前号の「経済成長に頼らない社会へ」で書いたように、(1)有限の地球の上で無限の経済成長は不可能、(2)日本は人口減少社会に突入し、生産年齢人口の急減に伴い、経済規模を拡大しつづけることはますます難しくなり、無理が生じる、に加えて、(3)経済成長が人々の幸せにつながっていない、といった問題意識で、幸せ経済社会研究所を2年半前に立ち上げました。
「ではどういう経済がありうるのか?」「どのようにシフトしていったらよいのか?」を調べ、考え、研究会のみなさんと勉強し、議論しています。
そのひとつの学びやかんがえるきっかけとして、「新しい経済をめざすシューマッハ・センター」から届いたリリースをご紹介したいと思います。こういった大事な世界の知見や情報をボランティアで翻訳してくれている実践和訳チームのメンバーが訳してくれました。ありがとうございます!
~~~~~~~~~~~~~ここから引用~~~~~~~~~~~~~~
戦略を確定する
新しい経済に向かって着実に歩みを進めるためには、これ以上成長を続けずに新しい仕事を作り出す手立てを考える必要があるだろう。
ひとつの方法は、人手をもっとたくさんかけつつ、生産規模を縮小し、輸送距離を短縮するという「輸入代替」戦略だ。その目標は全体的な炭素排出量を抑えながらより多くの仕事を生み出すことにあり、より多くの「物」を生み出すことではない。これは壮大な目標かもしれないが、公正で持続可能な経済システムへ移行しようとするのであれば避けては通れない道である。
こうした戦略は経済的な転換だけではなく、文化的な転換も伴うことになるだろう。
「新しい経済をめざすシューマッハー・センター」(Schumacher Center for aNew Economics)の本拠地は、マサチューセッツ州のバークシャー地方にある。
ここで新しい経済の構築とその実現に向けて全力で取り組んでいる私たちにとって、長年の課題は、外部経済の変動から独立し、外部から影響を受けてもしなやかに立ち直る、多様で活力あるバークシャー経済をいかにして作り出すか、ということだ。この過程において私たちは同じ様な問題の解決に取り組んでいる地域、地方の団体、そして全国的組織と交流を図ってきた。
○始まりは「地域が支える農業」(Community Supported Agriculture)「地域が支える農業」(CSA)は、1986年に米国マサチューセッツ州サウスエグルモントのインディアンライン・ファームで始まった。そこはジャグエンド・ロードにあるシューマッハーセンターの図書館と事務所のある場所からほんの4、5キロ行ったところにある。この農場はCSA活動の創始者であるロビン・ヴァン・エンにより運営されていた。
CSAの組織では、農家が年間の運営予算を組み、組合員となった市民はあらかじめその予算のある一定の割合(シェア)を支払う。引き換えにCSA組合員には毎週、農場から農産物が配布される。
天候に恵まれバジルが豊作の年は、届けられるどの箱にもバジルが大量に入っている。しかしトマトの生育が悪い年であれば、トマトはゼロ。組合員は農家とリスクを分かち合い、そうすることにより地域の農産物の生育状況を知ることになる。
1980年代以降、CSAの理念は何千という農家が参加する世界的な動きに成長してきた。その理念はバークシャーにも根付き、今ではバークシャー精神の根幹をなしている。
バークシャーの住民は地元産の高品質で新鮮な食物を手に入れるためには、農家と連携して、農家の労働に対して適正な価格を保証し、気象条件の変化や作物の病気、設備の故障といったリスクを分かち合わねばならないということを理解している。
バークシャーの住民はそのとき手に入る野菜に合わせて料理をする習慣を身につけ、農場と農家の市場のスケジュールに合わせて買い物に行く必要があるということもよく分かっている。
リスクを担う当事者として、出資者は農場と農家のための非公式なマーケティングチームを結成し、マーケティングに掛かるコストを削減するとともに地域社会のなかで農家の側に立った施策を支持する立場をとるのだ。
○CSAモデルを拡大する地域で営まれるほかの生産活動に同様の理解を広めようとしたら、どうなるだろうか?
