暑い日が続きますが、お元気ですか~?
少し前のものになりますが、アースポリシー研究所からのリリース文を実践和訳チームが訳してくれましたので、お届けします。
「ダストボウル」というと、昔米国でそういう問題があったと聞いたことがある、というイメージでしたが、、、
~~~~~~~~~~~~~~ここから引用~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
ダストボウルの拡大により中国とアフリカで食料の見通しが悪化
ジャネット・ラーセン
http://www.earth-policy.org/plan_b_updates/2012/update110
「ダストボウル」という言葉を聞いたときに大半の人が連想するのは、1930年代の米国中西部だ。当時、開拓地で生産された小麦が大きな利益を生んだことから、グレートプレーンズ(大平原地帯)の草原の開墾が進んだ結果、米国史上最大の環境災害が引き起こされた。
研究者や一部の農家の警告にもかかわらず、歴史は繰り返される。1950年代から1960年代初頭にかけて「ソビエト未開拓地プロジェクト」が行われたのだ。ニキータ・フルシチョフ首相が農業生産拡大を推し進めた期間に、ロシア、カザフスタン、シベリア西部で合わせて約4,000万ヘクタールの草原が耕されて劣化してしまった。
干ばつが襲うと、表土が飛散し始めた。1965年までには、開拓された農地のほぼ半分が風食で劣化し、収穫量は激減した。ついには、農家が撤退し、開墾地の大部分は放棄されてしまったのである。
残念なことに、ダストボウルを過去の出来事と見なすことはできない。今も、新しいダストボウルが2つの地域で形成されているのだ。1カ所は中国北部からモンゴル南部にかけて、もう1カ所はアフリカのサハラ砂漠の南側だ。
米国とソ連のダストボウルは過耕作の結果であったのに対し、アジアとアフリカでは過放牧が主な原因である。乾燥・半乾燥地帯の草原は、概して、耕作よりも家畜の放牧に適している。しかし、いったん過放牧が行われてしまえば、土壌を守るように生えている草が疎らになり、過耕作の場合と同じように土壌浸食が起こってしまう。
中国の国土面積の40%は草原だ。中国では、1970年代後半に始まった農業改革で家畜の所有権が集団から個々の世帯に移されると、1980年には5,200万頭だった牛の飼養頭数が2000年には1億500万頭近くまで増加した(国連食糧農業機関(FAO)の発表による)。
一方、羊とヤギの飼養頭数も、1億8,000万頭から2億8,000万頭へと激増した。草食動物の飼養密度があまりに高くなったため、草地には耐えられないほどの負荷がかかった。ちなみに、放牧を支えられる力が中国と同等である米国においては、牛の頭数は同程度だが、羊とヤギの数は合わせて900万頭にとどまっている。
中国の家畜の中でも、最も急激に増加したのはヤギである。1980年代半ばから増加したヤギの頭数はわずか10年で2倍になったが、まさにそれが問題なのだ。牛の数に対してヤギの数の割合が急増すれば、草地が劣化する可能性があるからだ。
ヤギは逞しく、他の草食動物がほとんど生存できないような環境でも生きられる。不毛に近いような土地に残された緑を有効に利用できるのだ。しかし、大量のヤギはしばしば環境劣化の前兆となる。なぜなら、ヤギが残っている植生を食べ尽くせば、土壌が風や雨で侵食されやすくなるためだ。
国内の草原の90%が劣化しているという非常事態を受け、中国政府は再生計画に着手し、再緑化、放牧禁止、家畜の舎飼いなどを実施した。さらに、環境保護という名目で、遊牧を営む者たちの移住や移動制限を進めた。しかし、その後の草原の変化から明らかになったのは、伝統的な放牧パターンを乱せば土地の劣化が一層深刻になるばかりか、放牧者が予測不能な気候変化の影響をより受けやすくなる可能性がある、ということだ。
FAOのデータでは、2000年以降、中国における牛の飼養頭数は2,000万頭減少し、羊とヤギの増加が失速したように見える。その要因が、飼養頭数の減少を目指した政策なのか、放牧者の移動なのかは不明だ。
そうしている間にも、多大な被害がもたらされ、中国のダストボウルは勢いを増すばかりだ。中国の国土の1/4以上が砂漠に覆われており、砂の拡散により砂漠の面積は年々拡大している。北西部の乾燥地帯では、個々の砂漠が広がって他の砂漠と合体しつつある。1950年以降に放棄された村と移動する砂丘に飲み込まれる危機に瀕している村の数は合わせて2万4,000を超え、およそ3,500万人が直接被害を受けた。
砂漠化の影響は、砂漠の周辺から遠く離れた地にまで及ぶ。春は砂塵嵐の季節だ。雪が解けて風が勢いを増すと、砂塵の粒子は中国北部やモンゴルからはるか北京へ、さらには韓国や日本へと運ばれる。時には、太平洋を渡り、北米の一部を覆うことさえある。
中国気象局の報告によると、2006年に発生した大型の砂塵嵐では、一度に33万トンの砂塵が中国西部から運ばれて北京に降ったという。なんと、北京市民一人当たり20キログラム弱の砂が降った計算になる。2007年には、拡大の一途をたどる中国のタクラマカン砂漠から発生した砂塵嵐が、2週間足らずで地球を一周した。
