前号につづき、コンパクトシティづくりのトップランナーとして取り組みを進めている富山市の森市長へのインタビューの後編をお送りします~!
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-中心市街地活性化などのいろいろな取り組みの成果はどうなのでしょうか?
中心市街地は、ずっと転出超過だったのですが、5年連続転入超過になりました。
ー素晴らしい!
日本では、120くらいの都市が中心市街地活性化基本計画を出していますが、成果としてはおそらく、富山市が突出して高いと思います。
それから、郊外の駅周辺に「居住推奨エリア」を定めているのですが、こちらも去年ついに、転入超過になりました。その結果、富山市全体の児童数は減っているのですが、中心部の小学校では、減少から増加に転じました。
-「居住推奨エリア」とはどういうものですか?
公共交通沿線の居住人口を増やす目的で、富山駅を中心とした19の公共交通軸に沿った約3090ヘクタールの公共交通沿線居住推進地区を設けているのです。中心部と公共交通の沿線で、「バス停から300メートル」とか、「駅から500メートル」といったところですね。
まちなか居住推進事業として、一戸あたり、共同住宅は100万円、戸建て住宅は50万円といった助成を出しています。また、公共交通沿線居住推進事業として、一戸あたり、共同住宅は70万円、戸建て住宅は30万円といった助成で後押ししています。
都市マスタープランでは、公共交通沿線居住推進地区の人口について、平成17年の28%を、20年後に42%に引き上げようとしています。現在は31%まで増えてきました。こうやってコンパクトシティ化を進めていけば、将来市民の負担を抑えることができます。
―中心部の人口が増えてきているのはすばらしいですね。ほかにもコンパクトなまちづくりの成果が上がってきていますか?
ええ。たとえば、富山市全体の地価は、全国的な基調と同じく下落していますが、中心部の地価は横ばいで維持しています。これは、財政的にはすごく大事なんです。
富山市の歳入全体に占める税目の構成比を見ると、リーマンショック以降市民税が落ちています。その結果、不動産に対する固定資産税と都市計画税の構成費が大きくなっています。このとき、地価が下落すると、この税収も減少することになります。
地区別に見れば、中心市街地の面積は全市の0.4%ですが、全市の固定資産税と都市計画税総額の22.2%を収めてくれていることがわかります。ですから、ここに投資することが一番合理的なのです。
こういうことをちゃんと説明しながら、選択的・集中的な投資をしています。特に、郊外に住んでいる人に説明して回ることがすごく大事です。
「皆さん、中心部にばかり電車を走らせたり、花束を持ったら電車が無料とか、花で飾ったりして、不公平だと思っているでしょう? でも、この数字を見て下さい。この上中心市街地の地価が落ちると、市の財政が厳しくなるから、行政サービスの水準を落とすか、市民税を上げるかしないとやっていけなくなる。だから、不満はわかるけど、中心地からの税収があるから農村や郊外への特別な補助もできるのです」と。
「皆さん、不満でしょう?」と言ったら、「不満です」と答えが返ってきます。「でも、しょうがないでしょう?」と言ったら、みんな「しょうがない」と言います。
きちんと市民を説得できるかどうかです。多くの首長は、それが嫌だったり怖いのでやらないのでしょう。「何であそこばかりやるんだ。おれのとこにも」という圧力や声に対して説得し切れないのです。
長く、「行政に求められるものは説明責任だ」と言われてきましたが、説明責任で止まっては駄目なのです。必要なのは説得責任です。「反対」と言う人たちをも説得する。そして乗り越えて、将来市民のために必要な施策を進めること。それが行政の責任だと思うのです。
-実際に進めるうえで大事なことは何ですか?
