「これからの時代や社会、ビジネスモデルを考える」という目的を持って、幸せ×経済×社会のつながりやバランスの現状やあるべき姿を学び、考え、議論する幸せ経済社会研究会の次の会期(半年)が始まります。
http://ishes.org/news/2013/inws_id000967.html
※ 今からでも参加できますので、ご興味がある方、ぜひどうぞ。(開講したあとでもいつでも参加できます。終了している勉強会については、資料と音声ファイルをお渡しします)
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第1回は、フランスのサルコジ大統領(当時)による諮問に、ステグリッツをはじめとするノーベル経済学賞受賞学者らを中心とする委員会が1年半の討議を重ねた結果、2009年に出された報告書をとりあげます。
『暮らしの質を測る―経済成長率を超える幸福度指標の提案』
(ジョセフ・E・スティグリッツ、アマルティア・セン、ジャンポール・フィトゥシ著)
ステグリッツ、アマルティア・セン、フィトゥシの3人は、この報告書の冒頭にこのように書いています。
「何を測るかによって、私たちの行動は影響を受けます。もし測る基準が間違っていたら、私たちは間違ったものに向かって努力することになるでしょう。GDPを増やそうと努力する中で、市民の状態が以前よりも悪化してしまう社会を作ってしまうかもしれません」
幸せ研ではこの報告書が英語で出されたときにも特別勉強会を開催しました。今回は、日本語が刊行されたので、もう一度みんなでじっくり読んで、学び、考えようと勉強会の課題書としました。
書籍の目次:
要約 われわれは暮らしの測り方を間違えている
-なぜGDPの合計はあわないのか
第1章 古典的なGDPの問題
第2章 暮らしの質
第3章 持続可能な発展と環境
この報告書の前文は、サルコジ・フランス大統領が書いていらっしゃいます。諮問委員会を立ち上げられた問題意識をみなさんにもひ知っていただきたく、抜粋してご紹介したいと思います。
~~~~~~~~~~~~~ここから引用~~~~~~~~~~~~~~~~~~
私には強い確信がある。それは、経済業績を計測する手法を変えない限り、われわれの行動は変わらないだろう、という確信である。 もしわれわれが、われわれの、およびわれわれの子供たちの、そしてわれわれの孫たちの未来を、金融、経済、社会、環境の災害によって穴だらけにされてほしくないのなら、(こうした災害は究極的には人災なのだが)われわれは生活と消費と生産のやり方を変えなければならないのである。われわれは社会組織と公共政策を統治する諸基準を変えなければならない。
前途にはとてつもない革命が待っている。......われわれはみんな、それを感じることができる。
(中略)
統計と計算はわれわれの熱望を、われわれがものごとに見出している価値観を反映している。統計と計算は、われわれの世界観と経済観、社会観および、人間と人間存在に関する概念づくりを、反映している。
こうしたデータは、われわれとは別世界のものだから疑問や論争の余地がないものだと考えると、自信が湧いてくるので快適だが、そのような考え方は危険である。危険だというのは、そうすることによってわれわれは、現在の行動の目的を問うことさえやめ、実際には何を計測しているのか、いまどんな計測をしているのか、いまどんな教訓を引き出すべきなのか、などを問うことをやめてしまうからである。
(中略)
自分の知識を確信している専門家たちと、自分の人生経験とデータが伝えるお話がまったく一致しない市民たちの間で、深淵がつくりだされてしまう。この深淵は危険である。それによって市民たちは自分たちがだまされていると信じ込んでしまうからだ。民主主義にとってこれほど危険なことはない。
世界中で人びとはウソをつかれている、こうした数字は偽りだ、自分たちは操られていると信じている。人びとがそう信じるのには十分な理由がある。長年の間人びとの暮らしはますます苦しくなっているのに、生活水準は向上しているのだと教えられてきた。これではだまされていると思うのが当然だろう。
(中略)
長年の間、強い経済成長は欠乏を克服した勝利であると、統計数字が語ってきた。しかしそれは、成長が地球の将来を危険にさらし、つくりだす以上のものを破壊しているとわかるまでのことだった。
(中略)
これはだれかが意図的に人びとを欺いたということではない。GDPや物価指数の正当性を擁護する統計家たちも、「公正価値」が資産価値を表す最良の指標だといってきた会計家たちも、ウソつきではないからである。
問題は、世界も社会も経済も変わってしまったのに、計測指標がそれに歩調をあわせていなかったことにある。(中略)
われわれは一つの方法で測った富が富そのものだと誤解し、一つの方法で表した真実が真実そのものだと思い込む過ちに陥ってしまった。
(中略)
