FS ニュースレター No.141 (2014年5月号)で、世界184ヶ国に、「対話から生まれるまちづくりをめざして ~ これからの柏崎とエネルギーを考える取り組み」という記事を発信しました。
http://www.japanfs.org/ja/news/archives/news_id034922.html
メールニュースでもときどきご紹介していますが、柏崎の「原発の賛否を超えて、地域の将来を考えていこう」という取り組みのお手伝いをしています。今年が3年目の活動となりますが、2年間の経緯と学びをレポートした記事です。
柏崎での取り組みなどを通じて、「対話力」をいかに身につけるかを考え、勉強会も行ってきました。今月下旬から「対話の先へ」として、合意形成力の勉強会を開催します。
合意形成力は、組織がしなやかに先に進んでいくためにももちろん大事ですし、地域づくり、再エネ開発、人口減少に伴う町の再編、地域の防災・減災力の構築など、あらゆるところでの鍵を握る力だと思っています。よかったらぜひご参加下さい~。
なお、社会的合意形成の第一人者でいらっしゃる東工大の桑子敏雄先生を、第3回(8/7)のゲスト講師としてお迎えします! 貴重な機会です。どうぞお見逃しなく!
では、JFS ニュースレター No.141より、「対話から生まれるまちづくりをめざして ~ これからの柏崎とエネルギーを考える取り組み」をお届けします。
(写真などもあるので、よかったらウェブサイトの記事をご覧下さい)
http://www.japanfs.org/ja/news/archives/news_id034922.html
~~~~~~~~~~~~ここから引用~~~~~~~~~~~~~~
JFS ニュースレター No.141より
「対話から生まれるまちづくりをめざして ~ これからの柏崎とエネルギーを考える取り組み」
2011年3月に発生した東日本大震災、そして東京電力福島第一原子力発電所の事故により、日本のエネルギー政策は大きな転換期を迎えました。世界最大規模の原子力発電所を有する新潟県柏崎市では、東京電力柏崎刈羽原子力発電所の全号機(1~7号)が運転を停止しています。
長期間の原発運転停止は地域経済にも影響を与えつつあります。これまで原発にある割合依存してきた地域の産業や雇用を短期的には守る必要がある一方、これからもずっとこの地域が原子力産業に依存していくことは現実的なのか――。
「原子力発電所に大きく依存しない経済・産業構造の構築とまちづくりを進めるべきではないか」とかねてから主張してきた会田洋柏崎市長は、「これまで国のエネルギー政策に協力し、原子力発電所との共存を図ってきた柏崎が新たな局面に立たされている。エネルギーのあり方やこれからの柏崎のまちづくりをどのようにしていったらいいのか。立場や考え方の違いを超えて、市民の皆さんと考え、話し合いをしていく機会をもちたい」という思いで、「明日の柏崎づくり」事業を2012年に始めました。
事務局・ファシリテーターとしてこのプロセスをお手伝いしてきた立場から、この2年間の柏崎の取り組みをご紹介します。
柏崎は日本海に面した自然豊かな人口約9万人の市です。1888年に設立された日本石油会社を中心に、加工組立型の産業・製造業が栄え、1985年に東京電力柏崎刈羽原子力発電所が営業運転を開始してからは、「エネルギーのまち・柏崎」として発展してきました。
東京電力福島第一原子力発電所の事故を受け、国のエネルギー政策の議論が活発になる中、柏崎でも「これからのまちづくりやエネルギーについて市民とともに考えていこう」と、『「これからの柏崎とエネルギーを考える」シンポジウム』に向けての取り組みが2012年4月に始まりました。
すぐに結論を出そうとするのではなく、まずはいろいろな人に参加してもらい、さまざまな角度から市民とともに考えていく場をつくることが大事だと考え、運営を担う実行委員会のメンバーも、商工会議所や青年会議所のメンバー、大学の先生やお医者さん、地域の自治会長、約10年にわたり原子力発電所と地域住民との対話づくりに関わってきた人やPTAの代表者など、年齢も立場もさまざまです。原発に対する推進派も、反対派も、中間派もいます。
