米国のCO2排出量が減り始めているとのこと。単なる景気後退に伴うものではなく、エネルギーシステムや経済構造が変わりはじめた結果ということは心強いなあと思います。まだまだこれから!ですが、ウォッチしていくとともに、日本のCO2が景気変動と関係なく減り始める日が早く来るよう、力を尽くしていきたいと思います。
少し時間がたってしまいましたが、レスター・ブラウン氏から届いたプレスリリースを実践和訳チームが訳してくれていましたので、お届けします。
地球環境の現状など、全体像を知るためには、ぜひこちらのレスターの書籍をご覧ください。
『地球に残された時間 80億人を希望に導く最終処方箋』
レスター・R・ブラウン (著) ダイヤモンド社
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米国の炭素排出量が4年間で7パーセント減今後さらに大きな減少も
レスター・R・ブラウン
www.earth-policy.org/plan_b_updates/2011/update101
2007年から2011年にかけて、米国では石炭の使用による炭素排出量が10%減少した。同じ期間に石油でも11%減少しているが、それに対して天然ガスによる排出量は6%増えた。こういった動向の最終結果としては、米国の炭素排出量はこの4年間で7%減少した。しかもこれは、ほんの始まりにすぎない。
【グラフタイトル】米国のエネルギー関連の炭素排出量(1950〜2010年の実績および2011年の予測)【グラフ縦軸】炭素(100万トン)
石炭と石油の使用量が最初に減少しだしたのは、経済の落ち込みがきっかけだった。しかし現在は、これまでにない強力な働きかけによって、両方の使用量が減りつつある。石炭への主要な働きかけは脱石炭キャンペーンである。シエラクラブがとりまとめる、この一際目を引く全国的な活動には、人間の健康に影響を及ぼすという理由で石炭に反対する数百の地域的なグループが参加している。
まず最初にこの活動は石炭火力発電所の新規建設に激しく反対した。その成果は、新規火力発電所の事実上の凍結につながるほど大きなものであり、それを支えたのは、石炭を嫌う国民感情だった。世論調査では「石炭から電気を得たい」と考える人はほんの3%にすぎないことが分かったが、これは別に驚くべきことではない。
石炭発電所からの排気は小児喘息などの呼吸器疾患や水銀汚染の主な原因であるし、石炭の燃焼で亡くなった人の数は毎年1万3,200人に上る。これは、アフガニスタンやイラクの戦争で10年間に死亡した米国兵士の数を上回るのだから。
この活動は次の段階では、既存の石炭発電所を閉鎖することに力を入れている。合わせて492ある米国の石炭火力発電所のうち、68の発電所はすでに閉鎖が予定されている。
米国環境保護局(EPA)の現行および今後の大気汚染規制は、水銀や硫黄、オゾン先駆物質の排出に関して多額の費用を要する改装を求めているため、汚染物質を多く排出する老朽化した発電所の閉鎖は今後さらに増えるだろう。
8月には、国内で最も権威のある経済誌『アメリカン・エコノミック・レビュー』が石炭業界にとってとどめの一撃ともいえる記事を発表した。執筆者たちは、石炭燃焼による大気汚染物質がもたらす経済へのダメージは、石炭火力発電所が作り出す電力の価値を上回ると結論づけている。石炭は、気候変動によるコストを計上しなくても、費用便益分析では落第だというのである。
2011年7月に、ニューヨーク市長マイケル・ブルームバーグが脱石炭キャンペーンに5,000万ドル(約39億円)寄付すると発表した。同じ石炭の廃止を訴えるのでも、シエラクラブの最高執行役員であるマイケル・ブルーンと、同世代で最も成功したビジネスマンの一人、マイケル・ブルームバーグでは言葉の影響がまるで違う。
石炭発電所を閉鎖する動きが起こるのは、旧式の白熱電球が段階的に廃止されるのに伴い、今後照明にかかる電気使用量が急速に減っていくときである。2007年に制定されたエネルギー独立性及び安全保障法によると、100ワットの白熱電球は2012年の1月までに店頭からなくなるだろう。2014年の1月には75ワット、60ワット、そして40ワットの白熱電球も棚から消える予定だ。
エネルギー効率の悪い白熱電球を電球型蛍光灯やLED電球に取り替えると、照明にかかる電気使用量は80%減らすことができるだろう。そしてほとんどの切り替えが、数年のうちに行われることになる。
