「エネルギー・環境に関する選択肢」に対するパブリックコメント、もうじき締めきりとなります。8月12日(日)18時まで(郵送の場合は必着とのこと。ご注意下さい)。ぜひお考えや思いをお伝え下さい。
http://www.npu.go.jp/policy/policy09/pdf/20120702/20120702.pdf
全国11箇所での意見聴取会、パブコメと並んで、国民的議論の1つの柱とされている「エネルギー・環境の選択肢に関する討論型世論調査」も実施されました。
https://www.kokumingiron.jp/dp/
電話世論調査は、7月7日〜22日にかけて6,849名を対象に行い、討論フォーラムは、8月4日、5日の2日間にわたり、286名(男性192名/女性94名)の方に全国からお集まりいただき、慶應義塾大学三田キャンパスで開催しました、とのこと。
こちらのウェブに使用された資料やアンケートのすべて、討論フォーラムの映像がすべてあります。
https://www.kokumingiron.jp/dp/
エネルギー・環境の選択肢に関する討論型世論調査 使用資料
・討論資料
・電話世論調査質問紙
・討論前アンケート用紙
【討論フォーラム】
●8月4日(土)
荻本和彦:東京大学生産技術研究所 特任教授
高橋洋: 富士通総研経済研究所 主任研究員
山口彰: 大阪大学大学院工学研究科 教授
吉岡斉: 九州大学副学長同大学比較文化研究院 教授
●8月5日(日)
枝廣淳子:幸せ社会経済研究所 所長
崎田裕子:ジャーナリスト・環境カウンセラー
田中知: 東京大学大学院工学系研究科 教授
西岡秀三:地球環境戦略研究機関 研究顧問
■討論フォーラムスケジュール
8/4(土)エネルギー・環境とその判断基準を考える
#1 14:00〜14:50 全体説明会・討論前アンケート
参加者の方に、討論フォーラムのプログラム等の説明を行い、討論前のアンケートにお答えいただきます。
#2 17:15〜18:45 全体会議Ⅰ
グループごとにまとめた質問に、パネリストから2分以内で回答をしていただきます。
8/5(日)2030年のエネルギー選択のシナリオを考える
#3 10:50〜12:20 全体会議Ⅰ
グループごとにまとめた質問に、パネリストから2分以内で回答をしていただきます。
#4 12:20〜13:00 討論後アンケート・全体説明会
討論後のアンケートにお答えいただき、討論フォーラム後の案内を行います。
私は討論フォーラムの2日目の全体会議にパネリストの一人として登壇しました。
その直前に90分間行われていた小グループでの討議をあちこちのグループを回って傍聴させていただいたときも感じましたが、全体会議でも「原発ゼロは果たして可能なのか?」をめぐって多くの質問が出されました。
私の登壇した全体会議の映像はこちらにあります。
討論型世論調査 討論フォーラム 8/5 (日) #3【全体会議II】エネルキー・環境の選択肢に関する討論型世論調査 討論フォーラム8/5 (日)【東京会場】#3 10:50〜12:20 全体会議II
http://www.ustream.tv/recorded/24478419
最初の一連の質問はずばり「ゼロシナリオはありうるのか?」でした。
今回の登壇者は(参加者に明示したわけではありませんが)私がゼロシナリオを支持、崎田さんが15シナリオを支持、田中先生が20〜25シナリオを支持、という顔ぶれだったので、「まずは枝廣さん、どうでしょうか?」とマイクが回ってきました。
(動画映像の7分ぐらいからです)私はこう答えました。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ここから引用〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
枝廣です。原発のゼロシナリオはあり得るか。そういったご意見をいただきました。私はあり得ると思っています。
このシナリオの選択肢を作る委員会に私自身入っていました。その時に、2030年きっかりにゼロ、そこでホールインワンのようにゼロにするという選択肢ではなくて、それは2030年より、願わくば前倒し、しかしいろいろな状況で――たとえば自然エネルギーがまだ十分広がりませんとか、いろいろな状況で後ろになったとしても、できるだけ2030年に近い段階でゼロにしたい、という意味でゼロのシナリオというのを作りました。
今回、国家戦略室から出される時には、「2030」というところで切られているようですが、思いとしては、できるだけ早く、2030年より前かちょうどか、少し後になったとしてもゼロにしたいというのが、ゼロシナリオを作った時の、私たちゼロに賛成している人たちの思いです。
そのためにどうしていくか。皆さんのグループで、もうそれぞれ議論されていたように、自然エネルギーを増やしていかないといけない。だけど、これまであまり力を入れてこなかったので、これから入れないといけない。ということで、すぐに立ち上がるわけではない。10年前からやっていたドイツだと、20%、30%になっていますが、日本はこれからなので、どうしても立ち上がりに時間がかかる。