過去には原発誘致をめぐり、市民同士のつらい対立もあった地。市民向けのシンポジウムを開催することを目的に始まった委員会では、地域に不要な混乱を招くのではないかと、開催自体に懐疑的な考えをもつ委員もいました。しかし、議論を重ねるうちに、原発に対する考えや立場は異なっていたとしても、「柏崎の将来を思う気持ち」や「何かを変えたい」「立地地域の声を国や消費地に伝えたい」という思いは同じであることがわかり、共通の目標を確立することができました。
一方、市民にとっては、ある意味「原発については語らない」ことで、近隣住民とも折り合いを付けて暮らしてきたところもあります。どのような場をつくれば多くの市民に参加してもらえるか、立場や考えの違う人たちが安心して話すことができる場をどうやったら作れるか――実行委員会での話し合いが続きました。
その結果、まちの未来を考える上で、まず過去を振り返り、柏崎のいまを知るのがよいだろうという観点から、外部から有識者を招くのではなく、地元の人々に登壇してもらって、これまでの経緯や地元住民としての思いを伝えることで、市民一人一人に考えてもらおうというシンポジウムの構成が決まりました。同時に、政府や電力消費地の人たちにも議論を聞いてもらい、立地地域への理解を深めてもらおうと考えました。
そして、9月28日、「これからの柏崎とエネルギーを考える」シンポジウムが柏崎市産業文化会館で開催され、約250名が参加しました。1日目のパネルディスカッションでは、柏崎の歴史や原発を誘致することになった背景、産業構造の変化などを市の職員から説明してもらい、実行委員会のメンバーを中心に市民が登壇して、自分の立場や考え、これからの柏崎に期待することなどを自分の言葉で語りました。
原発誘致の時からずっと推進派の中心を担ってきた人も、地元で原発反対運動を数十年にわたり展開してきた人も一堂に会して議論する初めての試みに、当初は心配や不安の声もありましたが、自分の思いを率直に伝え、他の人の考えに冷静に耳を傾ける、これまでにない会となりました。
参加者のアンケートには「原発賛成派・反対派・中立派が一緒に議論をすることは初めてであり、大変よかった」「こんなに静かに議論できる場があることに驚いている」「問題・課題意識の共有、新たな意見を知る有意義な取り組み」といった感想が多数あり、対話の場の継続に大きな期待が寄せられていることがわかりました。
2日目は「柏崎の未来をみんなで語ろう、考えよう」と題し、市民の「井戸端会議」を開催しました。約60人が参加して、「方法論や実現可能性の有無は考えず、相手の話を聞くこと」をルールに、「柏崎の好きなところ」や「柏崎がこんなまちになったらいいなと思う夢」を小グループでたくさん挙げていきました。
その後、いくつかの小グループでお互いの意見を共有し、全体で発表を行いました。世代も立場も異なる市民が、和気あいあいと柏崎の魅力を語り合い、市長も驚くほどの盛り上がりをみせました。何十年も話をしたこともなかった、それぞれ強硬な原発賛成派・反対派がたまたま同じテーブルになり、会が終わったあとも語り合っている姿もありました。
シンポジウムの挨拶に立った市長は、「市民の中には、特にエネルギーや原子力発電については、さまざまな立場・考え方の違いがあります。これを1つにまとめるのはなかなか難しいのではないかと思っていますが、少なくとも、産業や雇用も含めたまちの活性化、安全で安心なまちにしていくこと、市民の幸せ度を高めていくことといったテーマについては、共通の目標を定めて進めていくことが可能であり、大切ではないかと思っています」と語りました。
この日のアンケートには「相手の話を聞く、否定しないという会話のルールがしっかりしていたのがよかった」「若い世代の人たちに勇気をもらった」「期待以上だった」という感想が寄せられ、立場を超え共通の目標に向けて対話するということ自体に新鮮な感動を抱いた人が多かったことがわかりました。
