おとといは、去年からお手伝いしている柏崎市でのシンポジウム「エネルギーと産業・私たちの暮らし~日本、そして柏崎を考える」にコーディネータとして参加していました。
第1部では、原発はないほうがよいというお考えの九州大学副学長の吉岡斉先生と、原発維持派の常葉大学経営学部の山本隆三先生が、それぞれの「日本のエネルギーのあるべき姿」についてお話してくださいました。参加者の方々が「エネルギーを考える際の自分の評価軸」を考えていただく、よい刺激となったことと思います。
そのときの議論でも、世界の原発動向について話が出ましたが、レスター・ブラウン氏のアースポリシー研究所からのプレスリリース「減少する米国の原子力発電」を実践和訳チームが訳してくれましたので、お届けします。9月に速報でお伝えしたものの詳細版となります。(グラフは下記URLからウェブをご覧下さい)
米国での原発減少という動向の見通しとその論拠も興味深いですが、それとともに、「日本でも必要!」と思ったのは、「カリフォルニア州、コネティカット州、イリノイ州など9つの州が、廃棄物問題の解決策が見つかるまでは新規原子力発電所の建設を禁止している」という記述です。
「いつかは解決するだろうから」「夢の技術が開発できれば」という"白馬の騎士"幻想で目をつぶるのではなく、「解決してからにしよう」と考えることは、とても合理的でごく自然なことではないでしょうか?
~~~~~~~~~~~~ここから引用~~~~~~~~~~~~~~
減少する米国の原子力発電
J・マシュー・ローニー
http://www.earth-policy.org/plan_b_updates/2013/update116
米国では原子力発電が減少している。
米国の原子力発電所での電力生産は、1970年代から急激に増加したあと、2000年代前半になると伸びが鈍化し始めた。その後2007年から2010年にかけて頭打ちになり、この2年間で4%以上落ち込んだ。2013年はさらに1%の減少が予測されている。原子炉の廃止が早まり、予定されていた計画が断念される中、米国の原子力発電の先行きは短い。
【グラフ】米国における原子力発電量 (1960年-2013年)
出典:EIA(米国電子工業会)のデータをもとにアースポリシー研究所で作成
原子力産業における問題は、1979年に起きたペンシルベニア州スリーマイル島の原子力発電所の事故が、一般市民に原子力に対する不信感を植えつけるよりかなり以前から始まっていた。
米国で初めての商業用原子炉がペンシルベニア州に完成したのは1957年。1960年代半ばまでには「測定の必要がないほど安価な」エネルギー源になるだろうともてはやされ、熱狂的な原子炉建設ラッシュが巻き起こった。しかし、建設の遅れとコスト超過という現実が理解されると、電力事業者はすぐに建設を抑制するようになった。
新規原子炉の年間発注数は1973年のピーク時には40基を超えていたが、その後の数年間で急激に落ち込んだ。1978年に2基の原子炉が発注されて以来30年間発注はなかった。
「憂慮する科学者同盟」のデイビッド・ロッシュバウム氏によると、1978年までに発注された原子炉253基のうち、121基が建設前あるいは建設中に取りやめになったという。これらの半数近くは1978年までに中止になっている。完成した原子炉――最後に完成した原子炉は1996年に稼働――は、平均で予算の3倍ものコストがかかった。
1990年代後半までには28基の原子炉が40年の運転免許の期限切れを待たずに永久閉鎖された。これには、コストの上昇、電力需要の伸び悩み、規制環境の変化など多くの要因が関係している。このように複数の原子炉が閉鎖されたにもかかわらず、米国は今なお104基の原子炉を保有し総発電容量はおよそ100ギガワット(10万メガワット)で、これはどこの国よりも飛び抜けている。
その後、2005年のエネルギー政策法で約束された新規の税額控除や借入保証がはずみとなり、競合燃料である天然ガスの高騰と相まって、近年電力業界は「原子力復活」のビジョンを描いてきた。2009年までに電力事業者は原子炉30基以上の新設を計画していた。
しかし、それから何年もの間こうした計画のほとんどは棚上げされたままだった。民間金融業者は巨額の補助金があっても、原発新設への融資はやはり危険すぎると考えている。一方、米国のシェールガスの生産ブームで天然ガス価格は急落し、原子力発電の見通しはますます暗くなっている。
