現在国民的議論が展開されている「エネルギーに関する選択肢とそれぞれの意味するもの」について、ポイントを解説した動画解説シリーズ(2)をアップしました。
http://www.youtube.com/watch?v=DgTPeqrjmFo&feature=youtu.be
・どのような選択肢なのか?
・温暖化への影響は?
・経済への影響は?・原発を新増設する必要は?
・未来世代への影響は?
・短期的な影響 vs 中長期の日本の姿
ぜひご覧ください。またシェアして広げていただけたらうれしいです。
解説で使っているパワポ資料はこちらにあります。政府が選択肢と共に出している情報以外にも、「新増設の必要な原発の数」「新たに発生する高レベル放射性廃棄物(ガラス固化体)の本数」など、シナリオごとに計算した表もあります。
ダウンロードして使っていただけたらうれしいです。こちらからどうぞ。
http://www.es-inc.jp/news/video_2_2.pdf
基本問題委員会での争点の1つは「選択肢によって想定される2030年時点のGDP」の違いは大きいか、小さいか、ということでした。事務局資料では「その差は大きい」というニュアンスだったので、私が「その差はあまり大きくない」と発言すると、強い反発の意見を受けました。結局、それは価値判断の問題なので、ということで、大小は書かず、数字だけを挙げる、ということで落ち着きました。
今回の動画解説では、この「選択肢によって異なる2030年時点の想定GDP」を、「想定GDPがいちばん小さい(=経済への影響がいちばん大きい)と考えられている原発ゼロシナリオでいった場合、想定GDPがいちばん大きい20〜25シナリオでの2030年時点のGDPに到達するのに、何年余計にかかるか?」を計算して、示しています。
4つのモデルで見ると、「1年後」「2年後」「2年後」「7年後」でした。同じ規模のGDPになるのに、1〜数年遅れることが「大きい」と考えるか、「小さい」と考えるか? もちろんその他の条件が同じでしたら「大きい」かもしれませんが、この数年遅れることを是とすれば原発リスクがゼロにできるとしたら、その遅れはがまんできないほど大きいと言えるのかどうか?(その判断は各人が行うことになります)
以下、動画解説のテキスト版です。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ここから引用〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
動画解説シリーズ(2)「エネルギーに関する選択肢とそれぞれの意味するもの」
パワポ資料 http://www.es-inc.jp/news/video_2_2.pdf
枝廣淳子です。今政府から、3つのエネルギーの選択肢が出されています。どんな選択肢なのか、それぞれどんな意味があるのか、解説していきたいと思います。
では、政府から出されているエネルギーの選択肢について説明をしていきましょう。どういったものなのか。温暖化や電気代、経済への影響はどうなるのか。この先、新しい原発を造る必要があるのか。未来世代への影響、そして短期的な影響と中長期的な日本の姿を考えていくということをお話ししていきたいと思います。
これが3つの選択肢です。ゼロシナリオ、15シナリオ、20〜25シナリオ。それぞれシナリオの名前は、2030年時点の原子力発電の比率を表しています。ゼロシナリオは原発がゼロ、そして再生可能エネルギーが35%、火力が65%となります。
15シナリオは原発比率が15%、再エネ比率が30%、火力が55%。20〜25シナリオは、2030年の段階で原子力が20〜25%。これは2010年の実績値よりは確かに少しは減っていますが、かなり維持するというシナリオになります。そして再生可能エネルギーは25〜30、火力が50%となっています。
選択肢による温暖化への影響はそれほど違いはありません。ゼロシナリオと15シナリオの場合、2030年の温室効果ガスの排出量は1990年比23%のマイナス、そして20〜25シナリオは25%のマイナスとなっています。ゼロシナリオの場合、原発を減らす分、ほかよりも省エネと再エネに力を入れることになっています。
