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エダヒロ・ライブラリー環境メールニュース

2012年04月07日

レスター・ブラウン氏「米国のガソリン消費減少:キーストーンXLパイプラインは要らない」 (2012.04.10)

エネルギー危機
 

石油ジャブジャブの国だった米国で、ガソリンの消費量が減っていることをご存じでしたか?

レスター・ブラウン氏のリリースを実践和訳チームが訳してくれましたので、お届けします。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ここから引用〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

米国のガソリン消費減少:キーストーンXLパイプラインは要らない

http://www.earth-policy.org/plan_b_updates/2011/update100

レスター・R・ブラウン

カナダのタールサンド(高粘度の原油を含む砂岩層)採掘場からテキサスの精油所まで原油を運ぶ、1,711マイル(約2,800キロメートル)のパイプライン建設の是非が問われるなか、それに伴う原油流出や炭素排出に議論が集中している。しかし、もっと根本的なことを問いかけねばならない。その石油は果たして必要なのだろうか?

現在米国では、米国に続く上位16カ国の消費量を合計したよりも多くのガソリンを使っている。まさか、と思うだろうが、その通りなのだ。その中には中国、日本、ロシア、ドイツ、ブラジルなどが含まれている。
http://www.earth-policy.org/datacenter/xls/update100_1.xls のデータ参照)

しかし、今、変化が起きている。このぜいたくなガソリン消費を支えてきた豊かさが失われ始めただけでなく、米国民が生まれつき持っている権利の一つであると見なされていた自動車中心のライフスタイルがすたれつつあるのだ。米国のガソリン消費量はこの4年間で5%減少している。

【グラフ】米国における自動車用ガソリン消費量(1950年-2010年、2011年は予測値)

【縦軸】10億ガロン(約38億リットル)

【グラフ下】出典:エネルギー情報局(EIA)の資料を元にアースポリシー研究所で作成

4つの主要な動きが、米国のガソリン消費量をさらに減少させようとしている。それは、自動車保有台数の減少、自動車1台当たりの走行距離の短縮、将来、新車に対して義務付けられる燃料効率の飛躍的な向上、そして自動車の動力源のガソリンから電気への移行などの動きである。

米国の自動車保有台数は2008年の2億5,000万台がピークであったようだ。新車の販売台数は1994年から2007年にかけて、年間1,500-1,700万台で推移していた。それ以降は年間合計1,000-1,300万台で、再び1,400万台を超えることはなさそうである。廃車となる車両数も今後10年間を通じて新車の販売台数を上回る見込みである。

自動車保有台数は2008年から2010年にかけて2億5,000万台から2億4,800万台へと落ち込み、そのときから減少が始まった。その傾向は、今後も続くだろう。経済の見通しが不透明なことや、依然として都市化が進行していることもあり、新車の販売台数は以前のような数には達していない。今日、米国民の82%は都会で暮らし、車は必需品ではなくなってきている。

都市化に加えて、若者同士の付き合いの方法も変わってきた。半世紀前の田舎に住む10代の若者には、運転免許証を取得し運転できる車を持つこと、例えば自家用車とか、ピックアップトラックや農業用のトラックでもよい、そうした車を持つことが一つの通過儀礼であった。みんながそれを経験したのだ。

だがそれも変わりつつある。今の10代の若者はその多くが都市部で育ち、スマートフォンとインターネットを通じて互いに交流し、車に興味がない者がほとんどだ。米国で運転免許証を持つ10代の若者、つまり将来の車の保有者数は、1978年の1,200万人をピークに今では1,000万人に減少している。

街もまた人のことを考えた街に変わりつつある。なによりも、街自体が公共の交通機関の利便性を良くし、歩行者や自転車にとって優しい街に変わってきている。

多くの街が自転車道路や自転車専用レーン、駐輪場など、自転車のインフラ整備をしている。自転車のシェアリングサービスも始まった。2010年に首都自転車シェアリング計画をスタートさせたワシントンD.C.では、いまや116のステーションで1,100台の自転車が貸し出されるほど、自転車の共同利用は普及している。最初の年だけで、約1万6,000人もの利用者が年間契約をした。同じような計画はデンバーやシカゴにもあり、ニューヨークは市独自の大規模な計画を立ち上げようとしている。

