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エダヒロ・ライブラリー環境メールニュース

2012年07月18日

雑感 「意見聴取会」〜「過去と未来が出くわしている場面」〜「平時から対話を」〜「リーダーとして国民との対話を行う名人」 (2012.07.18)

エネルギー危機
新しいあり方へ
 

★★★雑感その1★★★

政府のエネルギー・環境会議がエネルギー政策について全国11箇所で開催中の意見聴取会で、地元電力会社の社員が原発推進の意見を述べてもめていますね。

意見聴取会は、2030年時点の原発依存度を0、15、20〜25%とする政府の3つのシナリオについて、3人ずつ計9人が応募者の中から無作為で抽出で選ばれ、発言するというしくみのようです。

仙台市で開かれた意見聴取会では東北電力の企画部長が、名古屋での意見聴取会では中部電力の原子力部門の課長が、原発推進の立場で意見を表明したとのこと。

「やらせ」ではないかとの批判もあり、政府は「今後は電力会社や関連会社の社員に意見を表明させない」ことにしたそうです。

電力会社も、自社の社員が原発推進を主張したら世間はどう反応するのか、考えなかったのかな? あまりにもKY(空気読めない)なんだなあ、体質や考え方、社会との関係性も変わっていないんだなあ、と思いました。

報道によると「14〜16日の聴取会では意見表明への応募者の7割が2030年の原子力発電比率について0%を支持」しているということなので、原発ゼロ、15%、20〜25%の3つのシナリオのそれぞれに賛成する人を3人ずつ登壇させようとすると、「倍率」がずいぶん違うことになります。

もしかしたら、「20〜25%シナリオ」を推すのは電力会社の関係者ぐらいしかいないのかも、と思っちゃいました。だから、やらせじゃないけど、公正に無作為抽出しても、結果的にそうなっちゃうのかも。(^^;

★★★雑感その2★★★

最近の新聞の見出しをざーっと眺めていると、2つの大きな流れがぶつかりあっているようすが感じられます。一方で、原発再稼働の話があり、原発が必要だという論陣の懸命の力説が載っています。

もう一方で、省エネ技術の進展やその商品化もどんどん発表されています。また、特に固定価格買取制度の導入発表以来、日本全国で自然エネルギーの計画や実績がぞくぞくと出てきています。「日本ではありえない」と長らく切って捨てられていたメガソーラーだって、各地に誕生中!です。

太陽光発電の広がりと共に、保険会社がメガソーラー事業者のリスクに対応する「メガソーラー総合補償プラン」の販売を開始したり、太陽電池の信頼性保証体制に関する新規格ができたりしています。新しい産業が生まれていくって、こういうことなんだなあ!とわくわくしながら眺めています。

もちろん、太陽光にしても他の自然エネルギーにしてもカンペキで問題ゼロ!というものはありませんから、普及しながら、問題を解決する技術や商品・サービスが生まれつつ、産業としても進化していくのでしょう。

こういった「一方では」「他方では」というニュースが混在している報道を眺めながら、思い出すことがあります。2003年10月に出したメールニュース[No. 906]で紹介している「レスター・ブラウン講演会録」にある、レスターの話してくれたエピソードです。引用しましょう。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ここから引用〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

私には息子がいるのですが、電話で時々話をします。この前、電話がかかってきまして、こんな話をしてくれました。テキサスの西部を車で走っていたそうです。ハイウェイを走っていたのですが、ある場面に遭遇した、と。

テキサスでは最近風力発電が非常に盛んで、たくさんの風力タービンが回っています。そして、水平線のずっと見渡す限り風力発電という素晴らしい眺めに出くわしたそうです。その一方、同じ地帯に油井もたくさんありました。

片方では風力発電のタービンが回っている、すぐ隣には、石油を汲み上げるポンプが上下している。息子はカメラを持っていなくて非常に残念だと言っていました。そこはちょうど未来と過去が出くわしているような場所だった、できたらそれを撮っておきたかったと言っていました。

そこで私は息子にこう言いました。また30年後に同じところを訪ねてごらん、と。30年後、風力発電所はきっとあるだろうけど、きっと石油の油井はないだろう。それが将来の姿だよ、と。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜引用ここまで〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

