010/02/23/0906974107.abstract)
この研究では、米国が輸入する製品の生産過程で発生した炭素排出量が年間1億9,000万トンに上ることも分かった。中国による輸出分と米国による輸入分を考慮して総排出量を調整した場合、米国は再び世界最大の排出国になるだろう。
CO2排出量の大半は化石燃料の使用に起因するものだが、森林を皆伐して耕作地にするなど、土地利用の変化によっても大量のCO2が排出されている。土地利用の変化に起因する世界の炭素排出量は、2008年(データの入手が可能な最新の年)には推定12億トンだった。その大部分が、熱帯地方での森林減少によるものであり、インドネシアとブラジルだけで、土地利用の変化に起因する排出量の60%以上を占めている。
年間に排出されるCO2の半分以上は海洋や土壌、樹木によって吸収されている。大気中に放出されるCO2の急激な上昇ぶりは、これらの自然システムを圧倒しており、とりわけ海洋の生態系にとって脅威となっている。海水に溶けた大量のCO2は海の化学的性質を変化させて海水の酸性度を高めており、そのために造礁サンゴや貝類といった生物が骨格や貝殻を作りづらい状況になっている。
今や世界の海の酸性度は、過去2,000万年間のどの時点よりも高い。専門家の予測によれば、CO2排出量が長期にわたって増加し続けた場合、世界中のサンゴ礁は2050年までに死滅するかもしれないという。
最近の研究ではまた、海洋のCO2吸収能力が排出量の増加レベルに追いつけない可能性も示されている。南極周辺の南洋と北大西洋、いずれのCO2吸収能力もこの数十年で減少している。
これら自然界の吸収源によって吸収されないCO2は大気中に残り、そこで熱を閉じ込める。大気中のCO2濃度は、農業黎明期から産業革命までは260ppmから285ppmの間でとどまっていたが、この250年間で急増し、今日では387ppmを上回っている。CO2濃度がこれほど高いのは、およそ1,500万年前以来のことだ。当時は今よりも海面が25〜40メートル高く、地球の気温も摂氏3〜6度高かったのである。
大気中のCO2増加は、地球の気温の急上昇を引き起してきた。過去50年間のどの10年をとっても、その前の10年間より暑くなっている。こうした気温上昇の影響は、氷河や氷床の融解(http://www.earthpolicy.org/index.php?/indicators/C50/)、天候パターンの変化、季節的事象のタイミングの変化(http://www.earthpolicy.org/index.php?/plan_b_updates/2010/update88)で既に裏付けられている。
2009年に世界の排出量が減少したのは、景気後退に伴う化石燃料使用量の減少によるところが大きいが、同年は再生可能エネルギーの利用に力強い伸びが見られた年でもあった。
風力エネルギーの設備容量だけでも世界全体で30%以上増加した。米国では2007年から2009年の間に石炭使用量が13%以上減少したが、同じ時期、200カ所以上の新規ウィンドファームが電力網に接続され、1万8,000メガワット以上もの設備能力が追加された。世界中のクリーンエネルギーやエネルギー効率化の事業に対し千億ドル規模で奨励資金が割り当てられていることから、こうした成長は今後も続くだろう。
しかしながら、より迅速で実効性のある取り組みが必要であることはますます明白になっている。2,500人を超える科学者からなる国際機関、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は、向こう数十年間で考えられうる排出量増加のシナリオを多数モデル化している。
これらのシナリオでは、今世紀末までに起こるであろう気温上昇の幅を摂氏1.1度から6.4度の間と予測している。CO2排出量は、最近の減少を考慮しても、IPCCが示す最悪のシナリオのいくつかと同じ道を進み続ける。「大気中のCO2は350ppm以下で安定させなければならない」という意見に同調する科学者の数は増えており、この目標値を達成するためには、根本的な軌道転換が必要である──それも迅速に。
そうなると今後の問題は、国際社会が、「化石燃料に起因する排出量と経済成長のつながりを切り離し、CO2排出量を急速な減少傾向へと向かわせられるか?」である。それができなければ、世界経済が回復するにつれて排出量は再び増加し、地球の自然システムをさらに不安定にさせる可能性が高い。
気候変動による最悪の影響を避けるためには、新たなエネルギー経済、つまり気候を脅かしている化石燃料の代わりに風力や太陽、地熱といった炭素を排出しないエネルギー源に依存する経済に移行する以外ないのである。
データと追加情報源はwww.earthpolicy.orgを参照。
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(翻訳:丹下陽子 チェッカー:佐野真紀)