バークシャーは、地元の家具工房、毛織物産業、アップルソースの缶詰工場、人道的な食肉解体場、水力発電所、あるいはバークシャーの住人にとってはすでに身近な、そういった小規模ビジネスを支えることになる精神にも具体的な形を与えることができるだろうか? バークシャーは「地域が支える産業」というものを受け入れることもできるだろうか?
こうした産業が地元の若者に高賃金の職をもたらす「輸入代替」ビジネスを生むこと、その多様な生産活動・スキル・人々を生かし、環境保護に力を入れつつもバークシャーを活気ある状態に保つことは可能だろうか?
バークシャーのビジネスを市民が支えるという文化を築くには、多くの手が積極的に差し伸べられる必要がある。このような文化的・経済的な転換をもたらすには、事業主、退職者、若者、投資家、組織のリーダー、役人、関係のある市民で話し合いの場を持ち、以下の点を問うことが欠かせない。
1.まだバークシャーにないもののうちで、どのような製品を地元で製造したらよいか。
2.新事業が確実に成功するための条件作りに、市民はどのような形で手を貸すことができるか。
3.その過程では、どのようなスキルの提供を受けることが可能か。ビジネスプランの作成や見直し、市場調査、用地の選定、設備の識別、指導、資金提供、認可、技能開発?
バークシャーはどうすれば地域の持てる力を活用し、新進企業家を支援することができるだろうか?
こうした新進企業家が今度は、適正規模の、かつ環境面で健全な新事業を営むことになり、その事業が社会的、環境的責任を有する経済の礎石となるのだ。
このようなステップはバークシャーに限らず、力強く成長する地域経済を築くには複数の小さな地域社会とその住人が一丸となる必要がある、と理解している多くの地域にも当てはまる。
○遺産を足がかりとして市民が支える経済を築く上での問題と功績は、「新しい経済をめざすシューマッハ・センター」を待ち受ける仕事をよく言い表している。バークシャーにおける33年来のプログラム整備の経験を足がかりにしていくつもりである。
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マイクロローン制度「SHARE」
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地域の土地信託制度
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商品券「デリ・ドル」、地域通貨「バークシェアーズ」
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毎年まとめられる『仮邦題:E.F.シューマッハー講演集』"E. F. Schumacher
Annual Lectures"や図書館の蔵書から得られる普遍的な意見が役に立つだろう。
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ほかの組織と協力することでも引き続き刺激が得られるだろう。
環境に配慮した、公正で持続可能な、スローでレジリエンス(困難から立ち直る力)のある新ビジネスを構想するだけでは不十分だろう。優れたビジネスプランを立てても不十分。地元産の製品や食品への欲求を刺激しても不十分。
「地域が支える産業」と認められ、その保護の下で育まれる新しい産業を実際に起こすには、無理なく土地を手に入れ、熟練した労働者を見つけ(または訓練し)、適切な資本を利用できるようにしなくてはならない。
それは土地保有の柔軟な選択肢、所有権の分散、通貨の民主的な発行について、すでに始まっている全国的な議論をさらに重ねていくということを意味するだろう。
どうか私たちの仲間になっていただきたい。身近なところや地域の組織で働き続けることによって、経済の変容の必要性と可能性をめぐる議論に参加することによって、そして自分が行っている支援を続けることによって。
(翻訳:山口、野村)
~~~~~~~~~~~~~引用ここまで~~~~~~~~~~~~~~
「地域が支える農業」(CSA)は米国や欧州ではとても広がっていて、海外の会議に出ると、よくそういった話を聞きます。
田中めぐみさんが書かれた
『サスティナブルシティ ニューヨーク 持続可能な社会へ』にも、「ニューヨーク市内には、こうしたCSAが10年時点で100以上あり、多くは定員を超え、キャンセル待ち」と書いてあります。
CSAが世界的に流行る前から、日本にも「生産者と消費者の連携」(生協など)の広がりがありましたが、それに比べるとCSAはより「地元」「コミュニティ」を重視する感じがします。「地元の消費者が地元の生産者を支える」という感じですね。
それをさらに広げて、農業だけではなく、ほかの産業も「地元の消費者が地元の生産者を支える」しくみができないか?というのが今回の内容です。
JFSで今年度進めている「地域の経済と幸せ」プロジェクトとも重なる考え方・取り組みで、要注目!です~。