米国エネルギー省は家庭における一人当たりの電気使用量は、電球が取り替えられ、よりエネルギー効率の高い冷蔵庫や給湯機、テレビなどの家電製品が市場に出回るにつれ、今後10年間で5%減少すると予測している。
石炭発電所の閉鎖が続くなかで、風力や太陽光、地熱を使った電気の利用が急速に進んでいる。この4年間で、400カ所以上のウィンド・ファームが始動しており、800万世帯に電力供給するのに充分な、合計で2万7,000メガワットの電力を生産している。(データはwww.earth-policy.orgを参照。)計画中の風力発電はほぼ30万メガワットあり、これらも電力網への送電を予定している。
【グラフタイトル】米国の風力発電の累積設備容量(1980〜2011年:2011年10月現在)
【グラフ縦軸】メガワット
長い間、石油生産1位の州だったテキサス州は、今では風力発電による電力生産の首位である。テキサス西部とテキサス・パンハンドル地方の豊かな風力資源をテキサス中部とテキサス東部の大都市に運ぶ送電線が完成すると、この州の風力発電量は一気に跳ね上がるだろう。
風力発電の設備容量では、テキサス州の後には、アイオワ州、カリフォルニア州、ミネソタ州、イリノイ州が続く。州内の発電容量のうち風力による発電が占める割合では、アイオワ州が20%でリードしている。
ソーラーパネルによる発電については、米国では、合わせると約2万2,000メガワットに上る事業規模のプロジェクトが進行中である。そして、これには住宅への設置は含まれていない。
石炭火力発電所の閉鎖もまた、石油消費の削減に繋がっている。石炭消費が減少すれば、石炭を炭鉱から発電所へ輸送するのに使われる貨物列車のディーゼル燃料も40%近く減少するだろう。
実際に、石油消費量は米国ではこの4年間で急速に減少し、長期間続いていた右肩上がりの消費曲線が下がりはじめている。この理由には、国内の自動車保有台数の減少、新車の燃費の向上、自動車1台当たりの走行距離の減少などがある。
自動車保有台数は2008年の2億5,000万台がピークで、ちょうどこの年、廃車される車の数が新車の販売台数を上回った。経済の悪化以外に、現在、多くの若者が彼らの親世代ほど自動車志向をしなくなったことも、車の販売台数を落ち込ませている。
さらに、新車の燃費はすでに向上しており、今後も急速に向上するだろう。最新の燃費基準では、2025年に販売される新車は、2010年に販売された新車の半分しか燃料を使わないよう定められている。従って、年を追うごとに、米国の自動車はますます燃費効率を高め、ガソリンを消費しなくなる。
ガソリン価格が高くなり、景気後退が続き、公共輸送や自転車への移行が進んだため、1台当たり、車に乗る距離が落ちている。街が自転車専用道路を建設し、専用の自転車レーンを作り、歩道に駐輪ラックを設置するなど自転車のためのインフラを整備するにつれ、自転車が自動車に取って代わっている。ワシントンD.C.、シカゴ、ニューヨークなど米国の多くの都市が、自転車シェアリングプログラムを導入している。
さらに、人々が退職して通勤しなくなると、走行距離は1/3から1/2減少する。現在、非常に多くの団塊の世代が退職しており、これによってもガソリン消費が下がるだろう。
プラグイン・ハイブリッド車や電気自動車が市場に出れば、電気がガソリンに取って代わるだろう。ハーバード大学のマイケル・マッケルロイ教授による分析では、風力電気を利用した場合の運転コストは、1リットル当たり80セント(約16円)のガソリン並になるだろうという。
石炭火力発電所が閉鎖するにつれ、石炭燃焼による炭素の排出は一気に減少へと向かい、また、石油消費による排出量も急速に減少している。いずれの減少も天然ガスからの排出量の増加より速いスピードで進んでいることから、米国の炭素の排出量は減少へと進んでいる。
炭素の排出量は2007年にピークを迎えた後7%減ったが、私たちが今目にしている状況が続けば、減少幅は2020年には20%、もしかしたら30%まで拡大しうる。そうなれば、米国は炭素排出削減と気候の安定化において世界のリーダーになれるだろう。
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(翻訳:川嶋洋子 小坂由佳)
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