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エダヒロ・ライブラリー環境メールニュース

2013年07月15日

花束を抱えて電車に乗ると運賃が無料に! 人口減少時代にも活力あるコンパクトシティをめざす富山市の取り組み(前編) (2013.07.15)

新しいあり方へ
 
国土交通省がコンパクトシティへの支援に力を入れるという報道がありました。人口が減っていく中で、これまでのようにどんどんまちを拡大していく都市計画では無理が生じます。逆に、人口減少を前提として、コンパクトな都市にしていくことが、市の財政的にも、地球や地域の環境保全のためにも、そして住む人々の幸せにとっても大事になっていきます。 コンパクトシティづくりのトップランナーとして取り組みを進めているのが富山市です。先日、内外にその取り組みを伝えたいと、富山市の森市長にインタビューをさせていただきました。JFSから英語で世界にも発信しますが、今回は、わくわくするインタビュー内容を日本語でノーカットでお届けします。 ちなみに、森市長ってどんな感じの方?と思われたら、インタビュー中の森市長のお写真、私のブログのこちらにあります。 http://www.es-inc.jp/edablog/2013/eda_id004073.html まずは前編です。どうぞ~! ~~~~~~~~~~~~~ここから引用~~~~~~~~~~~~~~ -(聞き手:エダヒロ)富山市はコンパクトシティへの取り組みを進めていますね。 底辺に流れている問題意識は人口減少です。人口が減少していく中で、郊外に拡散していくようなまちづくりから、少なくてもこれ以上の拡散は止め、できるだけ市街地に人が集まってくるようなまちづくりや、公共交通をブラッシュアップして、クルマ一辺倒の暮らしから公共交通も使うという暮らしにシフトさせていく。そういうことを進めています。 -LRT導入を議論している地域はほかにもありますが、実際の導入に至ったのは今のところ富山市だけです。物事を進めていく原動力は何なのでしょうか? 「今やらなくてはならない」という強い気持ちです。例えば、富山市では市道の維持管理費が現在、今、市民一人当たり年間4,000円かかります。それがこのままだと、25年後ぐらいには1人あたり7,000円ぐらいになります。 今の若い世代、10代、20代にしてみると、「30年後ぐらいに社会の中枢を担うときに、高コストになっている」ということになります。それでは、僕らの世代として責任が取れません。だから今のうちに、たとえ現在の市民に嫌がられても、将来市民のためにやらなくてはならない、と思っています。 政府に、総理を本部長とする地方分権改革推進本部があります。そこに対して意見を言う「地方分権改革有識者会議」に、全国市長会から私がメンバーになっています。 その第1回で、どういう方針で行くかという議論をしていたとき、「市民の幅広い声を」というと意見に対して、僕は「市民の中には将来市民もいるということを言わなくてはならない。現在市民だけが市民じゃない。現在市民だけの声で動くとポピュリズムになってしまう。今の市民に嫌がられるが、将来市民には大事なことがある。それを意識して仕事をすべきだ」と言いました。 次の会議で出された基本方針に、「将来市民」という表現が入っていました。「今良ければいい」だけじゃないということはとても大事だと思います。日本は、人口減少時代に入ったのです。 -森市長はいつ頃からそのような問題意識を持つようになられたのですか? 僕が市長になったのは平成14年1月ですが、具体的に対策を考えようと思ったのは平成15年です。人口減少と高齢化が進む中で、平成13年に始まった介護保険制度がきっかけの1つです。この制度は、それぞれの地域でつくる介護保険の組合が、その地域内にいる介護が必要な人にサービスを提供し、そのサービスにかかる費用の半分を国の税金で負担し、残りの半分を40歳以上の市民が分担するしくみです。 地方に親を残して都会で働いている人は、その住んでいる地域の介護保険料を払うことになりますが、都会は高齢化率が低いので、安くてすみます。しかし地方は、高齢者も多いから介護保険料が高く、その高い介護保険料を少ない数の若者が負担することになります。その中で人口が減っていくわけですから、地方都市ほど、将来をしっかり見据えて布石を打たないといけないのです。 -今でこそ、日本は人口減少時代に入ったなどメディアでも採り上げるようになりましたが、今から10年前からその時代を見据えて手を打っていらしたのですね。自治体の中でも珍しかったのでは? いまだに何とか人口を増やそうとしている自治体もありますよね。 そんなことは無理です。切り替えができないのは、仕組み全体が右肩上がりの時代につくられたものなので、それを大胆に変えることの反作用があまりに大きいからでしょう。あるいは、幻想を見ているか......。 沖縄も東京も人口は減り始めていますよね。ある意味、それはいいことです。昭和の初めの頃の日本の人口は7,000万人ぐらいでしたが、それで不幸だったかと言うと必ずしもそうでもありませんよね。そういう意味では、本来あるべき人口、本来あるべき社会にソフトランディングさせていくことが大事なのであって、そういう意味では好期を迎えているのかもしれません。 地方都市の立場から言うと、日本全体の人口が減る中で、きちんとした布石を打たないでいると、自分のところの人口は加速度的に減っていきます。今から5年、10年たつとはっきりすると思いますけど、都市間の格差が大きく出てくるでしょう。 ちなみに、富山県内には10市ありますが、おととしの国勢調査で、5年前より人口が増えていたのは富山市だけです。残りは全部減っています。すでに差が生まれてきているのですよね。 -その問題意識を実践に移していく上で大事なポイントは何なのでしょうか? きちんと実態を見て都市経営をやっていくことだと思います。たとえば、企業誘致ができてそこの社員が移ってきても、それで満足していては駄目です。社員の家族も一緒に来てくれないと。最近企業の経営者に会うと、「家族で移り住めるような都市でないと、工場のラインを増やしたり、新たな展開はしたくない。単身赴任者ばかりの現場は作業性が悪い」と言う方が多いですね。 だから、「社員や社員の家族から選ばれる都市像」というものを、きちんと明確にし、そういうまちづくりをしていくことです。そうすれば、人口も減るにしてもゆっくりと減ります。そうすると、若い人から見ても、「あの都市なら将来も安心」と思える。ここがすごく大事です。 介護保険料や国民健康保険料が高いところは安心して住めないでしょう? 総合力として、教育水準が高くて、福祉の水準もある程度きちんとしていて、犯罪が少ないなど安心・安全度が高く、食材、水、空気もよくて。そういう場所だったら、外から見ても、「あ、いいな」と思うでしょう? 「お父さん、富山だったら、私も付いて行く。子どもも連れて行きましょう」となる。そういうことだと思うのです。 だから富山市は、市の魅力を高めることをいっぱいやっていますよ。日本で一番進んだLRTのシステムを動かしています。パリのようなサイクル・シェアのシステムもあります。予算を使って、中心部を花で飾っています。それからね、富山市は、町の中で花束を買って電車に乗ると無料なんですよ。おしゃれでしょう? -ステキですね~! 誰のアイディアですか? 僕のアイディアです。何をねらっている制度かわからないかもしれないけど、今おっしゃったでしょう、「ステキですね」と。それが大事なんです。富山には企業の研究所もいろいろありますが、研究者に富山への転勤の辞令が出たとき、家族が「富山だったら私も行く」と言ってくれる。これ、すごく大きな違いです。 僕は、10年ずっとそういうことを考えてきました。全体として人口が減る中で、減るにしても緩やかに減って、若い人から見ても安心を感じられるようにしたい。社員の家族からも選ばれるようにしたい。そうすることが、都市の力の持続性につながる。地方都市であっても、一定程度、活力を維持でき、再投資もでき、税収にもつながります。 それから、富山市の街の中には、LRTが環状に敷設されていて、1日中路面電車がぐるぐる回っているのですが、外国の人は無料なんです。ホテルに無料のチケットが置いてあります。そして、県外から来た方は半額です。いいでしょう? おもてなしなんです。 このLRTの周辺に、公共施設を造り、民間投資も呼び込みます。中心部は地価が上がり、市の財源を支える税も増えます。 -実際にはどうなのですか? この環状線が動き始めたのは平成21年12月ですが、22~24年の3年間のデータがあります。面白いのはね、男性の乗客数は横ばいなのですが、女性がすごく増えているんです。今、乗客の7割は女性です。なかでも、65歳以上の人が61%も増えている。