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エダヒロ・ライブラリー環境メールニュース

2012年04月15日

エネルギー基本計画と経済成長率の想定〜「委員提案ケース:ゼロ成長」 (2012.04.15)

エネルギー危機
新しいあり方へ
 

2030年までのエネルギー基本計画を作るための基本問題委員会では、3月9日〆切で提出された各委員からの意見を集約しながら、選択肢づくりに向けた議論をおこなっています。

各委員の意見はこちらにあります。
http://www.enecho.meti.go.jp/info/committee/kihonmondai/15th/15-1.pdf

この資料の11ページから、私の提出した意見書が載っています。
(自分の意見書部分だけを以下にアップしています
http://www.es-inc.jp/news/20120309edahiro.pdf )

このスライド7に、図にして「そもそもの経済の規模やエネルギー需要の見通しについては基本問題委員会では実質的な議論を尽くしていません」と書いたように、電源構成(どうやって必要なエネルギーを供給するか)を考えるまえに、「どれだけの電力やエネルギーが必要なの?」を考える必要がある、と繰り返し発言してきました。

パイの大きさもわからないのに、「パイの切り分け方を考えなさい」と言われても……と思いませんか?

事務局の考える「進め方」では、この資料に明示してあるように
http://www.enecho.meti.go.jp/info/committee/kihonmondai/16th/16-1.pdf

> (1)成長率について
> 内閣府試算を元に、①2010年代の実質成長率を1.8%、2020年代を1.2%とするシ
> ナリオ(成長戦略シナリオ)、②2010年代の実質成長率を1.1%、2020年代を0.8
> %とするシナリオ(慎重シナリオ)を設定する。

というものでした。

これに対し、3月9日提出の資料で、

「「経済成長率の将来見通し」や「将来の電力需要の見通し」については、事務局が委員会に諮ることなしに想定し、その先の供給内訳だけを委員が議論するのではなく、委員会に専門的知見を有する有識者を招聘し、議論してから設定すべきと考えます」

「そうしないと、たとえば、実際以上に高い経済成長率を見込むと、将来存在しないエネルギー/電力需要を見込むこととなり、国内の事業者の投資判断を誤らせるなどの大きな弊害がでてしまいます」

と意見を述べ、お話をうかがうべきだと考える有識者の例を挙げました。

そして、

“規模”ではなく、“豊かさ・幸せ”こそがめざすもの〜エネルギー需要を見積もる根拠を「GDP」から「一人当たりGDP」へ

という提案を書きました。(スライド9〜)
http://www.es-inc.jp/news/20120309edahiro.pdf

この資料はそれだけ読んでもらえれば伝わるように書いたつもりなので、ぜひ見ていただければと思います。以下、文章部分を掲載します。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ここから引用〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

“規模”ではなく、“豊かさ・幸せ”こそがめざすもの〜エネルギー需要を見積もる根拠を「GDP」から「一人当たりGDP」へ


これまでのエネルギー基本計画は、まず経済成長率を想定し、その結果としての経済規模から必要なエネルギー/電力需要を計算し、それをどのように供給するかを考えるやり方で作られています。「白紙からの見直し」ですから、この考え方も見直すことができるでしょう。

> エネルギー基本計画(平成22 年6 月)
> 第2章.2030 年に目指すべき姿と政策の方向性
> 第1節.2030 年に向けた目標
> ・・・・・・・・
> (脚注) 上記の目標設定に当たっては、一定のマクロフレーム(経済成長率:約2%(2010-2020年)(新成長戦略の想定と同程度)、1.2%(2020-2030年)。原油価格:約$120/bbl(2020年)、約$170/bbl(2030 年)(IEA「World Energy Outlook 2009」より)等。)を想定した。


これからの日本は、人口減少による労働人口の減少速度が世界で最大になるため、GDP成長率は他の先進国を下回り、経済規模は縮小していくという現実を直視した議論が必要です。

 GDPの大きさは、労働生産性と労働者数を掛け合わせたもので決まります。

 グローバル化の進んだ世界では、先進国の労働生産性はそれほどの違いはありません。

 これからの日本は、人口減少による労働人口の減少速度が世界で最大になるため、 GDP成長率は他の先進国を下回り、経済規模は縮小していくという現実を直視した議論が必要です。


日本では急速に高齢化が進みます。(グラフ)

そのため、生産年齢人口増減率が世界でも例がないほど大きくマイナスになっていきます。(グラフ)

日本の労働力人口は2000年から2030年には1,300万人(19.2%)も減少する予測されています。(グラフ)


「だったら労働力を増やせばよい」という意見がありますが、人口減少に伴う労働力減少を相殺するほどの増加は難しく、「経済は縮小していく」として、それがマイナスではなく、より豊かな社会や幸せな人生につなげる方法を考えるほうが現実的ではないでしょうか?

