昨日、6月号のJFSニュースレター記事として配信(英語版は世界184ヶ国へ)した原稿をご紹介します。
http://www.japanfs.org/ja/news/archives/news_id034952.html
末尾にディスカションコーナーも設けています。よかったら感想やお考えをお聞かせ下さい。よろしくお願いしますー
~~~~~~~~~~~~ここから引用~~~~~~~~~~~~~~
人口減少社会~課題先進国・日本の現在
最近、日本で、人口減少をめぐる議論が盛んになってきました。日本の人口はこの100年ぐらいの間に約3倍になり、2008年にピークを迎えましたが、2013年10月時点では1億2729万人と、ピーク時から約80万人減っています。このままの勢いで人口が減少していくと、今後100年間に3分の1になるとも言われています。
このままでは人口の減少や高齢化によって働く人の数が減り、生産や消費が縮小し、日本経済がさらに低迷するのではないか、国力がどんどん低下し、世界のなかでも存在感を保てなくなるのではないか、と危惧する声もよく聞かれるようになってきました。
政府はこれまでも、少子化対策に注力すると繰り返し述べ、子育て支援をはじめ様々な対策を行ってきましたが、大きな効果は発揮していません(フランスやスウェーデンでは国内総生産(GDP)比の3%相当を子育て支援の予算としていますが、日本は1%程度しかないことを効果があまり上がっていない理由として指摘する人もいます)。
こういった状況で、個別の政策論ではなく、長期の国家戦略として国がどうあるべきかを検討しようという動きが出始めています。
2014年1月に、総理大臣を議長とする経済財政諮問会議の下に、「選択する未来」委員会が設置されました。設置の趣旨には、このように書いてあります。「今後半世紀、世界経済や人口など日本を取り巻く環境には大きな変化が予想される。こうした中、世界経済に占める日本経済の規模が縮小していくという見方もある。しかしながら、こうした姿を政策努力や人々の意志によって大きく変える、すなわち「未来を選択する」ことは可能である」。
そして、「基本的考え方」として、「現状が続けば、人口減少と高齢化が進み、日本経済は縮小し、国力も低下している可能性が高い。このような未来像を変えるための議論を行う」としています。
2月24日の「選択する未来」委員会の第3回会合で、次のような資料が出されました。「出生率が現状のままの場合、人口は2060年に約8700万人、2110年に約4300万人まで減少する。しかし、2030年に合計特殊出生率が2.07まで上昇すると、2060年に約9800万人、2110年に約9100万人を維持でき、さらに、移民を年20万人ずつ受け入れた場合、1億1000万人程度を維持できる」。
「新生産年齢人口」と定義する20~74歳人口の将来推計を見てみると、「2012年には約9000万人、出生率が現状のままの場合は、2060年に約5200万人、2110年に約2600万人まで減少。しかし、出生率が2.07まで回復すると約5700万人に、移民を入れると約7200万人になる」。
5月13日の「選択する未来」委員会で、「50 年後に1億人程度の安定した人口構造を保持する」という目標が出されました。このためには、合計特殊出生率を30年ごろまでに2.07へ引き上げねばなりませんが、日本の合計特殊出生率は、1975年に2.0を割り込み、2005年には過去最低の1.26まで下落した後、横ばいから若干上昇し、2013年には、1996年以来17年ぶりの1.43という状況です。
1億人という人口に必要な出生率が、これまでの取り組みと実績からはかなり希望的観測に近い高さを想定していることがわかります。また、年間20万人という移民は、現状受け入れている移民の4~6倍と言われており、日本のようにこれまであまり移民を受け入れてこなかった国に可能なのか、大きな疑問があります。そして、仮に移民政策がうまくいったとしたら、日本の労働者の5人に1人は外国人になります。果たして現実味があるのでしょうか。
また、移民も、年を取り、引退し、年金などの社会保障も必要になります。働けなくなったら「ハイ、サヨナラ」というわけにはいきませんから、その後の年金なども将来世代が負担していくことになります。そういったことを考えると、「1億人をキープ」という目標自体にかなり無理があるように思えます。
