レスター・ブラウン氏のアースポリシー研究所からのリリースを実践和訳チームが訳してくれましたので、お届けします。
日本では政治家・経済界、そして一般の人々の間でも、温暖化への関心・危機感が薄れてしまっているような今日この頃ですが、こういった世界の多くの異常な状況を読むと、「景気も大事だけど、温暖化にもしっかり取り組まなければ、経済どころではなくなってしまう」と......。ぜひ多くの方と共有していただければと思います。
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記録的な暑さの10年間がもたらした異常気温と異常気象
ジャネット・ラーセン
エコ・エコノミー指標とは、アースポリシー研究所が持続可能な経済の構築状況を測定するために追跡している12の指標のことである。その中のひとつ、地球の気温からは、 その動きを捉えることでこの惑星の相対的な健康状態を知ることができる。
近年、気象は異常な高温と低温、洪水と干ばつの間で激しく揺れ動いている。主に石炭、石油、天然ガスの燃焼によって発生した二酸化炭素ガスやそのほかの温室効果ガスは、大気中に蓄積し、地球を温暖化して、人類を異常気象という気候をかく乱するシーソーに無理矢理乗せてしまっている。
多くの地域では、最高気温の記録が驚くほど頻繁に破られ、先にはさらに高い気温の世界が待ち構えている。もし化石燃料の使用を大胆に削減しないなら、人類は文明が現在適応している正常な気温や気象パターンから、ますます遠ざかることになるだろう。
世界の気温は産業革命以後、摂氏0.8度上昇した。特にそれが顕著になったのは1970年代以降だが、少なくとも2万年の間では、気温がこのように急速に上昇したことはなかった。2012年の地球の平均気温は摂氏14.56度。記録として残る暑い年のトップ10に入る。NASAが調査した1880年以降のデータでは、このトップ10の中に過去14年間の気温がすべて入っている(データ参照)。
【グラフ】地球の平均気温 1880年-2012年
【縦軸】華氏
【グラフ右】アースポリシー研究所-
www.earth-policy.org.
【グラフ下】出典:NASA ゴダード宇宙科学研究所
2012年に新聞紙面の見出しを独占した2件の異常気象が共に米国で発生している。一つが米国の中央部を焦がした激しい夏の干ばつと熱波、もう一つが10月下旬に東海岸を蹂躙したスーパーストームサンディである。この2012年は20世紀の平均気温を摂氏1.6度以上上回り、全体としては米国史上最も暑い1年となった。
この冬、アラスカ・ハワイを除く米国48の州は記録上では3番目に雪が少なく、全米のほとんどの地域が雪で真っ白になるとはとても思えなかった。そして冬が過ぎ、3月になると、夏を思わせるような暑さが見舞い、「最高気温の新記録」が1万5,000回近く報告された。こうして、米国史上最も暑い春が始まり、さらに気温を上昇させ干ばつを引き起こす条件が整っていった。
国立気候データセンターによると、2012年7月は米国史上、最も気温が高かった月だという。米国民の1/3は、この夏、摂氏37度以上の日を10日以上経験した。
最も暑いときには、全土のほぼ2/3で干ばつが発生。冷却水不足で発電所はストップし、水位が下がってミシシッピー川では船の運航が一時中止になった。穀物にも、トウモロコシの主要産地で収穫が1/5以上減少するなど、被害が出た。パデュー大学の経済学者クリス・ハートは、干ばつによる被害額は750億ドル(約6兆9000億円)を超えると予想している。このまま干ばつが2013年まで長引けば、特にグレートプレーンズで、2年続いて収穫不足になる公算が大きい。
2012年にもうひとつ最も大きい損害額を出した異常気象が、スーパーストームサンディである。これは干ばつとは全く違い、極端な豪雨をもたらした。ハリケーンは、シーズンの到来が公式に宣言される前、つまり5月にすでに2件発生しており、サンディはその年大西洋で命名された19のハリケーンうちの18番目にあたる。
サンディはカリブ海に大量の雨を降らせ72名の死者を出した後、冬の嵐と合体し、気象界のキメラ怪獣に変異していた。一般的な外海に抜けるコースは取らず、このときは左に急旋回して米国の東海岸に上陸したのだ。高い海面温度によって勢力を強め、さらに暖かい大気温度によって多量の湿気を含んだサンディは、大西洋沿岸の中部地域の一部に、300ミリ以上の雨を降らせた。
メリーランド州からマサチューセッツ州の沿岸には巨大な高波が襲い、ローワーマンハッタンでは波の高さは通常の高潮を2.7メートルも上回った。ニューヨーク州やニュージャージー州では、100名近い死者が出、50万戸以上が損壊あるいは全壊した。
またブリザードがアパラチア山脈に大雪を降らせ、一部の地域には10月としては全米史上記録的な雪が積もった。被害額はまだ確定していないが、各州政府の報告を合わせると総額620億ドル(約5兆7000億円)になる模様だ。
一部の科学者は、サンディがこのような異常なコースをとった原因は、北極圏の海水温度が急激に上昇し海氷が減少したために、気流変化が生じたからだと主張している。北極圏の海面を覆っていた光を反射する氷が縮小すると、太陽熱の吸収が加速し、北極と高緯度地域間の温度差が少なくなる。これがジェット気流の速度を鈍らせ、あるいは、その蛇行を一層大きくするため、固有の気候パターンが押えられて、異常気象が長引くのだ。