「未来と過去が出くわしている場面」に私たちも立ち会っているのですね。過去の勢力はいつまでも「現在」でいたがるでしょうし、そのためにいろいろな働きかけをするでしょうけど、過去は必ず過去になります。

そして、未来はある日風のようにやってくる……ということはなくて、地道な一歩一歩の積み重ねで創り上げていくものでしょう。未来に向かっての道を拓こうと(省エネ技術の開発でも、自然エネルギーの普及でも、新しい地域づくりでも、それがどんなことでも)これまでもがんばってこられた方々のおかげであり、その努力ができるだけ早く未来を生み出せるよう、私たち一人ひとりができることを考え、やっていきたいなと思います。

★★★雑感その3★★★

冒頭に書いたエネルギー政策についての意見聴取会をはじめ、「エネルギー基本計画を作るための国民的議論」が展開されています。6月末に選択肢が示されてから、パブリックコメントは7月末までとされていたのが「あまりにも短すぎる」と批判を受けて、8月12日まで延び、それまでに、政府としても初めての試みである「討論型世論調査」も開催されます。

今回、3.11を受けて、エネルギー基本計画を作り直すことになり、そのプロセスに国民的議論が必要、ということで、このような取り組みが進められているわけですが、「有事は平時の備えにあり」と思うのですよねぇ。

何かあってから、それまでほとんど考えたこともやったこともない“国民的議論”をやろうとしても、どうしたって時間も足りず、混乱しますよね。コトが起こってからではなく、平時から、政策について国民と議論する場とプロセス(やり方)を作っておかなくてはね。

そう思うたびに思い出すのは、数年前の「サステイナブルスカンジナビア Vol.9 (季刊ニュースレター 2004.06.01 発行)」に載っていた記事です。転載の許可をいただいていましたので、一部、引用しますね。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ここから引用〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

スカンジナビアの高福祉社会を作り上げるにあたって重要な役割を果たした技術(スキル)は、徹底した情報公開と、その情報をもとにした「対話」です。高福祉社会を現実のものにすることができた背景には、経済の成長や人口規模といった要素があるかもしれませんが、それよりも、開かれた政治と「対話」をもとにた参加型の行政施策をじっくりと進めた結果ともいえるかもしれません。

●「対話」することの大切さ
(カルマル市の高齢者福祉の取り組みに学ぶ-衣笠-茂(大分大学教育福祉科学部助教授)

カルマル市環境局のリンドホルムさんは、こんな話をしてくれました。「確かに、私たちは以前よりもよいサービスを手にすることができるようになりました。しかし、私たちはこれがベストだとは思っていません。私たちはさらに議論を重ね、よりよいものをつくり出すことができるはずです。

まず大切なのは話し合うこと。様々な立場にいる人が様々な意見を率直に出し合いながら、そこから新しい道を探り出そうとする「対話」の機会をもつことなのです。人が人と話し合うことのなかから何かが生まれ、それを分かち合うことができます。環境にしても、福祉にしても、それはこの『対話すること』から生まれた具体的な現象なのです。ですから、環境への取り組みやきれいな福祉施設だけにただ目を奪われるのではなく、私たちが何を考え、何について談論してきたのかを理解して欲しいのです」

私たちが北欧から学ぶべきことは、そこに生きる入がねばり強く積み重ね、そしてそのことによって自ら生活を、社会を形づくってきたこの「対話すること」の大切さなのではないでしょうか。こうした姿勢があるからこそ、福祉への取り組みや環境への意識が生活のなかに根ざし、生き生きと働いているように私には思われます。

まず私たち自身が「対話すること」を始め、そのなかから私たち自身の生活を、福祉を、社会を形づくってゆくこと-その必要性を強く実感させられた今回の研修旅行でした。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜引用ここまで〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

私は今回のエネルギーに関する一連の動きを「エネルギー・デモクラシー」にしたい、と思っています。

それは、「エネルギーについて、国民的議論も含めて民主的に決めていきたい」という思いと同時に、「今回のエネルギーを題材に日本の民主主義が本当に機能するようになれば」という思いです。