国土交通省も、3月末に「人口減少によって、2050年には日本の国土の約6割が無人になる」という試算を発表しました。日本の面積約38万平方キロメートルを1平方キロメートルごとに約38万ブロックに分けて、それぞれの人口推移を計算したものです。2050年には今は人が住んでいるブロックの2割で人がいなくなり、6割で人口が半減。無人の地域は全体の約53%から約62%に広がるという結果です。
国交省ではこうした結果をもとに、人口減少に備えた国土整備の基本方針をとりまとめるべく、「新たな『国土のグランドデザイン』」の骨子を発表しています。「急激な人口減少・少子化、高齢化」「グローバリゼーションの進展」「巨大災害の切迫、インフラの老朽化」「食料・水・エネルギーの制約、地球環境問題」「ICTの劇的な進歩、技術革新」という6つの時代の潮流を踏まえて「新しい国土のグランドデザインを考えていこう」というものです。
ところが、具体的推進方策のトップに挙がっているのが「リニア中央新幹線の開通」で、それによって「世界最大のスーパー・メガリージョンの形成による国際競争力強化」をめざすとなっています。国交省の立場からはそのような施策になるのかもしれませんが、人口減少という省庁の壁を超えた課題に対しては、省庁の壁を超えて議論し、各省の管轄範囲に囚われない総合的な戦略を練っていく必要があります。
人口問題についての議論しているのは政府だけではありません。5月8日には、国民の立場から新しい日本を創るための提言を発信し、国民的議論を興すことを目的に、産業界労使や学識者など有志が立ち上げた組織「日本創成会議」の人口減少問題検討分科会が、「消滅可能性都市」というショッキングかつ具体的な数字を公表し、あちこちで大騒ぎになっています。
通常、1人の女性が生涯に産む子供の数を示す「合計特殊出生率」を人口予測の指標として用いられることが多いのですが、そもそも出産の可能性のある女性の数が減れば、出生実数は伸びません。日本創成会議は、とくに将来子供を産む若い女性が都市部へ流出していることに注目し、若年女性(20~39歳)が30年間で半分以下に減る自治体を「消滅可能性都市」としました。
2012年の合計特殊出生率1.41のうち、95%は 20~39歳の女性によるもので、この若年女性人口が減少し続ける限り、人口の「再生産力」は低下し続け、総人口の減少に歯止めがかからない、という考え方です。
分析の結果、「消滅可能性都市」に当てはまる自治体は896もあり、全体の49.8%に及びました。2040年には20~39歳の若年女性が8人になると試算された村もあります。若年女性減少率ワースト自治体に名が出た自治体では、首長が弁明に追われたり、緊急対策本部を設置するなど、分科会座長の増田寛也元総務相の名をとって「増田ショック」と呼ばれる状況となっています。
同分科会の「ストップ少子化 ・地方元気戦略」では、人口減少をとめるために、第一に、若者が結婚し、子どもを産み育てやすい環境づくり社会づくりをつくること、次に、 地方から大都市へ若者が流出する『人の流れ』を変え「東京一極集中」に歯止めをかけることを基本な戦略の方針に掲げ、基本姿勢として、国民の間でも議論もおこし、これらの問題意識を共有しながら効果的な対策を進めていく必要があるとしています。
このように、日本は、人口減少という現実に、国でも民間でも、ようやく向き合い始めました。今のところ、特に国のレベルでは「人口減少という現実を受け入れて、社会や経済の構造を変えていくのではなく、人口が減少しないように努力する」という方向で議論を進めています。
しかし、人口減少にふさわしい経済や社会のしくみをどう作っていくか、人口が減少しても持続可能に、幸せに暮らしていくためにはどのような戦略が必要かを考えることが大事なのではないでしょうか。
日本が世界の先陣を切って、人口減少・高齢化社会に突入しつつあります。しかし、これらは日本だけの問題ではなく、今後、世界的にも大きな問題となると考えられています。日本がこの難問に、これまでの枠にとらわれない新しい視点で立ち向かっていくことができるのか、地域ではどのような取り組みが始まっているのか、今後もお伝えしていきます。どうぞご期待下さい。
(スタッフライター 岩下かほり、枝廣淳子)
人口の減少を「幸せで持続可能な社会」に結びつけていくにはどうしたらよいのでしょうか?
ディスカッションのコーナーを設けましたので、ぜひご意見をお聞かせください。
http://www.japanfs.org/ja/news/archives/news_id034952.html