前号、前々号とご紹介してきた「世界自然エネルギー未来白書 2013」の主筆兼研究ディレクターを務められたエリック・マーティノーさん(環境エネルギー政策研究所)にお話をうかがう機会がありました。
そのインタビューから抜粋してご紹介します。報告書にもビジネスモデルについて書かれた章がありますが、インタビューでも「これは面白い!」と思ったのは新しいビジネスモデルについての箇所でした。
自然エネルギーが主流となる時代、企業や業界のビジネスモデルはどう変わっていくのでしょうか? 新しい時代を見抜き、すばやく勝てるビジネスに転換していくのはだれなのでしょうか?
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枝廣:エリックさんは調査をして報告書にまとめられましたが、どのような可能性を感じましたか?
エリック:まず、暖房や輸送などエネルギー全体での再生可能エネルギーのシェアを少なくとも30~45%程度まで増やすことは確実に可能です。さらに、50%、70%へ増やすことも以前よりは可能だと考えることができるはずです。
枝廣:ええ。
エリック:電力シェアを50%までは問題なく拡大できます。報告書では政策目標についていろいろ述べました。ドイツの場合、電力シェアを2050年までに80%、2030年までに50%、2020年までに35%にすることを目指していますが、これらは目標であり、ドイツ政府が取り組むと決めたことです。
枝廣:はい、そうですね。
エリック:ですから、できると思っているはずですよね。ドイツ政府が2050年までに電力シェア80%を目指すと言ったのですから。ドイツで政府がやると言って、それが可能ならば、電力シェアが拡大する可能性が大きいです。それほど難しくはないはずです。
誰もが大きな電力シェアを獲得することはありえると思っています。ただ、暖房と輸送については、不確定要素があるので電力よりは難しいでしょう。
枝廣:ええ。
エリック:可能性として、3つあります。1番目は今述べたシェアの拡大、2番目は投資水準です。報告書の第3章にあります。
現在、再生可能エネルギーへの投資額は年間2,600億ドルです。ブルームバーグ・ニュー・エナジー・ファイナンスのシナリオでは、2030年までに再生可能エネルギーへの年間投資はほぼ倍増すると予測されています。2020年までにも大幅に増加するそうです。私が話した専門家の多くは、2020年までに5,000億ドルになると予測しています。つまり再生可能エネルギーへの年間投資が今後10年間でほぼ2倍になるということです。
グリーンピースは、20年間で年間平均1兆ドルに達すると予測しています。ですから、再生可能エネルギーへの投資水準が著しく高まる可能性があります。金融業界は、そうした展望をさほど疑問視していません。彼らはすでに準備を始めています。これに関連して、より高い投資水準に加えて、新しい財源も必要になってきます。
現在、再生可能エネルギーへの投資は、化石燃料と原子力への投資を上回っています。2012年と2011年の再生可能エネルギーへの年間投資は、化石燃料と原子力の合計投資額を超えました。すでに再生可能エネルギーが大半を占めているのです。倍増すれば、再生可能エネルギーは発電で世界全体の4分の3を占めることになります。
投資額の増加に加えて、もう一つ可能性があるのは、例えば年金基金などの新しい財源です。例えば、日本の年金基金を風力発電プロジェクトの投資で運用することができます。
こうした風力発電プロジェクトが非常に安全で低リスクの投資であることが明らかになっています。金融業界の専門家によると、風力発電プロジェクトは石炭火力発電所よりもリスクが低いそうです。
というのも、将来的な石炭の価格が不明で、電力市場が変化し、発電電力をすべて売電できるかどうかも定かではないため、石炭火力発電はリスクが高いと考えられているからです。ドイツでは現在、石炭火力発電所は発電量を抑制しなくてはなりません。
枝廣:そうなのですか?