つまりこれは、外出機会をつくった、ということなんです。 環状線が単なる移動手段ではなく、人々の暮らし方に刺激を与えることになり、元気な高齢者をつくることにつながっているんです。この人たちが電車で中心商店街に来る目的は、ほとんどが買い物です。3年間で、中心市街地での滞在時間が15%伸び、消費金額は2割伸びています。車で町へ買い物に来る人よりも、電車で来た人のほうが消費金額が大きいんですね。 -なぜなのでしょう? 最初はわからなかったのですが、飲食なのですね。だから平日は自動車で来る人と変わらない。でも、休日は、電車で来ると、駐車料金なども気にする必要がないし、お昼にもビールを飲んだりできる。夕方買い物が終わってから、ご夫婦でお酒を楽しんでいったりする。その結果、中心市街地でのアルコールの消費量が2割伸びているんです。 -面白いですね! これが果たして、水準が良くなったかどうかは、人によって見方が違うでしょうけど、僕自身は、目指しているヨーロッパ型の都市に向けての大変よい傾向だと思っています。 富山市ではJRの時代には乗客数が大きく減少していたのですが、LRTシステムに変えたあとは急増しています。データを見ると、2.1倍に増えた理由の1つは、昼間帯に50代、60代、70代が乗っているんです。高齢者が楽しんで乗っている。これが大事なんです。 LRTは高齢者の外出にすごくよい効果があります。持続性の高い町にするために、要介護状態の高齢者を増やさない、せめてその増加を鈍化させ、重篤にはさせない。それが今の若い人たちの将来の負担を抑えることになります。「今の高齢者を元気にすることが、今の若者の将来負担を抑えること」だと思って、面白いことをいっぱいしていますよ。 たとえば、高齢者向け「女子大生と行く秋の街歩きツアー」。富山大学と一緒に開発した、ブレーキ付きの安全な補助具を使ったりして歩いてもらう。それから、祖父母と孫が一緒に、ファミリーパークや博物館などの市の施設に行くと、入場料は一切無料になります。これ、お孫さんはうれしいでしょう? ママと行ったら、ソフトクリーム1回しか買ってくれないけど、おばあちゃんは3回くらい買ってくれる(笑)。 祖父母のほうも、孫と出かけるとうれしいでしょう? おじいちゃんの財布も緩むでしょう。園内に小さなオモチャを買える機械が置いてあるのですが、その売り上げが1.6倍になりました。 ほかにもいろいろなことをやっていますよ。プラネタリウムでは、月に2回ぐらい、「カップルで来ると無料」という日を設けています。デートするのに、プラネタリウムっていいじゃないですか? 僕は「途中5分間ぐらい真っ暗にしよう」と言っているのですが、それはさすがに、学芸員が嫌がって実現していません(笑)。 それから、都心部にある街区公園で、高齢者に野菜を作ってもらうということもしています。これは最初、国土交通省からは「公園で、みんな勝手に野菜を作るのはいかがなものか」とちょっと抵抗がありました。でも、公園法で禁止しているわけではなく、たしかに勝手に耕して野菜作ったら困りますが、市が奨励して地域の高齢者が公園で野菜を作るならよいでしょう?と了解を取り付けて、今年度、3つの公園で始めます。 野菜が育っていくことは、すごく高齢者に生命力を与えてくれます。その野菜を、町内で子どもも含めてみんなで集まって、芋煮会をするのもいいですね。市民農園というのもありますが、大概は郊外にあって、町の中に住んでいる高齢者は行けないですよ。 そういうことをやるためにも、GISの市の基図に、住民基本台帳のデータをマッピングしたんです。そうすると、たとえば65歳以上がどこにたくさん住んでいるかがわかります。今まで、何となくの感覚でしかとらえられなかったデータですから、画期的なことです。未就学児がどこにたくさんいるか、すぐ出ますから、通学区域をどうするとか、スクールゾーンどう決めるかという議論もやりやすくなります。都市経営にいろいろな面で役に立ちますから、今では総務省が全国の自治体にも勧めています。 -現状をしっかり把握して、施策を作っていくのですね。 そうです。そうすれば、市民にもなぜ中心部に投資するかわかるでしょう? 高齢者が実数として多いわけだから、電車を敷設してこの人たちが移動しやすい環境をつくることは極めて妥当だ、と。             (次号につづく)
 

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