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2013年02月16日

アース・ポリシー研究所より「ダストボウルの再来襲」 (2013.02.16)

食と生活
 

昨年11月半ばにレスター・ブラウン氏率いるアース・ポリシー研究所から届いたリリースを、実践和訳チームのメンバーが訳してくれましたので、お届けします。

~~~~~~~~~~~~ここから引用~~~~~~~~~~~~~~~~

ダストボウルの再来襲

ジャネット・ラーセン
http://www.earth-policy.org/plan_b_updates/2012/update

AP通信は2012年10月18日、「巨大な砂嵐が渦巻く赤茶色の雲となってオクラホマ州北部上空を覆い、主要州間高速道路で多数の車を巻き込む事故を引き起こした。そのため、警察はほとんど真っ暗闇となったこの交通量の多い道路を閉鎖せざるを得なくなった」と報じた。

この地域では、農家が、冬小麦を栽培するために畑を耕し終えたところだった。この夏、米国は厳しい干ばつに見舞われ本土の2/3近くが干上がったが、グレートプレーンズ(大平原地帯)はいまだにその渦中にあったため、カラカラに乾ききった剥き出しの土壌は吹き渡る強風によって簡単に舞い上がり、ネブラスカ州南部からカンザス州をまたいでオクラホマ州までの空を暗く覆ったのだ。

これを目撃した者たちは、あの1930年代のダストボウルのことをいやでも思い出すこととなった。カンザス州西部からオクラホマ州とテキサス州のパンハンドル地帯、ニューメキシコ州北東部、コロラド州南東部にかけて、最終的に40万平方キロメートル強の大地を覆ったあのダストボウルの襲来である。しかし、この地域はこれから先また当時のような状況に向かうのかと問われ、オクラホマ州の農業局長ジム・リースはきっぱりと「二度とそういうことはない」と答えている。

20世紀初めの数十年間、この半乾燥平原では、平原の開拓に本気で取り組む入植者や、この機に乗じて利潤を得ようという不在地主農家「スーツケース・ファーマーズ」が自生する草を掘り起こし何百万平方キロメートルもの草原を耕した。

「耕せば雨が降る」という言い伝えを信じ、政府の補助政策や鉄道が敷かれるという約束に引き寄せられ、家族が住むための土地を切り開くという夢を抱き、農民たちは新型のトラクターや強力な耕作機、機械化された刈り取り機を競って手に入れ、それまで長い間先住民部族や何百万頭ものバイソンを養ってきた草原の大地を掘り起こした。

初めの数年間は雨に恵まれ、初期の収穫は好調だった。第一次世界大戦中は、需要と政府の保障もあり小麦には高値がついたため、開拓地はますます拡がった。しかし、そこに世界恐慌が襲った。小麦の値段は暴落し耕地は見捨てられた。1930年代初頭、干ばつが見舞うと、強風によって土壌は吹き飛ばされ肥沃な表土は失われてしまった。生きた絨毯をはぎ取られ複雑に絡み合った草原の多年草の根がなくなって、土は空に舞い上がったのである。

夜のように真っ暗で山のように聳え立つ雲が次々に大地を飲み込んでいった。砂嵐の常襲は入植者たちを打ちのめした。なかでも大規模な砂嵐は、ニューヨーク市やワシントンDCの太陽を覆い、大西洋上はるか何百キロメートルもの場所にいる船舶にも影響を及ぼして、世間を驚かせた。砂丘ができ、それが広がって、鉄道線路、柵、車を飲み込んでいった。砂嵐による肺炎、「ダスト肺炎」は人々の命を奪い、犠牲者の多くは子供だった。人々は大挙してこの土地から逃げ出した。

ティモシー・イーガンは彼の著書『仮邦題:最悪の苦難の日々』(The WorstHard Time)の中で、表土の消失のようす、「何千年という時をかけて醸成された養分に富む表土が一日一日と消えていく」さまを記述している。1909年の土地資源局宣言は「土地は国家が所有する破壊されることのない不変の資産である。それは、疲弊してしまうことも、使い切ってしまうこともあり得ない資源である」とうたっている。

しかし、それが危険な驕りであることが、農民たちが芝土を破壊したことでたちまち明らかになった。グレートプレーンズと名付けられた土地は、元々の名前であったグレート・アメリカン・デザート(アメリカ大砂漠)に戻ってしまうかのような様相を呈していた。

1935年の春、一連の砂嵐の襲来が遠路はるかワシントンDCにまで及ぶに至って、それまで消極的だった連邦議会もやっと土壌保全のために予算を割り当てることを決めた。政府の補助金と新設された土壌保全局からの指示のもと、土地を保全する種々の対策が導入された。

草を植えなおし、絶え間なく吹く風の影響を和らげる防風林を植える。等高線耕作や階段耕作といった土地本来の形に沿ったやり方を採用し、土壌を作物で被覆するために縞状栽培を行う。穀物の輪作や休耕期間の設定で土地を休ませる。こういった対策が講じられた。

このダストボウルに襲われた土地のなかには、もはや元には戻らず開拓者たちの村がゴーストタウンと化してしまうところもあったが、多くの被災地は今では主要な食糧生産地となっている。カンザス州、テキサス州、オクラホマ州、そしてコロラド州の小麦の生産は最大収穫時1931年には4億1,100万ブッシェルあったが、1933年にはその1/4近くに落ち込んでしまい、1947年までかかってやっと元の水準に戻った。2012年、この4州の小麦生産量は米国小麦総生産量の1/3にあたる7億ブッシェルを超えている。