エリック:日中は太陽光発電が多いので、石炭発電所の運転を停止しなければならないのです。実際、ドイツとフランスでは、石炭火力発電所が発電量を毎日変更しています。一方で、ほとんどの国では、電力会社がこうした変更に反対しており、最大出力での生産を要求しています。
しかし、すでに実施されているドイツでは、日中に石炭火力発電所の発電量が抑制されるので、石炭火力発電所の所有者の収入は大幅に下がっています。何か対応をしなければ、倒産するかもしれません。つまり、ドイツで石炭火力発電所を所有しているということは、今では倒産への道を歩むことを意味しています。
リスクゼロのエネルギーへの投資という考え方があります。風力発電所を作れば、その後25年間は何も支払う必要がなく、実質的にリスクゼロの投資なのです。年金基金や保険基金の運用においてもそれが認識されるようになるでしょう。インフレ再発に備えるインフレ・ヘッジになるかもしれません。
「リスクをまったく考慮しないコスト比較」に代わって、「リスクとリターン」という考え方になっていくでしょう。私が話した金融業界の人たちの多くは、エネルギーへの投資を比較するための考え方を一新する必要があると言います。コストではなく、リスクとリターンについても考えなければなりません。
大口投資家たちがそうし始めるにつれて、年金・保険基金、産油国のソブリン・ウェルス・ファンド、中国にもありますね、そうしたところから、多額の投資が行われるでしょう。例えば、1,000件の担保を1件の証券にして売る、不動産担保証券がありますが、同じようなことを、屋上太陽光発電プロジェクトだけでもいいので、再生可能エネルギープロジェクトにも適用して集約すれば、実体経済の債権投資家から再生可能エネルギーへ多くの融資を得ることができると思います。
こうしたあらゆる新しい投資者が必要になります。なぜなら、現在、再生可能エネルギーに投資しているのは主に銀行や電力会社ですが、そろそろ限界に達しています。銀行や電力会社だけに依存すると、いつまで継続できるかわかりません。他の投資者が出てくれば、可能性は広がります。
日本では、あらゆることが凝り固まり、リスクなどに対しての懸念が強いようです。こうした新しい動きが日本でまず始まるのか、中国やヨーロッパなど、どこか別のところで始まるのかわかりませんが、可能性としてはあります。
枝廣:そうですね。
エリック:3番目に、さまざまな種類の企業の役割が変化する可能性があります。報告書にもありますが、まず、電力会社の役割が変化します。
電力供給だけでなく、多くの供給源、配電、区分、さまざまな形態の消費者や、分刻みで制御可能な異なる種類の需要、電気自動車の充電の統合が含まれる、電力システムの管理者になるということです。
電力システムは複合的になります。複数のレベルでの蓄電、電気自動車、エネルギー自立住宅、スマートグリッドがすべて機能して、バランスが取れるようにしなければなりません。電力会社にはそれができます。そうした新しい役割を受け入れなければなりません。
報告書には、このシステム全体のバランスをとるための多くの選択肢が示されています。エネルギー貯蔵だけではありません。日本では誰もが、再生可能エネルギーは変動的だから、エネルギー貯蔵が必要だと考えているようです。しかし、報告書の第2章では、エネルギー貯蔵以外に変動性を緩和するための12の選択肢が示されています。世界各地の電力会社はこれらの12の選択肢のすべてを採用し、取り組んでいます。
ですから、これらをすべて利用する電力会社の役割は変わってきます。需要と供給が顧客負荷を制御します。これはすでにテキサス州で大規模に実施されています。バランスをとるためにはガスのタービンが、エネルギー貯蔵のためには送電網の容量、石炭火力発電所のサイクルを調整するなどの必要があります。
電力会社はこうした選択肢のすべてを採用しなければなりません。バランスをとるという問題に取り組むことが彼らの役割なのです。そうした役割を積極的に受け入れた企業が成功するのだと思います。受け入れずに拒み続ける企業はうまくいかなくなるでしょう。
やり方を変えるときなのです。デンマークでは、電力会社がすでにそうした役割を引き受けています。スペインでも長い間行われています。ドイツはこれから本格的にそうしていかなければなりません。このように、電力会社の役割が変化します。
また、石油会社にも変化が起こります。石油会社はこれまで油田を掘って一つの製品である原油を売るというやり方をしてきており、それを得意としてきました。しかし、石油会社はバイオ燃料の販売を検討し始めています。バイオ燃料の生産と販売で、すでに取り組んでいる企業があります。そして、石油会社の興味深い役割の一つは、沖合風力発電です。
枝廣:なるほど、そうですね。
エリック:多くのタービンが陸から離れた沖合にあります。沖合風力発電で費用がかかるのはタービンではありません。タービンのコストは全体のわずか3分の1程度です。実は物流のコストが高いのです。長期にわたる運転とメンテナンスにコストがかかります。石油会社が得意とする分野のはずです。なぜなら、すでに沖合での物流の能力を持っているからです。