米国原子力規制委員会(NRC)は2012年にジョージア州のボーグル発電所とサウスカロライナ州のサマー発電所に各2基ずつの合計4基の新規原子炉の建設を承認した。これらはすべて同型の商業的には試されていない設計の原子炉で、伝えられるところによれば従来の原発より建設工期が短いという。
いずれの計画も、経済的リスクを電気料金の払い手に転嫁するという、つい最近できた州法の恩恵を受けている。このような「早期コスト回収法」はフロリダ州やノースカロライナ州でも可決されていて、原子炉が完成するかどうかには関係なく、電力事業者が建設中あるいは建設前でさえも新規原発にかかるコストを電気料金に上乗せすることを認めている。
この2カ所の建設は2013年3月に始まった。140億ドル(約1兆4000億円)規模のボートル発電所計画は、最初のコンクリートが注入されたときにはすでに工事は19カ月遅れ、10億ドル(約980億円)以上予算を超過していると伝えられた。
100億ドル(約9,800億円)規模のサマー原発計画でも早速問題が生じている。この原発を所有するスキャナ電力は6月、およそ1年の遅延と2億ドル(約200億円)の追加コストが発生していることを認めた。こうした遅れの結果、これらの原子炉のうちどれかひとつでも完成するのは、早くても2017年後半になりそうである。
その他に米国で現在建設中の原子炉は、テネシー州のワッツバー2号機だけである。1972年に着工されたのち20年間中断していたが、最終的に2012年の完成が予定されていた。しかしその年、運営者であるテネシー川流域開発公社は、完成予定を2015年まで再び延期し、このプロジェクトのコストは最大で80%増加し、45億ドル(約4,400億円)に達すると発表した。
電力事業者のなかには最近、原発新設や既存の原子炉の発電能力を増大させる「出力増強」計画を取りやめるところがある。例えば2013年5月デュークエナジー社は電力需要の伸び悩みを理由に、計画していたノースカロライナ州の2基の原子炉について、NRCへの申請を延期した。そして8月に同社はフロリダ州の247億ドル(約2兆4,200億円)規模の2基の原子炉計画を取りやめた。
その計画にはすでに10億ドル(約980億円)が費やされ、その大半は利用者から回収されていた。同社が憂慮していたのは、2013年半ばに「早期コスト回収法」が修正され、進行中のプロジェクトを電気料金の引き上げで賄うのがさらに難しくなることだった。
米国最大の原子力発電事業者であるエクセロン社は6月、ペンシルベニア州とイリノイ州の原発の出力増強計画を取りやめた(これらは9月上旬時点で、2013年に電力事業者が取り下げた出力増強計画の少なくとも6件のうちの2つである)。
わずか1カ月後にフランスの電力事業者であるフランス電力会社(EDF)はニューヨーク州とメリーランド州で原子力発電所を運営するエクセロン社とのパートナーシップを解消することを公表した。実際EDFは、もはや米国の原発プロジェクトを進めることはいっさいせず、代わりに米国での再生可能エネルギーの取り組みに注力していく。
今年になってからもすでに、総発電容量360万キロワットとなる4つの原子炉が永久に閉鎖された。最初に閉鎖されたのは、フロリダ州にあるデュークエナジー社のクリスタルリバー原子炉だった。この発電所は2016年まで運転が許可されているが、デュークエナジー社は必要な修繕にお金を払うよりも廃炉にすることを決めた。
続いてウィスコンシン州で39年間稼働を続けてきたドミニオン・リソーシズ社のキウォーニー原子炉が、安価なガスとの競争を理由に閉鎖された。2033年までの運転を、最近認められたばかりだった。6月にはサザン・カリフォルニア・エジソン社が、サンオノフレの2基の原子炉を、最新の蒸気発生器の水漏れで18カ月間停止させた後、閉鎖した。これらの運転終了により、米国内の原子炉は残り100基となり、その平均運転期間は32年となっている。(第2位はフランスで、58基である)。 まもなくさらに多くの閉鎖が続くだろう。米国の原子炉のうち、原子力が他の技術と競合し、価格が市場で決まるいわゆる商業エリアにあるおよそ半分の原子炉については特にそうだ。
