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エダヒロ・ライブラリー環境メールニュース

2014年11月04日

アースポリシー研究所「北極における化石燃料の開発は誤った投資」 (2014.11.04)

エネルギー危機
 

前号で、支援の呼びかけをさせていただいた「水道整備から見放された限界集落の水確保の支援を行いたい」というプロジェクトへのクラウドファンディング、おかげさまで無事成立しました!
https://readyfor.jp/projects/kazaki23ta

先週末に、たまたま大分での仕事があったため、プロジェクト呼びかけ人の方に現地へも連れて行っていただき、説明をお聞きすることができました。プロジェクトはこれから始動しますが、報告書が届いたら、共有したいと思います。ありがとうございました!

さて、レスター・ブラウン氏のアースポリシー研究所からのプレスリリースを、実践和訳チームが訳してくれましたので、お届けします。

~~~~~~~~~~~~ここから引用~~~~~~~~~~~~~~

北極における化石燃料の開発は誤った投資
エミリー・E・アダムズ

マスターレベルのチェスプレイヤーですら、ある手を使おうという意識があると、それとは別の非常に良い手に気付かないことがある。研究者たちはこの現象を検証しようと、駒の配置が異なるチェス盤を提示された場合のプレイヤーたちの目の動きを追跡した。最初のチェス盤では、プレイヤーはよく使う手を用いてチェックメイトすることができた。次のチェス盤を提示されると、プレイヤーの目はチェス盤全体をくまなくとらえるのではなく、よく使う手にかかわる駒から離れなかった。実のところ、プレイヤーたちは最初に用いた解法にとらわれ、それに勝る新たな好機に気付かなかったのである。

同様に、世界は経済を動かすために使い慣れた手段である石油や天然ガスにとらわれてしまっている。そのためコストがかさみ利益が減少するにもかかわらず、北極のように辿り着くのが困難な場所でそれらを探し始めている。

世界がこの手段に固執している例としては、2014年8月28日のロイヤル・ダッチ・シェル社の発表が挙げられる。同社は近年、失敗を重ねているにもかかわらず、早ければ2015年の夏にアラスカの海底油田の掘削を再開する計画を米国政府に提出したという。

現在、世界全体の石油のおよそ10%、天然ガスのおよそ25%が北極地方で産出されている。この地域では1960年代半ば以降の気温上昇が2℃を超える。北極海に面した国々は、石油と天然ガスの将来的な産出可能量を見込んで、自国の権利を従来の排他的経済水域である200海里以上に拡大することを主張している。

現在の推定によると、北極地方において、陸上と海底の両方で最大の石油資源を保有しているのは米国だ。ロシアは石油に関しては2位だが、天然ガスでは最大量を保有している。ノルウェーとグリーンランドは、石油と天然ガスを合わせると、実質的に同量で3位である。カナダは5位で、石油と天然ガスをほぼ同じ割合で保有している。

こうした資源の開発においては、ロシアが群を抜いている。ロシア北極圏では、陸上と海底の両方で43カ所の大規模な油田および天然ガス田が発見されており、そのほぼすべてにおいて生産が始まっている。2013年12月、ロシアは初めて北極地方の海域で海洋掘削リグを使って原油を汲み出した。2014年8月9日には、エクソンモービル社とロシアのロスネフチ社が共同で、シベリアの沖合にあるロシア最北の油井の掘削を始めた。

ロシアのノバテク社は、フランスのトタル社と中国石油天然気集団公司と共に、北極地方における液化天然ガスプラントの開発に取り組んでいる。しかし、ウクライナ危機をめぐって欧米がロシアに対する制裁を強化していることから、こうした共同事業の将来が脅かされている。

石油・天然ガス産業が政府の歳入のほぼ1/3を占めるノルウェーは現在、北極圏内で唯一稼働中の液化天然ガス施設を誇っている。これはバレンツ海でスタットオイル社が運営しているものだ。スタットオイル社はイタリアのエニ社と共同で、2015年に操業開始予定のゴリアト油田の開発にもかかわっている。これは、ノルウェーとロシアが面している、豊かな資源に恵まれたバレンツ海での最初の石油生産となるだろう。

北部と西部に目を向けると、グリーンランドが、初めは1970年代後半に、より最近では2000年代に積極的に掘削権の競売を行ったが、今のところ、グリーンランドの油井はすべて枯渇していることが分かっている。