 ●「出生数を増やせばよい」
→人口減少に伴う労働力の減少を相殺できるほど激増させるのはかなり難しいうえ、その人たちが労働力になるには20年前後かかります

 ●「もっと女性が働くようになればよい」
→日本の女性の労働力率は過去40年以上上昇しており、現在はドイツやフランスを上回り、イギリスとほぼ同程度の水準です。人口減少に伴う労働力の減少を相殺できるほどの激増は難しいでしょう

 ●「外国人労働者を入れればよい」
→現在の労働力を2030年にも維持するためには、それまでに合計2,400万人の外国人労働者の流入が必要となります(外国人労働者比率は20%に)


でも、大事なのは経済の規模(GDP)なのでしょうか? 
日本のGDPを100としたとき、ドイツは60、フランスは47、英国は41、スウェーデンは8、フィンランドは4ですが、これらの国は「国力が小さい国」でしょうか?
(グラフ)


私たちが経済的に豊かな生活を送れるかどうかは、経済全体の規模ではなく、一人当たりの国民所得水準にかかっています。(グラフ)


今後は、GDP成長率ではなく、「一人当たりGDP」の成長率を想定して、エネルギー/電力需要を見通すことを提案します。

 たとえば、
 2000年〜2010年のGDP成長率は、年率0.74%でした。同期間の 一人当たりGDPの成長率は、年率0.65%%でした。

 今後の一人当たりGDP成長率をこの10年間のペースで想定すれば、
 2010年〜2020年のGDP成長率は年率0.3%
 2020年〜2030年の GDP成長率は年率0.0%
 となります。


現在のエネルギー基本計画の経済成長率の想定だと、2030年の実質GDPは2010年の1.4倍になります(現状維持派・既得権益派の願望であるかもしれませんが、現実的でしょうか?)

 現在のエネルギー基本計画の経済成長率の想定(2010-2020年:約2%、2020-2030年1.2%)だと、2030年の実質GDPの規模は2010年比40%増となります。

 一方、一人当たりGDPの成長率をこの10年と同年率0.65%と想定した場合、2030年の実質GDPの規模は2010年比3.7%増です。


そうすると、「2030年には現在の1.4倍近くの必要なエネルギー/電力を何でまかなうか?」を考えることになり、絶対量がこれだけ増えると、コストやCO2などの悪影響の増大は避けられず、望ましい選択肢を考えること自体、かなり難しくなるでしょう。

一方、「一人当たりGDPの成長率をこの10年並みとする」想定では、2030年の2030年の実質GDPの規模は2010年比3.7%増ですから、必要なエネルギー/電力も3%ほどの増加ですみ、望ましい選択肢を考えやすくなります。

以下、このエネルギー/電力需要の想定をベースに、少エネ+供給内訳を考えます。(イラスト)  (資料後略)

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜引用ここまで〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

ある人に、「国の委員会で“ゼロ成長率”を提示した最初の委員かも。ほかの人にはなかなか言えないですからね〜。何のしがらみもないアナタだから言えるのでしょう」と言われました(^^;


3月9日提出の委員意見をとりまとめた3月14日の基本問題委員会で、上記の意見を述べました。ところが、そのあとの、3月19日の委員会での「今後の進め方」という事務局資料には、先ほど出したように、

> (1)成長率について
> 内閣府試算を元に、①2010年代の実質成長率を1.8%、2020年代を1.2%とするシ
> ナリオ(成長戦略シナリオ)、②2010年代の実質成長率を1.1%、2020年代を0.8
> %とするシナリオ(慎重シナリオ)を設定する。

とありました。

そこで、以下のように発言(直訴?)しました。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ここから引用〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

先ほど、経済の大きさをどう想定するかというところで、内閣府の2つを使いますということでした。もしかしたら、たとえばこれは、基本問題委員会では、その経済規模まで考える必要はないということなのかもしれません。