しかし、その投資をちゃんとやって広げつつ、どうしても足りない部分は火力発電を増やさざるを得ない。それも天然ガスをできるだけ使って、二酸化炭素を出さない形で、火力で息継ぎをしながら原発を減らして、再生可能エネルギーを増やしていくということだと思います。
私は、原発ゼロのシナリオが実現できた社会というのは、原発の事故の心配もないし、核廃棄物という、未来世代にツケを残すという罪悪感を持つこともない。自然エネルギーでやっていく、それは地域でそれぞれ、分散型になるので、地域の雇用とか産業にもつながるし、そして輸入しないといけない化石燃料も、この後は減らしていける。ということで、私は、日本の国が今よりもずっと安全で安心で幸せな国になると思っています。
ただ、そのためには、減らしていくための、いろいろやっていくべきことがあります。廃炉だって、これから技術を開発していかないといけないし、それからこれまでは、再処理をするということで、青森ほか、いろいろな所と取り決めをしていた。それをゼロにするとしたら、もう一度そういうところも話し合いをやっていかないといけない。
自然エネルギーを増やしていくのに力を入れつつ、いろいろな所とこれまで約束してきたことを反古にはしない、はしごを外さない。原発立地地域もそうですよね。国策を受け入れてくれて、頑張ってきてくれた。それを、はしごを外すんじゃなくて、じゃあ、ゼロに向かっていくんだったら、代わりにどういう産業をやっていくのか。それは、国も私たち国民も、みんなでやっていかないといけない。
そのゼロに向かっての工程は、たくさんやらないといけないことはありますが、本当に3.11で私たちが学んで、原発ゼロの社会をつくりたいと--それがピンポイントで2030年にできるか、もうちょっと後になるかは別として--、方向性としてやりたいということだったら、私はできると思っています。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜引用ここまで〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
びっくりしたことに、この私の最初の発言が終わったあと、会場から拍手が起こりました。「できたら原発はゼロにしたい、でも自然エネルギーやいろいろな状況から、無理だという人たちもいる。どうなのだろうか?」という思いの方が多いのだなあ、と感じました。
そのあとも、いろいろなご質問に、司会者の指名に応じて(自分で手を挙げることもありましたが。^^;)できるだけ思いと意見を伝えようとしました。
質問自体に思いやニュアンスが入っていますので、そちらは映像で見ていただくとして、私がお答えしたことから引用します。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ここから引用〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
(2)
ありがとうございます。どのシナリオを選ぶにしても、かなり私たちの生活や暮らしを変えざるを得ないですね。お手元の資料にあったように、どのシナリオにしても電気代は上がってしまう。発電コストは上がってしまうわけです。そういった意味で言うと、どのシナリオにしても、覚悟をして選んでいく必要があると思っています。
特に、ゼロシナリオがほかのシナリオと違うのは、原発をゼロにするために、まずエネルギーの消費量自体を、ほかのシナリオよりも減らしています。そういう意味では、パチンコとかテレビを消すという話がありましたが、まさしくそれがその通りで、省エネにもっと力を入れていかないといけないということです。
ですから、ゼロシナリオはほかのシナリオよりももっと省エネに力を入れて、必要なエネルギーそのものを減らしますということが、シナリオの中に入っています。
その上で原発をゼロにするので、エネルギーはあと2種類しかないんですね。再生可能エネルギーか火力しかないです。火力は、CO2を出すし、海外から輸入だし、日本のお金が外に出ていってしまうので、これはできるだけ小さくしていくことが大事ですが、しかし、先ほどお話ししたように、自然エネルギーは今、水力を入れても10%ぐらいしか、日本の場合はないので、これから一生懸命力を入れていくことになります。
ちなみに、固定価格買取制度が入ってから、日本では原発2基分の太陽光発電がもう設置もしくは設置される計画になっています。ですから、大きくいろいろな措置をしていけば、私は変えていけると思いますが、いかにしても、すぐに立ち上げるわけにはいかないので、足りない分は火力になります。
火力は輸入コストがかかるので、そういった意味で、ゼロシナリオのほうが、ほかのシナリオよりもコストが高めに出ているのはその通りです。ただ、省エネをしっかりやっていくということは大切です。