しかし、石油会社はまだしていません。多くの財源や専門知識を生かすことができます。専門家の多くは、「なぜ石油会社は関与していないんだろう」といいます。
枝廣:そうですよね、なぜでしょうか。
エリック:したらいいですよね。また、日本の専門家から、浮体式沖合風力発電について聞きました。これは他の国にはまだない技術です。日本でも初めての試みであり、本物のイノベーションです。日本の沖合風力発電の成功に欠かせない技術です。日本で沖合の物流の能力をどの企業が持っているのか私にはわからないのですが、 世界では、特に欧州で話題になっており、石油会社の関与を促す声があります。
また、石油会社は自由に使える多額の財源があります。掘削作業に何十億ドルもの費用をかけてきたことからも明らかです。ですから、地熱などの再生可能エネルギーに投資ができるでしょう。資本やキャッシュフローはあるのですから、銀行や債権投資家などの支援を受けなくても、こうした大きなプロジェクトに携わることができるのです。
沖合、金融、バイオ燃料の分野で石油会社が大きな役割を担うことができます。しかし、現時点では特に興味を示していないようです
枝廣:今のところは、ですね。
エリック:「私たちはこれをしたい」「これをしている」という発言を見かけるかもしれません。確かに、石油会社は投資しています。フランスのトタル社は、再生可能エネルギーに8年間で20億ドル投資すると発表しています。20億ドルは大した額です。しかし、2,600億ドルと比較すれば、実は大きくありません。しかし、フランスは石油探査に多額の投資をしています。石油会社による再生可能エネルギーへの出資を増やすことです。
他にも2、3種類の企業が関与することができます。たとえば、自動車メーカーです。いま、ほぼすべての自動車メーカーが電気自動車の生産を計画しています。すでに6社以上が生産中です。
電気自動車をどのようにして電力網に統合するかに関心を持つ自動車メーカーもいます。自動車を家とつなげる、いわゆるV2H(ビークル・トゥ・ホーム)のシステムがあります。自動車を電力網のエネルギー貯蔵として活用するのです。
数十億台の自動車があるわけですから、充電を管理すれば、風力や太陽光の変動性を補うことができます。統合させるための設計は、電力会社だけでなく、自動車メーカーの仕事でもあるのです。
ですから、自動車メーカーができること、これからするであろうことがたくさんあります。新しいタイプの自動車を生み出すことです。例えば、いま、中国では一般的な電気二輪車があります。米国でも確かオレゴン州にも電気二輪車を生産している企業があるはずです。
また、小型の一人乗り自動車など、電気やバイオ燃料を使ったさまざまなタイプの乗り物が誕生しています。インドには、バッテリーがなく、電気を使ってエアを圧縮させて走る安価な自動車もあります。効率はあまり優れていませんが、バッテリーがいらないので、安上がりです。インドの条件に合っているのです。
可能性といえば、種類、大きさ、形態、燃料、バッテリーなどの技術面で、さまざまなタイプの乗り物が出てくるでしょう。自動車メーカーはもちろんリーダーとしてこうした多様性に対応しなければなりません。この大きな変化の一部になることができるのです。
アウディは、天然ガス自動車を生産しています。天然ガスで走る自動車は、同社のビジネス戦略です。そのガスを作るために再生可能エネルギーを利用したいと考えています。バイオマスから作られる合成天然ガスです。バイオマスのプラントで、廃棄物からの二酸化炭素を利用して合成天然ガスを作ります。
少なくとも2年前に同社は、こうした約束をしました。同社が生産する自動車が使うガソリンと同等の量の合成天然ガスを再生可能エネルギーを使って作り、送電網に供給するということです。そうすることで、同社の自動車は「ゼロ・エネルギー」または「ゼロ化石燃料」になると考えました。直接的ではないが、環境会計の考え方ですね。とても興味深いコンセプトです。
これはアウディのやり方ですが、ほかにもさまざまな方法があります。第2章の輸送での統合では、自動車会社がどのようなことをしているか、多くの例を取り上げています 。
4番目はIT企業です。私はまったく予想していなかったのですが、再生可能エネルギーの未来において、IT企業が果たす役割はかなり大きく、驚くばかりです。ソフトバンク社はすでに参入していますね。同社の孫氏はご存知だったのでしょう。
しかし私は、以前はITについてまったく考えていませんでした。もちろん、スマートグリッドなどのすべての通信、スマートメーターは自動車を送電網につなぐことができます。充電や需要反応などもすべてITを必要とします。そう考えれば、いわば当然だと思えます。
風力発電会社のCEOと話したとき、風力発電業界は現在、世界最大のスーパーコンピューター利用者だと聞きました。
枝廣:え? そうなのですか?