パブリックコメントは8月12日までで、8月中には今回のエネルギー基本計画が決まることでしょう。でもそれで終わりではありません。エネルギーについても、そのほかの政策や社会の問題についても、考え、議論し、政策を作り、必要があれば軌道修正をしつづけていく必要があります。

今回のエネルギー政策をめぐる国民的議論のさまざまな場面やプロセスは、不幸にも3.11があったから工夫されたのだと思います。今回でパーフェクトに私たちが思うようなプロセスにはならなくても、国民的議論の場を求め、プロセスをよりよいものにしていく手伝いをしていくこと。これも私たち一人ひとりの役割だと思うのです。

★★★雑感その4★★★

国民的議論を経て、国として原発比率を含め、日本の今後のエネルギーの方向性を決めたら、今度はそれをリーダーとして国民に伝える段階になります。

全員一致、ということはないので、国として選んだ選択肢を望まなかった国民もいることでしょう。そういった人たちも含め、「なぜこの選択をしたのか、それはどういう意味があるのか、それによって、どういう日本を創っていこうと思っているのか、国民に望むことは何か」を伝え、理解してもらい、できるだけ多くの国民の理解と支援を得て、政策を進めていくことになります。

野田首相は、国民的議論も政府としての判断もまだこれからという段階で、「原子力発電はこの夏の電力確保のためだけではなくて、社会全体の安定と発展のために引き続き重要だ」と発言して大飯原発の再稼働を決めてしまった人です。この「決まったあとの国民への説明」をどのようにされるのか、ぜひ注目しましょう。

こういった点でのリーダーのモデルとして、思い出すのは米国大統領だったルーズベルトの話です。私たちが翻訳したピーター・センゲ著『学習する組織――システム思考で未来を創造する』から引用します。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ここから引用〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

このような洞察を提供するリーダーの類まれな例が、一九三三年三月一二日にラジオに出演して四日間の「銀行休業」について説明したフランクリン・ルーズベルトである。

恐慌のさなかに、ルーズベルトは穏やかな調子で、銀行のシステムがどのように機能するかを、構造的に説明した。「皆さんが銀行にお金を預けたとき、銀行はそのお金を貸金庫に入れるわけではない、という単純な事実を述べさせてください。銀行は皆さんのお金を数多くのさまざまな形のクレジット――債券や不動産――に投資するのです。つまり、銀行は皆さんのお金を動かして、車輪を回し続けるわけです……」。

ルーズベルトは、どういうわけで銀行には準備金の保持が必要なのか、だがあちこちで預金の引き出しが行われると、どのようにしてその準備金が不十分になるのか、そして、秩序を回復するためになぜ四日間の銀行休業が必要なのかを説明した。

そうすることで、ルーズベルトは、過激だけれども必要であった行動に対する国民の支持を生み出し、国民との対話を行う名人としての名声を手に入れたのである。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ここから引用〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

日本の首相や政治家たちにも「国民との対話を行う名人」がいっぱい生まれてほしいし、政治家の資質・スキルとして「国民との対話がじょうずにできるか?」も数えられるようにならなくてはいけないですね。(つまり、そういうことも評価して、私たち市民が政治家を選ぶ、ということです)

ちなみに、『学習する組織――システム思考で未来を創造する』は、特に組織の経営層・経営企画や人事部をはじめ、世界中で広く読まれている「バイブル」の1つで、日本語訳も刊行後、増刷を重ねています。よかったらどうぞー。

『学習する組織――システム思考で未来を創造する』
ピーター M センゲ (著)
枝廣 淳子 (翻訳), 小田 理一郎 (翻訳), 中小路 佳代子 (翻訳)

世界で100万人以上に読まれ、20世紀の経営を変えた戦略書の一つとして評価されるピーター・センゲの『The Fifth Discipline』の2006年刊の増補改訂版です。企業、学校、地域コミュニティ、社会課題やそれを乗り越える、さまざまな実践事例や新たな洞察が書き加えられました。実践からの振り返りと組織の未来への考察などは、企業や地域などで「変化を創り出す」ことをめざしている方々に、ぜひ読んでいただきたい書です。

ついでのお知らせで、本日の雑感シリーズを終わります〜。

> 【残席わずか】2012年7月20日・21日東京で「学習する組織リーダーシップ研修(第14期)」開催します

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