前回の幸せ研の定例勉強会で取り上げた課題図書に、「ギリシャに広がる共生経済」として、「地域通貨TEM」について、ちらと紹介がありました。
ギリシャの経済危機のあとに始まった地域通貨ということで、とても興味深いと思い、これについて紹介しているBBCとNY Timesの記事をもとに、どんなものなのか、どのように使われているのか、ご紹介します。
TEMとは、2010年にギリシアの港町Volosで始まった地域通貨です。
TEMという名前の由来は、ギリシャ語の"topiki enallaktiki monada" の略だそうです。英語でいえば、 Alternative Local Currency?、あるいはLocal AlternativeUnit?(代替の地域通貨、という感じでしょうか)
当初は50人ではじまったそうですが、この地域通貨を利用するメンバーは2012年4月の段階で800人以上まで増えているとのこと。
TEMは、各自の口座がオンラインで管理される方式で、「TEM」という紙幣が存在しているわけではありません。メンバーはバウチャーの帳簿を受け取り、それを小切手のように使います。
残高「ゼロTEM」からスタートし、モノやサービスを提供するとTEMを受け取ることができます。また、300TEMまでの貸出しを受けることも可能だそうです。
実際の使われ方をみると、食べ物、語学のクラス、子守り、コンピュータのサポートなど、様々なモノとサービスが売買されているとのこと。
物々交換の仲介として、青空市(マーケット)で、ユーロの代わりに使えます。1TEM=1ユーロ です。そのマーケットでは、ユーロを持っていなくても、牛乳、卵、ジャムなど何でも買えます。
「ヨガクラスを提供して得たTEMを使って、マーケットでロウソクを買う」「マーケットで子ども用の肌着を売って得たTEMで語学クラスを受講する」などの事例が紹介されていました。
また、獣医や眼鏡屋の中には、ディスカウントを行う代わりに、代金の一部をTEMで受け取るところもあるそうです。
このTEMは、「ユーロと共生する地域通貨だが、万が一ユーロが使えなくなった場合でも"準備はできている"」という安心感をもたらしてくれているとのこと。
「万が一、ユーロが使えなくなっても、TEMがある!」ことから、金融危機に対抗する手段としても位置づけられるでしょう。
そして、「昔の物々交換」を連想させる人々のつながりや、人々に「誰でも、売ったり、買ったりするものがある」ということに気がつかせる効果があるほか、メンバーは「社会に貢献している」という感覚を得ることができることも、利点だとしています。
(参考記事・サイト)
NY Times
Battered by Economic Crisis, Greeks Turn to Barter Networks
BBC
Greece bartering system popular in Volos
Princeton University
Euro? Drachma? Try the TEM
1920年代の大恐慌の時代にも、オーストリアをはじめ、各地で地域通貨がたくさん誕生しました。経済危機でユーロやドルや円がまわらなくなっても、それらの通貨がつないでいたもの(モノやサービスを提供する人、モノやサービスが必要な人)は存在しています。そのとき、ユーロや円がないから×!になってしまうのではなく、「必要な人」と「持っている人」がやりとりできる別の何かがあればよいのですよね。
地域通貨といっても、100%そちらに切り替える必要はなく、ふだんはユーロや円を使っていても、そのうちいくらか、それ以外の地域で流通する媒体を使いながら、いざというときにはもっと全面的に使える体制を作っておくのは、「保険」としても大事なことなのだと思います。
先日、幸せ研の「世界の幸せニュース」にアップされた関連記事をご紹介します。
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地域通貨を効果的に評価しよう
(ニュー・エコノミクス財団より)
英国の独立系シンクタンクであるニュー・エコノミクス財団が2014年4月22日に地域通貨の効果を評価するためのガイドブックをサイトに掲載し、無料でアクセスできるようにしました。
現在多くの人々や団体が地域社会の経済・社会・環境問題に取り組むために、取引や交換の新たな形を整えていますが、その効果となるとあまりはっきりしません。これでは通貨プロジェクトの企画者が、他のプロジェクトから学んだり、より多くの資金や信頼、メディアの関心を集めにくくなってしまいます。
ガイドブックでは、通貨プロジェクトが何を目指し、それをいかに評価し得るか改めて問い直すことに重点を置いています。というのも、効果的な評価から多くのことが分かるからです。
米国サウス・ウェールズのタイムバンクプロジェクト――地域に1時間奉仕すると1単位得られ、地域の色々な活動に参加できる――の評価では、多くの参加者がこれによって生活の質が改善し、以前より孤立感を感じなくなった、あるいは将来に対してより前向きになったと答えました。
従ってここで言う効果とは、単純に経済面のことだけではありません。地域通貨の成功は、人々の日々の暮らしにいかに根付いているかにもかかっています。そのため同財団は、複数の地域通貨を合わせて評価することも提案しています。プロジェクトの影響が及ぶ広範囲の人々を対象とし、長期的な目標を達成するためにどういった要素が必要かを考えることが大切なのです。
この記事の原文(英語)を読む
http://www.neweconomics.org/blog/entry/evaluating-your-community-currency-free-handbook
~~~~~~~~~~~~ここから引用~~~~~~~~~~~~~~~~
先日、JFS地域の経済と幸せプロジェクトのシンポジウムで、パネリストのおひとりの海士町の阿部さんが、「海士町には、地域通貨があります。町の役場の職員のボーナスの一部もこれで払われますし、海士町内の商店でもほぼ100%使えます」と教えてくれました。
地域通貨は、作り出すのは簡単でも(ボランティアやイベントに参加したら提供することにする、など)、出口、つまりどこで使えるのか、が広がらないと、なかなか継続させたり広げたりするのが難しくなります。
その点、ほとんどの商店で使えるというのは素敵ですね! 地域通貨でボーナスの一部を受け取っているなんて、世界的にも先進的な取り組みだと思います!(このパネルディスカションの内容も、JFSから世界にも発信する予定です)
「うちの地域でもやっているよ」「近くの町でやっているのを知っている」など日本の地域通貨の取り組みについて、どんな取り組みでもよいので、ご存じの方がいらしたら、ぜひ教えてください!