結局、突き詰めて考えていくと、最後は1つに尽きますね。とにかく説明をきちんとすること、嫌がられても、一番反対しそうな所に飛び込んでいって、こういうデータを出して、説得するということです。
最初のころ、LRTの取り組みを始める時には、全市をまわって120回くらい説明会をやりましたよ。2時間の説明会を1日に4回やったこともあります。最後は、酸欠で倒れそうになりました(笑)。
それともう1つ大事なことは、100人が賛成するのを待って動いたのでは駄目だということです。ここがとても大事なところです。反対する人がいても、信念と確信があれば、そのうちわかってくれる。
学級会的な発想で「クラスの中で反対する人がいるのが嫌だからやらない」というのは違うでしょう。公職の責任の取り方としては。反対があってもやる。その姿勢を打ち出せるかです。僕はずっとそれでやっているから、多くの市民は、「どうせ市長は言い出すと止まらないから」と(笑)。
-この間の選挙で四選されましたが、得票率は86%とのこと。市民の市長への信頼度は高いですよね。
乱暴なやり方でやっていますが、伝わっているのだと思います。私はそれを「消極的な支持」と呼んでいます。「本当は気に入らない。だけどしょうがない。だから反対はしない」という人たちがサイレントマジョリティではないでしょうか。本当に声を出して反対している人はほんの一部なのです。
状況が劇的に変わるわけではありませんから、緩やかに、緩やかに進めていくこと。どこまで進んだか、どういう成果が上がってきているか、という成功体験の話をできるだけたくさん、みんなに伝えることによって、理解者が増えて、また次の投資ができる――この繰り返しだと思っています。
-これから力を入れていこうという分野はどういったところですか?
コンパクトシティづくりも進んできたので、そろそろ「ファシリティ・マネジメント」を具体的に打ち出していかないといけないと思っています。2年前から、市役所内に職員のチームを作って、具体的な検討を進め、原案の原案みたいなものを打ち出したところです。
-「ファシリティ・マネジメント」とは?
人口減少を考えれば、道路や橋などの新設を抑え、今ある施設を修繕しながら使い続けるとともに、公共施設の統廃合を進めていくことが必要になります。原案の原案では、具体的に「この建物は閉鎖する」といった案も出しています。その通りやると政策決定したわけではありませんが、具体的に出したことに対しては、びっくりした人が多かったようです。
現在は選挙が終わったばかりですから、最初の2年で市民にちゃんと説明をし、あとの2年以内にきちんとした方策を打ち出すことが僕の責任だと思っています。
東洋大学の根本教授の調査によると、全国の人口30万以上の都市の最大公約数的な都市像をみると、市民1人あたり、体育館や学校などを含めた公の施設が2.8平方メートルあるそうです。ところが、富山市では市民1人あたり3.8平方メートルです。これを全て維持していくとなると、非常にコストがかかりますし、ましてや老朽化した建物を全て建て替えるのは不可能です。
少なくても、その事実を市民にしっかり伝える必要があります。今回の選挙の公約でも、はっきりと「ファシリティ・マネジメントをやります」と打ち出しました。「今後、切り込みますよ」というところまではちゃんと伝わっていると思います。
もうすでにいくつも廃止した施設もあります。市町村合併後に、来館者があまりにも少ない施設などは廃止してきました。これらにはあまり反対もありませんでしたが、これからは、現に使われている施設に切り込んでいくことになりますから大変だと思っています。
―どうやって進めていくのでしょうか?
方法はいくつもあります。さきほど言ったように、実際にすでに閉鎖したものもいくつかあります。一定程度利用されているものについては、すぐに閉鎖しなくても、「使える間は使うけれども、更新はしない」というカテゴリーに入れることができるでしょう。
それから、期限を区切って、たとえば「あと20年だけ使う」というやり方もあるでしょう。もう1つ、特に体育施設は、競技種目を特化させることです。すべての体育館をどの競技にも使えるように整えると過剰投資になりますから、「この体育館はフットサルに特化します」「この体育館はバスケットに特化します」というやり方もあるでしょう。そうすると、利用者も増えるし、稼働率も増えるかもしれません。
それから、「今後もしっかりブラッシュアップして、将来市民の体育施設として使っていく」「将来市民の音楽の発表の場として使っていく」「将来市民の練習の場として使っていく」というように、「今後も必要なもの」というカテゴリーもありますね。必要なものは造っていく必要があります。必要な社会資本投資は、将来資本のためにやるべきですから。
そういったカテゴリーを作って、「この施設はA」「こちらはB」と、公の施設にラベルを張る作業を、この4年でやりたいと思っています。
-現在使っている施設を廃止されるという市民も出てきますから、これまで以上に痛みを伴いますよね?