ゼロシナリオのプラスとマイナスというお尋ねでしたが、世界的には再生可能エネルギーの方向に行っています。たとえば技術開発とか雇用とか、そちらにもう生まれるという構造に切り替わりつつあります。ドイツが、3.11の後、いち早く脱原発を決めましたが、あれもそのほうが経済的にプラスだと、産業界の人たちも今はそれを応援しているぐらいなのです。
ですから、そういった意味で言うと、当面大変かもわからないし、私たちの負担も必要になってきますが、しかし、再生可能エネルギーの技術や商品を海外にも展開していくことができます。また、何よりも、原発や火力と違って、再生可能エネルギーの雇用は、太陽光パネルを造るのは海外としても、設置したりメンテナンスは国内なんですね。ですから、国内の雇用を増やすことにつながります。ドイツでも、何十万という雇用が自然エネルギーで増えています。
ゼロの場合のマイナスは、経済的なデメリットです。今言ったように、ほかのシナリオよりも、当面、再生可能エネルギーの支援策と火力発電が増えてしまうということで、電気代が上がります。それは私たちにとって少しずつコストになる。
しかし、それはコストというよりも、私は投資ではないかなと思うのです。今、その投資をすることで、何十年か先の日本が、原発の事故の心配もなく、外から輸入する火力発電の原材料も減らしていけるのだったら、それは未来に対する投資であると。
ですから、もちろん電気代が上がって大変だというのはあると思う。しかし、その電気代の、ほかのシナリオと比べての上がり方を見たときに、それは将来の投資として考えることができないか。そんなふうに見ていただければと思います。
(3)
シナリオに対して、選択肢に対して不信感があるというのは、きっとそうだろうなと思います。作り方もそうですし、この討議の位置づけも含めて。
今、崎田さんがおっしゃったように、シナリオの数をあまり増やすと議論がしにくいということで、減らす方向で事務局からも言われて、最終的には3つシナリオになりましたが、しかし、その後の議論を見ていると、「ゼロシナリオが2030年で無理だとしたら、じゃあ、15シナリオしかないのか」というふうに話をされているところがすごく多くて。
私はゼロシナリオに賛成しましたが、そのゼロシナリオに賛成した人たちも、先ほど言ったように、2030年に絶対ゼロかというと、遅れる可能性はあると思っていました。たとえば2040年にゼロになるとしたら、2030年で切ったら、2030年の原発比率は1桁だったんですよね。
ただ、その方向性ということで、3つに絞るということで、「それだったらゼロ」と賛成している人たちもいます。ただ、「ゼロが2030年で無理だったら、じゃあ15しかない」という今の議論の方向性を見ていると、頑張って「2030年に原発比率1桁」という選択肢を残しておけば良かったなというふうに思います。
そういった形で作られているので、崎田さんがおっしゃたように、今出ているシナリオから選ぶというよりも、これを1つのたたき台として、「こういうシナリオのほうがいい」とか、「これだと選びようがない」とか、そういう意見も含めて声を届けていただくのがいいと思っています。
先ほどの方の質問でお答えしたかったのは、「政権が代わったら」という話があって、確かに、政治家が何か言っても政権代わったらというのは、日本では残念ながらしょっちゅう起こっていますが。
たとえば、お勤めの方だったらおわかりのように、省エネ法というのがありますよね。これは、工場で年1%ずつエネルギー効率を高めるというものです。それは、政権が代わっても、法律ですからずっと続いているわけです。
そういう意味で言うと、今回決めたことが、たとえば「○○法」という形で法律になる、もしくは基本計画として、政権が代わったとしても続けられるものになるとしたら、それは政権が代わっても、またポイと捨てるということはないと思います。
(いま提案された)原発を年率1%ずつ減らしていくというのは、すごくいい案で、省エネ法も1%ずつ減らすということだけを決めて、やり方は各工場に任せるというやり方をしている。その時その時で状況は変わってくるので、どうやって1%減らすかは、その時その時で考える必要があるけれど、方向性としてはそうやって減らしていく。そういうシナリオというか考え方は、おおいにアリではないかなと思います。
(4)
うれしい質問をいっぱいいただきました。
省エネ関係、それから再生可能エネルギー関係で、今ほんとに技術革新が進んでいます。世界でも進んでいますが、日本も非常に頑張って、いい技術をたくさん作っています。
蓄電池ということで言うと、日本のNAS電池というのは世界で引く手あまた、日本でしか作れないという素晴らしい商品もありますし、それから、今、普及が進んでいる電気自動車。あれも走る蓄電池ですので、蓄電池としても使っていける。
