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エダヒロ・ライブラリー環境メールニュース

2011年10月23日

レスター・ブラウン氏「世界の食料価格の上昇はなぜ続くのか」 (2011.10.24)

食と生活
 

今、レスター・ブラウン氏の最新刊の翻訳をしています。『World on the Edge』(仮邦題:崖っぷちの世界)

レスターの本の翻訳は久しぶりなので、わくわくと張り切って進めています。来年2〜3月頃、ダイヤモンド社から刊行の予定です。どうぞお楽しみに〜!

この本の焦点の1つでもある食料の状況について、この春に出されたプレスリリースを実践翻訳チームが訳してくれていますので、お届けします。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ここから引用〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

世界の食料価格の上昇はなぜ続くのか
www.earth-policy.org/plan_b_updates/2011/update92

レスター・R・ブラウン

世界の食料価格は2月に記録上最高水準に達した。食料価格の急騰によって、すでに飢饉と政情不安が広まっており、数カ月先には、食料価格はさらに高騰するだろう。

穀物をめぐる情勢があまりにも厳しいので、今年の収穫はここ数年間で最も注目を集めそうだ。昨年、世界の穀物生産高は21億8,000万トンだった。消費量が22億4,000万トンであったため、生産を上回った分は備蓄分を6,000万トン取り崩すことでようやくしのいだ。(www.earth-policy.org のデータ参照)

昨年のように穀物不足を生じさせることなく、今年、予測される4,000万トンの需要増に応えるために、今年は世界の穀物生産高を少なくとも1億トン増加する必要がある。しかし、それでも現在の不安定な需給バランスを保つだけで精一杯だろう。

【グラフ】世界の穀物備蓄日数 1960-2010
【縦軸 左】日数
【グラフ下】出典:米国農務省

食料価格をより適切な水準に引き戻すのなら、おそらくあと5,000万トン上乗せし、合計で1億5,000万トンの増加が必要になるだろう。今年、世界の穀物生産高を1億5,000万トン、いや、1億トンだけでも増やすことは可能だろうか? それは考えられなくもない。なぜなら、ここ20年間で2度、年間生産高が1億5,000万トン増えたことがあったからだ。しかし、今年はおそらくそうはいかないだろう。

【グラフ】世界月別食料価格指標 1900年1月‐2011年2月
【グラフ下】出典:米国食糧農業機関

世界の穀物収穫量を予測するため、生産高の9割近くを占める3大穀物、つまりコメ、小麦、トウモロコシに注目しよう。その他の穀物には、大麦、オーツ麦、ソルガム、ライ麦、キビなどがある。

灌漑作物のため、生産が安定しているコメからまず見ていこう。世界のコメ生産高は昨年、合計4億5,200万トンで、毎年平均700万トンずつ増えている。今年は、コメは1,000万トン多く収穫できると仮定しよう。

今や世界の代表的な食用穀物である小麦は、ほとんどが天水栽培のため、収穫は降水量に左右されやすく、生産高を予測することはとても難しい。しかし、ほとんどの小麦は秋に植えつけ、休眠状態で冬を越し、早春に再び成長を始める冬小麦である。したがって、作付面積が今年3%増えることはすでに分かっており、小麦の早期作柄についても把握ができている。

では、合計すると世界の小麦生産の半分を占める、中国、インド、米国そしてロシアの4大小麦生産国から見ていこう。小麦の生産大国である中国は、冬小麦生産地域がごく最近まで60年ぶりの深刻な干ばつに脅かされていた。2月下旬と3月上旬の降雨と降雪で干ばつの影響はいくぶん緩和されたが、中国の小麦生産高は昨年の1億1,500万トンから今年の1億1,100万トンへ減少することは容易に予想がつく。また、インド政府は、今年の生産高は、昨年から100万トン増えて8,200万トンになると予想している。

世界第3位の小麦生産国である米国では、グレートプレーンズの南部が干ばつに見舞われている。2月末現在、米国の冬小麦の作柄は過去20年間で最悪といえるものであった。米国農務省は、生産高が6,000万トンから5,600万トンへ減少すると予測しているが、これはおそらく控え目に見積もった数字だろう。

ロシアの小麦生産高は、熱波の打撃を受けた昨年の4,200万トンから急増するはずである。しかし、昨年の秋、乾燥が激しく、冬小麦の1/5が作付け出来なかったため、例年より多くの農家が収穫量の少ない春小麦を植えざるをえなくなるだろう。春に種をまき晩夏か早秋に収穫するのが春小麦である。うまくいって、ロシアの小麦生産高は約5,800万トン程度だろう。

世界の残りの国の小麦予想生産高を加えれば、今年小麦は去年収穫した6億4,500万トンに追いつくのだろうか? いや、必要なのはそれ以上の生産高である。国際穀物理事会は今年の生産高を昨年より2,700万トン多い6億7,200万トンと見積もっている。これとは対照的にカナダ小麦局は6億5,300万トンという数字をあげているが、増加分は800万トンでしかない。そこで、計算上、今年の小麦の生産高は昨年より2,000万トン多い、6億6,500万トンと仮定しておこう。