ガソリンの利用が減っている2つ目の理由は、自動車1台当たりの走行距離が短くなっていることだ。これには経済の先行きが不透明なことと、ガソリン価格の高騰が少なからず影響している。ガソリン価格が1ガロン(約3.7リットル)当たり4ドル(約300円)近くもすると、普通の人は半ガロンのミルクを買いに出かけるのに、車に飛び乗って1ガロンのガソリンを使う前に、もう一度考えるものだ。

理由の3つ目は、米国の自動車全体に燃費効率を引き上げる動きがあることである。2008年に発売された新車の走行距離は1ガロン(約3.7リットル)当たり平均27マイル(約43キロ)であった。しかし2009年初め、オバマ大統領が燃費基準の引き上げを発表したことで、2016年に発売されるクルマの走行距離は1ガロン当たり36マイル(約58キロ)まで伸びる見込みだ。さらに2011年に発表された追加基準は、2025年の新車のガソリン消費量を2008年の半分以下にすることを求めている。
(http://www.whitehouse.gov/sites/default/files/fuel_economy_report.pdf)

ガソリンの使用が減っている背景には、自動車保有者が、車をガソリン車からハイブリッド車や電気自動車のような電気で動く車に乗り換える動きもある。GMは最近、電気主体で走るよう設計されたシボレーボルトを市場に出し、日産は電気のみで走るリーフを発表した。そのほか、トヨタは燃費効率の良さで先頭を走る同社のプリウスをプラグインハイブリッド車に変え、その注文を受け付け始めている。今後も新たなタイプのプラグインハイブリッド車や電気自動車が続々と市場に登場するだろう。

これらの電気で動く車の価格は一般的に高いが、毎日の運転にかかるコストは極めて低い。ハーバード大学のマイケル・マッケルロイ教授の試算(http://harvardmagazine.com/2011/07/time-to-electrify )では、風力電気を利用した車の場合、その走行コストは、1ガロン(約3.7リットル)当たり80セント(約61円)のガソリンを使った場合より少なく済むという。

自動車の保有台数が落ち込み、平均走行距離は短くなり、新車の消費燃料は2025年までに半減する。さらにガソリンに代わる自動車燃料として電気が使われるようにもなった。そうした動きのなかで、原油を手にいれるためにタールサンドのあるカナダからテキサス州の製油所までパイプラインを引く必要がどこにあるのだろう? 答えはノーだ。

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レスター・R・ブラウンはアースポリシー研究所所長であり、『仮邦題:崖っぷちに立つ世界』(World on the Edge)の著者。

メディア関連の問い合わせ:
リア・ジャニス・カウフマン
電話:(202) 496-9290 内線12
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アースポリシー研究所
1350 Connecticut Avenue NW, Suite 403
Washington, DC 20036
ウェブサイト:http://www.earth-policy.org

(翻訳:山口淳子、酒井靖一)


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜引用ここまで〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

レスターの書く物はどれも明晰でわかりやすくて、いつもすごいな〜と思います。こうやって整理して書いてくれたら、「米国でのガソリン消費量の理由は?」と聞かれても「4つの理由があります。まず……」と答えられますよね。

余談ですが、レスターも最初からわかりやすい明晰な文章を書いていたわけではないそうです。若い頃に自分でトレーニングをずいぶんしたんだ、と言っていました。

いまレスターは自伝を書いているのですが、どんなトレーニングをしたのか、どうやってレスターは今のレスターになっていったのか、早く読みたくてウズウズしています(自伝には私もちょこっと登場させてくれるみたいなので、それも楽しみです)。

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