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エダヒロ・ライブラリー環境メールニュース

2012年11月19日

「過剰消費、時間、そして幸せ」ジョン・デ・グラーフ氏へのインタビュー (2012.11.19)

大切なこと
 

最近は、温暖化やエネルギー問題だけでなく、「幸せな社会づくり」「GDPに代わる指標」などをテーマとした講演依頼が増えています。以下の本を読んで、と声を掛けて下さる方もいてうれしく思います。そして、「人口減少時代に企業や地域はどう生き残るか?」というテーマもこれから増えてきそうです。

『GDP追求型成長から幸せ創造へ』
アラン・アトキソン・枝廣 淳子(著) 武田ランダムハウスジャパン 

こういうテーマに取り組んでいる幸せ経済社会研究所のサイトから、インタビューをお伝えします。私たちはなぜそんなにモノを買うのか?と「アフルエンザ」(消費伝染病)という言葉で問題提起をするなど、ずっと「過剰消費、時間、幸せ」という軸で活動してきたジョン・デ・グラーフ氏です(バラトンメンバーでもあります)。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ここから引用〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

ジョン・デ・グラーフ氏インタビュー
聞き手:枝廣淳子
http://www.ishes.org/interview/itv05_01.html

●過剰消費とひきかえに犠牲にされて来た、私たちの「時間」。

枝廣:今日はお時間をいただき、ありがとうございます。

ジョン:こちらこそ。

枝廣:まず、これまでのお仕事やご活動についてお聞かせいただけますか? どういった経緯で消費と社会と幸せについて取り組むようになったのでしょうか?話せば長いお話かもしれないので、いくつか選んでくださっても結構です。

ジョン:私はこれまで30年間以上、映画を制作してきました。映画を通して伝えたいことを表現するというのが私の活動です。そして1997年に、米国での過剰消費に関する『アフルエンザ』(消費伝染病)という映画を作りました。

その映画は、私がそれまで制作したなかで、最も多くの反響がありました。人々の共感を得たのです。みんな関心があったのですね。ですから、私はさまざまな場所での講演を依頼され、そのことにとても興味を持つようになりました。また、過剰消費という話題について人々が話す機会を作ることにも興味を覚えました。

そこから、私は過剰消費という問題について何かをしたくなりました。そして、それを「モノを消費すべきではないですよ。地球のために犠牲を払うべきです」と人々に対して言い聞かせるだけではない方法で行いたいと思いました。それではうまくいかないと思うからです。

その代わりに、私は、人々が過剰消費のために、今、何を犠牲にしているのかについて考えました。

少なくとも米国ではより多くの時間を犠牲にしていました。労働時間がますます長くなっていると確信したのです。人々は家庭生活や健康、環境などあらゆるものを犠牲にして、過剰に消費しています。

●より多くを消費するためにより長い時間働く、それは幸せになれない「時間の使い方」。

ジョン:そこで、私は「時間」の問題について取り組み始めました。「時間を取り戻そう」(Take Back Your Time)という団体を立ち上げ、「時間を取り戻す日」(Take Back Your Time Day)を実施しました。

すると、特に政策立案者が時間の問題についてあまり反応しないことがわかりました。というより反応しない人たちが多かったのです。彼らにとって、最大の問題の一つであるのに、何らかの真面目な方法で対処できることだと思わなかったのです。人生とはそういうものだとだけ思っていたのです。

そして、時間の問題について映画を作ったために、私はちょっとした「時間」の専門家になり、最近では少しやりやすくなりました。米国では、今でも、1年のある時期に、大体は夏ですが、『ニューヨーク・タイムズ』『ロサンゼルスタイムス』『ウォールストリート・ジャーナル』の各紙で毎年、米国人になぜ休暇の時間がもっと必要なのかについて話します。

2009年にブラジルで開催された国民総幸福(GNH)の会議でも講演の依頼を受けました。会議では、ブータンのGNH指標の9つの分野(注:心理的幸福、時間の使い方、コミュニティの活力、文化、健康、教育、環境的な多様性、生活水準、ガバナンス)が注目されていたので、私は「時間の使い方」の専門家として招待されたのです。

そのとき私は幸せに関する一連の問題に関心のある人々と会い、とても盛り上がりました。私は、「このモデルのほうが、人々は聞く耳を持ってくれるかもしれない」と言いました。

その後、ブータンで作られた調査を私たち向けに短縮されたバージョンを用いることで、それが本当だったことがわかりました。私はそれを使ってシアトルなど米国のほかの地域の人々を調査しました。例外なく最も低いスコアだったのは、全国どこでも、「時間の使い方」の問題だということがわかりました。

枝廣:なるほど。

ジョン:ですから私にとって、これらのことがすべてしっくりきます。あらゆるものが「消費しよう」というメッセージを発信しているために、人々は消費するという衝動に駆られているのです。

消費するためには、もっともっと働かなければなりません。働く時間を増やすと、人との関わり合いがおろそかになります。人との関わり合いこそが幸せにとって最も大切なことなので、感情の豊かさが失われます。つまりは悪循環なのです。

枝廣:そのとおりですね。

●映画『アフルエンザ(消費伝染病)』が米国で大ヒット

枝廣:そもそもジョンさんが過剰消費、つまり「アフルエンザ」に取り組もうとしたきっかけは何ですか?

