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エダヒロ・ライブラリー環境メールニュース

2015年02月12日

メキシコからの「経済成長」をめぐる現状と考察(2015.02.12)

新しいあり方へ
 

経済成長をめぐる読書会のお知らせと、「経済成長についての7つの問い」に答えてメキシコの状況を教えてもらいましたので、お届けします。

「私の国では、経済が成長すると貧困も増える」とのこと、いまはやりのピケティ氏の論ではないですが、みなさん、どのようにお考えになるでしょうか?

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2月20日に、「幸せと経済と社会について考える読書会」を開催します。

次回の幸せ研の読書会では、『成長停滞から定常経済へ-持続可能性を失った成長主義を超えて』を取り上げます。
http://ishes.org/news/2015/inws_id001459.html

第1章を中心に取り上げますので、書籍をお持ちの方は、第1章と第9章の前半に目を通していただけたらと思います。

書籍をお持ちでない方は、当日必要な箇所のレクチャーをしますので、ご心配なくご参加下さい(本を読まなくても、本を買わなくても、大事なところは理解でき、ディスカッションできる勉強会です!)

課題書のタイトルは『成長停滞から定常経済へ』ですが、課題書自体は「なぜ成長が停滞し、今後も期待できないか」の説明が主です。

私自身、これまで「経済成長」と、これまでの経済成長をひとくくりに考えてきましたが、本書を読んで、「成長モードI」と「成長モードII」の区別をすることで、より理解と伝わりやすさが増すことがわかり、学びとなりました。このあたりの解説をしたいと思っています。

課題書のタイトルの後半「定常経済へ」の部分は、課題書ではその必要性は述べられていても、その具体については言及されていません。そこで、後半については、岩波ブックレット『定常経済は可能だ!』を用いて、ハーマン・デイリー氏の定常経済の考え方を解説し、ディスカッションしたいと思っています。

『「定常経済」は可能だ!』(岩波ブックレット)

ブックレットは63ページ、562円(教室では500円で販売しています)と手軽に読めるものなので、時間のない方はこちらを持っていただくとよいかなと思います。

今回の読書会に参加することで、戦後の経済成長をより深く説明できるようになり、その帰結として必要となっている定常経済の具体的なイメージもある程度得ることができます。ぜひご参加下さい。お待ちしています!

読書会の詳細やお申し込みはこちらからどうぞ。

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「経済成長についての7つの問い」~クァウテモック・レオンさん
(メキシコ 環境マネジメント・スペシャリスト・センター)

Q. 経済成長とは何でしょうか?

メキシコで経済成長といえば、通常、人々や政治家は雇用を思い浮かべ、それに関連して、ある程度はお金を指します。つまり、一般的にはすべての人々のためのお金です。

Q. 経済成長は望ましいものですか?

私の個人的な意見ですが、この概念を口にする人たちには少なくとも2種類の人々がいると思います。

ひとつは、政策や政治に携わる人たち、さまざまな地位の官僚です。あるいは世界銀行や米州開発銀行など国際銀行の関係者かもしれません。これらの機関は現在、ある種の移行期にあります。経済成長に「貧困との闘い」という意味合いが含まれるようになりました。以前はそうではありませんでしたが、今では、貧困のために、日々、経済成長を求めているのです。

もうひとつのグループは、経済成長を測ったり、そう名付け、経済成長が可能だという人たちです。ただし、経済成長が望ましいためには一つ条件があります。それは、ミクロ経済に注目し、経済成長が、中流階級以下の人々や貧困線を下回る人々に所得をもたらしていることです。ところが、現実にはそうなっていないことに、大きな課題があるのです。

Q. 経済成長は必要でしょうか?

私の国では、経済が成長すると貧困も増えるということが証明されていると思います。経済成長の指標と同調して、食料へのニーズが増えています。つまり、人口は増加しているのです。一方、メキシコで裕福な人たちは、世界で最も裕福な人たちに匹敵するほどの裕福さです。メキシコにそうした人たちが少数存在しています。世界のトップにいる人たちです。大企業にいて、巨額の富を持ち、市場を独占しています。

つまり、経済は成長しており、それに伴って、貧困人口が著しく増えているのです。その絶対数はかなり多いです。経済成長は貧困の蔓延をもたらしているのです。

Q. 何がその推進力になっているのでしょうか?

現在のビジネスのやり方が間違っているのです。途上国の金融メカニズムはやや歪んでいます。

例を挙げましょう。経済を成長させるために国家債務を増大させました。債務が増えると、その債務のおかげで、経済が成長していると言うかもしれません。

しかし、収支を見ると、経済成長は単に債務で助成されているのです。経済成長の背後にあるのは、莫大な債務と多くの貧困層そしてわずかな一握りのお金持ちです。国の弱体な財政機関が低所得層と中流階級から税を徴収し、多くの非公式のビジネスが行われています。その渦中では、経済成長が借金によって支えられ、腐敗し、お金が一部の人に集中しているのです。これが私たちの現状です。

