ホーム > 環境メールニュース > レスター・ブラウン氏「あと一度の不作で世界は大混乱へ」 (2011.10.15)

エダヒロ・ライブラリー環境メールニュース

2011年10月15日

レスター・ブラウン氏「あと一度の不作で世界は大混乱へ」 (2011.10.15)

食と生活
 

この春のレスター・ブラウン氏の分析よりお届けします。実践和訳チームが訳してくれました。このあとも、レスターは食料の状況に対する分析や警告を繰り返し出しています。危機意識が高まっていることを感じます。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ここから引用〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

あと一度の不作で世界は大混乱へ
http://www.earth-policy.org/plan_b_updates/2011/update91
レスター・R・ブラウン

1月初旬に発表された国連食糧農業機関(FAO)の報告によると、FAOの食料価格指標は、12月、史上最高値に達した。これは、2007年から2008年にかけての価格急騰の時の記録を上回るものである。さらに驚くことに、2月3日のFAOの発表によると、12月の記録は1月に破られた。この時期、価格はさらに3%上昇したのである。

このような食料価格の高騰は、これから何カ月も続くのだろうか? 恐らく価格は今後とも上昇を続け、それによって世界は食料価格と政治的安定の関係において未知の領域へと踏み込むだろう。

今や、すべては今年の収穫高次第である。食料価格をより適切な水準まで下げるには、穀物の大豊作が必要になるだろう。それも2008年の記録的な豊作をはるかに上回る規模の豊作である。この時は不景気が重なったため、2007年から2008年にかけての穀物価格の高騰が終結したのだった。

今年世界的な不作になると、食料価格は以前想像もできなかった水準まで高騰するだろう。食糧暴動が増え、政情不安が広がって崩壊する政府が出てくるだろう。世界は今、もう一度不作に見舞われると、世界の穀物市場が大混乱に陥るというところまできている。

長きに渡り、食料生産量の急速な拡大はより難しくなってきている。地下水の過剰なくみ上げによる食糧バブルがはじけ、多くの国で穀物収穫量が減少しているからだ。同時に、異常気象の発生がより頻繁になり激しさが増すなど、気候変動がさらに大きくなり、生産の拡大は一筋縄ではいかなくなるだろう。

18もの国々が、農作物の灌漑用に帯水層から過剰揚水することによってここ数十年間食料生産を拡大させてきた。この中には、中国、インド、米国という3大穀物生産国が含まれる。

水利用による食糧バブルがはじけ、生産量が劇的に減少する国が現れるだろう。生産の伸びが鈍化するだけという国もあるかもしれない。サウジアラビアは20年以上、小麦を自国で賄っていたが、国内の化石帯水層(涵養が不可能な帯水層)が枯渇しているため小麦の収穫は壊滅状態にあり、1年かそこらの内には完全になくなりそうだ。

シリアとイラクでは、灌漑井戸の枯渇に伴い、穀物収穫高はゆっくりと減少しつつある。水循環がうまく機能していないイエメンは、地下水面が国内全土で低下し、井戸が枯渇してきている。こうした食糧バブルの崩壊によって、中東アラブ諸国は帯水層の枯渇が穀物収穫高を減少させている最初の地理的地域となっている。

こうした中東諸国の衰退が著しい一方で、水利用による最大の食糧バブルがインドと中国で起こっている。世界銀行の調査によれば、インドでは1億7,500万人が過剰揚水によって生産された穀物で養われ、中国では、過剰揚水が1億3,000万人を養っている。これら人口大国での水不足の広がりが、食料供給量の拡大をさらに難しくしている。

灌漑井戸の枯渇とは別に、農家は気候変動とも闘わなければならない。作物生態学者の経験則によると、生育期に気温が摂氏1度上昇するたびに、収穫高は10%減少するという。したがって、昨夏酷暑に見舞われたロシア西部で穀物の収穫高が40%減少したのは何ら意外なことではなかった。

食料需給の方程式で、需要側には現在、3つの成長源がある。一番目が人口増。昨夜は存在しなかった21万9,000人が今夜の食卓に着くが、その多くを迎えるのは空の皿だろう。二番目が生活水準の向上である。現在約30億人が食物連鎖の上位を目指しており、生産に多量の穀物が必要な肉、牛乳、卵をいっそう多く食べるようになっている。三番目は、大量の穀物が車の燃料、つまりエタノールに転換されていることだ。2010年の米国の穀物収穫量4億トンのうち、約1億2,000万トンがエタノール蒸留所に送られている。

心強いことに、サルコジ仏大統領は「2011年のG20議長としての任期を、世界の食料価格安定への取り組みに費やす」と公約した。これまでの会談は輸出規制と投機を管理するといった対策について行われたが、G20が食料価格高騰という症状への対応に終始し、その原因に切り込まないのなら、その取り組みはほとんど役に立たないだろう。

今必要とされているのは、水の生産性を上げる世界規模の取り組みである。半世紀前、耕作地の生産性を上げるために国際社会が実施したようなものだ。以前のこの取り組みは、1950年から2010年にかけて、1エーカー(約0.4ヘクタール)当たりの世界の穀物生産高を3倍にした。

気候の面では、各国で広く承認されている「2050年までに炭素排出量を80%削減する」という目標は十分ではない。今の課題は、第二次世界大戦並みの動員でエネルギー効率を上げ、化石燃料から風力、太陽、地熱エネルギーへ転換することによって、炭素排出量の80%削減を2020年までに達成してしまうことだ。

需要面においては、小家族化を加速させなければならない。家族計画を立てたくても家族計画サービスを利用できない女性は世界中に2億1,500万人いる。彼女たちとその家族は世界最貧層のうちの10億人以上を占める。私たちは家族計画が行き渡っていないところを埋めると同時に、貧困の根絶のために全力を挙げて取り組み始めなくてはならない。一旦軌道に乗れば、これら2つの流れは互いに補強し合うものだ。

世界で飢えが広がる中、穀物を車の燃料に換えるなどもってのほかだ。今こそ、穀物やほかの農作物を自動車燃料に換えるための助成金を撤廃しなければならない。サルコジ大統領の主導で、G20が食料価格高騰という症状だけではなくその原因に重点的に取り組むことができれば、食料価格をより適切な水準に安定させることは可能である。

レスター・R・ブラウンはアースポリシー研究所所長で、『仮邦題:崖っぷちの世界:環境破壊と経済崩壊を防ぐために』(World on the Edge: How toPrevent Environmental and Economic Collapse)
<http://www.earth-policy.org/books/wote>の著者。

さらに詳しいデータや情報はこちらwww.earth-policy.org
友人、家族、同僚への情報転送はご自由にどうぞ!


メディア関連の問い合わせ:
リア・ジャニス・カウフマン
電話:(202) 496-9290 内線12
電子メール:rjk@earthpolicy.org

研究関連の問い合わせ:
ジャネット・ラーセン
電話:(202) 496-9290 内線14
電子メール:jlarsen@earthpolicy.org

アースポリシー研究所
1350 Connecticut Avenue NW, Suite 403
Washington, DC 20036
ウェブサイト:http://www.earth-policy.org

訳:梶川 祐美子 チェッカー:山口 淳子


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜引用ここまで〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

次号では、レスターのインタビューをお届けします。レスターが「幸せ」について語った世界初?のインタビューかもしれません。お楽しみに!

 

このページの先頭へ

このページの先頭へ