ジョン:率直に言うと、私は頼まれたのです。

私は常に時間の問題に関心があったので、以前、時間についての映画を作りました。米国では余暇の時間が十分になく、社会として急ぎすぎだといつも感じていました。ですから1994年に公共テレビ放送で『仮邦題:時間が足りない』(Running out of Time)という、なぜ米国人にもっと休暇が必要かについての映画を作ったのです。

その映画は大きな成功を納めたので、『仮邦題:お金か、それとも人生か』(Your Money or Your Life)を書いたビッキー・ロビンがその映画の初上映に来ました。ビッキーは、映画が終わると、観客席から降りてきて、私の肩に手をのせるとこう言いました。「ジョン、あなたは過剰消費についての映画を作らなきゃ。お金の工面では私が力になれるわ」。私は「ビッキー、君はたった今、『魔法の言葉』を言ったよ。テレビ局に来て、この件について話しましょう」と言いました。

そして、ビッキー・ロビンが次に、持続可能な消費に関心のあるピュー慈善財団とつないでくれました。ピュー慈善財団は、過剰消費についてのアイデアを練るために私に少しの補助金をくれました。当初、私はこの映画を『仮邦題:モノに生きる』(The Goods Life)というタイトルにするつもりでした。しかし、映画を制作中に、「アフルエンザ」という言葉を思いつき、「これこそぴったりだ」と考え、映画の構成も新しく練り直しました。

枝廣:ほんとうにぴったりですね。

ジョン:そして、『アフルエンザ』は米国のテレビで大ヒットしました。アンディ・ウォーホルは、「誰でも15分は有名になれる」と言いましたが、『アフルエンザ』は私の「15分」でした。

枝廣: なるほど。日本でも有名になりましたね。

●米国における「景気」と「幸せ」の複雑な関係

枝廣:米国での時間の使い方、時間の問題、幸せなどそれに関連する問題についてどうお考えですか? 良くなったり、悪くなったりした変化は見られましたか?

ジョン:それについてはいろいろな考え方があります。はっきりしていることは、米国では感情の豊かさが失われているということです。

私の意見ですが、米国は、「誰も税は払うべきではない。経済成長を促すだろうから減税こそがあらゆる問題を解決する」という考えに取りつかれてしまったため、生活の質については非常に悪い方向へ向かっています。もちろん、それではうまくいきません。すべての問題が悪化してしまいます。公共のインフラ、学校、公共交通機関が荒廃します。米国ではこれらのことすべてがひどく衰退しています。

私は毎朝、約20分間かけて、テレビ局まで徒歩で通勤しています。その行き帰りに、以前は見かけなかったのですが、どの路地でも寝ている人たちを目にするようになりました。街角のいたるところに物乞いがいます。つまり、米国は第3世界の国になりつつあるのです。それがまさしく起きていることで、悲惨です。

一つだけ喜ばしい面はあります。誰もが何も持つことができなくなり、実は人口の80%の所得が以前よりも低下しているため、少ないもので暮らしていくことに何とか少し慣れ始めていかなければなりません。

また、不景気により労働時間も若干短くなっています。ですから米国では変わった現象が見られます。多くの人々にとって不景気は非常に辛いことなのに、実のところ多くの人々の健康状態が改善されているのです。

枝廣:興味深いですね。

ジョン:なぜなら人々の働く時間が短くなっているからです。以前のように、義務的な残業のようなものもありません。稼働している工場の数が減り、大気汚染も減っています。車を運転することも少なくなると、事故や大気汚染も減ります。

時間に少し余裕がある人々が増え、そうした人たちは運動をしています。支援が必要なため、社会的なつながりを持つ人も増えています。

ただ、この暗い状況でもこうした明るい兆しらしきものはありますが、見方によればあまり長続きしません。最初はいいのですが、長く続くと、失業など、こうしたさまざまなことの精神的な影響はとても大きく、健康な人の数はまた減り始めるのではないかと私たちは思っています。

時が経つにつれて恩恵は差し引きゼロになるであろう、社会の分極化や怒りやストレスも生み出されるでしょう。そうなると健康が損なわれます。

枝廣:そうですね。

●シアトルから広がる「幸せイニシアチブ」プロジェクト

枝廣:さて、これが最後の質問になります。ジョンさんは、幸せについてのイニシアチブの「サステナブル・シアトル」のプロジェクトに参加されていましたよね? 今後のプロジェクトについて、幸せや感情の豊かさの問題にどのように取り組む予定か、お話いただけませんか?