ええ。先日の議会でも、「今期の僕の責任の1つは、嫌がられることをすることだ」と明確に言いました。選挙の時も、そう言って選挙戦を闘いました。将来市民のためにすべきことを進めようとしたら、現状を守りたくて反対する人と正面からぶつかることになりますから。
でも、何でも削っていくわけではないんですよ。富山市には、市役所の本庁のほかに、住民票や税や諸証明の対応ができる出先機関が79もあるんです。1カ所当たりの人口は5,279人ですから、きめの細かいことをface to faceでできます。今ではみんな、ICTだ、ワンストップサービスだ、コールセンターだと言いますが、違うんじゃないかと思うんです。高齢者の皆さんにしてみたら、やっぱりface to faceで相談に乗ってくれる場所のほうがいい。
だから、僕はこれはファシリティ・マネジメントの対象とはしたくない。公立の公民館も、富山市はたくさんあります。図書館もそうです。こういうことはきちんと応援する。そのための財源をつくるためにも、その他の施設を早くスリム化したいと思っています。
絶えず財政状況を見ながら進めていきます。一方ではファシリティ・マネジメントを進めて市民に痛みを我慢してもらうとするなら、市でもきちんと人件費を減らしていくなどの取り組みが必要です。でも、それを給料カットでやると士気にかかわります。だから、富山市では、職員の給与はカットせずに、人件費は減らしています。平成17年度に比べて11%の減少です。
―どうやって減らしているのですか?
なるべく残業をしないようにしているんです。職員には、給与はなるべく確保すると言ってあります。だって、嫌でしょう?
行政には、明治時代から残っている企業文化みたいなものがあって、「月曜日から金曜日まで仕事をして、できなかったら土日にやればいい」「夕方5時半ごろ、市民が来なくなってからゆっくり仕事しよう」――だから、残業代が膨らむんですよね。議会対応の時期なら、土日も出て答弁の準備をしている。
そこで、僕が、とにかくみんな、土曜日か日曜日、どっちか休もうと言いました。現在では、市庁舎の電気は18時になるといったん切られます。そのあと自分で電気を点けて残業できますが、許可は最大限20時までです。20時になったら、建物の電気は消えます。
財政の面よりも、小学生の子どもを持つ女性職員が夜22時、23時まで働いているのは絶対に不健全だと思うからです。早く家へ帰って、ワーク・ライフ・バランスをちゃんととろう、そのためには、月曜日から金曜日までに仕事を終わらせる文化に変えなくては、と思って働きかけをしています。
―ワーク・ライフ・バランスがとれるようになれば、やる気になるし、働きやすくなるし、いいですよね。
平成17年の4月1日に合併してちょうど8年ですが、企業特別会計を含む連結では、起債残高を大きく減らしています。意識しながら財政運営をしています。いざ困ったときのための財政調整基金というのもありますが、ほとんど使っていません。除雪などで使ったら、次の年に積み戻しています。
―世界の多くの都市のお手本ですね!
こういった取り組みが評価され、2012年6月、OECDが選ぶコンパクトシティの世界の先進モデル5都市に選出されました。選ばれたのは、メルボルン、バンクーバー、パリ、ポートランド、富山市ですが、唯一人口が減っているのは富山です。OECDには「東アジアにこれからいくつか出てくる人口減少高齢社会でのコンパクトシティ戦略のモデルだ」と評価されました。
この評価のためか、2013年に入ってから、4月にバリ島での国連の会議で基調講演を依頼され、4月、5月にもジュネーブとニースの国際会議に招聘されました。
―世界に先駆けて人口減少・高齢社会に入った日本のなかで、持続可能で幸せな暮らしに向けての都市作りの成果をあげているのはすばらしいですね。きちんとした現状のデータの分析と今後の予測、わくわくするようなアイディアと、市民にきちんと説明し、説得する力を併せ持っていらっしゃるからこそ、ということがよくわかりました。今後も応援しています。ありがとうございました。
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人口減少社会に向けて、自治体のリーダーシップや役割がますます大きくなってくることでしょう。スプロール化を防ぎ、都市の諸機能を小さなエリアに集約していくことで、効率的で持続可能な都市にしていこうという「コンパクトシティ」について、マスタープランや中期計画などで言及している自治体は多いものの、実際に成果が上がっているところはまだ少なく、富山市の取り組みと成果は大きな注目を集めています。
森市長のお話をうかがっていて、"絵に描いた餅"にせずに、実際の成果につなげていく上でのキーポイントは、「将来市民の目線で考えるビジョン」「データと現状に基づいた行政・リーダーの説得責任」そして「住民との対話」であることがわかり、とても勉強になりました。
多くの自治体で、手遅れになる前に(必要な資源・資本の投入ができなくなる前に)、コンパクトシティへの歩みが進められることを願っています!