われわれは数字崇拝をつくりだし、いまではその虜になっている。われわれがしてしまったことによるとんでもない結果が、いま襲いかかってきている。
こうしたすべてのことを考え、私は2008年2月、ジョセフ・ステイグリッツ、アマテイア・セン、ジャンポール・フイトゥシに、世界を指導する専門家たちを集めた委員会をつくってほしいと要請した。直面する状況を打開するため、古い考え方と決別しなければならなかった。ついに論争を始めなければならなかった。論争は最高水準の専門家によって実行されなければならず、論争は地球規模である必要があった。
(中略)
用いている指標に問題があることは、われわれにはわかっていたが、特に問題がないようなふりをして、諸指標を使い続けてきた。既存指標を使ったほうが話がしやすかったからだ。
それに加え、こうした諸指標は経済と社会についてわれわれが抱く展望の鍵になる構成要素であり、世界中に拡がったある種のイデオロギーの重要な構成要素であった。その指標に疑義を表するなど、とんでもないことだったので、だれも本気で疑義の表明を考えなかった。
(中略)
二つの勢力の間の知的、道徳的、そして政治的な戦いが始まった。一つの勢力は考え方を変える能力がないためか、あるいは自らの利益を守るためか、すべてを昔どおりのやり方に戻したいと願っている。もう一つの勢力は、旧態依然としていられるものなど一つもなく、できるだけ早く変革をしなければならないと確信している。
(中略)
これは直ちに回答を出すべき今日の問題である。それは軌道修正を行うべき時期がいまだからだ。この難局のなかでわれわれは、その場しのぎの対応で満足し、休んでいることはできない。一時的な解決策だけで危機から立ち直ることはできない。
(中略)
人びとが家族に尽くすサービスが、市場で得られるサービスに比べてなんの価値もないような世界を思い描くことについていえば、それはもはや家庭にはほとんどなんの意味もないような世界、という考え方を表明しているのである。そんな世界をつくれば悪い結果が生じることは、だれにも想像がつく。
もし余暇は、その時間をスポーツや文化などの非市場活動へ基本的に充てているから、会計計算上なんの価値もないというのなら、それは人間の潜在能力を実現するよりも、高生産性という基準を上位に置いていることを意味する。これはわれわれが宣言しているヒューマニズムの原則に反する。そんな世界をつくれば悪い結果が生じることは、だれにも想像がつく。
もし交通基盤の保守が不十分で事故が多発、修理費が高くつくとしたら、(あるいは治療費も高くつくとしたら)それでも産出高は増大する。もし家庭と職場の距離を長くし、それで危険度と疎外度がふえても、それを進歩につながる積極的貢献だとして扱えば、それで産出高は増大する。
精神的な緊張、重圧、そして不安によって社会の基礎が崩れ始めていても、崩壊を防ぐためにますます多くの資金を投入することになっても、それは経済成長に含まれる。
こういう計算をし続けていると、進歩というわれわれの概念に何が起こるのか。
もし政府サービスの質を、計算では、取り扱わないとすると......。
つくりだしたものだけを計算し、破壊したものを計算しない経済的進歩指数のなかにわれわれが閉じ込められ続けていると......。
地震や火事や環境災害が起きると増大する、国内総生産にだけ目を奪われていると......。
生産過程でわれわれが消費するものを生産高から控除しないでいると......。
(後略)
~~~~~~~~~~~~~引用ここまで~~~~~~~~~~~~~~~~~~
こういった問題意識による諮問に、ステグリッツら委員会はどのように答えたのでしょうか? そこには、私たちが学ぶべき多くの教訓と情報があります。たとえば、報告書には正しい方向にシフトしていくための12の「勧告」が挙げられていますが、それはどのようなものなのでしょうか? 私たちは日本やそれぞれの地域・組織で、どのようにそれらの学びを活かしていくことができるのでしょうか?
こういったことを勉強会でレクチャーし、議論していきます。私が概要をお伝えしますので、書籍を読まずに参加されてもまったく問題ありません。問題意識を尖らせ、ご自分の問いや不可解さを明らかにし、深めていく機会になればと思っています。よろしければご参加下さい~。
http://ishes.org/news/2013/inws_id000967.html
それから、今月から、幸せ経済社会研究会の会員向けのニュースレターを始めました。この分野の内外の最新の動向や気づきなどをお伝えしていきます。今回の定例研究会には参加しないが、会員になっておく、という方も大歓迎です。
会員募集のご案内はこちらをご覧下さい。
http://ishes.org/member/
「でも、ステグリッツはアベノミクスを評価しているというじゃないか」なんていう議論も出てきそうですねー(^^; 勉強会、いつも自分自身にも大きな学びがあるので、今回もとても楽しみです~。