私たちの関心の大きなところである電気代ですが、どの選択肢にしても発電コストは上がります。現在より発電コストが上がるのは、化石燃料が今後値上がりしていくこと、再生可能エネルギー普及のため、そして送電網の整備などのコストが加わるためです。ゼロシナリオは、ほかよりも化石燃料を増やし、再生可能エネルギーを増やしていくため、発電コストもやや高めに出ています。
系統対策コスト。これは再生可能エネルギーを導入するための送電網などの整備ですが、また省エネ投資はゼロシナリオのほうが、ほかのシナリオよりも大きくなっています。たとえば北海道や東北など、風況の良い所で風力発電をしても、送電網がなければ電力消費地である東京や都会に持ってくることができません。こういった系統対策コストが必要になってきます。
この5.2兆円もしくは3.4兆円がどれほどのものなのか。これは2030年までの18年間の累積ですから、18年で割って、それぞれ電気料金への上乗せ分として計算をしてみました。およそ1キロワット時、ゼロシナリオの場合は0.4円、ほかのシナリオの場合は0.2円となります。月300キロワット時使っている平均的な世帯の場合、ゼロシナリオはほかのシナリオに比べて、月に60円ほど負担が大きくなることになります。
このように、当面のコストはゼロシナリオのほうが増えいきますが、省エネによる節約額も大きくなるし、エネルギー自給型また低炭素型の社会に変わっていくことができます。
また、多くの方が関心を寄せている経済への影響。2030年時点でのGDPの予測。これは経済モデルによって異なりますが、傾向として、原発比率の低いほうがGDPの増え方が減ります。
この数字がどのような違いなのか。これをわかりやすくするため、それぞれのモデルごとにゼロシナリオでの経済成長が続いた場合、20〜25シナリオの2030年時点でのGDPの規模に到達するために、何年余計にかかるかを計算してみました。1年から7年遅れるという結果です。
政府の選択肢に関する資料は、大体このようなものですが、市民とのエネルギーに関する話し合いの中で、「こういった情報も知りたい」とよく挙げられたものがいくつかあります。それについて説明をしていきましょう。
まず、新増設の必要な原発の数です。ゼロシナリオの場合は新増設はゼロですが、15シナリオの場合、原発稼働率を70%で計算すると、2030年までにも3基の新増設が必要になってきます。そして2050年までは20基、2100年までは40基と、新増設が必要になります。20〜25シナリオの場合は、2030年までに9基、2050年までに27基、2100年までには54基の新増設が必要となります。
原発稼働率をたとえば80%で計算すると、15シナリオの場合、2030年まで0基という計算になりますが、実際に2001年〜2010年の平均の原発稼働率を見ると70%を切っています。
また、多くの方が関心を寄せていたのが、未来世代に核廃棄物を残してしまうということです。新たに発生する高レベル放射性廃棄物、いわゆるガラス固化体がどれほどなのか、計算してみました。
こういった核廃棄物の最終的な処理方法は開発されていません。最終処分地も、日本では決まっていません。従って未来世代に委ねることになります。しかも、高レベルの放射性廃棄物は数万年の管理が必要といわれています。
ゼロシナリオの場合、2030年までは再稼動する原発の数によって新たに発生する高レベル放射性廃棄物の量は変わりますが、2030年以降は原発はゼロになりますから、その先、高レベル放射性廃棄物が増え続けることはありません。しかし、15シナリオ、20〜25シナリオの場合は、それぞれこの表に出ているように、どんどん未来世代に委ねなくてはならない高レベル放射性廃棄物が増え続けることになります。
もう1つ、多くの方が関心を寄せているのが、原発事故のリスクです。特に日本は地震が頻発する地帯に位置しています。この地図は、原発が立地している所と、大きな地震の震源地を合わせたものです。日本は震源地と原発立地が重なっていることがよくわかります。地震が頻発する地域で原発を造っているのは、日本と台湾とアメリカの西海岸の一部だといわれています。
実際に日本ではどれぐらいの地震が起こっているのでしょうか。気象庁の発表によると、この10年間、日本付近で起きた被害地震のうち、マグニチュード6以上は35回。そのうち14回はマグニチュード7以上という結果が出ています。そして今後30年間に震度6以上の揺れに見舞われる確率も、この日本地図を見ていただくとわかるように、かなり大きな確率を予測せざるを得ません。