第二次大戦後、井戸掘削とポンプ揚水の技術が進み、農民たちは、プレーンズの真下に位置する巨大な貯水槽、サウスダコタ州の南部からテキサス州パンハンドル地帯を通って伸びるオガララ帯水層から水を汲み上げることができるようになった。センターピボット式スプリンクラーが茶色い大地の上に緑の円をつくりだしているのは米国中部を飛行機で飛ぶとお馴染みの光景だが、灌漑はこの散水施設とともに広く普及した。

ここ数十年の間に、昔からあるコーンベルト地帯は、灌漑のお陰でより乾燥した西方の地域へと移動した。たとえば、カンザス州はしばしば「小麦の州」と呼ばれ米国が生産する作物の1/6を生産しているが、いまや小麦と変わらない量のトウモロコシを生産している。小麦はほとんどが天水栽培であるが、トウモロコシはその半分以上を灌漑に依存している。

しかし、地下水からの汲み上げが増加するにつれ地下水位が低下してきた。特にプレーンズの中部と南部では、雨による帯水層への水の補給が事実上期待できないため、地下水の枯渇が問題になっており、この限られた資源の利用は終わりの兆しを見せている。

かつてダストボウルに見舞われた州では、一頃灌漑が全盛を極めたが、今では多くの地域でその利用は下降してきている。井戸が干上がるなか、一部の農民はもっと一般的な小麦の天水栽培へと戻った。これは、通常、灌漑を利用した場合に比べはるかに収穫量が少ない。そしてそのほかの者は小麦栽培から一切手をひいてしまった。

カンザス州における地下水位の低下は、平均7メートルであるが45メートルあるいはそれ以上の低下も報告されている。地下水位の低下はテキサス州のパンハンドル地帯ではさらに深刻だ。テキサス州の灌漑用地は40年近く前の灌漑全盛期に比べ、州全体で20%以上減少した。続けざまに襲った干ばつによって急速に地下水位が下がった後、ようやく最近になって、枯渇を遅らせるためにこの地域の個々の井戸の揚水量に制限が設けられるようになった。

テキサス大学オースティン校や米国地質調査所の研究者たちは、このままのスピードで揚水を続けると、ハイ・プレーンズの南部に広がる灌漑地の1/3が、30年以内に使い物にならなくなると言う。

農場だけにとどまらず、最近の干ばつはまさに地球温暖化により頻度が増すと予想されている類の現象であることが、気候学者の研究で明らかになりつつある。

ということは、穀物の天水栽培もまた困難になるということだ。地球温暖化が進む中、温室効果ガス排出量の思いきった削減が実施されなければ、カンザス州からカリフォルニア州までの米国西部の大部分で、長期的な乾燥状態に突入する、つまり物理学者ジョセフ・ロムが名付けるところの「ダストボウル化」が起こる、ということを幾つかのモデルが一様に示している。

1950年代と1970年代半ばおよび2000年代初頭、さらに2011年から2012年にかけてテキサス州とオクラホマ州が観測史上最高の夏の暑さに干上がった時にも、プレーンズ一帯は干ばつに襲われたが、適切な土壌保全策が講じられていたため本格的なダストボウルは発生しなかった。

しかし土壌はこれからもずっと保全されていくだろうか。米国は圧倒的な世界最大の穀物輸出国である。ということは、この国の「穀倉地帯」の運命は世界中の食糧価格や食の安全保障に影響を及ぼすのだ。

土壌についての私たちの知識、その重要性の認識は、今世紀が始まった頃よりも深まっているが、それでもなおほとんどの耕作地では、新しく土壌が形成される以上にその浸食が進んでいる。

気温の上昇と長引く干ばつ、そして灌漑の限界が重なり、プレーンズで大規模な穀物生産が継続できる見通しは非常に厳しい。 世界恐慌以来最悪の不況を経験してもなおかつ、米国人が自国のかつての困難な時代を思い出さないというのであれば、気候変動や、農家に対して限りある土地からこれまで以上の食糧生産を強いる人口増加と消費の拡大という圧力のもとで、歴史の繰り返しを免れることはさらに難しくなるだろう。

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ジャネット・ラーセンはアース・ポリシー研究所主任研究員

データおよびさらに詳しい情報はwww.earth-policy.orgをご参照ください。

どうぞご自由に、この情報を友人、家族、同僚の方々へご転送ください。

メディア関連の問い合わせ:
リア・ジャニス・カウフマン
電話:(202) 496-9290 内線12
電子メール: rjk@earthpolicy.org

リサーチ関連の問い合わせ:
ジャネット・ラーセン
電話:(202) 496-9290 内線14
電子メール: jlarsen@earthpolicy.org

アースポリシー研究所
1350 Connecticut Avenue NW, Suite 403,
Washington, DC 20036

   (翻訳:古谷明世 チェッカー:川嶋洋子)

 

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