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エダヒロ・ライブラリー環境メールニュース

2011年12月03日

水不足が中東アラブ諸国の食料の将来を脅かす (2011.12.03)

水・資源のこと
食と生活
 

11月末に、予定どおり、レスター・ブラウン氏の最新刊 World on the Edge(崖っぷちの世界)の翻訳を編集者にお渡ししました。来年2月上旬に出版される予定です。どうぞお楽しみに-!

この本でレスターは、食料問題が世界にとっての「目覚めよ」の警鐘になるだろう、と述べています。レスターのプレスリリースから、その一端をご紹介します。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ここから引用〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

水不足が中東アラブ諸国の食料の将来を脅かす
URL: http://www.earth-policy.org/plan_b_updates/2011/update95

レスター・ブラウン

中東で起こった政府への反乱が下火になった後も、今はニュースになっていない根本的な問題の多くがずっと解決されないままだろう。なかでも重要なのは、人口の急増、水不足の広がり、深刻化する一方の食料不安である。

帯水層が枯渇するにつれて、今では穀物生産量が減少している国もある。1970年代のアラブ諸国による原油禁輸措置の後、サウジアラビア国民は、自分たちは輸入穀物に大きく依存しており、そのため、対抗措置としての穀物禁輸に対して脆弱であると気づいた。彼らは石油掘削技術を用いて、砂漠のはるか下にある帯水層まで掘り抜き、灌漑による小麦生産を行った。そして数年のうちに、サウジアラビアは主食である小麦を自給自足できるようになっていたのである。

だが小麦の自給自足を20年以上続けた後、2008年1月、サウジアラビアは、この帯水層がほぼ枯渇したため、小麦生産を段階的にやめていくと発表した。2007〜2010年の間に、300万トン近くあった小麦の収穫量が100万トン未満にまで減少した。このペースでいけば、サウジアラビアで小麦が収穫されるのはおそらく2012年で最後となり、その後は、カナダとほぼ同じ3,000万近くの人口を養うのに、輸入穀物に完全に依存することになるだろう。

サウジアラビアがこれほど異例の速さで小麦生産から段階的に撤退することになった要因は二つある。一つは、この乾燥した国では、灌漑を行わない農業はほとんどないことであり、もう一つは、この国の灌漑がほぼ全面的に化石帯水層に依存していることである。化石帯水層は、大半の帯水層とちがい、降雨によって自然に涵養されることがない。そして、サウジアラビアが都市への水供給に使っている脱塩海水は、サウジアラビア国民といえども、あまりにも高くつくので灌漑には利用できない。

サウジアラビアは、国内で食料不安が高まっていることから、いくつかの国から土地を買ったり借りたりするまでにいたっており、その中には世界で最も飢餓が深刻なエチオピアとスーダンの2国が含まれている。実際、サウジアラビアは、急増している食料輸入を補うため、他国の土地や水資源を使って自国民のための食料を生産することを計画中である。

隣国のイエメンでは、水が補給される帯水層から、涵養をはるかに上回る速度で揚水されており、より深い化石帯水層も急速に枯渇しつつある。その結果、イエメン全土で、年間約2メートルも地下水位が低下している。人口200万人の首都サヌアでは、4日に一度しか水道水が使えず、それよりも小さい都市である南部のタイズでは、20日に一度となる。

世界でも人口増加が最も激しい国の一つであるイエメンは、水供給不能の国になりつつある。地下水位が低下している中、穀物収穫量が過去40年間に1/3減少する一方で、需要のほうは着実に伸び続けている。その結果、イエメンは現在、穀物の80%以上を輸入している。わずかな石油輸出が減少しつつあり、これといった産業もなく、子どもたちの60%近くが発育不全および慢性的な栄養不足状態にあるこのアラブの最貧国は、先行きの暗い、波乱含みの未来に直面している。

イエメンの帯水層の枯渇――これによって収穫量がさらに減少し、飢餓と水不足が広がるだろう――がもたらすことになりそうなのは、社会の崩壊である。すでに国家として破綻に瀕しているイエメンは、部族の縄張りの集合体と化し、どんなにわずかであれ、残っている水資源があればそれをめぐって争うことになるだろう。イエメン国内の紛争が、長くて無防備な国境を越えてサウジアラビアに飛び火する可能性がある。

サウジアラビアの崩壊しつつある食料バブルや、イエメンの急速に悪化しつつある水事情に加えて、シリアとイラク――中東で人口が多い残りの2国――も複数の水問題を抱えている。その中には、チグリス・ユーフラテス川の水量が減少したことが原因で起きている問題もある。シリアもイラクも灌漑用水をこれらの川に依存しているのだ。

この両河川の源流を管理するトルコは大規模なダム建設計画を進めているところであり、これによって下流の水量は徐々に減少している。この3国はいずれも分水協定に参加しているが、水力発電と灌漑地域の両方を拡大しようとするトルコの野心的な計画は、下流にある二つの隣国を犠牲にして実行されている部分もある。

川の水供給量が将来的に不安定であることを考えて、シリアとイラクの農民はさらに多くの灌漑用の井戸を掘っている。これが両国での過剰揚水につながっている。シリアの穀物収穫量は、2001年の約700万トンをピークに、20%減少した。イラクでは、穀物収穫量は2002年の450万トンをピークに、25%減少している。

600万人の人口を抱えるヨルダンもまた、農業が窮地に追い込まれている。40年ほど前、年間30万トンを超える穀物生産量があった国だ。現在では、生産量はわずか6万トンであり、したがって穀物の90%以上を輸入せざるを得なくなっている。中東で穀物生産量の減少を免れているのはレバノンだけだ。

このように人口が急増している中東のアラブ地域で、世界は、人口増加と水供給量が地域レベルで初めて衝突するのを目の当たりにしている。歴史上初めて、一つの地域の穀物生産量が急激に減少していて、その減少を止めるものが何も見えない。この地域の政府が人口政策と水政策をうまく噛み合わせることができていないために、現在、毎日、養うべき人口が新たに1万人生まれ、その人々を養うために必要な灌漑用水は減り続けている。

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レスター・ブラウンはアースポリシー研究所所長で、新刊『仮邦題:崖っぷちの世界:環境破壊と経済崩壊を防ぐために』(World on the Edge:How to Prevent Environmental and Economic Collapse)の著者。同書はhttp://www.earth-policy.org/books/woteにてダウンロード可能。

*注:本稿は、2011年4月22日(金)の『ガーディアン』紙に掲載されたもの
http://www.guardian.co.uk/commentisfree/2011/apr/22/water-the-next-arab-battle)。

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(翻訳:中小路佳代子、チェッカー:小林紀子)


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜引用ここまで〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

刊行にあわせて、レスターに日本に来てもらって、出版記念フォーラムを開催できたらうれしいなあ、と思っています。こちらもどうぞお楽しみに〜!

 

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