ローマクラブの「成長の限界」プロジェクトの中核メンバーとして、また、「世界がもし100人の村だったら」というエッセイでも知られているドネラ・メドウズさんが書かれたシステム思考の入門書の翻訳書が出ます。
書店に並ぶのは数日後ですが、初版5,000部がほとんど先行販売や予約販売でなくなったとのことで、初版が書店に並ぶ前に、重版が決まったそうです! 多くの方が興味を持って下さっていること、読んで下さること、とてもうれしく思っています。
システム思考というと難しく聞こえるかもしれませんが、「世の中や世界はどうしてこうなっているのか」を考える上で、とてもわかりやすい指針となります。ぜひお読みいただければうれしいです!
『世界はシステムで動く――いま起きていることの本質をつかむ考え方』
ドネラ・H・メドウズ(著)枝廣淳子(訳)小田理一郎(解説)英治出版
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訳者まえがきより
「著者のドネラ・メドウズさんって、どんな方だったのですか?」と聞かれたら、ドネラさんを知る多くの人は「複雑なことでも、その本質をわかりやすく伝えてくれる人です」と答えるでしょう。
日本でも多くの人に読まれた「世界がもし100人の村だったら」というエッセイも、ドネラさんが複雑なことをわかりやすく私たちに伝えてくれた、よい例です。
ドネラさんはもともと、「システム・ダイナミクス」と呼ばれる、社会や生態系などあらゆるものを、相互に複雑につながり合った「システム」としてとらえ、そのダイナミクスをコンピュータ・モデルで分析するという学問の研究者でした。
「システム」とは何でしょう? そして「システム」として考えることはなぜ重要なのでしょう?
ひとつ、例を挙げましょう。かつて奄美大島ではハブに噛まれる人がいて、「問題だ」となりました。人々は「ハブをやっつけるには......そうだ、マングースだ!」と考え、マングースを連れてきて島に放しました。ところが、マングースは、ハブと命がけで戦う代わりに、ほかのもっと弱い動物を餌にしました。そうして、ハブは減らず、マングースは増え、天然記念物のアマミノクロウサギが絶滅の危機に瀕することになってしまったのです。
この実話は、自然や社会のシステムはこのようにさまざまなものが複雑につながり合っているのに、その一部だけを取り出して考えると、期待した効果が生まれないばかりか、新たな問題を生み出すこともある、という一例です。そうならないよう、あらゆるものを「システム」として考え、分析するのが「システム思考」です。
さらに、さまざまなシステムを分析することで、システム独自の特徴や性格、注意すべき点などを理解し、氷山の一角でしかない「出来事」レベルではなく、システムの「構造」やその奥底にある「メンタル・モデル」(意識・無意識の前提、思い込み)に働きかけることで、必要な変化をより効果的に作りだしていくことができます。
日本社会も私たちの暮らしも、"これまでどおり"が通用しない時代に入りつつあります。温暖化の危機、エネルギー問題、金融危機の再来の可能性、人口減少・高齢化、非正規社員や貧困層の急増(今や日本の子供の6人にひとりは貧困層です)、年金をはじめとする社会保障制度の行き詰まり、社会のつながりの弱化、政府への信頼の低下......。
今日も明日もこれからもずっと、新聞やテレビのニュースはさまざまな事件や出来事を報道するでしょう。私たちの家庭や会社、地域でも、毎日さまざまな出来事が起こることでしょう。
そういった「出来事」に一喜一憂、右往左往し、後手に回って対応するのではなく、目の前の出来事がどのような大きな趨勢の"一角"なのか、その趨勢を作りだしているのはどのような構造なのかを考え、見抜くことができるとしたら、毎日がどれほどラクになることでしょう。自分自身や、家族や組織、地域も、社会が「システム」として持っている特徴や落とし穴をあらかじめ知っていれば、より上手につきあうことができるようになるでしょう。時代や社会の変化に蹂躙されるのではなく、その変化を望ましい方向に向けていくこともできるでしょう。
不確実で不安定な時代になればなるほど、「システム的」な考え方やものの見方、変化の創り方が必要になります。システムとは本来的に複雑なものですが、そのシステムをどのようにとらえればよいのか、どのような特徴があるのか、どのようなことに気をつけるべきなのか、ドネラさんは本書で、だれもが知っておくべき本質的で重要なことを、本当にわかりやすく教えてくれています。
システム・ダイナミクスという学問ではコンピュータ・モデルを使った解析をしますが、コンピュータやモデリングは脇に置いて、システム的な考え方を身につけるだけでも、日々の暮らしや組織運営、社会変革などにとても役立ちます。それが本書の教える「システム思考」です。本書を「なるほど」「たしかにそうだなあ」と読み進めるうちに、システム的なものの見方や考え方が身につき、「いつもはまっていた落とし穴」も避けられるようになるでしょう。
システム・ダイナミクスの研究者だったドネラさんは、あるとき「研究者をやめます」と宣言し、ジャーナリストに転身しました。「世界がもし100人の村だったら」をはじめ、多くのエッセイや記事をたくさんの新聞等に寄稿し、システム的なものの見方や考え方、システム的に見た日々の出来事や状況の裏側にある構造を、一般の読者にわかりやすく伝える活動に転換したのでした。
その理由も、本書を読めばわかります。システムをよりよいものに変えていくためには、「情報をつなぐ」ことが効果的な介入策であることがわかっているのです。ドネラさんは、専門性を追究するよりも、「情報をつなぐ」ことで世界をよりよい方向に変えようとしたのです。
私自身は、残念ながら、生前のドネラさんにお目にかかることはありませんでしたが、ドネラさんとのつながりは強く感じています。ドネラさんとデニス・メドウズさんは30年以上まえに、世界中のシステム思考や持続可能性の専門家の国際的ネットワーク「バラトン・グループ」を立ち上げ、活発な活動を行ってきました。その仲間たちが、急に世を去ったドネラさんをしのび、ドネラさんのように世界を変える力をもった女性を育てたいと設けた「ドネラ・メドウズ・フェローシップ」の一期生のひとりに私も選んでいただき、このグループの合宿に参加するようになったのです。
合宿のたびに、ドネラさんがいかに愛情にあふれた人だったか、理性と鋭い洞察の人だったか、そして、どれほどすばらしい"伝え手"だったか、亡くなって10年以上たつ今でも、仲間たちは繰り返し教えてくれます。今回こうしてその教えを伝えることができ、バラトン・グループの仲間たちもとても喜んでくれています。
英治出版の編集者・山下智也さん、同僚の小田理一郎、佐藤千鶴子、イーズの翻訳者育成コースの受講者のみなさんのおかげで、ドネラさんの笑顔のあふれる軽やかな語り口のシステム思考の入門書を翻訳し、みなさんにお届けすることができます。ドネラさんの名前を冠したフェローシップの一期生としての役割が少しは果たせたかなとうれしく思っています。
システム思考の豊かで深くてびっくりするような世界を、どうぞお楽しみください!
2014年12月 枝廣淳子
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『世界はシステムで動く――いま起きていることの本質をつかむ考え方』
ドネラ・H・メドウズ(著)枝廣淳子(訳)小田理一郎(解説)英治出版
ぜひどうぞ~!