固定価格買取制度が始まった当初、申請案件は太陽光発電がほとんどでしたが、最近ではバイオマス発電のニュースもよく聞くようになってきました。
日本は森林国ですから、バイオマスには恵まれています。ただ、それをじょうずに集めて使うしくみはこれから、です。
メールニュースを読んで下さっている方には、森づくりや森林保全に関わっていらっしゃる方も多く、よくそのようなお便りをいただきます。バイオマス発電は、再生可能エネルギーを増やしながら、間伐材などへの需要を創り出すことで、日本の森林の手入れを進めることができる、一石二鳥の可能性を有しています。
そのバイオマス発電の現状と、このままでは期待されている効果が生み出せないのでは、という問題提起、そして、同様の状況からじょうずに転換をはかっていったドイツの事例を引きながら、今後の制度についての提案を盛り込んだ研究レポートを富士通総研の梶山さんからいただきました。
とてもわかりやすく読みやすいレポートです。ご快諾をいただいたので、要旨を転載させていただき、ご紹介します。
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木質バイオマスエネルギー利用の現状と課題
- FITを中心とした日独比較分析 -
富士通総研上席主任研究員 梶山 恵司
2013年10月
http://jp.fujitsu.com/group/fri/report/research/2013/report-409.html
要旨
戦後植林した木が成熟し、日本は世界でも有数の森林蓄積を有するまでになった。化石燃料の高騰や気候変動問題などから、木質バイオマス利用の優位性が高く、バイオマスは地域にとってまたとないビジネスチャンスを提供している。
バイオマス利用で先行するドイツをみると、2000年のFIT導入を契機に、電力・熱利用ともに大幅に拡大するとともに、化石燃料を木質バイオマスに代替したことによって、地域資金の循環が生まれ、農山村に新しい富をもたらしている。
日本でも2012年にFITが導入されて以降、多くのバイオマス発電計画がでてきている。しかしながら、そのほとんどは、
(1)林業の現状からかけ離れた大型であること、
(2)熱電併給ではなく発電のみで、エネルギーの無駄遣いとなること、
(3)副産物利用が不十分でバイオマス燃料に適正価格をつけにくいこと
など、多くの問題をかかえている。
これは、現在のFIT制度、バイオマス発電の技術および規制に起因するところが大きい。このままでは、せっかくのバイオマス利用も、林業資本(森林所有者、森林組合、林業会社など)や木材産業にとってほとんどメリットを感じられないばかりか、発電事業者にとっても、将来の燃料価格上昇のリスクに無防備となり、経営的に不安定になりかねない。
次回のFIT改正においては、バイオマス発電の規模の適正化、熱電併給の推進、残材利用の徹底をはかる制度とすること、および中小規模の発電をやり易くするような規制改革が不可欠である。これはまた、バイオマス発電のイノベーションを促し、健全な市場を構築するための前提でもある。
バイオマスという新しいチャンスを活かすためには、林業資本が自らチップ生産・多様な販売先の確保を行うことが重要である。これによってはじめて、森林資源の最適利用と林業資本の価格交渉力発揮が可能となる。
全文はPDFファイルをご参照ください。
木質バイオマスエネルギー利用の現状と課題
- FITを中心とした日独比較分析 - [2,565 KB]
http://jp.fujitsu.com/group/fri/downloads/report/research/2013/no409.pdf
目次
1. はじめに 巨大なビジネスチャンスをどう活かすか
2. 日本のバイオマス発電の課題
2-1 林業の現状とかけはなれた大型発電
2-2 発電だけでは膨大なエネルギーロス4
2-3 発電と熱とで燃料価格が一物二価となる問題
2-4 不十分な残材利用
3. バイオマス利用の最適化
3-1 残材のカスケード利用の徹底
3-2 資源の最適利用を促す制度
3-3 林業資本がチップ生産を行う必要性
4.ドイツの木質バイオマス発電市場の発展と評価
4-1 農山村に新しい富をもたらしたバイオマス利用
4-2 FIT による政策誘導の実際
4-3 バイオマス発電を支える技術とエンジニアリング
5.バイオマス発電の経営分析
5-1 経営の安定に不可欠のカスケード利用
5-2 熱電併給の事業性と熱利用の実際
5-3 バイオマス発電の経営主体
6. おわりに バイオマスの健全な発展に向けて
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日本のバイオマス発電の現状と課題が明らかになって、「うーん......」とうなっ
ていたところで、以下の文章がとても心強く響きました。
~~~~~~~~~~~~ここから引用~~~~~~~~~~~~~~
バイオマス利用を考えるうえで参考になるのが、ドイツである。
ドイツでは、2000 年のFIT 導入時に9 億kWh にすぎなかったバイオマス発電量が2012 年には125 億kWh へと大幅に増加するとともに、熱利用についても2000 年の500 億kWh から2012 年には1,075 億kWh へと拡大し、農山村に新たな富をもたらしている。
ドイツのバイオマス発電は当初から順調に発展したわけではなく、FIT がスタートしてしばらくは大型発電プラント中心で発電のみとなるなど、今の日本と似た状況にあった。
こうしたことから、市場動向をみながら段階的かつ戦略的に制度改正を行い、規模の適正化や熱電併給、燃料の最適利用へと誘導していった。
~~~~~~~~~~~~引用ここまで~~~~~~~~~~~~~~
梶山さんのレポートを読んで、バイオマス発電についても学ぶことができましたが、それ以上に印象的だったのは、「制度を調整することで、状況を変えていける」という実例でした。
ドイツの具体的な例から、固定価格買取制度(FIT)をどのように改善していけばめざしている方向に進んでいけるのかを考える内容となっています。
固定価格買取という制度を作るとき、最初からホールインワンをめざす必要はないですし、それは不可能です。そのときにすべての状況がわかっているわけではないのですから。
だから、「固定価格買取制度を入れたがこんな問題がある、これは解決されていない、だからやめた方がよい」というのではなく、制度をどのように調整していけば望む方向に進んでいけるかを考えるべきです。
研究レポートの結びの言葉は、「このように課題が多いバイオマス発電だが、そのビジネスチャンスは膨大である。そのチャンスを掘り起こし、持続可能な形で利用していくためにも、そのための基盤をいまきちんと構築しておかなければならない」。
日本の森林保全のため、再生可能エネルギーのため、日本でも"制度調整力"が大いに発揮されることを強く期待しています!