昨秋〜冬、がんばって翻訳した本が出版されました〜!
『地球に残された時間 80億人を希望に導く最終処方箋』
レスター・R・ブラウン (著) ダイヤモンド社
訳者あとがきの冒頭にこのように書きました。
http://www.es-inc.jp/lib/archives/120127_084956.html
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ここから引用〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「気候にせよ、身の周りの自然にせよ、何かおかしい」「このままでは、未来世代に住みにくい地球を残してしまうのではないか......」
地球や私たちの暮らしの今後に対する、漠とした不安が広がっています。地球温暖化にせよ、食料の状況にせよ、何となく状況が悪化しているような気がするが、実際のところはどうなのだろうか? 私たちはどうして、このような問題が頻発する状況に陥っているのだろうか?
核戦争や世界を二分するような武力衝突の危険性は遠のいたように思えるが、二一世紀の新たな危機とは何なのだろうか? 政治や経済は、新たな課題に対応できているのだろうか? 企業は新しい社会の要請に、どのように応えつつあるのだろうか? そして、私たち一人ひとりは何をすべきなのだろうか?
このような疑問や不安を感じていらっしゃる方々に、レスター・R・ブラウン氏の最新刊『World on the Edge』の日本語版をお届けできることを心からうれしく思います。本書は、このような問いや不安に、データと事実、明晰な分析、新しい動向や事例を、客観的にかつわかりやすく示してくれる本だからです。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜引用ここまで〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
ぜひ多くの方に読んでいただきたい本です。議論をするためにも、自分で考えるためにも、その土台となる構造と現状を伝えてくれる本だからです。
『地球に残された時間 80億人を希望に導く最終処方箋』
レスター・R・ブラウン (著) ダイヤモンド社
5冊セットキャンペーンもぜひご利用下さい。勉強会やお友だちとの共同購入、ぜひ読んでほしい方へのプレゼントなど。
『地球に残された時間〜80億人を希望に導く最終処方箋』 5冊セット
(《先着100名様》直筆サイン入りカード付き)
『地球に残された時間〜80億人を希望に導く最終処方箋』 5冊セット
(《先着100名様》直筆サイン入りカード付き)
レスター・ブラウン氏の研究所からのプレスリリース文を実践和訳チームが訳してくれましたので、お届けします。
ここに出てくる「土地の収奪」は、日本ではあまり知られていませんが、今後の食料状況や安全保障、世界の平和と安定にも大きな影響を与える動きです。上記の本にも詳しく現状とその意味するところが書かれています。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ここから引用〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
ナイル川が干上がるとき
http://www.earth-policy.org/plan_b_updates/2011/update97
レスター・R・ブラウン
アフリカに対する新たな争奪が進行中だ。世界の食料価格が高騰し、輸出業者が商品の出荷を削減する中、輸入穀物に依存していた国々はパニックに陥っている。サウジアラビア、韓国、中国、インドといった豊かな国々は、アフリカ大陸中の肥沃な平原に押しかけ、自国消費用の小麦、米、トウモロコシを生産するため極めて広大な地域を入手している。
こうした土地の獲得の中には、巨大なものもある。穀物の70%を輸入する韓国は、小麦を栽培するため、スーダンにおよそ6,900平方キロメートルの土地を手に入れた。これは米国ロードアイランド州の2倍に相当する広さである。サウジアラビアのある企業は、米の栽培用としてエチオピアにざっと100平方キロメートルを賃借しているが、この契約は3,000平方キロメートルまで拡大することが可能だ。そしてインドはトウモロコシ、米、その他の作物を栽培するため、数千平方キロメートルの土地を賃借している。
このような土地の収奪により、飢饉が多発するアフリカ諸国では食料供給が収縮し、自国の政府が先祖代々の土地を外国人に売り渡すのを目の当たりにした、地元の農民たちから怒りの声が上がっている。それはまた、アフリカ最新の民主国家であるエジプトにも深刻な脅威をもたらしている。