北極圏の海水温度の上昇は、グリーンランドの氷の融解を加速させてもいる。そこには、融ければ地球の海面を約7メートル押し上げるだけの氷がある。2012年5月下旬、グリーンランド南部は、気温がこの地域としては異常な摂氏24.7度にもなった。そして7月の中頃になると、陸地の97%の氷に融解の兆しが現れ始めた。
2012年のカナダは異常な暑さになり、夏の気温は史上最高となった。ロシアでは、2010年の夏にモスクワを熱波が襲い、激しい野火の煙で人々が息も出来ないことがあったが、この年はそれに次ぐ史上2番目の暑さであった。
いずれの年も、穀物は打撃を受け、食糧価格は大幅に値上がりした。フランスでは、例年より遅く、8月も終わり近くなって突然熱波が襲い、2003年に全国で1万5,000人近くもの死者が出たときの過去最高気温を更新した。
地球で気温上昇が続けばこのような熱波がより頻繁に発生し、しかも激化することを複数の気候モデルが予測している。また『Climatic Change』に掲載された2013年の研究報告は、地球全体では最高気温の更新回数は、気候変動がなかった場合に予想される回数のすでに5倍以上になろうとしていると、指摘している。
実際、2012年、中東と北アフリカでは気温の上昇が激しかった。6月と7月、熱波の影響でヨルダンの気温は、平年の最高気温を摂氏10度以上上回り、モロッコでも7月の半ばに気温が過去最高になった。同じ月の後半にはクウェートが、摂氏53.3度という、おそらくアジアで最も高いと思われる気温を記録した。
2012年で最悪の異常気象といえば、カテゴリー5のスーパータイフーン、ボーファだ。ボーファは12月にミンダナオ島を直撃し、その激しい雨と秒速71メートルの強風で死者・行方不明者数は1,900名に上り、70万人が家を失った。フィリピン南部には大型台風がこれで2年続けて上陸している。
この年、中国でも異常気象による大きな被害が発生し、洪水や台風などによる被害額は、エーオン・ベンフィールド再保険会社の話によると、290億ドル(約2兆6,000億円)を超えたという。
春には中国のほとんどの地で、気温が1961年~90年の平均気温を摂氏5度上回り、7月には一日の降雨量としては60年間で初めてという記録的な豪雨が北京市内を水浸しにした。逆に雲南省や四川省ではそれよりも早く、900万以上の人々が干ばつによる影響を受け、100万ヘクタールの耕作地に被害が出た。
ブラジルの北東部は2012年の前半、異常な乾季を迎えていた。1,100以上の町が、記録が残るこの50年間で最悪の干ばつに見舞われたのだ。しかし、これとは全く対照的に、ブラジル北西部とペルーにかかるアマゾン盆地の奥地には豪雨が襲い、アマゾン川は記録的な増水となっていた。2012年8月にはアルゼンチンの中央部と北部に大雨が降り、洪水が発生した。1875年から記録されているデータに基づくと、地域によってはそれまでの最高降水量の2倍を記録したところも出た。
気候変動の場合、気温は下がるよりも上がる傾向が強いが、2012年の始めと終わりにユーラシアを襲った寒波のように、驚くような現象が起きることがある。中央ヨーロッパの一部の地域では、1月の終わり頃から2月中頃にかけ、気温が20日間連続して氷点下を割った。平年なら10日で済むはずが、期間は2倍に及んだ。さらに、年末が近づくと、北極のジェット気流に乗って寒気が急降下し、ロシア、中国の北部と東部、欧州の北部が再び極寒の地となった。
その2、3カ月前、ロシアは史上2番目に暑い夏を迎えていた。それが12月になると、記録に残る1938年以降では最低水準の低さまで気温は急激に下がったのだ。寒暖計は氷点下摂氏30度を示し、モスクワでは住宅の電力消費が一気に増えて、これまでの最大となった。シベリア東部では氷点下摂氏60度だった。寒さのために100人以上が死亡し、800人以上が病院に搬送された。
地球の裏側にあるオーストラリアでは話が違った。2012年が明けたとき、状況は、1世紀に及ぶ観測史上、2年間の降水量が最も多かった2010~11年にとてもよく似ていた。しかし、その後にやってきたのは、ここ10年間では最大の干ばつだった。雨が止むと空気は乾燥し、涼しかった気温は厳しい暑さに一変した。
12月後半に始まった熱波は、異常なほど長引き広範囲に及んで、どの州も最高気温を記録した。2013年1月、オーストラリア気象局は気象図に灼熱温度を表示するために新色を追加、上限温度も摂氏50度から54度まで上げざるを得なくなった。
これらは新たに、高い気温が定着する前触れである。世界各国は2009年、地球の平均気温の上昇を、産業革命以前の状態から「危険水準」の摂氏2度以内の幅に押え、地球温暖化に歯止めをかけることで基本的に合意した。
しかし、化石燃料による温室効果ガスの排出が依然増え続けているなかでは、平均気温の上昇をこの摂氏2度の範囲内に押さえ込むことは容易ではない。世界が加熱すればするほど、予想もつかない気象災害の発生を避けることが、今後ますます困難になるだろう。
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地球の気候安定化計画に関心のある方は、『仮邦題:今こそプランBを』(TimeFor Plan B)をお読みください。さらに詳しいことを知りたい方は
www.earth-policy.org.をどうぞ。ジャネット・ラーセンは、アースポリシー研究所の研究担当部門長。
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(翻訳:酒井、チェッカー:保科)