内閣府が決めたのに沿って、エネルギーを考えなさいということだったら、そこでやるしかないですが、おそらくその慎重シナリオのパーセントもできないというか、それをやる必要がないと思っている人たちもいます。

そういったことをここで議論できないのだとしたら、これは枝野大臣へのお願いになりますが、内閣府かどこかわかりませんが、やはりそこをしっかり、国民の意見も聞きながら、考えるところをつくっていただきたい。

内閣府がこう決めたから、この2つでここはやっていくんだということですと、もうこれ以上ここでは議論できなのかと思いますので、議論の進め方ということで、意見を申し述べました。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜引用ここまで〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

経済の専門家ではない私が言っても、あまり説得力がないのですが(^^;)、BNPパリバ証券経済調査本部長・チーフエコノミストの河野龍太郎委員が、以下のように発言され、大きく風向きが変わりました。


・生産年齢人口が毎年1%ぐらいずつ減っていくということを考えると、経済成長はゼロ〜0.5ということで、ゼロ近傍の成長にまず近づくだろう。

・エネルギーが足りないと大変なことになってしまうと心配で大きめの想定をしがちだが、内閣府の慎重シナリオ(平均成長率が1%ぐらい)は、最大値がそれぐらい、ということなので、1%の成長を前提にしていれば電力が不足することはない。

・内閣府の慎重シナリオは、最大シナリオと考えられよう。

・真の意味での“慎重シナリオ”を置くのなら、ゼロ近傍の成長を置いてもいいのではないか。

・そもそも、政府の「成長戦略シナリオ」(2010年代の実質成長率を1.8%、2020年代を1.2%とする)の位置づけは、このような政策に対応させるべきものではない。

・どの国でも財政健全化に失敗するケースというのは、高めの成長を前提に置いてしまうケース。政治は国民に負担を強いたくないので、高めの成長を前提にしてしまう。

・政府の「成長戦略シナリオ」はあくまでも、成長戦略を行って高い成長が起こったとき、どのくらいのものになるか、ということで、ほかの経済政策を決めるときの前提にすべきものではない。

・この高めの成長を今回のエネルギーの議論に置くということは、社会インフラを作るときに、高めの成長・高めの利用を前提にすることを続けていることと同じだと思う。

・1.8%の成長率が今から10年間続くということを前提にすると、2010年代には1.1%生産年齢人口が減っていくので、一人あたりの成長率は毎年1.8+1.1で2.9%を前提にすることになる。

・過去、一人当たりの成長率が3%近いというのは、バブル期の90年前後しかない。それを前提に議論してよいのか。

・このように内閣府の成長戦略シナリオは全然違うコンセプトで作ったものだが、この成長戦略シナリオを前提に計算すべきと思っていらっしゃる方はいらっしゃいますか? あるいは、この成長率がかなり自分の認識に近いと思っていらっしゃる方はいらっしゃいますか。

・過去20年間の平均成長率は0.9%にしかすぎない。2000年代以降の平均成長率は0.7%にしかすぎない。リーマンショックの影響があったじゃないかと思うかもしれないが、リーマンショックの前は、欧米の信用バブルと超円安の影響で、日本としては相当な高い成長が続いていた。このような成長戦略が成功したバラ色のようなシナリオを前提に、ほかの経済政策を作ることは間違ったことだと思う。


このような議論に、三村委員長も「自分も2%の経済成長はありえないと思っている」と発言され、経済成長率の想定について、再考の気運が出てきました。

(議事録はまだ出ていませんが、記録映像はすべての回ありますので、ご興味のある方、ご確認ください)

それを受けて、3月27日の委員会に提出された「発電電力量の推計について」という事務局資料がこちらです。
http://www.enecho.meti.go.jp/info/committee/kihonmondai/17th/17-2-1.pdf

最初のページを紹介します。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ここから引用〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

発電電力量の見通しについて

1.これまでの委員会において、今後の成長率について、政府の「成長戦略シナリオ」「慎重シナリオ」をお示ししてきたが、「1.3%程度の成長率を目指す」といった意見や、「過去の一人当たりGDP成長率を維持する」といった考えがあった。

2.ついては、発電電力量を見通すに当たっての成長率として、以下の3ケースを設定し、それぞれに基づき試算を行った。

①成長戦略ケース(※1) ( 2010年代の実質成長率1.8%、2020年代を1.2%)

②慎重ケース(※2)( 2010年代の実質成長率1.1%、2020年代を0.8%)