砂漠学者の王濤によると、21世紀最初の10年間に中国を襲った砂塵嵐の数は87回に及ぶ。特に激しい砂塵嵐(視程200メートル未満)についてここ数十年の記録を見てみると、1950年代には5回だったのが、1970年代には13回、1990年代には23回、2000年から2009年の間には21回と、襲来回数が増えていることが分かる(データ参照:
http://www.earth-policy.org/datacenter/xls/update110_all.xlsx)。
韓国環境部は、中国やモンゴルで発生し韓国に到達する砂塵嵐もこれと同じように増加していることを認識しており、韓国における「黄砂の季節」が以前より長くなり、砂塵飛来規模も拡大している、との見解を示している。砂塵飛来によって曇天となった日数は、1970年代には23日だったが、1980年代には39日、1990年代には77日、2000年から2011年の間には118日を記録した。
アジアの砂塵嵐も深刻ではあるが、地球規模でみると、大気中の砂塵の最大発生源はアフリカである。アフリカ大陸の面積の2/3を占める砂漠や乾燥地からはるか遠い場所にまで砂塵が飛散している。実際、チャドのボデレ低地から飛散した砂塵が、熱帯雨林が青々と生い茂るアマゾンの土壌の肥沃さを支えていると考えられている。
アフリカの乾燥地のおよそ75%は土壌が劣化しており、干ばつと過剰利用という二重苦により、西アフリカから飛散する砂塵の量は過去40年間にわたって増え続けている。アフリカからの砂塵飛来量の増加が、海水温度の上昇と相まって、カリブ海の珊瑚礁に被害をもたらしている可能性を指摘する研究結果も出ている。
サハラ砂漠南縁部に広がるサヘル地域では、状況はさらに逼迫している。急激な人口増加に伴い、人々が生活のために、すでに弱りきった土壌をさらに酷使して農耕や放牧を行うためだ。砂漠化が特に深刻なのはブルキナファソ、チャド、ニジェール、そしてアフリカ最大の人口を抱え、毎年およそ35万ヘクタールが砂漠化していると推定されるナイジェリアである。
遊牧民(主にイスラム教徒)と農耕民(主にキリスト教徒)との間の土地を巡る争いは後を絶たず、どちらも土壌劣化を助長してしまっている。ナイジェリアの遊牧民はその多くが同国北部にいるが、彼らが家畜の頭数を劇的に増加させたため、不規則な降雨によってすでに弱っていた土壌にさらに負担をかけることになってしまった。1990年には牛1,400万頭、羊1,200万頭、ヤギ2,300万頭だったナイジェリアの飼養頭数は、2010年時点で、牛は微増の1,700万頭にとどまったものの、羊は3倍の3,600万頭、ヤギは急増して5,600万頭に膨れ上がったのだ。
アフリカも中国も、砂漠化を食い止めるために「緑の長城」という思い切った取り組みに踏み切った。元ナイジェリア大統領オルシェグン・オバサンジョ(アフリカ版「緑の長城」の初期推進者)、元セネガル大統領アブドゥラーイェ・ワデなどの政治指導者はこのような大がかりで象徴的なプロジェクトを好む傾向がある。
確かに、米国がダストボウルによって非常な困難に面した際、当時の大統領フランクリン・D・ルーズベルトも、「巨大な防風林を作る」という似たような対策を講じた。しかし、米国がそうであったように、サヘル地域や中国における砂漠化防止策も、単純な防風林を設けることにとどまらず、さらに包括的な土壌管理や貧困緩和策にまで広がりを見せている。
中国では、1980年代の初めから推定400億本の植林が行われたものの(もっとも実際に育った木はこれよりずっと少ないが)、砂塵飛散を抑制する点ではこれまでに限られた成果しか得られていない。つまり、砂漠化防止には植林をはるかに超える対策が必要である、ということが証明されたわけである。
気候変動が問題をさらに複雑にしている。世界の気温が上昇し始めた1970年代以降、乾燥化の進行が著しいため、この惑星の大部分が今も乾燥化の一途をたどっているからだ。地球の温暖化が進むほど干ばつの影響が色濃くなると予想される。
温室効果ガスの排出量を早急に削減させることによって、勢いを増すばかりの地球温暖化を食い止めること、人口増加や家畜増加を緩和させることによって土壌への負担を軽減すること--この二つを実現させることができれば、我々がダストボウルを過去の歴史とすることができる勝算が高くなるだろう。
# # #
ジャネット・ラーセンはアースポリシー研究所の研究担当部門長。
データやその他の情報についてはwww.earthpolicy.orgを 参照のこと。
この情報はご自由に友人、家族、同僚の方々に転送してください!
メディア関連の問い合わせ:
リア・ジャニス・カウフマン
電話:(202) 496-9290 内 線12
電子メール:rjk@earthpolicy.org
研究関連の問い合わせ:
ジャネット・ラーセン
電話:(202) 496-9290 内線14
電子メール:jlarsen@earthpolicy.org
アースポリシー研究所
1350 Connecticut Avenue NW, Suite 403
Washington, DC 20036
(翻訳:和田光世、正嵜春菜)