カナダは、1970年代と1980年代に北極地方で試掘を行っていたが、これは1990年代には徐々に減っていった。それ以降は2005~2006年に1カ所でのみ海底で試掘を行っていたが、後に中止した。さらなる開発における障害の一つは、化石燃料を市場に出すためのインフラの欠如であり、多くの場合、その建設資金を調達するために大規模な資源の発見が必要となる。

アラスカでは、北米で最大級の油田であるプルドー湾油田がこの役割を担ってきた。1967年に発見された同油田は、トランス・アラスカ・パイプラインの建設資金を調達できるほど大規模なものだった。いったんそのパイプラインが建設されると、付近のより小さな油田の開発が商業的に成り立つようになったのである。

ロイヤル・ダッチ・シェル社は、アラスカ沖の海底油田開発にあと一歩のところまで迫っている。原油価格が値上がりした2000年代に、シェル社の関心も高まった。その後、メキシコ湾におけるBP社のディープウォーター・ホライズン原油流出事故を受け、シェル社の計画は訴訟および米国政府による北極地方の開発活動一時停止措置によって延期された。その上ワシントン州ピュージェット湾で試験中だったシェル社の封じ込めドーム――流出した原油を回収するよう設計されている――が損傷し、計画はさらに先延ばしされた。2012年には漂流する氷山に阻まれて掘削の停止と再開を繰り返した挙句、掘削リグの一基が激しい暴風雨で座礁している。同社は2013年の掘削をすべて中止することに決めた。

2014年初めに連邦裁判所は、石油・天然ガス開発が北極地方の環境に及ぼす影響を予測するに際し、米国政府が基本的なところで誤ったと裁定した。この結果、シェル社の掘削権は無効となり、またもや掘削の時期を逃した。シェル社は近年のアラスカ沖での取り組みに50億ドル(約5,500億円)を費やしながら、これまで一滴の原油も汲み出していないが、それでも2015年に改めて挑戦するための手続きを開始した。

シェル社が目の当たりにしたように、北極地方での操業は大きなリスクを伴う。北極の海氷が縮小すると波はこれまでより荒くなる。残っている氷は割れて浮氷塊になりやすく、それが船舶や掘削用プラットフォームに衝突する可能性がある。大きな氷山が海底を擦り、パイプを含め埋設されているインフラを傷つけることがある。陸上のインフラの多くは永久凍土層――凍った大地――に建設されており、局地的な温暖化により大地が解けてずれればパイプが寸断される恐れがある。

これまでにも、ロシア当局筋の見積もりによると、近年ロシア中のパイプラインから年間2万件を超える原油流出が起こっているという。北極地方での操業には重大な緊急事態への対応援助もなかなか届かない。厳しい寒さのため、作業員が長時間屋外で過ごすことは危険である。通信システムさえ地球の果てではそれほど当てにできない。石油や天然ガスに代わるものが手に入るというのに、なぜこのように害になる燃料を追い求めるリスクを冒すのだろうか。

石油獲得の新しい方法を探すのではなく、人や物のもっと良い移動手段を探せばよいのだ。高速バス輸送システム、ライトレール、高速鉄道なら、車を使うより多くの人を少ないエネルギーで移動させることができる。路上に残る車については、クリーンな電力網から動力を得る電気自動車やプラグイン・ハイブリッド電気自動車なら、従来の内燃機関を備えた自動車より遥かに効率的である。自転車専用レーンや自転車シェアリングプログラムによって自転車の利用を促進すれば、人は活動的になり車を使わなくなる。

天然ガスは主として発電に使われており、これは風力、太陽光、地熱発電プロジェクトによって得られる電力で代替できる。多くの国が再生可能エネルギーで何ができるかを実証しているところである。デンマークではすでに電力の1/3を風力から得ている。オーストラリア各地には現在、100万の屋上太陽光発電システムが存在する。アイスランドでは地熱発電によって電力需要の30%近くをまかなうのに十分な電力を得ている。

これらは、今まで慣れ親しんできた解決策の先にある、より優れたクリーンな解決策に目を向けている例の一部に過ぎない。埋蔵された原油や天然ガスを求め、岩や氷山の下を一つ一つ探すというリスクの高い行動をとると、多大な犠牲を払ってクリーンなエネルギーの未来に対する投資を阻むことになる。

(翻訳:三好、野村)

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