エジプトはパンが主食の国である。エジプト国民は年間1,800万トンの小麦を消費しており、その半分以上は国外から輸入されている(データはwww.earth-policy.orgを参照のこと)。現在エジプトは世界最大の小麦輸入国であり、エジプト家庭の約60%は、政府が年間およそ20億ドル(約1,600億円)を補助する「助成パン」を社会保障の一つと捉え、依存しきっている。
エジプトはホスニ・ムバラク大統領の退任後、機能する民主主義を形作ろうとしているが、南で起きている土地の収奪により、食卓にパンを上らせることができるかどうかが危ぶまれている。それというのも、エジプトの穀類はいずれも、輸入されたものか、もしくはナイル川の水を使って生産されたものであり、そのナイル川はエチオピアやスーダンを通って北上した後エジプトに到達するからだ。(エジプトにおける降雨は皆無に等しいほどわずかであるため、農業は完全にナイル川に依存している。)
エジプトにとって不運なのは、土地獲得の格好の標的となっている2大国がエチオピアとスーダンであり、両国でナイル川流域の3/4が占められているということだ。今日の水の需要は、ナイル川が最終的に地中海へと流れ込む頃には水がほとんど残っていない、そんな状況なのだ。
エジプトとスーダンが1959年に調印したナイル川利水協定は、取水権の75%がエジプトに、25%がスーダンに、そしてエチオピアには権利がないというものだった。この状況は、豊かな外国の政府と国際的な農業関連企業が、上流域における広大な耕作地域を収奪するのに伴い、あっけなく変わりつつある。こうした取引は概して「土地の獲得」と表現されているが、実際には「水の獲得」でもあるのだ。
ナイル川の水を巡る競争が進む中、今やエジプト政府は、1959年の協定では関係のなかったいくつかの政府や商業的利益とやり合わねばならなくなっている。その上、これまで一度も協定に関心を示さなかったエチオピアが、自国内のナイルの支流に巨大な水力発電ダムを建設する計画を発表している。これにより、エジプトに流れ込む水はさらに減ってしまうだろう。
エジプトの小麦収穫高は既に世界でも最高水準にあるため、さらに土地の生産性を向上できる可能性はほとんどない。現在8,100万人の人口は、2025年には1億100万人に達すると予測されており、十分な食料と水を確保することは、かなり手ごわい挑戦である。
エジプトの窮状は、さらに大きくて厄介なシナリオの一部にすぎなくなる可能性がある。ナイル川上流の隣国であるスーダンには4,400万人、そしてエチオピアには8,300万人が住んでいて、エジプト以上に速い勢いで人口が増えており、食料生産のための水の需要が増大している。国連の予測によれば、上記3国を合わせた総人口は、現在の2億800万人から、2025年には2億7,200万人、2050年には3億6,000万人に増えるという。
人口増加と外国による土地(および水)の獲得によって増え続ける水の需要は、ナイル川の自然の限界ぎりぎりに達しつつある。水を巡る危険な紛争を避けるには、流域全体での三つの取り組みが必要となるだろう。まず一つめは、政府が人口問題に正面から取り組むこと。そのためにすべての女性が家族計画支援を確実に利用できるようにし、地域一帯の少女たちに教育を受けさせる。二つめは、もっと水利用効率の良い灌漑技術を取り入れ、より少ない水で育つ作物へと切り替えていくことである。
三つめは、平和と今後の開発協力を目的として、外国政府や国際的な農業関連企業による土地の収奪を禁止するよう、ナイル川流域の国々が一体となることである。このような取り組みは前例がないため、実現するには、1960年にインドとパキスタンの間でインダス水条約が締結された際、世界銀行がまとめ役を果たしたように、国際的な支援が必要となりそうである。
これらの取り組みはいずれも実行が容易ではないだろう。しかしすべて必要不可欠なものである。こうした取り組みができなければ、高騰するパンの価格によって、エジプトの希望の革命が台無しになり、ナイル川の水を巡る争いもまた致命的なものへと発展しかねないのだ。
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レスター・R・ブラウンは、アースポリシー研究所所長であり、『仮邦題:瀬戸際に立つ世界』(World on the Edge)の著者である。
データならびに詳細資料は、www.earth-policy.orgを参照のこと。
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アースポリシー研究所
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Washington, DC 20036
翻訳:長谷川 浩代、チェッカー:佐野 真紀