ジョン:ええ、私たちは、「シアトル地域幸せイニシアチブ」(Seattle AreaHappiness Initiative)と呼んでいたものを、今では、シンプルに「幸せイニシアチブ」(Happiness Initiative)と呼んでいます。なぜなら、今では米国全域や外国でさえもこのプロジェクトに関心を持つ人がいて、約1年半以上続いています。大きくなってからは1年経ちます。

私たちは、新しい短めの調査を作る予定です。カナダ人のチームがブータンの調査から抜粋して30分の調査を作り、ビクトリア(ブリティッシュ・コロンビア州)で初めて使用しましたが、私たちはその調査を実施しました。その短めの調査はインターネット上に掲載されています。7,000人以上が調査を受けました。たくさんの良いデータを入手しました。

スコアが最も低いのは「時間の使い方」ですから、調査が長すぎる、というコメントがたくさんありました。調査に回答する時間があった人たちにとってもスコアが最も低いのは「時間の使い方」でした。想像できますよね。そこで私たちは、10分程度の調査になるように、科学的な有効性も踏まえながら大々的に手を加え、前回の調査と同程度の科学的な有効性も確保しなければならないということがわかりました。

私たちは新しいウェブサイトを作り、人々にツールキットを提供し、調査の利用方法、結果について話し合うためのタウン・ミーティングの開催方法、調査結果を使ってあなたの市の報告カードを作成する方法を掲載する予定です。

この調査では、ブータンのGNHとギャラップ調査の分野を参考にした人生の10の分野を測ります。

シアトルでは、市議会が全員一致でこのプロジェクトを支持しています。これらの結果を、市の政策を決める参考にすることで同意しました。

こうしたいろいろなことを目にしながら、ほかの多くの都市に広げることができると感じています。企業でも活用できますし、特に大学では大きな反響があります。調査と全体のプロセスを使って、幸せのイニシアチブを実施したいと思っているコミュニティが現在のところ約25あります。大学では約100校が希望しています。企業も数社あります。とても楽しみだと思いますね。

私たちはまだこれからです。さまざまな方法で学ぶべきことがたくさんあります。これをやり始めようとしている都市によって、私たちは試されるでしょう。そうした都市のおかげで、私たちは、可能な限り最善のかたちに調査を作り上げるでしょう。

しかし、私には自信があります。人々は強い関心を示しており、「調査を受けただけで私の人生が変わってきました」という声もあります。「日頃考えたことのない、人生のさまざまなことについて、考えさせられました。自分への問いかけです」という人たちもいました。実に素晴らしいことだと思います。

また、メディアにもこの調査は好評です。メディアが理解できるほど簡単で身近なことなのです。私たちは質問をすることで、GDPと呼ばれるものよりも、より充実していて、現実的な社会を描いているのです。本当に実にわかりやすいメッセージで、メディアもそれを理解しています。『ウォールストリート・ジャーナル』紙や、その他いろいろなメディアから取材の依頼があります。

枝廣:素晴らしいですね。今日はありがとうございました。お時間いただき、感謝いたします。

ジョン:ありがとうございました。

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ジョン・デ・グラーフ(John de Graaf)/幸せイニシアチブ 共同代表

テレビ・ドキュメンタリー番組のプロデューサー。米国・カナダで時間と超過労
働の問題に取り組む組織「時間を取り戻そう(Take Back Your Time)」のエグ
ゼクティブディレクター。「幸せイニシアチブ(Happiness Initiative)」の共
同設立者および共同代表。

35年にわたりドキュメンタリー番組・映画の制作を手がける。映画制作に関する受賞作品は100を超え、環境問題に関する作品も多数。全米各地で超過労働や過剰消費に関する講演も行う。共著書に8カ国語に翻訳されている『消費伝染病「アフルエンザ」』(日本教文社刊・2004年)など。

最新刊は"What's the Economy for, Anyway? Why It's Time to Stop Chasing
Growth and Start Pursuing Happiness"(ブルームズベリー社刊・2011年)

●時間を取り戻そう(Take Back Your Time)
http://www.timeday.org/
●幸せイニシアチブ(Happiness Initiative)
http://www.happycounts.org/

 

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