エリック:スーパーコンピューターの設計は非常に洗練されていて、自動車だけでなく航空機にも採用されているほどです。風力発電所に多数の風力タービンを設置する際は、風速を計り、ここで風力が下がり、ここで風力が上がっているなど、異なる場所にタービンを設置した場合の反相関を求めて、トータルとして均一になるようにします。
出力が均一になるように、タービンの設置場所を厳密に決めるためには、かなり洗練された計算とモデリングを使う必要があります。また、タービンすべてに関するデータ地点が数百あり、故障する前に検知して、点検に出して修理することで、メンテナンスのコストを削減しています。洗練されたモニタリングのおかげです 。メンテナンスコストの削減は大きな課題です。ですから、IT分野から多くの人材を雇用しています。私はそうしたことをまったく予想していませんでした。
枝廣:とても興味深いですね。
エリック:また、大きなビル向けの建築ガラスや、屋根ふき材などの建築資材製造者は、再生可能エネルギーをビジネスの中に取り入れなければなりません。太陽光発電装置付き建築ガラスを通常の太陽光発電装置なしの建築ガラスと同じ価格で売らなければなりません。
太陽光発電装置は実質的にタダです。ガラスそのものが高価だからです。ガラスはもともとは装飾用に作られました。太陽光発電用ガラスが、装飾としても通常のガラスと同等の美しさを提供できるならば、人々は装飾としての価値にお金を払うのですから、太陽光発電は基本的にタダになります。
そのためには、そうした製造業者が考え方ややり方や生産などを見直す必要があります。しかし、私が話した太陽光発電の専門家の多くは、こうした動きが今後出てくるだろうと話していました。
5年後、10年後には、建築ガラスのパンフレットで太陽光発電用ガラスが標準仕様になるだろうと言っていました。しかし、建築ガラスは世界各地へ輸送すると非常に高くつくため、建築資材の製造業者の地元で流通されることが多いです。そうなると、世界各地で地域の市場向けに生産している、多数の地元の中小企業に影響を及ぼさなければなりません。それは難しく時間がかかるかもしれません。
しかしながら、誰かが始めれば、みんなが右に倣うでしょう。また、建築家も、太陽光発電ガラスは同じガラスで、コストも同じだから使えるというように、設計を変えたり、配線などの特徴を学んだりしなければなりません。ですから、これが実現するためには、大きな学びのプロセスを経なければなりません。建築資材業者はこのプロセスの中心的存在なのです。
このように、可能なことの3番目は、電力会社、自動車メーカー、IT企業、建築資材業者は、どれもがビジネスを変えていけるということです。何をするか、どうするか、製品のタイプ、考え方を変えていきます。最初に取り組む企業が勝ち、そうしない企業は最終的に負けるでしょう。私が思うに、中国の企業が勝つでしょうね。
枝廣:そうでしょうか?
エリック:なぜなら、中国はこのことがわかっていて、長年考えてきました。中国にとって再生可能エネルギーは環境とは無関係で、産業の発展や競争力のためという位置づけです。
「世界の産業市場で勝つ」「このテクノロジーのリーダー」になるという意気込みがあります。風力発電技術は、ミサイル技術のように、中国の戦略的技術になりました。ですから、私は中国が勝つと思うのです。問題は、日本の業界がどうなるか、ということです。
枝廣:そうですよね。
エリック:日本はこれから何が起きるかわかっているのでしょうか? リーダーになり、急いで進めて、まわりについていき、合わせるつもりはあるのでしょうか? そうしなければ、取り残されるだけです。政策についても同じことが言えます。日本の市場はとても保守的なのです。
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いかがでしたか? 自分の企業や業界のこれからの「新しい役割」、考えられそうでしょうか?
「世界自然エネルギー未来白書 2013」の報告主筆兼研究ディレクターを務められたエリック・マーティノーさん(環境エネルギー政策研究所)へのインタビューからご紹介しました。
エリックさんは最近TEDxTokyoでお話になったとのこと、こちらからご覧いただけます。
自然エネルギーは私たちの未来 : エリック・マーティノー at TEDxTokyo
http://www.youtube.com/watch?v=VANidsABW4k (Japanese)
Renewable Energy Is Our Future: Eric Martinot at TEDxTokyo
http://www.youtube.com/watch?v=zGHsXljf3fQ (English)
余談ですが、TEDxTokyoには私も出演させていただいたことがあります。(ご参考まで、リンクはこちらです)
TEDxTokyo - Junko Edahiro - "De" Generation - [English]
http://www.youtube.com/watch?v=y395J6W6i1E