翌2013年3月には、エネルギーの基礎知識や省エネルギーについて学ぶシンポジウムを開催し、「エネルギーについてさらに知りたいこと」や「これから考えたいこと」についてグループで対話を行いました。再生可能エネルギーや原発、柏崎の産業に関する課題などが多数挙がり、市民の関心や興味を確認することができました。
事業2年目を迎えた2013年度、市と実行委員会が考えたことは、持続可能な柏崎をつくるにあたり、市民ひとりひとりが自ら情報や知識を得て、判断できるようになるにはどうしたらいいかということでした。「誰かが与えてくれる」のではなく、「ワガコト」として柏崎のこれからを考えてほしい。そのためには基礎的な情報や客観的なデータを共有しながら、対話や議論を行っていきたい。ふたたび実行委員会での話し合いがスタートしました。
前年度の振り返りから、「エネルギーについて考えたこともない」「よくわからない」という人たちにも参加してもらえる会にしたいとの思いから、エネルギーの専門家ではなく、難しいテーマもわかりやすく話すことで人気のジャーナリスト、池上彰氏を講師に招き、エネルギーや原発をめぐる世界情勢の話に耳を傾けました。事前に寄せられた300超の質問、雨の中来場した1,000人を超える市民、アンケートに寄せられた感動の声の数々に、より広い層の市民に関心をもってもらうことができたのではないかと思います。
その1週間後、国内のエネルギー情勢に関する有識者の鼎談のほか、地元で再生可能エネルギーに取り組む事業者の話を聞くシンポジウムを開催しました。柏崎でもさまざまな取り組みがあることを知ったという市民も多く、次への展開の可能性を感じられました。
またこの年は、シンポジウムを開催して市民の来場を待つだけではなく、実行委員やファシリテーターが出向いて行う「エネルギーに関する出前講座」も実施しました。自治会や大学、経済界など、小さな規模でもお互いの顔が見える安心な場をつくり、エネルギーに関する疑問や不安、これからの柏崎に必要だと思うことなどをざっくばらんに語り合いました。いつでも、どこででも行うことができるのも、対話の魅力だといえるでしょう。
2年間お手伝いしてきて、シンポジウムや対話を行う目的は、それをきっかけとして、これまで声を出せなかった人や考えることのなかった人が、声を出したり考えたりするという場をつくり、次のステップにつなげていくことだ、と思っています。
実行委員会はまさに、そのような対話が実践できている場です。対話を重ねることで、原発賛成や反対、立場の異なる人たちが、冷静に議論をすることができ、「あなたの意見に賛成はしないが、なぜあなたがそう考えるのかはわかるようになった」と互いに語るようになっています。こうした信頼感をベースに、これまでになかった「共に未来を考えられる場」をつくることができました。このプロセスは、他の原発立地地域など地域にさまざまな賛否両論を抱える地域にも参考になるのではないかと思います。
国内外をとりまくエネルギー情勢は、まだまだその行く先が見えません。たとえどのような状況になろうとも、しなやかに強い地域、柏崎が柏崎らしくいられる地域をつくっていく。地元で考えや立場を超えた対話をつづけ、みんなの知恵を集めて柏崎の未来を共に創っていきたい――3年目の取り組みが始まります。
岡田知弘・川瀬光義・にいがた自治体研究所編『原発に依存しない地域づくりへの展望―柏崎市の地域経済と自治体財政』(自治体研究社、2013年)
(スタッフライター 横山佳代子、枝廣淳子)
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ちなみに、英語の記事はこちらにあります。
上記の記事にあるように、当初はなかなか話ができなかった原発賛成派・反対派の実行委員が、「あなたの意見に賛成はしないが、なぜあなたがそう考えるのかはわかるようになった」とお互いに話している場に同席していて、とてもうれしく思いました。
小さな一歩かもしれませんが、互いの意見にじっくり耳を傾けてから、自分の考えを述べる、という対話ができるようになることは、今後のまちづくりやそのための進め方についての合意形成のベースとなります。
柏崎でも「対話を超えて~合意形成へ」向けて、この1年間の取り組みを応援していきたいと思っています!