さて、次はトウモロコシである。二つの国の話をしよう。世界のトウモロコシの生産高8億1,400万トンのうち、その40%と20%を占めるのが米国と中国。米国では1ヘクタール当たりで10トンの収穫が可能な栽培地が4%増えると見込まれており、これを勘案すると、米国のトウモロコシは2,500万トン増える見込みである。

中国のトウモロコシ生産高は、ここ3年間、1億6,500万トンあたりで変動しているが、現在の厳しい水事情を考えると、増産は難しそうだ。トウモロコシの収穫の残り40%を占める地域からは1,500万トンの増産が見込めるだろう。そうすると、全体では4,000万トン、収穫を増やすことが可能となる。

世界全体の数字を見てみよう。穀物は、現在の危うい需給バランスを維持するだけで1億トンの追加が必要だが、世界の穀物市場をなんとか安定した状態に戻そうとするなら、1億5,000万トン近くが必要となる。

そのうち1,000万トンは今年のコメをあてにできるだろう。小麦から2,000万トン、トウモロコシからは大幅に4,000万トンの増加を期待しよう。その他の穀物からも、昨年より1,000万トン多い量を計算に含めることが可能だ。それらを合計すると、穀物は8,000万トン増える勘定になるが、それだけではとうてい穀物価格の上昇を抑えることはできない。

【表】主要生産国および世界全体での穀物の生産高(2010年:実績値、2011年:予測値)
【項目】穀物 国 差異【単位】100万トン
【表の下】出典:2010年の実績は米国農務省の資料より、2011年の予測値はアースポリシー研究所で試算

世界の穀物生産高を見積ることは、複雑さが加わりますます難しくなってきている。需給方程式の需要側には、需要を増やす3つの要因がある。ひとつは年間8,000万人の人口増加、次が30億もの人々が食物連鎖の階段を駆け上り、穀物依存度の高い畜産物をより多く食べるようになったこと、そして最後が米国で穀物を燃料用エタノールに大量に転換していることである。

供給側はどうだろうか。これまで世界中いたるところで穀物の生産高が増えた時期があったが、それも今では過去のものとなった。帯水層の枯渇や深刻な土壌浸食によって、多くの国で今穀物の収穫が落ちている。これに輪をかけているのが気温の上昇である。さらに、農業技術が進んだ国でも、土地の生産性を上げる技術の種が尽きてしまっている。

世界人口の半数を占める18の国で、灌漑用の過剰揚水により帯水層が枯渇し始めている。帯水層の水が減り始めたことで穀物生産が落ち込んだ国には、サウジアラビア、シリア、それにイラクがある。世界銀行の資料によると、インドでは1億7,500万人が食べている穀物が、過剰揚水によって生産されたものだという。そもそも過剰揚水がいつまでも続くはずがない。中国には同様な人たちが、1億3,000万人いる。

モンゴルやレソトのように、深刻な土壌浸食によって多くの耕作地が放棄され、その結果ここ何10年の間に穀物生産が半減、あるいは半分以下に低下した国もある。北朝鮮やハイチは、生産高を増やそうにも、土壌浸食のせいで成果を得ることができない。

いくつかの農業先進国では、新しい技術の蓄えがほとんど底をついてしまっている。日本ではこの16年間、一反あたりのコメの生産高が増加していない。今や米作で日本に迫ろうとしている中国はどうかというと、ここもまた頭打ちしそうな状況にある。

欧州第一の小麦生産国であるフランスは、この10年間生産高は横ばい状態である。ドイツや英国も頭打ちの状態だ。アフリカ一の小麦生産国であるエジプトでも、ここ6年間小麦の生産が増えていない。

【グラフ】エジプト、フランス、英国における小麦の生産高(1960年〜2010年)【グラフ縦軸】1ヘクタール当たりのトン数
【グラフ下】出典:国連食糧農業機関および米国農務省の資料を基にアースポリシー研究所で編集

現時点では、今年は穀物の収穫を1億トン増やすことは難しそうだ。これでは最近のかなり危うい穀物の需給バランスを維持することもできないだろう。それどころか、穀物の備蓄分を取り崩す公算が強い。この先何ヶ月かは、世界の食料価格の上昇を抑えることは可能かもしれないが、今のような状況ではそれも無理なように思える。

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レスター・R・ブラウンはアースポリシー研究所所長であり、『仮邦題:崖っぷちの世界』(World on the Edge)の著者。

さらに詳しいデータ・情報についてはwww.earthpolicy.org を参照のこと。
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メディア関連の問い合わせ:
リア・ジャニス・カウフマン
電話:(202) 496-9290 内線 12
電子メール:rjk@earthpolicy.org

研究関連の問い合わせ:
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電話:(202) 496-9290 内線 14
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アースポリシー研究所
1350 Connecticut Ave. NW, Suite 403
Washington, DC 20036

(翻訳:山口、酒井)

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