③委員提案ケース(一人当たりGDP成長率維持)(※3)(2010年代の実質成長率を0.3%、2020年代を0%)

※1:「日本再生の基本戦略」(平成23年12月閣議決定)に示された施策が着実に実施されるケース。
※2:「財政運営戦略」(平成22年6月閣議決定)における決定に基づいて試算した慎重な経済見通しを前提とするケース。
※3:過去10年間の1人あたりGDP成長率(0.65%)が2030年まで続くと仮定。その場合の将来の実質成長率は、2010年代で0.3%、2020年代で0%。


3.ただし、国民にエネルギーミックスの選択肢を提示する際には、以下の理由から②慎重ケースの成長率を前提としてエネルギー需給の定量分析(発電電力量や一次エネルギー供給の見通し)、及び経済影響分析の結果を示すことが適当ではないか。

(1)国民から見て選択肢間の比較がしやすくなるよう、前提条件を揃えることが必要。

(2)経済影響分析に当たっては、エネルギーミックスの個々の選択肢ごとに、貿易収支、雇 用、電気料金などに与える影響を5つ程度の機関のモデルを使って幅広く分析する必要があるところ、成長率が複数ケースとなった場合、作業に要する時間が増大大し、今春までの選択肢の国民への提示が困難となる懸念がある。

(3)民間調査機関等が公表している主な経済見通しは、②慎重ケースの成長率に近い。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜引用ここまで〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

供給の方法を考えるまえに想定する必要な電力・エネルギーを考える際に、これまでのかなり高めの経済成長率と、1%程度の経済成長率に加えて、「委員提案」ということで、過去10年間の1人あたりGDP成長率(0.65%)が2030年まで続くと仮定し、実質成長率を2010年代で0.3%、2020年代で0%とするケースが加えられました!

経済モデルを回すときには慎重ケースのみとなるようですが、その場合も、経済成長率がより高かったら、低かったら、という検証は行うとのことです。


「経済成長率が低いと、年金などほかの政策を考えているところとの整合性がとれなくなる(からそういう提案は困る)」等の意見も寄せられましたが、「パイが大きくなるから大丈夫」という想定で年金制度など他の政策を考えているのだとしたら、それ自体を考え直す必要があるのではないかと思います。

経済成長については、人口減少や生産年齢人口の減少などの数字から可能なこ・不可能なことをしっかり見極め、「必要だから必要なんだ」(年金のため、雇用のため、日本経済のため……)と思考停止に陥ることなく、「本当にこれぐらいの経済成長率になるとしたら、そのとき、どうやって年金や雇用や日本経済をしっかり保っていくのか」を考えることが大事でしょう。

「元来、経済の役割は富の生産であり、政治の役割は富の分配だ」と読んだことがあります。分配となると揉めることが多く、政治家としてはだれかに嫌われるリスクを避けたい。だから「全体のパイが大きくなるから、みんなの取り分が増えます。だから分配は考えなくても大丈夫です」と、これまでの政治は「分配」にはタッチせず、経済と一緒になって「いかにパイを大きくするか」という「生産」を進めてきたのが現状でしょう。

本当にパイがどんどん大きくなっていく右肩上がりの時代はそれでも問題が表面化しませんでしたが、地球の限界からいっても、人口動態などの状況からいっても、右肩上がりの成長が前提とならなくなる時代には、「分配」の問題に向き合わざるをえません。そうしない限り、広がる一方の格差の問題など、今の日本社会の抱える不安の根っこに対応することはできません。

幸せ経済社会研究所を設立したのも、そういった問題意識からでした。環境について考えるのであれば、経済と社会についても考えなくてはならない、と。
http://www.ishes.org/


ともあれ、2030年のエネルギーを考える前提としての経済成長率の想定に、政府が掲げている「成長戦略が実現した場合の高いケース」、それよりは低めの「慎重ケース」のほかに、「真の慎重ケース」としてゼロ成長のケースが入ったことは、今回のエネルギーの議論にとどまらず、大きな一歩ではないかと思っています。


前回の委員会、最後に時間切れになりそうだったとき、「夢に基本問題委員会が出てくるほど、青春を捧げて、資料を準備しているので(説明させて下さい)」と手を挙げて笑われましたが、本当に夢の中でも三村委員長とお話ししていたくらい(^^;)、精いっぱいがんばっています〜。

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