Q. 経済成長は可能だと思いますか? 可能だとしたらどれくらい長く、どの程度まででしょうか?

私は、「経済成長」という考えから抜け出すべきだと思います。私たちに「発展」は必要です。経済成長という考えから抜け出すことは可能です。私たちの現在の金融のやり方で成長することはできません。なぜなら、経済成長はお金の集中と格差を意味するからです。格差が広がるほど、経済は成長するでしょう。生活が改善されている人はほとんどいません。多くの人々の生活は悪化しています。

そして、途上国からは、自然資源が輸出されています。輸出されているのは、水などの自然資源と労働です。自然資源の切り売りで経済成長が成り立っているのです。  

Q. 経済成長は、資源利用や格差や貧困などをもたらしましたとのことですが、ほかに何か問題や犠牲はありますか?

私たちの経済全体が、石油の消費を基盤としています。メキシコは石油を輸出しています。石油は、再生可能なエネルギーや資源ではありません。つまり、私たちの経済は希少になりつつある資源を基盤としており、その代替がないのです。私たちにはそのための技術がありません。

つまり、私たちはいわば、自分たちの将来から前借りをして投資したことになるのです。将来に債務を繰り越しています。未来の世代にとって莫大な債務です。

残念なことに、経済成長のために私たちが取り入れているメカニズムや幻想は、私たちに犠牲をもたらしています。私たちは罠にかかってしまっており、そこから抜け出すのは難しい。なぜなら、多くの人々が幻想を追い求めているからです。

その結果、私たちは、石油、森林、漁業などの資源を失い、水質を汚染し、貧困の蔓延を招きました。私たちの資源に付加価値を追加する能力も限られています。

Q. 経済成長に伴い、クァウテモックさんの国、メキシコで失われたものはありますか? それは何ですか?

私たちは多くのものを失いました。さまざまな機会です。レジリアンスを高めるためには、教育への投資、啓発への投資、生態系の再生と修復への投資が必要ですが、そういったものから注意が逸れてしまっています。

私たちは速やかに生態系の修復へ財源を注がなければなりません。石油の代替を作るために技術投資をしなければなりません。サービスや人々の生活の質に関する知識や技術を持たなければなりません。

私たちは時間を失いました。おそらく少なくとも二世代分の時間を失いました。いくつかの前提条件もです。ブレーキをかけて方向転換をするための方針がありません。方向転換するためには多くの費用がかかります。

Q. 経済成長と幸せで持続可能な社会の関連性について、どうお考えですか?

幸福の考え方は形になりつつあります。主にどこで見られるかというと、原住民の人たちの間です。原住民の指標によると、彼らは幸せなのです。

彼らは依然として、自分たちの価値観を持ち、森がある人たちがいて、自分たちの資源を自分たちで管理することができています。社会資本も共有財もあります。生物の多様性も社会の多様性も実現しています。

経済成長の指標を使うと、彼らは貧しくて未開発だと見なされます。しかし、指標を幸せや幸福へ変えると、国の大半の地域、特に都市部の状況に比べて幸福が達成されていることが分かります。

消費を減らして幸福度を高めることは可能か――ええ、可能です。そのことは彼らが証明しています。自分たちの固有の価値観を有することを認識に、その達成に努力しているからです。

すべての場合がうまくいくわけではありませんし、すべての農村地域で起きているわけでもありません。犯罪が増えて失敗した行政もあります。しかし、その土地固有の状況から、犯罪に立ち向かったところもあります。犯罪や麻薬を追放した生活を手に入れた地域もあり、ある地域では国や地域の取り組みがうまくいかず、犯罪率が高まり、暴力も増えました。

こうした新しい状況が現れつつあります。異なる指標を使って軌道修正する機会が見られます。こうした価値観や定性的な状況を強調し、消費以外を測る指標です。だれもが車を持たなければならないという、近代的な考え方とは異なるものです。

都市の中には、小さなところでは、こうした車についての考え方を改めて、公共交通機関へと移行しているところがあります。非常に道理にかなっています。汚染は減り、生活の質は向上し、自分の時間が増えます。人生を楽しむ時間が大切なのです。ひと休みして読書をするのです。パーティをする時間です。

Q. お話を聞かせていただき、ありがとうございました。

こうした考えについて共有する機会を与えてくださってありがとうございました。     

●インタビューを終えて

世界中の持続可能性やシステム思考の研究者の集まりであるバラトン・グループにメキシコから参加しているレオンに話を聴きました。

「メキシコで経済成長といえば、通常、人々や政治家は雇用を思い浮かべる」「貧困問題のために経済成長を求めているが、実際には経済成長は中流階級以下の人々や貧困線を下回る人々に所得をもたらしていない」「メキシコでは、経済が成長すると貧困も増えるということが証明されている」といったメキシコの現状についての認識を共有してくれました。

また、「経済を成長させるために国家債務を増大させた。経済成長は単に債務で助成されているのだ。経済成長の背後にあるのは、莫大な債務と多くの貧困層そしてわずかな一握りのお金持ちだ」という状況は、メキシコに限らず、日本でも世界の多くの国にも当てはまるのではないでしょうか。

そして、「消費を減らして幸福度を高めることは可能だ。経済成長の指標では貧しくて未開発だと見なされる原住民がそのことを証明している」との話は、希望を与えてくれます。

 

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