それから、送電ロスをなくすために、交流ではなくて直流のまま送ろうとか、直流のまま使える製品とか、いろいろな形で進んでいます。送電ロスを減らすのに一番いいのは使う近くで発電することですね。ですから、どこか遠くで発電して、それを持ってくるというのではなくて、それぞれの地域で、もしくはわが家で発電する。そうすると送電ロスが一番小さくなってきます。
恐らく、2030年はちょっと無理としても、2050年ぐらいになれば、これは西岡先生の所で計算された、私も入っている委員会での数字ですが、家庭でのエネルギーは、少なくても省エネ技術とか断熱で半分にできる。残った必要な半分は自分の家で発電できる。で、ほとんど家庭からはCO2が出ないぐらい、家庭は変えていける。ただ、産業界は大量の電力が、エネルギー必要なので、それはそれで別の手当てが必要になりますが。
技術ということでもう1つ大事なのは、省エネというと、どうしても私たちの根性に頼る、気合による我慢する省エネというのがまず前面に出ちゃうんですね。
日本は、ほかの国に比べると、ほんとに省エネ頑を張っていて、家庭でのエネルギー消費量が少ないのです。まだまだやる余地があるので、私たちも頑張る必要がありますが。ただ、技術が進んでくると、我慢しないで、知らないうちに省エネというのが可能になります。
たとえば、今、これから日本でも入ってくるスマートグリッドとか、そういう形です。実際、アメリカでもうやっているのですが、その契約をした家庭は、1時間に10分ずつ、クーラーを自動的に切るそうです。それでピークを落とすんですね。10分クーラーを切っても、ファンは回っているので、その家の人はほとんど気がつかないらしいです。
そんな形で、私たちが汗かいて我慢してクーラー止めるのではなくて、技術の力で省エネが自然にできるような社会に、これから向かっていくというのが1つ。
それから、もう1つは、私たちの意識改革という話がありました。先ほどのパチンコ産業の話もそうですが、私たち、省エネのためとか、エネルギーのために生きているわけじゃないですよね。私たち、幸せになりたいと思って生きているんだと思います。その幸せをつくり出すのに必要なエネルギーを、今よりも少なくてもできませんか、という話だと思います。
なので、「幸せ/エネルギー」ということを私はよく言うのですが、同じ幸せをつくるんだったら、エネルギー減らしましょう。同じエネルギー使うんだったら、幸せを増やしましょう。どっちでもいいですし、その余地はたくさんあります。
そう考えると、つらい省エネとかマイナスのイメージというよりも、エネルギーを減らしつつ、私たちの笑顔とか幸せを増やしていくにはどうしたらいいか。その技術もあるし、やり方も今、いろいろ出てきていると思います。
最後に1つ。自然エネルギーのポテンシャルについてのご質問があったと思いますが、これは、環境省が去年だったかな、出した自然エネルギーのポテンシャルを測った調査があります。
日本には、福島原発の事故前、54基、原発があったのをご存じだと思いますが、日本にある再生可能エネルギーをすべて使うことができると、「原発580基分」のエネルギーがつくれるというのが、その調査です。
ただ、コストが見合わない所も建てちゃうということですね。じゃあ、今導入されている固定価格買取制度が入った場合、コストが見合ってできるエネルギーは?という計算をすると、「原発40基分」というのが、その時の数字でした。
ですから、原発54基で大体30%発電していましたので、もし原発40基分できるとしたら、日本全体の25%ぐらいという計算になると思います。それは、固定価格買取制度を入れたらということなので、ほかのいろいろな施策を入れていけば、そしてもっといろいろな知恵と技術革新ができれば、私は、上乗せしていくことは、意思があればできるのではないかと思っています。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜引用ここまで〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
この討論型世論調査では、参加者は事前のアンケート、途中でのアンケート、最後のアンケートと、3回にわたって、選択肢に関する項目を含むアンケートに答えます。
通常の世論調査では最初の1回だけですが、小グループでの討議や全体会議での専門家との質疑応答を通じて、情報を得て、自分で考える、というプロセスを経ていくことで、どのように考えや意見が変わっていくのかを調べます。
2日目の朝、小グループでの討議を回ってみていたとき、「昨日パネリストはこう言っていたから」という声もよく聞かれ、専門家の意見が一定の影響を与えていることを感じました。(だからこそ、誘導にならないよう、ある質問に対しても異なる答えを提供する多様な専門家が登壇しています)
その場で質問を受けて、その場で(資料を調べる時間もなく)答える、という瞬発力/即興力の求められる登壇でしたが、少しでも参加者のみなさんや、動画映像などを見られるそのほかの多くの方々に伝われば、と願っています。