バーモント法科大学院のマーク・クーパー氏は2013年の報告書で、20年間の延長運転を認められているものの、キウォーニー原子炉のように、ひときわ廃炉の危機に瀕した商業用原子炉が9基あると述べている。そのうち2つについては、すでに最終判断がなされている。 バーモント州唯一の原子力発電所は2014年に閉鎖され、米国内で最も古いニュージャージー州のオイスタークリークの原子炉は2019年までに運転を終えるだろう。 米国内の残りの原子炉は「規制された」地域にある。原子力事業者の利益が保証されるように州当局が電力価格を設定する地域だ。こうした発電所の多くでさえ、今の経済状況では長く生き残ることはできないだろう。
クレディ・スイス銀行によると、老朽化した原子炉を運転し、維持していくためのコストは毎年5%ずつ増え、核燃料コストはさらに速い年間9%のペースで増える。一方、風力や太陽光は、発電コストは下がり続け、発電量は急速に伸びている。 放射性廃棄物の処理にも費用がかかる。過去30年間にわたって、米国政府は放射性廃棄物の集中保管所を認可しようと150億ドル(約1兆4,700億円)を費やしてきた。
そして、その大半の期間で唯一検討されてきた場所が、ネバダ州のユッカマウンテンである。この土地の安全性と、これに対するネバダ州での評判が極めて悪いことが懸念される中、オバマ政権はこの計画の完全な破棄と、他の選択肢の模索に動き出した。 米連邦控訴裁判所は2013年8月に、NRCはユッカマウンテンの適合性について審査を再開しなければならないとの判決を下した。その間にも、廃棄物は蓄積し続けている。
現在、7万5,000トンの廃棄物が35の州にある80カ所の一時保管所に保管されており、その量は2055年までに倍になると見込まれている。こうしたことのすべてが、原子力拡大の見通しに影響を与えている。カリフォルニア州、コネティカット州、イリノイ州を含む9つの州が、廃棄物問題の解決策が見つかるまでは新規原子力発電所の建設を禁止しているのだ。 事故の際、原子力事業者に対する負担が軽いことも、納税者を苦しい立場に追いやる。発電所の所有者が払い込んでいる保険プールの補償額はたったの120億ドル(約1兆1,800億円)で、それ以上の損害はすべて一般市民が支払うことになる。
ちなみに、2011年に日本の福島で起きた原子力災害の除染と補償は最低でも600億ドル(約5兆8,800億円)かかるとされている。天然資源保護協議会は、ニューヨークのインディアンポイント発電所で壊滅的な事故が起こった場合にはその10~100倍のコストがかかると推定している。インディアンポイントの2つの原子炉のうち1つが免許期限切れで運転を続ける初の原子炉となる2013年9月29日には、こうしたリスクが強調されることになるだろう。 ジョージア州とサウスカロライナ州で現在建設中の原子炉が実際に送電を開始すれば、これらの原子炉から生み出される電力は、風力や太陽光など他の大方のエネルギー源による電力よりもはるかに高額になると予測される。老朽化した原子力発電所を新規のもので置き換えるのは、とにかくお金がかかりすぎるのである。しかも、既存の原子炉に対する出力増強計画が撤回される中、業界は発電容量を拡大するのに、こちらの選択肢にもあまり頼ることができないようだ。 NRCは米国内の既存原子炉の2/3以上に20年の運転期間延長を認めた。残りの原子炉の大半もおそらく同じように運転期間の延長が認められるだろう。たとえこれらの原子炉が許可された期間の最後まで運転を続けたとしても--過去の経験からありそうにないことだが--これらに取って代わる新たな発電所が稼動しなければ、米国最後の原子炉は2050年代の後半までに閉鎖されることになる。
業界が抱くすべての期待は、ボーグル発電所とサマー発電所の計画成功にかなり依存している。米国エネルギー長官のアーネスト・モニツ氏が最近のインタビューで言っているように、現在建設中のこうした発電所が莫大な予算超過と遅延を抱え続けるなら、米国における「原子力発電所の将来は非常に厳しい」のである。 # # #
さらに詳しいデータ・情報についてはwww.earthpolicy.orgを参照のこと。
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(翻訳:山口 川嶋)