今回の選択肢の議論は、2030年という断面で切り出していますが、日本社会は、当然ながら2030年以降も続きます。ですから、2030年までの短期的な影響とともに、その後の中長期の日本の姿を考え合わせる必要があります。
ゼロシナリオは、短期的には再エネを普及するのにコストがかかりますし、十分に再エネが普及するまでは、火力発電に頼ることになりますから、火力のコストもかかります。このように、経済的なコストという面で、ゼロシナリオは短期的に影響を受けるということになります。また、原発がゼロになるまでは事故リスクも残ります。
しかし、短期的に再エネに投資をすることで、中長期的には原発を止めることができ、原発事故のリスクや不安がなくなりますし、未来世代に残す負の遺産、つまり核廃棄物を増やし続けるということもありません。再エネが普及し、エネルギー自給型の社会に近づくでしょう。また、再エネが十分に普及すれば火力も減らしていきますから、化石燃料のコストや輸入リスクも減らしていくことができます。
それに対して15シナリオまたは20〜25シナリオは、短期的には再エネや省エネ、火力のコストは少なめで済みます。しかし、原発を動かし続けますから、原発事故のリスクは抱えることになります。中長期的にも、再エネ、省エネ、火力のコストは少なめで済みますが、原発を稼働し続ける限り、原発事故のリスクや不安が続くと同時に、未来世代に残す負の遺産、核廃棄物も増え続けることになります。また、原子力発電の燃料であるウランのコストや輸入に関するリスクも負うことになります。
選択肢によって、将来世代に残すものが変わるということを、今、選択しようとしている私たちは考え合わせる必要があるのではないでしょうか。今回の検討の時間軸は2030年まで。そこだけ切り出せば、たとえば再生可能エネルギーは不安定でコストが高いと言われます。しかし、もっと時間軸を延ばして50年、100年、1000年と見ていけば、再生可能エネルギーが十分に普及すれば、エネルギーが自給でき、有限な資源に頼らない電力供給ができるようになるでしょう。
それに対して、火力発電を使い続ければ、調達のリスク、コスト、地球温暖化、また原子力発電を使い続ければ、事故のリスク、被害、放射性廃棄物。これが常に残っていくことになります。
最後に、どのシナリオでも、社会として議論していくべきことがあります。たとえば再生可能エネルギーの開発・普及のためのコスト負担をどうしていくのか。また、脱原発依存に伴う原発立地地域の地域産業や雇用の転換をどう図っていくのか。核廃棄物の処理方法および最終処分地をどうするのか。これは、それぞれ力を入れるシナリオごとに、その重要性は変わってきますが、どのシナリオであっても必ず議論し、国全体での負担や推進策を考えていく必要がある。こういった社会の議論の命題となってきます。
経済的な影響だけではなく、未来世代に残す影響、そしてどのような日本の未来をつくり出したいのか。それを今の私たちの選択が形づくっていくということを意識し、ぜひ選択肢について考え、議論し、選んでいただきたいと思います。
エネルギーの選択肢について解説をしてきました。ぜひ一人ひとりで考えて、ご自分の思いや考えを、パブリックコメントを通して政府にも届けてください。パブリックコメントは8月12日まで、政府のホームページからも投稿できます。一人ひとりが考えて、そしてこれからの日本とエネルギーについて変えていくこと。これが今、一番大事なことだと思います。
(参考:パブリックコメントの提出についてはこちらから)
http://www.sentakushi.go.jp/
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今回の政府の選択肢の策定については、「議論・提示されていること」だけではなく、「議論・提示されていないこと」もあわせて考えていくことが大事だと思っています。
政府の資料にはないけれど、選択するために大事な知るべきことは何だろう?
そういう視点でも、ぜひ選択肢を見て下さい。自分の動画解説では、私にとての「政府の資料にはないけれど、選択するために大事な知るべきこと」を追加してあります。
少しでもご参考になればうれしいです。